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視点

適正取引 契約外作業はしない2018.8.21

全国警備業協会は「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」を策定した。周知を図るため、イラストを交えたリーフレット「適正取引の推進」を会員に配布している。リーフレットでは「取引先からの発注内容は書面化されていますか?」、「支払期日は守られていますか?」など7つの項目を挙げて、警備業者とユーザーの双方に望ましい取引の実施を強く求めている。

受注する立場の警備業者はこれまで、取引継続を断られることを恐れて「警備業務以外の付帯業務にかかる対価」などを交渉しにくい状況があった。

前記の項目の1つに、こうある。「契約外の作業等を無償提供していませんか?」――イラストは、警備員が汗を流してトイレを掃除する姿だ。「発注者から契約外の除石作業やトラックの洗車、休憩所などの清掃をさせられた」との事例を記し、対処方法として「契約外の業務を要請された場合は、まず契約外である旨を伝える」、「必要に応じて、業務の範囲を協議して書面化し、有償で対応する」ことなどを示している。

安全を守るプロである警備員が、警備でない作業を無償で要求されるのは理不尽な話だ。中には、ある警備員が退職を申し出て、会社が理由を聞いたところ、警備先で慣例的に掃除を強いられていたとわかり、会社が先方に抗議し掃除を断って警備員は退職を思いとどまった例もある。

ユーザー側から正当でない要請があった場合に、経営者は毅然と対処しなければならない。警備員の社会的なステータスに関わる問題であり、契約外の作業を無償で受け入れるなど論外だ。

警備業務の役割を重視して適正料金に理解を示してくれる多くのユーザーによって、業界は発展を続けている。一方で、警備員の仕事について認識が十分とは言えない取引関係者もいることは事実だ。昨今は求職者に向けた「警備業のPR」が課題の一つだが、ユーザー側に向けても安全安心を確保する業務の重要な役割をあらためて伝える必要がある。

コンプライアンスに徹する業界であることや、技能とサービスの向上を図る教育や訓練の取り組み、業界全体で推進する適正取引などについて、警備業者は積極的にアピールする時だ。

相手方の理解を深めながら、意見をきっぱりと主張する。警備業者が発言力を増せば、警備員のステータスを一層高めることに結びつくはずだ。

かつての景気低迷期に広がった“低価格競争”に象徴される受注側の低姿勢が影響して、警備以外の作業を押し付けられる状況などを招き、警備員の地位向上を妨げてきた面があるのではないか。防犯防災に社会の関心が一段と高まる中、生活安全産業の一線に立つ警備員が多くの人から敬意を持たれるようになってほしい。

警備員が万一、不当な扱いを受けた時にユーザー側との話し合いを円滑に行うため、申し入れをしやすい人間関係づくりを心掛けたい。経営幹部が、警備先の巡察を行う際に、工事現場の監督など相手方とのコミュニケーションをより緊密に図る姿勢が大切になる。

発注者と受注者が適正取引を進めて強固な信頼関係を築いていくことは、お互いにプラスとなる。適正な取引は、適正な警備料金のコアとなるもので業界発展の上で欠くことはできない。

【都築孝史】

女性採用 投資と知恵が必要だ2018.8.01

先ごろ、少なからず衝撃的なニュースを目にした。帝国データバンク調べによると、2018年の上半期には働き手が足りないために業務ができず、事業継続が不可能となった「人手不足倒産」が全国で70件もあったという。17年の上半期に比べると21件増加しているというのだ。

警備業でも倒産とまで行かなくても、警備員が集まらないために仕事を断らざるを得ず、事業拡大の機会を逃している事例を多く聞く。

もちろん人材不足は今に始まった話ではなく、各社は以前から積極的に採用活動をしている。しかし「応募が少ないなら、まだいい。応募が全くない」と嘆く経営者の声ばかりが聞こえる。

各地の警備業協会はハローワークと連携して就職説明会を開いたり、人通りの多い公共の場で警備員の仕事をアピールする映像を放映するなどしているが、実を結んでいないのが現状だ。

そんな中で、注目されるのが女性警備員の採用だ。警察庁調べでは2017年の全国の警備員に占める女性比率は5.4パーセントに過ぎず、人材確保に残された最後の余地と言える。

可能性もある。有効求人倍率は低水準が続き、多くの業界で人材が足りない売り手市場が続いている。しかし、子育て世代で就職を希望する女性の就労機会は非常に少ないのが現実だ。働き口が見つからない女性の受け入れ先として積極的に多くの人数を採用すれば、職を得たい女性が救われる。

ただ、「女性採用の大切さは分かっているが、受け入れに当たり何をしていいのか分からない」という経営者が多い。しかし、真剣に知恵を絞り工夫をしたのだろうか。否と言わなければならない。今、業界で注目を集めているのが岐阜県警備業協会(幾田弘文会長)の取り組みだ。

岐阜警協は人材不足解消のため、県内の女性警備員比率を4.2パーセント(225人)から10パーセントまで高めるという数値を明示して、チャレンジを始めた。6月28日には、幾田会長や会員の女性社長などが集まり、女性警備員募集をテーマに意見交換会を開いた。参加者からは「女性がデザインした制服を作り警備員のイメージを変える」、「託児所設置など、未就学児童を含めた子供がいる女性が働きやすい職場づくり」などが取り組むべきこととして挙げられた。

就業時間の工夫や休憩時間を利用して子供の送り迎えができるようにするのも一案だ。更に踏み込んで「子供手当て」の支給なども考えられるのではないか。

それらの施策を行うには費用や手間を伴うが、人材不足を解消するための“投資”と考えればいい。

そうした成功例が中国警備保障(山口県岩国市、豊島貴子社長)だ。女性警備員が全警備員の7パーセントを占める45人おり、母娘で2号警備に汗を流す社員もいる。同社は、女性専用トイレや休憩車両を導入している。更に豊島社長自ら、生地から選びデザインして独自の制服を作っている。

これらを行うには費用はかかるだろうが、惜しんでいる場合ではない。日本は人口減少が続いており、人材採用はこれから更に難しくなる。女性採用は会社が生き残る道と考え、力を入れて取り組むことが求められる。具体的な取り組みに向けた投資と知恵が必要となる。

【長嶺義隆】