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視点

豪雨災害 身を守る行動、判断を2018.7.21

またしても警備業界の痛恨事である。

岡山県で河川の氾濫や土砂災害に対応して、交通規制をしていた警備員2人が増水した濁流にのまれて亡くなった。先月末は富山市で交通誘導の警備員が凶弾に倒れた。忌わしい記憶が生々しい中での警備員の悲報だった。

警備業の目指す警備現場での〈災害ゼロの教訓〉とするには、痛ましすぎる犠牲と言わなければならない。

今回の一件、現場は大きな被害をもたらした河川脇の国道180号だったとの一報を聞いたとき、ある思いが頭をかすめた。業務の発注者は、あるいは、国土交通省と関連会社ではないかということである。果たせるかな、だった。

そのとき、西日本の各地では避難警報の発令が相次いでいた。発注者から「危険を身近に感じたら、現場を離れてくれてよい」という意志の伝達があったなら、災難を避けることができたのではないかとの思いが今もって胸にわだかまっている。

現場に赴いた警備員は、きっと、職務に忠実な人たちだったのだろう。身の危険を感じつつも、退避することを厭わずに交通規制を続行する姿を想像するとき、それは余りにも悲しい光景なのである。

ところが、である。関係者によると現場はこうだった。交通規制を指揮する警備会社の隊長は、発注者の担当2人に対し「ここに留まっていては危ない」と進言したが対応策は示されなかったという。間もなく状況は一変するのだが、そのとき2人は現場にいなかったというのだ。

予期せぬ異変に備える

豪雨は、人も家ものみ込む一大災禍となった。被災地の人たちは、あまりにも強い雨であり、あまりにも急な川の増水だったという。しかし、近年の天変地異の規模は、人知を超える領域に入ったのではないかとの感が深い。国交省は「新たなステージ」とネーミングしていたそうな。

気象用語にしてもそうだ。岡山県真備町を水没させた元凶は「バックウオーター現象」だった。豪雨で支流が本流に合流するとき、水が逆流して堤防が決壊することを指す。昨年の九州北部豪雨では、積乱雲が連なる「線状降水帯」があった。いずれも寡聞にして災害が発生して初めて知った。

市民生活の安全と安心を担う警備業には、これからも災害に際して交通規制などの要請があるだろう。各地の協会独自の防災訓練の必要性と気象に関わる知識の習得が求められる。予期しない異変に備える行動判断の確立である。

全警協は9日、「災害対策連絡室」を設置した。広島県警協からは、4年前の土石流災害で実施した夜間の防犯パトロールを実施することを検討しているとの報告が届いている。パトロールは警察、消防、自衛隊の遺体捜索の進捗状況を考慮しながら取り掛かる手筈だ。

岡山県警は10日、被災して無人だったコンビニエンスストアの現金自動受払機(ATM)をこじ開けて現金を盗もうとした男3人を逮捕した。警備員の被災地パトロールは、不心得者の犯行防止に効果を発揮するに違いない。

岡山警協の松尾会長(5月就任)は、自社の警備員2人を亡くした悲嘆のなかで、防犯パトロール隊を結成することを決意しているという。

【六車 護】

職場改善 尊敬と憧れのある仕事に2018.7.11

ちゃんと勉強しないと、あんなふうになっちゃうよ――。

街なかの道路工事現場、現場の隅で道路に座り込んで弁当を広げている建設作業員の姿を見て、近くを通っていた若い母親が子供に言い放った言葉だという。

10数年前、ある建設業団体の幹部が、職場環境改善とイメージアップの必要性を訴えるため、さまざまな会合で紹介した辛く悲しいエピソードだ。

これを機に建設業では、業界と行政が一体となった取り組みが始まった。一例を紹介しよう。

現場の環境改善として、小型のキャンピングカーを改造した「リフレッシュカー」なるものが開発された。内部にはトイレ、シャワー、休憩スペースが備えられた。当時の労働省は、この車の購入やレンタルに助成金を支給した。

若者への働き掛けでは、工業高校と建設業協会との連絡協議会が設置され、教育界との連携が図られた。協議会は建築科や土木科の学生のために、ダムや地下鉄などの「現場見学会」を開催した。

処遇面では、現場閉所による「時短」や「週休2日制導入」、職種の特性に応じた月給制導入などが研究された。入社してから必要となるスキル、これに伴う処遇などを示した「職業生涯モデルプラン」も国の支援で作成された。

これら取り組みは、現在は国土交通省が主導し、“担い手”確保・育成として続けられている。

警備業に目を転じれば、女性警備員の愛称「警備なでしこ」の決定、マスコットキャラクターの作成や制服デザインコンテストの検討などの取り組みがスタートした。しかし、これらは緒に就いたばかり。

職場環境での最大の悩み「トイレ問題」は、今でもコンビニや公園に依存しているのが実情。処遇改善に至っては、自主行動計画による警備業務発注者への働き掛けも始まったが、改善の原資となる適正警備料金の確保は道半ばだ。

しかし、手をこまねいていれば状況は更に悪化する。人手不足が更に深刻化し、警備業務の提供さえ危うくなれば、昨年の「自家警備問題」ではないが、警備業という産業の存在価値さえ問われかねない。

警備業を分かってもらう

イメージアップとは、不都合なことを覆い隠すことではない。建設業でも、物づくりの魅力を広く訴えてきた。警備業では、社会の安全安心に欠かせない、生活に身近な仕事であることを訴えたい。人材確保に当たっては、きめ細かさも必要だ。

女性警備員の確保・活用へ向けては、新たな勤務体系の整備など女性が働きやすい職場づくりが不可欠だ。華やかな愛称だけでは、すぐにメッキがはがれてしまう。

若者へは、警備業という仕事の魅力を伝えたい。施設、交通誘導、雑踏、貴重品運搬など警備業務の幅広さ、社会的役割の大きさを理解してもらう。

高齢者には、加齢による体力の衰えなどに配慮した仕事場・勤務シフトの提供だ。最近では高齢者を優遇する外食産業もある。高齢者の“奪い合い”は既に始まっている。

警備業は、既に社会の安全安心の重要な担い手となっている。「警備員みたいに社会の役に立ちたい」。そんな、尊敬と憧れを持って見られる業界を目指したい。

【休徳克幸】

自主行動計画 適正取引へ周知は不可欠2018.7.01

全国警備業協会はこのほど開かれた総会で、今年度の事業計画として「適正取引の推進に向けた自主行動計画」の普及に力を入れることを強調した。その活動が今月から本格的に始まる。

自主行動計画は、国の施策として各団体に策定を求めたもので、発注者と受注者が健全に交渉し適正な取引ができる環境を構築することを目指す。取引の中で問題となる事例や適用される法令をまとめた内容となっている。全警協は作業部会を設置して警察庁や関係省庁と検討を重ね、今年3月に完成させた。

今後の周知活動は4段階で計画されている。“キックオフ”は、7月4日に都内で開催される「全国専務理事会議」だ。中小企業庁事業環境部から招いた講師が「取引条件の改善」をテーマで講演。下請事業者への理不尽な取引の実態や改善方法などを紹介する。

第2弾は今月末、各都道府県協会から経営者または適正取引推進のリーダーシップをとる担当者1人を都内に集め、中企庁の講師が自主行動計画の内容や背景、注意点などをレクチャーする「全国代表者会議」を開く。

第3弾は、夏から秋にかけて開かれる地区ごとの「ブロック研修会」。講師は、全警協から業務適正化小委員や自主行動計画策定検討会のメンバーが派遣される。

そして第4弾は、各都道府県協会が加盟会員に向けて行う勉強会。講師は各協会内で選出することが基本となる。このように段階を踏んで、“業界内”に自主行動計画を周知徹底させる。

一方、“業界外”へのアピールも進められていく。警察庁は各省庁に対し適正な取引を求める通知を送って周知を働きかけており、同時に全警協は主要な業界団体へ文書を持参して説明し理解を求める活動を行っている。

今回、警備業で普及・定着を図る自主行動計画は、建設業やトラック運送業、製造業など他業界の団体でも策定されている。だが警備業の場合、受注者の立場であることが多く、取引の上で弱い立場にいる。そのため、今後の契約を断たれることをおそれて発注者の指示に従わざるを得ないことも多い。だから警備業は、他業界以上に自主行動計画の存在意義がある。業界に向けた適正取引の周知は不可欠といえる。

全警協は自主行動計画のほかに警備会社の経営者や警備員、営業マンなどが持ち歩き、交渉時に活用できる「警備業における適正取引の推進」と題したハンディーサイズのリーフレットも制作した。発注者からの不当な要求をただ突っぱねるのではなく、リーフレットを読ませて説得するなど実際の交渉時に活用できる内容だ。

リーフレットの最後には、不当要求があった場合に連絡を受ける全警協の「通報窓口(0120-630-990)」が紹介されている。タイムリーに状況を把握して警察庁と情報共有し、場合によっては公正取引委員会や業界団体に情報の通知を行うためだ。また全警協「相談窓口(03-3342-5821)」も設け、取引の適正化に向けた相談を受け付けている。

警備業は今、人手不足で厳しい状況だ。少ない労働力で最大限に利益をあげる“生産性の向上”が求められている。これまで「仕方がない」とあきらめてきた理不尽な取引は、これからは改善していかなければならない。

【瀬戸雅彦】