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視点

救命活動 人も自分も守り抜く2017.9.21

ダイナミックな“人命救助”に人々が注目した。9月1日、防災の日に神奈川・小田原市で行われた「九都県市合同防災訓練」。空中に停止したヘリコプターから隊員がホイスト(吊り上げ装置)を使って降下し、建物の屋上で助けを求める人を吊り上げて飛行していく。一人の命を救うために人が最善を尽くす光景だった。

警備員も命を救う職業だ。新千歳空港で警備中、心肺停止した人にAEDを使うなどして2度にわたり人命救助に貢献した齊藤祐史さん(セントラルリーシングシステム)は、7月と8月に北海道警備業協会の会長表彰を続けて受けた。2度目に救命活動を行った時の気持ちを「自信を持って対応できた」と齊藤さんは振り返った。

消防署で「上級救命講習」を受講した翌月に救命現場に直面したのは小川隆さん(DNPファシリティサービス)。埼玉県久喜市内の工場で1月、トラック運転手が倒れた際に4人の警備員が連携。班長の植野隆司さんとともに心臓マッサージを行ってAEDを使い、救命につなげた。「身につけた技能がこんなに早く役立つとは思いませんでした」と小川さんは話した。

AEDの普及が進み、使いやすい音声ガイダンス、胸骨圧迫の訓練に役立つ機能付きなどもある。しかし今夏、新潟県加茂市内で高校野球部の女子マネージャーがランニング直後に倒れ、のちに低酸素脳症で亡くなった事故では、救急車を待つ間、学校側は「呼吸がある」と判断し校内に備え付けのAEDを使わなかった。その呼吸は、医療関係者以外は見分けることが難しい「死戦期呼吸」だった可能性が指摘されている。しゃくりあげるようなゆっくりした不規則な呼吸で、心停止のサインだ。「AEDを使ってほしかった」と遺族は悔やんだ。AEDの使用は倒れて5分以内が目安であり、救命率は1分過ぎるごとに10パーセント、5分過ぎると50パーセントも低下する。

警備各社が更なる質の向上を打ち出す中、より専門的な知識に基づく適切な判断、訓練で磨く技能など、警備員に求められるものは一層増えていくに違いない。

劇的な救命活動とは異なっても、交通誘導警備において事故が起こらない状況は、命を守っていることにほかならない。現場で効果を発揮するのは警備業者が培った技能だ。

長年、交通誘導警備の現場を経験してきた教育担当者は、「自家警備」の問題について話した際に、警備員不足によって悩むユーザー側の事情にも触れた上で、「世間では交通誘導を簡単にできることのように誤解する向きがあるのは悔しい」と“プロの自負”を語った。経験を積むと、現場を見れば起こりうる事故の種類や、事故につながるミスが想定されて防止策を立てられる。交通誘導警備は奥が深く、その究極は事故を起こさないことに尽きる。

警備会社には、各社ごとに蓄積してきた業務経験、独自のノウハウがある。また、過去に起きた労働災害、痛ましい死亡事故から得た教訓をもとに現任教育に工夫をこらし労災防止に力を入れている。全ては警備員が他人と自身の命を守り抜く一点に集約される。

教育やさまざまな取り組みで向上する業務の質、質に見合う適正料金、警備員に対する評価、3つが連動しながら今まで以上に高まってほしい。

【都築孝史】

五輪近づく 警備業は乗り切る知恵を2017.9.11

東京五輪・パラリンピックの開会まで3年を切った。

会場整備の遅れや費用負担の問題など相変わらずの混乱ぶりだが、警備業は粛々と準備を進めるだけだ。

ロンドン五輪を元にはじき出した民間警備員1万4000人という数字は、近年の人手不足も相まって頭の痛い問題だ。しかし、最近の多様化・過激化する国際テロ情勢などをみると、大会成功の一翼を警備業が担っているのは間違いない。

業界内外からは、大会へ向けて「警備員の採用拡大を」という声も聞かれる。しかし、企業間の体力差や“五輪後”を考えた場合、採用拡大に躊躇してしまう警備会社の言い分も理解できる。

大会直前にアルバイトとして雇った新人警備員には、国の内外から数多くの要人や観客が押し寄せてくる大会警備は荷が重い。場数を踏んだベテラン警備員の存在は欠かせない。特に今度の大会は“おもてなし”が重視される。単に「頭数を合わせればいい」という訳にはいかない。

大会警備はセコムとALSOKの大手2社が中心に展開することとなるだろう。しかし、2社だけで必要な警備員を確保することは不可能だ。必要な警備員をいかに確保すればいいのか――。

建設業を参考に

ここで建設業の取り組みを紹介したい。

以前、ある自治体が“特区”を活用した建設技能者(職人)の企業間での“融通”を提案した。厚生労働省は当初、この融通は建設業で禁じた労働者派遣に当たるとして難色を示した。しかし一方で、当時の建設不況などを踏まえ、一定の制約の下での融通は、「失業なき労働移動になる」と見解を変え、新たな制度「建設業務労働者就業機会確保事業」を設けた。同制度は、厚生労働大臣の認定・許可を受けた事業主団体の会員間で、従業員の「送り出し」と「受け入れ」を行うというもので、塗装工事業界などが導入した。

これまで建設業では、冬季の降雪期に建設工事が激減する北海道や東北地方の職人が、首都圏などで“出稼ぎ”として工事に従事。年末や年度末の繁忙期の貴重な労働力として重宝されていた。新たな制度は、団体の会員間という制約があるものの、これを正規雇用の従業員にまで広げたものだ。従業員には継続的な雇用が、送り出し企業には閑散期の人件費抑制が、受け入れ企業には繁忙期の労働力確保が、それぞれ実現されることとなった。

警備業は、建設業同様に労働者派遣が禁じられ、違反した警備会社は「労派法違反」として厳しいペナルティーが科せられる。しかし、近年の深刻な人手不足や五輪を見据え、同制度のような新たな取り組みも必要ではないか。

当然、各社の採用拡大も不可欠だ。他社に頼るだけでは業界全体の衰退につながる。待遇改善による優秀な人材の確保と質の高い教育の実施は、警備業界の生命線だ。

東京五輪・パラリンピックの開会までカウントダウンとなった今、「人手不足で警備員が集まらない」では済まされない。今度の“自家警備騒ぎ”のように、「警備員がいなければ警備業以外で」となる前に、業界の知恵を集めて2020年を乗り切るための手立てを考えなければならない。それは警備業の社会的地位の確立にもつながるはずだ。 

【休徳克幸】

防災の日 災害に即応支援、確立を2017.9.1

〈被害先行型〉から〈対策先行型〉へ――

近年の我が国の防災対策のスタンスには、意識の変化がうかがえる。甚大な被害から教訓を得て、その後に対策をとるパターンから、先を想定した対応を強化する方向への意識改革である。歓迎すべきことである。

具体的な例を挙げれば次のようなもの。大規模な土砂災害や豪雨については「避難準備情報」の段階で早めに住民の避難を促す。

台風が近づいたときは、進路と規模を予想、120時間(5日)前から時間軸に合わせて順次に洪水対策の指示を出す。国交省が2年前から関東圏で導入を始めた「タイムライン」とネーミングした事前防災対策だ。

いずれも、早めの行動開始を呼び掛け、被害を減らす「減災」を目指すもの。〈助かる人をより多くする〉ための情報発信だ。結果は、さほどの被害に至ることのない“避難情報”になっても、その際の行動体験は、後々の防災対応に生かされることになる。

しかし、である。災害は往々にして「人知」を超えてやってくる。記憶に生々しいのは7月初めの九州北部豪雨だ。福岡、大分両県の筑後川中流域は、大雨と土砂と流木に襲われた。両県の犠牲者は36人。なお数人の行方が分からない(8月末現在)。

予期しないことを「予期」

実はこの九州豪雨被害、5年前の7月にも同じ川が氾濫、同じ集落が被災していた。災害の気象要因も同じで、雨雲が連なる〈線状降水帯〉だった。自治体はその後、災害を検証し、出来る限りの〈対策先行〉を施し、防災対策を強化したはずだった。それなのに5年後、悲劇はさらに規模を増して再来したのだ。

九州豪雨に見舞われた今年、「防災の日」を迎えて思い至るのは、今に伝わる一つの金言だ。東ローマ帝国のマウリキウス皇帝(539〜602)は戦が避けられないとなったときこう言ったという。

「予期しないこと、予期したくないことが起こると、予期しなければならない」。“戦”を“災害”に置き換えるなら今日の日本列島のどこにでも通用するリスク管理の要諦だろう。一地域を襲う集中豪雨は大型化して各地に広がっている。

各地の警備業協会は「防災の日」に合わせ、37都道府県で700人近い警備員が防災訓練に参加する。徳島県警協は今年も県・自治体の訓練とは別に「自主防災訓練」の11月実施を決めている。警備業界は、防災知識と技術の向上を更に高めてもらいたい。

全警協が作成した〈警備業経営者のための倫理要綱〉には、5項目の一つに次の記述がある。「大規模災害発生時における防犯パトロール、緊急交通誘導など各種の防災・防犯活動に取り組むことにより地域社会に貢献する」

広島県警協は3年前、77人の犠牲者を出した土砂災害の被災住宅に侵入する空き巣などの犯罪防止のため夜間パトロールを1か月間続けた。災害の発生から遺体の捜索終了を待っての迅速な対応だった。2年前の9月には鬼怒川の堤防決壊をもたらした関東・東北豪雨があった。茨城県警協は、広島県警協の対応を参考にして防犯パトロールを実施した。

群馬県警協は先月、県・県警についで前橋市とも「災害時協定」を締結した(8月21日号既報)。北海道、長野県警協も主要な自治体と支援協定を結んでいる。

差し迫った対応が求められる急場で地域の安全と安心に寄り添う活動は、警備業の社会的認知度を高めるはずである。警備業界を挙げて、自治体、警察と連携して災害時のバックアップ体制を推進してほしい。 

【六車 護】