警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

花火大会2019.9.21

警備員不足で〝赤信号〟

夜空を彩る大輪の花

――日本の夏の風物詩である花火大会に“赤信号”がともっている。今夏、各地で花火大会の中止が相次いだ。その傾向は昨年から顕著で、この2年で50以上の大会が中止になった。理由の一つとして「警備員不足」や「警備費用の増加」が挙げられている。

警備員が不足する要因に、花火大会の規模が拡大していることがある。観覧者は、SNSの普及や訪日外国人の増加などの影響で増え続けている。警備体制は安全確保のため強化され、10年間で2倍以上の警備員数となった大会もある。会場が都市部の場合、建造物が増えて周辺環境が変わり、限られた場所に観覧者が集中することも警戒を強める理由となる。

今でも教訓として思い起こされるのは18年前、死者11人・負傷者247人を出した「明石花火大会歩道橋事故」だ。鉄道駅から会場に向かう歩道橋で起きた群集事故は、警備計画の不備による“人災”だった。二度と同じ過ちを繰り返さないため、安全確保に妥協は許されない。

来年は東京五輪・パラリンピックと花火大会が重なることから、警備員不足に一層拍車がかかる。「東京2020」の警備対象は、競技会場とラストマイル(最寄り駅から会場までの経路)だけではない。首都圏を中心とした主要鉄道駅などの交通インフラや全国レベルで開かれる「応援イベント」もあり、必要な警備員は膨大な人数となる。

「東京2020」開催により警察官や警備員の確保が難しいことから、早々に来年の中止を決めた花火大会もある。警備を担当してきた警備会社は「来年に向けて警備員の確保はできていた。警備業は国民の生命・安全・財産だけでなく、国の文化や伝統を守り育む重責も担っているのに」と無念をにじませた。

大阪天満宮で7月に行われた「天神祭」は日本三大祭りの一つで、最終日の「奉納花火」には全国から130万人もの見物客が詰め掛けた。約60社・830人の警備員が配置につき、混雑する会場や鉄道駅周辺の誘導や規制にあたった。来年は「東京2020」の開会式と日程が重なることから、警備員不足による大会中止が不安視されている。幹事会社は「警備員を確保するためには、東京2020に劣らない報酬額の提示が必要」と頭を抱えている。

警備業は人が集まりにくい業種でありながらニーズは近年ますます増えており、すべての需要に応えることは難しい。その中で、「東京2020」をはじめとする国際行事を守り成功させることは、業界の使命として最優先させなければならない。

花火大会を続けるために、主催者の新しい試みも見られる。警備費を捻出するための募金箱の設置やインターネット上で資金を募るクラウドファンディング、ロープ張りやカラーコーンなど資機材の設置を人材派遣のスタッフに任せる、ゴミを回収するボランティアを募って地元の支援を要請する――などの取り組みだ。

年々規模を膨らませてきた花火大会は、安全面から転換期にきている。打ち上げ花火にはもともと災害などの犠牲者へ鎮魂を捧げる目的があったそうで、事故が起きてしまったら開催する意味がない。原点に戻り、地域の絆を深める伝統行事として規模縮小を図らない限り、花火大会の“赤信号”は消えないだろう。

【瀬戸雅彦】

離職防止2019.9.11

クレーム対応、会社の責任

各地の警備業協会の研修会などを通じて、全国警備業協会が作成した「自主行動計画」改訂版の周知活動が進む。「価格交渉力の向上」をはじめ、働き方改革に対応した長時間労働の是正など、業界が抱える課題の克服に向けた“羅針盤”となって、特に2号警備がメインの企業へ一層の浸透が求められる。

この改訂版の中に「人材確保と定着に向けた取り組み」として、次の項目が加わった。「クレームへの対応については個人任せにせず、組織的に対応するなど、警備員の精神的な負担の軽減に努める」――。

この項目が付け加えられたのは、自主行動計画のフォローアップ調査の中で、警備員が離職する原因の1つに現場でのクレームをめぐる問題があると明らかになったためだ。

なぜ離職につながるのか。例えば工事現場で、ユーザーの現場監督などから「車両を誘導する動作が小さくわかりにくい」「歩行者への案内が不十分だ、声が小さい」等々、強い口調で警備員がクレームを受ける。これを警備員が自社に報告すれば、会社側は、指摘を受けた部分について指導できる。しかし、報告せずに対応しようと1人で抱え込んだ結果、心の負担となって追い込まれ、退職してしまう場合があるのだ。

対応を“個人任せ”でなく、組織で行うためには、警備員がクレームを抱え込まずに報告することから始まる。現場で起きた事象を上司に話しやすい環境づくり、現場と内勤が情報共有を図るようコミュニケーションを深めたい。

報告を受けた管理職は、ユーザー側の不満や要望をヒアリングし、警備員の思いも聞いた上で、丁寧な教育指導を行ってほしい。クレームの中に業務サービスを向上させるヒントが含まれることもある。真摯に対処すれば顧客満足度のアップにつながる。

万一、警備員がユーザー側から受けたクレームに怒声や暴言が伴っていた場合は、ユーザーに対して再発防止を求めなければならない。警備員のストレスを軽減し、メンタルヘルス対策を図る一環だ。「どんな口調で言われたか、度が過ぎる言葉はなかったか。隊員に確かめて、気持ちよく働ける職場環境を心掛けている」と話す中小の幹部もいる。

クレームは、ユーザー関係者に限らない。施設警備では利用客が、交通誘導警備では通行人やドライバー、建設現場の近隣住民などが「警備員の言葉遣い、接遇態度」などに不満を述べることがある。

重要なのは、ここでも警備員が個人で抱え込まないことだ。首都圏で2号警備を行う会社から、こんな事例を聞いた。交通誘導中の警備員に対し「持っている誘導灯がサイドミラーをこすって傷が付いた」とドライバーが数千円の修理代を要求した。警備員は、会社に迷惑をかけたくないとの思いから上司に知らせず、個人で払おうとした。すると後日、相手は「ミラーを交換する」と10万円以上を要求してきた。警備員は上司に相談。管理職が出向いて相手と交渉し、不当な金銭の要求を拒否して収まったという。もし会社に打ち明けなければ、問題はこじれた可能性がある。

対応は、初動が肝要だ。現場で問題が起きた時、会社は警備員のために責任を持って行動すべきだ。企業は価格交渉力に加え、クレーム対応力も一層高めてほしい。

【都築孝史】

防災の日2019.9.01

警備員は「防災士」資格を

「防災士?」はて?…今号の当欄、テーマを「防災の日」と決め、正確な由来をネットで確認しようとしたときのこと。「防災士」なる3文字が目に留まった。寡聞の身には初めて知る語句だった。

改めて検索すると文頭には、こちらの意図を見透かすように「防災士ってなに?」のタイトル。続いて「防災士制度とは」「認定を受けるには」「どんなことを学ぶのか」「何ができるのか」。文末は「防災の輪を広げよう」とあった。

大ざっぱにまとめるとこんな具合だ。資格制度は2003年度から始まった。NPO法人「日本防災士機構」が講習や試験を受けた人を認証する。その数は当初、年に千〜6千人だったが、昨年度は2万人を超えて累計は17万6280人となった(7月末現在)。近年の相次ぐ災害が背景にあるのは明らかだ。

講習では、過去の災害の教訓を基にした防災訓練の運営、率先避難の具体的な行動、ボランティア活動のノウハウなど、安心・安全のための知識や方法を学ぶ。一部に地学、行政といった専門的な科目もあるが、すべてが防災に関連する項目で、活動に役立つものであると言っている。

認証には年齢、性別などの制限はなく、だれでも取得できる。資格取得者は地域の自治会を中心に、女性、学生にも広がっている。最近では、企業の災害危機管理担当者が名刺に「防災士」と記載しているという。

認定までの費用は、教材費、研修費、合格後の登録費などを合わせ5万円程だ。同機構のHPには活動が紹介されている。ちなみに、会長は元警察庁長官・國松孝次氏、理事長は元消防庁次長・高田恒氏が引き受けている。

警備業は地域安全の担い手

警備業界は大雨や土砂災害で甚大な被害が発生したとき、被災地の侵入犯罪を防止する駐留警戒やボランティア・パトロールを県協会の主導で実施してきた。先駆けは広島警協で、5年前に死者・不明者77人の惨事となった広島市土石流災害時に警戒活動を行った。

翌年には関東・東北豪雨による鬼怒川の決壊で茨城警協が続いた。昨年の記憶に新しい西日本豪雨では岡山、広島、愛媛の3県警協が災害に関わる犯罪防止の支援を展開した。その取り組みは、市民生活の安全と安心を担う警備業の面目躍如だったのだ。

ある光景が思い浮かんだ。警備員が「防災士」の資格を取得して地域防災に参画する姿である。それは非常時に限らない。防災計画会議などに出席して、警備業の視点から意見を述べる。

例えば、率先避難の具体的な行動のアドバイス。安心安全の知識の説明。各種ボランティア、警戒パトロールの実施に関するPRなどであろう。

盆休みの最中、超の字がつく大型台風10号が西日本を縦断した。テレビ各局は、気象庁の発表した警戒の最上位「レベル5」を表示して、「命を守るための最善の行動をとってください」と連呼したものだ。

ただし、「自分の命は自身で守れと言われても、何をしていいか分からなかった」という声は多かった。避難を余儀なくされたとき、防災士から習った具体的な行動の心得があれば、命を守る決め手になるだろう。

警備業界は、人手不足の只中にある。防災士として認証を受け、活動するのは容易ではない。まずは、現場のリーダーでよい。防災士として汗する警備員の姿は、警備業が地域に寄り添い、防災の現場にいることで、業界の認知度やステータスの向上につながるはずである。

【六車 護】