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視点

交通労災 警備員を守る対策、急ごう2018.10.21

夏から秋にかけて、警備業界に痛ましい交通事故のニュースが続いた。業界は、警備員を守る対策を急ぐべきだ。

8月31日午前3時頃、東北自動車道下り線の鹿沼〜宇都宮IC間で工事用コーン標識を回収していた警備員(58)は後退してきた作業用トラックにひかれて死亡した。

9月11日午前10時頃、滋賀県大津市の工事現場で交通誘導警備をしていた女性警備員(71)は後退してきた資材搬入用トラックにひかれて死亡。

これらは作業員の車両で被災した“現場内”での交通労働災害だ。一方で“現場外”の一般車両による被害もあった。

9月20日午前5時頃、東名自動車道下り線の町田IC近くで集中工事の中央分離帯に設置された掲示板の撤去作業をしていた警備員(33)が乗用車にはねられ死亡した。

10月6日午前3時頃、兵庫県赤穂市の国道で標識を掲示し道路補修の事前調査をしていた車両に大型トラックが追突。運転席にいた警備員(64)が死亡した。

自動車メーカー各社の安全に向けた技術開発は日進月歩で、危険を察知し衝突を避ける「自動ブレーキ」は実用化されている。警備関係各社も「突入車両検知センサー」やAIカメラで察知する「脇道検知システム」などのセキュリティーシステムを開発した。しかし当分は、人が自らの力で身を守る時代が続く。

警備員の場合、交通労災の増加は統計にもはっきりと表れている。全国警備業協会は毎年、加盟員を対象に「労災の実態調査」を行っている。先日公表された昨年度の調査結果をみると業務中に事故で死亡した警備員は25人で、その全てが交通事故によるものだった。その人数は前年度に交通事故で死亡した警備員数12人と比べて倍以上に増加したのだ。

警備員の業務中の労災事故で、最も多いのは車両誘導中や巡回中の「転倒」だ。しかし死亡事故になると「交通事故」がトップとなる。掛け替えのない命が一瞬にして奪われることに加え、企業の責任が問われ“危険な仕事”として業界のイメージダウンとなり人手不足が進む。また3年間の労災状況をみて改訂される保険料率の上昇など影響は計り知れない。

事故の要因として考えられるのは、今夏の記録的な酷暑や警備員の高齢化だが、熱中症による被害は少なくなっている。3年前に死亡事故が発生した教訓から、各社で水分補給や休憩を増やすなどの対策を講じた成果だ。同様に、交通労災も企業努力で減らせるはずだ。 

対策として、経営者自らが現場の状況を視察し、労働環境や業務量などが適正か確認すること、ユーザーと協議して安全を考慮した業務計画を作成し警備員に徹底することがあげられる。

過去の事故事例を教訓にし、指導的立場にいる人が警備員と対策を考え共有することや、適度な休憩の確保や長時間労働を避け健康管理を徹底することも重要だ。警備員は現場を離れるまで周囲に気を配り、集中力を持続させることが求められる。

警察庁によると、日没後1時間の“黄昏時(たそがれどき)”の交通事故が、10〜12月に急増するという。経営者はそうした傾向を社内に周知し、反射材用品の着用を義務付けるなど備えを万全にして、警備員を守ってもらいたい。

【瀬戸雅彦】

働き方改革 あと半年、備えを急ごう2018.10.11

半年余で「働き方改革」がやって来る――。労働時間法制の見直しによる長時間労働の是正、同一労働同一賃金の導入による雇用形態に関わらない公正な待遇など、同改革は従来の職場での働き方を大きく変えていくだろう。

6月の関連法成立に続き、厚生労働省は現在、政省令や指針の制定・改正、労働基準監督署の機能強化など法施行へ向けた準備を急ピッチで進めている。来春に迫る同関連法の施行に、漠然とした不安を抱いている警備業経営者は多いはずだ。

なかでも最大の関心事は、残業を原則として月45時間・年360時間に罰則付きで規制しようという「残業の上限規制」に違いない。「臨時的な特別な事情がある場合」のみに認められてきた、実質的に“青天井”だった残業の延長も、「年720時間、単月100時間未満・複数月平均80時間(ともに休日労働含む)」という新たな“キャップ”がはめられる。

前日の終業時刻と翌日の始業時間の間に、一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」の努力義務化、年5日間の年次有給休暇を会社が時季を指定して従業員に与えるという新制度も新たにスタートする。

近年の深刻な人材不足により交代人員にもこと欠く警備会社にとって、上限規制や年休は悩ましい問題である。

政府主導で進められる「働き方改革」には、二つの大きな背景がある。一つは「電通事件」など後を絶たない過労死問題の解決。二つ目が「労働人口減少下において、働き方の見直しこそが労働生産性を高める絶好の機会」という考え方だ。働き方改革の掛け声と一緒によく聞く「生産性向上」である。

上限規制をはじめとした働き方改革を、いかに生産性向上の実現につなげていくかは、今後の経営者の大きな課題でもある。

例えば、「上限規制」には、最新の機械・器具の導入などは当然のことながら、既に習慣化してしまった仕事の進め方や段取りを見直していく地道な取り組みで労働時間の短縮=生産性向上を図ることも必要だ。また、特定の人物に業務が集中して長時間労働とならないよう、各人の労働時間を常に把握するきめの細かい労務管理も欠かせない。

短時間勤務など多様な勤務形態の導入や魅力的な待遇による新たな人材確保が優先であることは言うまでもない。

特に上限規制については、中小企業への適用は2020年春まで、建設工事に伴う交通誘導警備は法施行後5年間という猶予があるものの、いずれ全ての警備業に適用される。その準備は今からでも早過ぎるということはない。

「年休」については、年間の業務の繁閑や交代要員の有無を考慮した、従業員がより多くの年休を取得できる年間スケジュールの立案や環境づくりを進めたい。既に欧米諸国の多くの企業では同取り組みを実践し、多くの人が“バカンス”を楽しんでいる。

一方で、警備業に働き方改革はムリだ。残業を減らせる訳がない――との意見もある。

しかし、いつまでも自らの業務の特殊性ばかりを叫んでいても何の前進もない。そんな会社には、いずれ長時間労働を強いるブラック企業という不名誉なレッテルと、多額の不払い残業代の請求書を持って労働基準監督署がやって来るだけだ。

【休徳克幸】

自主行動計画 「タダ」で原資を得る手引2018.10.01

全警協が推進する今年度のメイン施策は、「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」の周知と実践だ。今号の「視点」は、筆者が同計画の全容を一読したときの感想から記したい。

まずもって、「自主行動計画」の起草文は労作である。14ページにわたって目的、警備会社の元請け・下請け関係の事例と取り組み事項、料金決定方法の適正化、人材確保と育成、長時間労働の是正、顧客満足度の向上などが細かく記されている。

全体のトーンを直截に、いささか乱暴な一語で表現をすれば「カネを掛けずに経営健全化に向けた原資を得る手引書」と理解した。その上で、とりわけ2号警備を担う小規模経営者の皆さんにこそ、有効活用してほしいという思いだった。

ただ、一抹の不安があった。文言は格調高く適正取引の推進を縷々述べているが、どれほどの人たちがすべてを精読して課題の解決に取り組むだろうかということだった。全警協もそのことを察して、“二の矢”を放った。5月にあったリーフレットの発行だ。

 適正取引のポイントとなる7項目を列挙し、カラー・イラストによる法令違反の事例を紹介。警察庁のバックアップを明確に示す生安局長・山下史雄氏(7月末退任)のコメントを掲載した。そこにはこうある。

「警備業の健全な発展のためには、適正な取引のための不断の取り組みが必要です。全警協の策定された『自主行動計画』の下で、警備業者の皆様が積極的に取り組まれることを願っております」(抜粋)。

末尾には、〜困ったときの相談先〜警備員、営業員の方へ〜と題して、全国中小企業取引振興協会、全警協のフリーダイヤル(通話料無料)を付記した。不法な要求の通報・取引上の悩みなどを受け付ける相談窓口の設置だ。至れり尽くせりである。

ところが9月末現在、通報と相談の連絡は1件もない。全警協の敷居が高く遠慮しているのだろうか。「自主行動計画」の資料とリーフレットは読まれることなく、経営者のデスクで、その他の不要な書類の下に埋もれているのだろうか。

そこで考えた。計画書とリーフレットの表表紙に本欄の見出し「タダで…」のようなフレーズがあればどうだったろう。耳目を引く、少しばかりの刺激言葉、遊び心を織り込んでいれば「何々、タダで金儲けの手引きだって…」と、資料を読み進める経営者がいたのではないかと。

いま、全警協の福島専務理事と小澤総務部次長はコンビを組んで、「自主行動計画」を推進するためにブロック研修会や地区連会長会議の全国行脚に勤しんでいる。その労苦を、“暖簾(のれん)に腕押し”で終わらせてはならない。

全国には、すでに経営健全化を成し遂げ、来春にやってくる「働き方改革関連法」の施行に向けて、着々と手を打つ経営者が何人かいることを知っている。

同法をざっと見れば、残業の罰則付き上限規制や年次有給休暇の確実な取得が盛り込まれている。

「自主行動計画」は、カネを掛けずに決断と知恵を生かした対応次第でクリアできるだろう。「働き方改革」は、そうはいかない。カネが掛かり多くの出費が伴うのは明らかだ。経営者に求められるのは、〈従業員ファースト〉の精神を常に意識することではないか。警備業は従業員あっての生業なのである。

【六車 護】