警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

コロナ負担2020.10.11

主張し支払い求めよう

国内の新型コロナ感染者数は、10月8日時点で8万7100余人、死亡者数は1600余人にのぼり、今も先行きが見通せない状況にある。警備業への影響は大きい。警備業の役割を世に示す機会だった「東京2020」は延期され、確保した警備員を投入できなくなった。多くのイベントが中止となり、雑踏警備の需要が大幅に縮小した。航空機の運休や減便が相次ぎ、空港の保安警備の業務は大きく減少した。

そうした中、全国警備業協会は理事会で「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」の改訂を決議した。改訂のポイントは「新型コロナウイルス感染症で生じた負担を受注者が一方的に負わないこと」だ。改訂では、見積書に感染対策に必要なマスクや消毒液などの備品にかかる費用を計上することを徹底するよう記された。契約内容を明確にし、感染症の流行などで契約の見直しがあった場合は、発注者にキャンセル料の支払いを請求できるようにすることも追記された。

思い出されるのは、今春の岐阜県警備業協会の取り組みだ。4月に行われる予定だった聖火リレーが中止となったことで、人員確保などの準備に要した費用を自主行動計画を参考にしながら県に請求し承認された。同協会が3月に提示した見積りには「実施2週間前以降の中止の場合、合計警備料金の50パーセントを請求させていただきます」の一文があり、契約内容が明文化されていた。

警備業界ではこれまで、受注者という弱い立場にあり取引を断られる恐れから、発注者の理不尽な要求を受け入れるケースがみられた。例えば、発注者の都合による代金の支払い遅延や減額、清掃作業など警備業務以外の付帯作業の要請などだ。こうした“悪しき慣習”を改善するために、全警協は警察庁からの要請を受けて2018年3月、望ましい取引事例や不正取り引き事例をまとめた自主行動計画を策定した。

2年余が経過した現在、警備会社からは「交渉がしやすくなった」という声があがっている。全警協が今年2月に加盟員に対し行ったフォローアップ調査では「警備料金を値上げできた」「労働条件の改善につながった」などの成果を確認した。法令違反の事例をまとめたリーフレットには、警察庁生活安全局長による適正取引の要請文があり、取引条件の改善に活用されている。

自主行動計画では、課題解決に向けた取組事項の1つに「価格交渉力の向上」をあげている。全警協は、警備料金の積算基準や料金交渉術の参考となる「警備料金の基礎知識(仮題)」の作成を進めていて、出来上がれば「適正取引」と「適正料金」の両面から交渉現場で強力な味方となる。自主行動計画と同様に、交渉現場に携帯できるリーフレットをぜひ作ってもらいたい。

8月の有効求人倍率は、全職業で1.04倍だが、警備業が該当する保安の職業に限定すると6.56倍と極めて高い。コロナ禍の影響で失職を余儀なくされたり、全警協が取り組んでいる「就職氷河期世代に向けた支援事業」などで警備業界に目を向ける人が増えている。新たに参入した貴重な人材が処遇の悪さに失望して去っていくことがあってはならない。不当な取引に対しては主張して支払いを求め、適正料金を確保して経営基盤を固めるときだ。

【瀬戸雅彦】

警備料金2020.10.01

業界の〝努力の結晶〟守ろう

現在のコロナ禍の影響について、首都圏で主に交通誘導警備を手掛ける警備会社の経営幹部に聞いた。建設関係の警備業務の減少は5月から6月が“底”で徐々に回復し、9月に入ると業務が多忙になる会社もあるなど、ようやく経済が回り出したことを感じられるという。

その経営幹部によると、業務が減少した中で散見されたのが“ダンピング”だ。長年の顧客に対し、警備員1人あたりの料金の内訳を丁寧に説明して理解を得ながら毎年少額ずつ料金を引き上げてきた。しかし、他社の営業担当者が飛び込みで顧客を訪れ、適正料金を否定するような廉価を提示したというのだ。

適正な警備料金は数年来、公共工事設計労務単価や最低賃金の上昇という追い風を受け、業界全体で社会保険の加入促進や働き方改革に対応するため「自主行動計画」などによって進めてきた“努力の結晶”に他ならない。

警備会社が同業者(ライバル)と競い合うのは、価格ではなく業務サービスの品質の高さである――そうした考えのもと各社が取り組みを重ねたことがユーザーの評価を高めて警備料金の上昇傾向に結びついてきた。

ダンピングを抑止するための取り組みがある。宮城県警備業協会が会員向けに先頃行ったアンケートでは、コロナ禍の中で低価格を売りにする業者が現れたことを危ぶむ声が多く寄せられた。この事態に素早く対応したのが宮城警協のワーキング・チームだ。メンバーは青年部会員など若い経営幹部の有志で、6年ほど前から警備料金問題などをテーマに東北地区の各県警協が開いた研修会の講師を務めるなどの活動を重ねてきた。

メンバーは、標準見積書の作成方法をはじめとする講演活動を通じて、適正料金の確保を着実に促進してきた。本来なら、業界の課題克服や警備員の地位向上を目指し連携して取り組むべき同業他社が、こともあろうに値下げに走ることに対して激しい憤りがあるのだ。

協会と同チームは今夏、初の企画として2号警備の営業担当者を集めて料金セミナーと座談会を開いた。各社の営業マンが警備料金の適切な積算方法に理解を深めるとともに、意見を述べ合う場を設けることで、低価格営業の抑制につなげる試みである。

セミナーの中で同チームの青年部会員は、各社がユーザーとの交渉力を高めるなどして警備料金を地道に引き上げてきた経緯などを説明し、こう訴えた。「警備料金は、警備員とその家族の人生、生活、幸福に直結するもので、価格を下げるのは警備業で働く意義を否定することになる」。

参加者からは「料金の設定について会社で会議を開いて見直しを進めたい」などの感想が寄せられた。協会はこの試みを定期的に開催していく考えだ。

優れた警備員を育てるのと同じく、歳月をかけて警備料金を“育てるように”引き上げてきた各社の取り組みを後退させないことが重要だ。戦国時代の諺に「築城3年落城1日」というのがある。何かを築き上げるには歳月が必要だが、崩れる時はあっという間。もし価格を下げてしまえば警備員の処遇改善は滞り、人材の定着も進まず、業務の質の低下を招く悪循環となる。業界を挙げて努力を重ね引き上げてきた警備料金を、業界全体で守らなければならない。

【都築孝史】