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視点

自家警備問題 人手不足解消を急ごう2017.10.21

6月以降、警備業界に波紋を広げてきた「自家警備問題」が、終息に向かいつつある。少々長くなるが、事のいきさつを振り返って、今後の対応を考える材料としたい。

――自家警備問題とは、震災被災地など一部地域での交通誘導警備員不足による公共工事執行への支障を背景に、国交省が総務省との連名で自治体や建設業団体に出した通知が発端だった。

通知では、交通誘導員確保対策の検討の場として、都道府県ごとに「交通誘導員対策協議会」を設置し、建設会社による交通誘導「自家警備」実施のための条件整理などを行うよう求めた。

これに対して全国警備業協会の青山幸恭会長は「安易な自家警備の導入は(労災事故や第三者を巻き込む事故の発生が予想されるため)極めて危険であり遺憾だ」、福島克臣専務理事は「交通誘導警備業務を行う警備会社には影響が大きい」と、通知に対して異を唱えた(7月11日号)。

さらに、「警備業の更なる発展を応援する議員連盟」の会長・竹本直一前衆院議員も「警備業の不安を煽るもの。警備業の健全な発展に水を差す」と述べるなど、警備業界関係者から、国交省通知、特に自家警備に対する非難の声が相次いだ(7月21日号)。

このような警備業界の声を受けて国交省は、9月22日に6月の通知の“補足通知”を出し、通知の背景や内容を改めて説明するとともに、「通知は自家警備を奨励する趣旨ではないと」明記した(10月1日号)――。

この間、筆者は交通誘導警備業務を行う会社経営者と意見を交わす機会が幾度かあった。

皆一様に憤慨していたが、一方で「建設業も人手不足。交通誘導まで手が回らないはず」という返答が多かった。

しかし、全国でいち早く県と警備業界、建設業界が協力し、交通誘導警備員不足対策に取り組んできた長崎県では、建設業が自家警備を行うために必要な“3時間”の講習を、既に800人超の建設会社職員が受けているという事実もある。

警備料金への影響も

今回問題となった自家警備は、建設業の交通誘導警備業務への介入を認め、警備会社のビジネスチャンスを奪うだけにとどまらない。長崎の例にもあるように、自家警備を行うために建設会社には一定の教育を求めているが、それは警備業法に基づく警備員教育とは比較にならないほど“軽い”。これまで行われてきた警備業での教育、さらには警備業務をも否定するものだ。

警備料金交渉への影響も懸念される。全警協の呼び掛けに呼応して進められてきた、標準見積書の活用などによる適正警備料金確保への取り組みが、「お宅は高いから自家警備でやる」となれば、再びダンピング合戦に逆戻りだ。

今度の問題の発端は、警備業の人手不足に他ならない。今回は“補足通知”で最悪の事態を回避できたが、人手不足が解消されなければ、新たな事態も予想される。

国交省は平成25年度から公共工事設計労務単価の大幅な引き上げなどを行ってきた。理由は「社保など雇用労働環境を改善して人を確保する」という、人手不足に苦しむ建設業への支援だ。公共工事に深く関係する交通誘導警備は、その恩恵にあずかってきたことを忘れてはいけない。

【休徳克幸】

東京五輪・昔と今 3年後の成功のために2017.10.11

1964年10月10日。東京の空は雲一つなく晴れ渡り、爽やかな風が吹き抜けるなか「東京オリンピック」が幕を開けた。ちょうど56年前の日のことである。

開会式から24日の閉会式まで15日間。日本列島はオリンピックに沸き立った。当時の10月25日付毎日新聞の縮刷版をひも解いてみた。社説はオリンピックをふり返ってこう書いている。その一説を引く。

――「東京大会を成功に導いた最大の原動力は国民大衆であった。開催が決まってから今日に至るまでの長い間、施設の工事や関連工事が狂気のように進められたが、都民をはじめ国民はよくがまんし協力した。心を込めて大会を歓迎し盛り上げた」――

あと3年を切った2020年の夏。人々はどんな思いで「東京五輪・パラリンピック」をふり返るだろうか。あの昔日の〈国民の歓迎と盛り上げ〉の再現はあるのだろうか。そんな気になれないのではないかとの感が深い。

当欄では国政レベルの“都議選劇場”が演じられたあと、国、組織委、東京都のガバナンス能力の欠如と関係自治体との意思疎通の悪さを指摘して「五輪準備は今こそ、使命感と連携を」と書いた。

ところがどうだろう。日本列島は今、唐突に始まった衆院選挙で混沌の中である。先の内閣改造で新しく就任した五輪担当相は何一つ手を付けることができなかった。都知事は五輪どころではないだろう。実務を担う関係者は再び準備作業の進捗を憂慮しているという。

組織委へ働き掛けを

警備業界は当初、組織委が「警備要員は1万4000人」の構想を描いていることを知った。その後、要員数はロンドン五輪に協力した英国民間警備員は1万2000人と聞き、2000人をプラスしただけの安易な数字だったことが分かった。それからは何も音沙汰がない。

加えて言えば、東京都外の会場運営費350億円の調整だ。いまだに扱いは宙に浮いたまま。聞こえてきたのは、小池知事の〈びっくり・玉手箱〉の案だった。知事は五輪用の宝くじを発売し、その売り上げを充てることを示した。宝くじはそんなに簡単に大儲けができるのか。国民は、口あんぐりだったのではないか。

これでは全警協だけでなく、競技開催会場(ベニュー警備)と会場アクセス警備を担う東京都警協、神奈川、千葉、埼玉、静岡、福島の各県警協は対応策を具体化しようにも前へ進めないのが実情だ。

警備業界は東京五輪を「ステータス向上のチャンス」と捉えて最大限の協力を表明している。課題は深刻な人手不足の中で、いかに警備員を派遣できるかに尽きる。すでに1都5県にまたがる28競技の会場と日程はほとんど決まった。

全警協は関係協会の意見を集約、警備業務の発注元である組織委に対して会場別の警備員数と警備料金の提示を申し入れる時期に来ていると思われる。組織委から、少なくとも各競技会場にはおよそ何人の警備員を配置してもらいたいとの数字が示されたなら対応は大きな一歩を踏み出せるはずである。

3年後の晩夏。「東京五輪・パラリンピック」は準備に気をもんだが、何とか良い結果を残すことができた。警備業界には、そう思える五輪参加であってほしい。

【六車 護】

先進技術 警備は人とハイテクの融合へ2017.10.1

APSA国際会議「広島大会」が閉幕した。国際会議のスピーチで、青山会長は、警備業の将来への展望の“鍵”として、「IoT・AI・ロボット」など第4次産業革命による生産性向上を挙げた。

広島大会は初の日本開催として多くの意義があったが、日本が誇る先進技術の紹介もその一つだ。会議場に隣接した展示場ではセコムとALSOKをはじめ、パナソニック、富士通、日本電気、能美防災、ホーチキ、クマヒラの8企業がブースを設け、最新の警備機器やシステムを紹介した。各国支部の参加者は関心を示し、スタッフに質問したり熱心にメモをとっていた。

セコムは自律型小型飛行監視ロボット「セコムドローン」を、ALSOKはIT機器を装備した警備員「ALSOKハイパーセキュリティガード」をそれぞれ紹介した。

日本電気は、高精細な4Kカメラの映像をリアルタイムに解析し、群集にまぎれている迷子、VIP、危険人物を瞬時に検出する顔認証技術を紹介。離れた場所から視線の方向を検知する「遠隔視線推定技術」は、目の周囲の特徴から視線を検知するもので、監視カメラを注視したり周囲を気にする不審行動を発見する。

最新ネットワークカメラのラインナップを展示したパナソニックは、通訳なしで訪日外国人をスムーズに誘導可能な音声翻訳サービス「メガホンヤク」を展示した。日本語で話した内容をメガホン型翻訳機が、英語・中国語・韓国語に自動変換する。翻訳機と管理クラウドをセットで提供するサービスだ。

いずれも2020東京五輪・パラリンピックで活用できそうだ。国内の大きなイベントでは、AI(人工知能)を使った警備も始まっている。今年2月の「東京マラソン」では、コース上の監視カメラの映像や沿道の観客がフェイスブックなどSNS(ソーシャルネットワークサービス)を通じて発信する情報をAIが分析するシステムが試された。必要な情報を運営本部から警察官や警備員に伝えて、危険を未然に防ぐ。次の大会では、コース上のマイクで音声情報を集めAIで解析するなど一層の警備強化を図るという。

70万人超の見物客が集まる7月の「隅田川花火大会」でも、AIを使った雑踏警備が行われた。SNSに投稿された情報をAIによる画像解析技術で抽出し、必要があれば警備員に知らせるなど、迅速な問題解決を図る。

AIを使った警備は今年が“元年”といわれている。1962年に日本に誕生した警備業は2年後の東京五輪で社会に認知された。2020東京大会では、半世紀の間に進化・発展した警備の新たなステージを迎える。人が主役であることは変わらないが、それにハイテクを融合させた我が国ならではの新時代の警備がスタートする。人手不足を補完し少数の警備員で高品質のサービスを提供するために、先進技術の活用が不可欠となっていく。

その意味で、今月11日から3日間、東京ビッグサイトで開かれる「危機管理産業展」は注目される。犯罪・災害などのリスク回避に向けた最先端機器が一堂に集まる展示会の目玉企画は「災害対策ロボット・ドローン」エリアだ。実際に飛行・稼働させるデモンストレーションも行われる。セキュリティー技術の最前線に触れる絶好のチャンスである。

【瀬戸雅彦】