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視点

働き方改革 生き残る最後のチャンス2019.01.21

「これまで、警備員には年次有給休暇を取ってほしくないというのが会社としての考えだったのです」――。ある警備会社の総務部員は、そう話した。昨秋開かれた都内の警備業者の集まりで、「働き方改革」について自社の現状を報告し合った時のことだ。

出席者からは「当社も同様だ」という声が相次ぎ挙がった。休んでほしくない率直な理由をまとめると次のようになる。「人手不足のため誰かが休むと代替要員がおらず、内勤者を現場に出すか休みの警備員に出勤してもらうことになる。内勤者は現場から戻って事務作業を行うので残業代が発生し、休日出勤の警備員には手当を支払うことになる。しかしそのための原資を捻出するのは難しい」。

4月から年休の5日取得が義務化される。この集まりでは、次に対応策を話し合った。参加者に年休取得のための環境づくりに必要なことは何かと聞くと、原資のほかに多かったものが「経営者、警備員両者の意識改革」だった。

改めるべきとされた経営者の現状での意識はこうだ。「経営者の多くが仕事と生活が同一化しており、休みを取らない。そのため社員にも休まず働くことを求める」「長時間働く人を良い社員だと評価する」。業界歴が長い経営者ほど、このような傾向があるという。

警備員は「長時間働いて稼ぐという考えが根強い」「責任感が強い人ほど、休まない。そのような人は人望があるので、周りも休みにくい」という。会社への忠誠心があるのだろう。そんな中である参加者は「年休を取るための制度は完備しており、推奨もしている。休みを取っても問題なく現場を回すことができる。それでも社歴の長い優秀な警備員ほど休まない」と年休を取らせることに苦慮していると発言した。

やりとりを聞いていた警備会社の経営者は「警備業界に根強くある長時間労働は、経営者、警備員ともに長時間働くことが良いことだと考える“警備業病”だ」と発言し、多くの人がうなずいた。

だが、「働き方改革」は、法令順守を全面に打ち出し、これまでの意識を変え働きやすい職場を作る機会ともいえる。会合の締めくくりに一人の経営者が発言した「国から年に5日年休を取りなさいと言われたので、人を増やしてみんなで仕事を分けて休もう。原資確保は発注主との業務単価交渉に加え、警備会社間でのダンピング競争をやめる。そうすれば警備員の給料は上がり、採用活動もスムーズにいく」という意見に集約される。それを実現する策の一つが、全国警備業協会が策定した「自主行動計画」の推進である。

そんな簡単な話ではないという意見もあるだろう。しかし「働き方改革関連法」施行まで2か月余りとなり、待ったなしの状況となった。多くの会社が抱える、給料が安く人が集まらない、人がいないから年休を取れないという悪循環から抜け出さなければ、人手不足で仕事を受けられなくなる。さらには関連法罪則規定により罰金を支払うことにもなり、会社経営は行き詰まる。「働き方改革」への対応は警備会社が生き残る最後の機会だ。経営者は強い危機感を持つとともに、ピンチをチャンスと捉えて取り組んでほしい。

【長嶺義隆】

謹賀新年 「警備員ファースト」再び2019.01.01

旧年中は、ニュース取材・購読・広告出稿など大変お世話になりました。

新しい年が警備業に携わる皆さまにとって、公私ともに良き年となりますようお祈りいたします。

小紙は今春、「3・11号」で創刊7周年を迎えます。これも皆さまのご支援とご協力があってこそ積み重ねることができた「紙史の佳節」であります。

これからも同人一同は、警備業界発展の一助となりますよう、鋭敏な感覚で情報の発信に力を尽くす所存であります。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


「警備員ファーストを貫こう」「一歩前への勇気と構想力」「タダで原資を得る手引き」――

筆者は昨年、当欄で「人手不足」をテーマに3本の「視点」を書いた。初めに記したのは、それぞれのメーン見出しである。本文では、成すべきことのヒントを呼び掛けた。

警備員に対しては、優しい思いやりと眼差しを向けて「警備員ファーストを貫こう」。警備員一人ひとりが働く喜びを感じて日々の業務に就いてもらわなければならない。警備業は警備員あっての生業なのである、と。

賃金アップの処遇改善と労働環境の整備は、当初に経費を要するが、後に実りをもたらす“投資”である。そのために「一歩前への勇気と構想力」で、不安がらずに、恐れずに、迷わずに、前へ向けて踏み出そう、と。

警備業の健全な発展のためには、“原資”が必要なことは明白だ。全警協が策定した〈自主行動計画〉は、不適正な取引を改善する手引書である。業界が足並みそろえての実践行動は、カネを掛けずに「タダで原資を得る」またとない機会と認識しよう、と。

3つの取り組みは結果を残せたであろうか。否と言わなければならない。今年もまた、人手不足についての課題は引き継がれ、対応策に苦慮することになるのではないか。

新年を寿ぐ今号、悩ましい「人手不足」から書き起こしたのは、人材確保の難題に、正月こそ意を決してほしいと思ったからだ。〈人の争奪〉は、警備業界だけでなく、全産業界に拡大の度を増すことは明らかである。少しでも愁眉を開かなければならない。

明けた年は、改元をはじめ、統一地方選、参院選、ラグビーW杯、オリ・パラ開催前年、さらに言えば世界の経済動向など、何やら激しく揺れ動く年になる予感は十分だ。中でも警備業界にとって重大関心事は「働き方改革関連法」の施行であろう。

自主行動計画は、カネを掛けずに発注者に対して知恵と説得で対応は可能だ。「働き方」は、そうはいかない。年次有給休暇の確実な取得や残業の罰則付き上限規制が盛り込まれた。カネが掛かる。さて、如何する?

そもそも、筆者は「働き方改革」なるネーミングに違和感があった。法案は警備員のための「休み方改革」ではないのか。

経営者諸氏は、働く警備員の目線で、警備員の顔を思い浮かべながら改革に取り組んでほしい。「警備員ファースト」、「勇気と構想力」である。

【六車 護】