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視点

健康経営 警備業「新2K」を掲げよう2018.3.21

各地の警備業協会が主催する研修会などで、働き方改革のポイントを説明する講演の中に「健康経営」というキーワードが出てくる。これは、企業が従業員の健康増進を重視して取り組みを推進すること。生産性の向上や組織の活性化をもたらし、業績の向上、企業のイメージアップ効果が期待されるものだ。

多くの業種で人材の取り合いが激しくなる中で、警備業は人手不足対策として“魅力ある職場づくり”を急がねばならない。健康情報に対する関心は、今まで以上に高まっている。誰もが興味を持つテーマ・健康を、職場の魅力とする方法もある。

経済産業省と日本健康会議による顕彰制度「健康経営優良法人2018」では、大規模法人部門でセコム、ALSOKなど541の法人が認定を受けた。

中小規模法人部門では775の法人が認定されたが、この中に、青森県内で施設警備や交通誘導警備など地域密着の業務を行う「津軽警備保障」(弘前市、山口道子社長)がある。

社員は95人。専業主婦だった山口社長が22年前、実父の創業した会社の経営を引き継いだ。実父と実兄を若くして亡くした経験を持つ山口社長は、「社員とその家族を守りたい」という思いから健康増進の取り組みを始めた。

全社員に、がん検診を会社負担で実施する。冬はインフルエンザの予防接種を、これも全額負担で全社員に行って10年になる。「ありがたいことです」と感謝の言葉が社員と家族から寄せられる。

受動喫煙の問題点を社内に周知した上で、まずは建物内、次いで敷地内や社用車と段階的に禁煙を進めた。衛生管理者によるメンタルヘルスの相談窓口を設置して、社員の心をケアしている。「衛生委員会だより」と題する社内誌を年に数回発行し、51号を数える。

山口社長は「健康診断は、二次健診を必ず受けることが重要です。心も体も経営も健康であることを目指しています」と思いを語った。

警備業は“きつい、危険、汚い”の3Kと呼ばれ、これに“給料が安い”を加えて4Kとも言われてきた。こうしたイメージがつきまとって人手不足の一因となった。警備業は本来、法定教育を行って専門の知識や技能を修得させ、国家資格の取得を奨励する“教育重視”の業界だ。適正料金を原資として、教育はもちろんのこと“健康重視”も合わせた「新2K」を打ち出せば、イメージアップにつながっていくだろう。

健康であることは、警備員自身の安全も守る。労災事故、特に熱中症の予防で水分・塩分の補給だけでなく、体調管理が欠かせない。十分な睡眠をとれたか、朝食を食べたかなど、現場で警備員にチェックを行う会社もある。

特に高齢の警備員は、きめ細かな健康管理によって活躍の場がさらに広がるはず。節制など本人の心掛けと会社側のバックアップによって、職場の健康は日々、維持されていくものだ。

魅力ある職場づくりの方法は多様だが、社員が「ここで働き続けたい」と思えるようになることに尽きる。それぞれの職場で“体に良いこと”のアイデアを出し合って取り入れていく健康の輪が、業界に広がってほしい。社員の心身を大切にする会社は、求職者、ユーザーに好印象を与えるに違いない。

【都築孝史】

大震災7年 警備業「復興の今」2018.3.11

いまでも、あの光景は鮮明によみがえってくる。2011年5月中旬、宮城県東松島市のJR野蒜(のびる)駅周辺でバスの車窓から目の当たりにした東日本大震災発生から2か月後の惨状である。野蒜地区は背後に小高い山が連なっている。津波は山裾まで襲いかかり、沿岸全域で壊滅的な被害を受けた。

野蒜小学校を含む家屋はすべて倒壊して瓦礫と化していた。仙石線のレールは浮き上がって捻じれ、2両ほどが押し流されて横倒しの状態で放置されていた。人の姿は、と見渡せば、未だに不明の遺体の捜索に黙々と取り組む警察官、消防隊員、自衛隊員がいるばかり…。

あのとき、私は思うところがあって居住する大田区が募集した3泊4日のボランティア活動に参加した。東京からバスに同乗した一行は女性3人を含む25人。最高齢は75歳の元会社員だった。行く先は東松島市赤井地区。海岸から離れてはいたが、それでも1メートル超の津波が寄せてきたという。

活動内容は家財の清掃と畳などの運び出し、家屋の床板をはがしての床下や周辺に堆積したヘドロの除去だと説明を受けていた。目的地を間近にしたとき、引率役の区職員が車中アナウンスした。「赤井は間もなくですが、道路が復旧しているとのことです。被害の大きかった野蒜を徐行運転で廻ります」

わずか4日間のボランティア。限られた地域と時間ではあったが、津波被災の一部をこの目で見、状況を肌で感じ、何人かの被災者の方たちと会話し、心情を聞くことができたのだった――。

翌12年2月。全国の警備業有志52社が発起人・出資者となって「警備保障タイムズ」が設立された。我が国に警備業が誕生して、ちょうど50年の節目だった。新聞作りを任された私は、国民の安全と安心を担う警備業専門紙なら創刊号の発行日は「3・11」をおいてない。同時に「特集ワイド面」を新設して<あれから1年 被災地・警備の現場を行く>のルポを書くことを決めた。

取材地は震災と原発事故のダブル災害を被った福島。この地は昔、私が全国紙記者として“サツ廻り”を開始した初任地だったのだ。行程は福島市から四倉を経由して広野町、楢葉町、富岡町の東電第2原発周辺。案内と取材先のアポも含め尽力してくれたのは当時の福島県警協専務理事・高木信明さんだった。

車両はALSOK福島が提供、フロントガラスには東電発行の「暫定通行証」があった。途中、頭から足元まで白い放射線防護服に身を包んだ。高木さんは楢葉町で町内が一望できる丘陵公園に立つと「あそこに見えるのが築3年の住めなくなった我が家です」と指さした。

広野町では「秀崇」の社長、百川秀彦さん(現・協会理事)が過酷極まりない避難行を語ってくれた。浪江町で地震と放射能汚染に見舞われた百川さんは、家族と従業員を5台の車に分乗させ、福島市、山形県米沢市の山間旅館、雇用促進住宅、そして広野町。各地を転々とする日々は4か月続いたと言った。

以来、小紙では「3・11」が巡ってくるたびに被災地を中心に特集ワイド面に現地ルポの掲載を続けている。今号は編集同人が宮古市、石巻市の警備会社などを訪ね、大震災から7年目の「復興の今」を取材した。

この間、記憶に留めておかなければならないことがある。政府要人の憤怒がこみ上げる発言が相次いだことだ。高市早苗自民党政調会長(当時)は13年、「原発事故で死亡者が出ている状況ではない」と言った。その年の3月末までに福島県内で避難生活によるストレスなどで、1400人近くが災害関連死(自死を含む)と認定されていたのだ。

石原伸晃環境相(当時)は14年、難航する汚染土の中間貯蔵施設について「最後は金目でしょ」と言い放った。ともに事故被災者へ“寄り添う心”は微塵もない驚くべき無知と無関心だった。

あれから7年。当然あると思っていた日常が一瞬で崩壊した被災を「3・11」の一言ではくくれない。小紙では、これからも被災地・警備業の“今”に続く「それぞれの3・11」を伝えたい。

【六車 護】

労務単価 アップは賃上げから2018.3.1

国土交通省が3月から前倒しで適用する2018年度の「公共工事設計労務単価」は、全国・全職種平均で対前年度比2.8パーセント増の1万8632円となった(2月21日号)。

警備業は1級または2級検定合格警備員の「交通誘導警備員A」が対前年度比約3.6パーセント増の1万2777円、A以外の「交通誘導警備員B」が同約3.7パーセント増の1万1002円と、A、Bともに増加率では全職種中で最大となり、一見“追い風”を感じさせるものとなった。

しかし、最近の労務単価の傾向や他の建設職種の単価を見てみると、手放しで喜んではいられないことが分かる。

まず、労務単価全体の傾向。社会保険加入促進などを目的に、2013年から大幅な増額が行われてきた(13年度は対前年比15.1パーセント増、14年度7.1パーセント増、15年度4.2パーセント増、16年度4.9パーセント増)。しかし、17年度は一転、対前年度比で3.4パーセント増にとどまり、18年度はこれをさらに下回った。これは社保加入促進への国の財政的な支援が終わったことを意味する。「いや、まだ3パーセント近くアップしている」という見方もあるが、これは政府が進める「最低賃金(時間給)を年率3パーセントアップし、1000円を目指す」ための配慮に過ぎないだろう。

次に警備員の労務単価を、最近よく引き合いに出される建設の「普通作業員」(普通の技能と肉体的条件を有し、主として人力による土砂等の掘削や積み込み、芝はり、除草などの作業)と比べてみる。交通誘導警備員Aは全国平均で4936円、交通誘導警備員Bは同6711円低い。さらに「軽作業員」(主として人力による軽易な清掃または後片付け、草むしり、散水、小運搬などの作業)と比べてもAは738円、Bは2513円低いことには言葉さえ失う。

なぜ、こんなに低いのか

公共工事設計労務単価は、毎年10月に行われる「公共事業労務費調査」の結果を踏まえて決定される。実際に公共工事に従事する人たちに支払われた賃金の反映だ。多くの会社が、より多くの賃金を従業員に支払えば、その結果は労務単価に反映される――。これが労務単価決定の仕組みだ。

警備業では以前から、元請け建設会社に対する料金交渉不足や一部の警備会社の度を越えたダンピングなどが指摘されてきた。その結果、十分な警備料金を得られずに、警備員の低賃金となり、それが低い労務単価につながってきたとも言われる。

しかし最近は、人手不足も相まって「建設会社は警備料金値上げに耳を傾けてくれる」との声も多く聞く。ダンピングについても、それを可能とするのは社保未加入や教育未実施による不当な競争にほかならない。社会の目も厳しくなり、社保未加入企業の公共工事からの排除も進んでいる。

適正料金を原資とした、社保加入など企業の社会的責務の履行、法定・法定外教育の充実による質の高い警備サービスの提供、さらには充実した待遇による警備員の高いモチベーションなどは企業の強力な武器となるに違いない。

待遇改善は労務単価アップにもつながる――を信じ、多くの経営者が賃上げに取り組めば、優秀な人材の確保や質の高い警備の実現となって、その恩恵は再び経営者の元へ戻ってくるだろう。

【休徳克幸】