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視点

熱中症予防 五輪を見据えた備えを2017.7.21

先日、近所のスーパーの駐車場で、強い日差しの下、顔を真っ赤にして買い物客の車両を誘導している警備員を見かけた。背中には、大量の汗が蒸発したのだろう、白い模様が浮き出ていた。一瞬、「熱中症」の文字が頭をよぎった。

筆者の住む関東地方では7月19日、ようやく気象庁の「梅雨明け宣言」が出たが、それ以前から連日真夏の猛暑が続いている。テレビの天気予報では、毎回のように熱中症に注意を呼び掛けている。

警備各社でも、朝礼や上番・下番の際には、熱中症への注意喚起が行われていることだろう。

周知のとおり、警備業は建設業などと並び「熱中症多発業種」だ。特に建設工事に付帯して行われる交通誘導の際に多発している。

建設現場は、多くの重機や大型ダンプが出入りすることから、仮囲いの内側には鉄板が敷き詰められている。この鉄板がくせ者で、夏季には鉄板からの照り返しや輻射熱により、付近の温度は50度を超える。道路工事の現場も同じだ。アスファルトからの照り返し、通行車両からの排気熱などによる現場の温度は、天気予報の「本日の最高気温」をいとも簡単に超える。

これからの季節、各地では夏祭りや花火大会などの夏季特有のイベントも数多く行われる。熱帯夜の暑さと大勢の観客による熱気は、雑踏警備現場でも熱中症の危険を一層高めてしまう。

経営者、警備員が取り組みを

厚生労働省は今年度から新たな熱中症予防対策として、9月末までを期間とする「STOPクールワークキャンペーン」をスタートさせた。警備業も熱中症が多く発生していることから、全国警備業協会が業界団体として唯一、同キャンペーンに主唱者として参加している。

職場での一般的な熱中症予防対策には、WBGT値(暑さ指数)の測定と同値の低減、冷房を備えた休憩施設や作業現場への日よけの整備などがある。しかし、屋外、しかもユーザーの建設現場やスーパー駐車場、街路や広場などのイベント会場が仕事場となる警備業にとって、自ら各種施設を整備することはなかなか難しいのが実情だ。

このため、警備業では(1)警備員の健康状態のチェック(2)業務中の定期的な水分・塩分の確実な摂取(3)こまめな休憩(4)頻繁な巡察による健康状態の観察――など人的対応が熱中症予防のための現実的な対策だろう。特に、配置予定の警備員が寝不足でないか、朝食をとっているか、糖尿病や高血圧などの病気を有していないかなどを確認しておくことは重要だ。

また、警備員自身が熱中症につい知っておくことも必要だ。どのような状況下で熱中症になるのか、症状にはどのようなものがあるのかなどを知っておくことは、熱中症の早期発見に欠かせない。

「安全・安心を提供する警備業」の前提となるのは、警備員自身の安全・安心の確保であることは言うまでもない。経営者は「自社からは熱中症は出さない」との覚悟できめの細かい対策に、警備員は「自分は熱中症にならない」との強い思いで日常の健康管理に、それぞれ取り組んでほしいものだ。

開催まで残り3年余となった東京五輪・パラリンピック。大会は夏真っ盛りの7月から8月にかけて開催される。熱中症への万全の備えは、五輪警備の成功にもつながる。 

【休徳克幸】

東京五輪準備 今こそ、使命感と連携を2017.7.11

「ともかく、大事な折衝などは都議選が終わらないことには…」――この言葉、東京五輪・パラリンピックの準備に携わる多くの人たちから聞かされたものだ。

言われてみれば、うなずける話である。都議選前から顕在化していた「森喜朗組織委会長+丸川珠代五輪担当相VS小池百合子都知事」の確執は、国政レベルの“都議選劇場”でさらに対立に拍車がかかったように思われる。

実務を担う関係者にとって、準備の進捗どころではなかったはずだ。例を挙げれば、東京以外の会場で開催される競技の運営経費をめぐる調整だ。すぐにでも取り組むとしていた関係自治体との話し合いは、何一つとして聞こえてこなかった。

思い起こしてみよう。招致当時の猪瀬直樹都知事らがまとめた基本計画は「コンパクト五輪」の“理念”を掲げ、総経費は7300億円と試算した。今となっては、他都市との競争に勝つことを最優先した大甘で、ずさんな計画だったと言わなければならない。

ちなみに小欄は、理念について「東日本大震災の被災地の人たちも一緒に、心から楽しむものであってほしい」(平成25年9月21日号)、「地球温暖化を見据えた“環境”とテロに対する万全の備えを整えた“安心・安全”を発信してもらいたい」(同26年9月21日号)と訴えたものだった。

「コンパクト」が「サイザブル(大規模)」に変身したのが明らかになったのは一年前のこと。「総経費は3兆円超の可能性」の数字が浮上して国民を驚かせた。その後、小池知事の指示を受け、調査チームはコスト削減を提起して「1兆3850億円」まで縮まった。これとて、節約の声がかかると“兆単位”で数字が削られるのだから普通の市民感覚では考えられないことだったのだ。

本来なら五輪相や組織委が各団体や組織の意見を聞き、慎重に事を進めるべきだった。課題を収束させる能力に欠けて役割を果たせなかった。

その都議選が終わった。これからは、一大プロジェクトにかかわる3つの組織トップと関係者が、それぞれの立場と責任を再確認し、信頼関係を築くことこそ急務なのだ。メンツにこだわる主導権争いより連携である。

その上で、心を一つに使命感をもって知恵を出し合い、職責を果たさなければならない。情報公開とていねいな説明が不可欠であることは言うまでもない。

五輪は来年から、準備状況を確認するための国際大会が順次開かれる。警備業界にもスピード感が求められる。思い出されるのは昨夏、リオ五輪の警備を現地視察した全警協・青山幸恭会長の東京大会に臨む決意だ。同氏は本紙のインタビューにこう応えている(9月21日号)。一部を再録したい。

「相互の連絡体制をどうとるか、全体をどうまとめるか。我々はそれを待っているのではなく、警備業ができるところから取り組まなければならない。東京五輪・パラリンピックは〈日本の警備ここにあり〉というプレゼンス(存在感)を国内外に示す絶好の機会であり、このことを意識して大会運営をサポートしたい」

3年後、こんな光景を思い浮かべたい。舞台は聖火リレーと男女マラソンの警備。そろってスマートな制服の警備員は、積み重ねた専門知識と技能を発揮して、テキパキと警備をこなす。そこには、リレーメンバーや選手だけでなく〈沿道を埋めた多くの人たちの安全を守るのだ〉という気概に満ちている――。

【六車 護】

自家警備 警備員の価値、示すとき2017.7.1

国土交通省が総務省と連名で自治体や建設業団体に通知した「交通誘導員の円滑な確保」が、警備業界に波紋を呼んでいる。

通知内容には警備員不足の対策として「指定・指定外の路線を問わず、元請け建設企業の社員によるいわゆる自家警備は可能である」と示されていたのだ。

自家警備――つまり自分で行う警備のことで、警備員に頼らずに建設会社社員が行う警備である。昨年度の工事繁忙期には警備員が不足し、地域によっては工事の進捗が滞る事態となった。今後、熊本地震の本格的な復興作業や東京五輪・パラリンピックに向けた建設工事で、施工に一層支障をきたすと予想される。裏を返せば、警備員不足がそこまでひっ迫しているということだ。

もし自家警備が広がった場合、交通誘導警備員の存在自体に影響が及ぶことにもなりかねない。また懸念されるのは、警備料金の下落だ。2号業務の料金は、労務単価の3年連続の向上や積算方法の見直し、協会・会員の努力により順調に推移していた。しかし、自家警備が広まることにより業界が再びダンピング競争に戻る恐れがある。今後、都道府県単位で関係機関・団体による「交通誘導員対策協議会」が開かれた場合、警備業界は積極的に参加して安全面からの交通誘導警備員の価値をアピールし、事故発生時の元請け会社へのリスクなどを訴えていく必要がある。

需要に素早く応える

警備業界は今後、人材確保対策を早急に推進して、交通誘導警備員の需要に迅速に応えられる状況を作り出すことが重要だ。

具体的な取り組みは始められている。厚生労働省は昨年に引き続き、警備業の人材確保に向けたマッチング支援を労働監督署に指示した。全国12か所のハローワークでは4月から「人材確保特設コーナー」を設置している。仙台・郡山・大宮・千葉・池袋・横浜・浜松・名古屋中・京都西陣・大阪東・広島東・熊本の12か所だ。ハローワーク横浜では警備会社による「ミニ面接会」を4月に2回、5月に1回開いた。またハローワーク名古屋中では「警備現場の見学会」を検討中だ。

外国人雇用の取り組みも始まった。神奈川警協は、県内の特区を使った外国人による2号警備の勉強会を始める。他業種ではビルメンテナンス業が昨年4月、ベトナムなど外国人の技能実習生制度をスタートさせた。外国人に向けた技能検定も3段階(基礎1・2級、3級)で設定。警備業の場合、言語の問題から業務は限定されるが取り組む価値がある。

そして今後期待されるのは、青年部会と女性部会の過去の慣習にとらわれない柔軟で斬新な発想の活用ではないか。警備業協会の青年部会は現在16と、全国の3分の1を占めるまでになった。安全安心を軸に、既成概念に囚われない事業や企画を打ち出してほしい。

女性部会は東京・大阪・福岡の各協会にあるが、7月に3協会による初会合の場を持つ。労働環境の整備など課題はあるが、女性警備員の拡大も雇用促進対策の重要なポイントとなる。

各都道府県協会の総会で今年度最大の課題として繰り返し示された“警備員不足”。改善に向け、知恵を出し合い社会的イメージアップを図り、求職者を呼び込まなければならない。

 

【瀬戸雅彦】