警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

人手不足 解決への取り組み急ごう2018.12.21

「平成」最後となる2018年、警備業では次代への飛躍につながる取り組みがあった。

一例を挙げれば、3月の全国警備業協会による「自主行動計画」の策定である。これに基づき官民一体となった適正取引推進がスタートした。

4月、警察庁の有識者検討会がまとめた報告書も注目された。人口減少時代を見据え、AI(人工知能)など新技術の警備業務への活用や、警備員教育の見直しなどを内容とする今後の警備業のあり方・取り組みへの提言である。

一方で、今年も警備業で深刻度を増したのが「人手不足」だ。「求人広告を出しても問い合わせすらない」と嘆く多くの経営者に出会った。

来年のラグビーワールドカップ、その翌年の東京2020大会など相次ぐ国際的なイベントは、警備業に多くの仕事をもたらすだろう。半面、人のやり繰りは今まで以上に難しくなる。来春からスタートする「働き方改革」も、進め方次第では、これに拍車をかけることになろう。

荒波が予想される2019年。しかし、今年行われた取り組みの中に、目下の課題である人手不足解決の糸口がある。

自主行動計画は、これまで“泣き寝入り”せざるを得なかった不適正な取引を改め、適正な警備料金を得る取り組み。適正な警備料金は、警備員の待遇改善の原資となる。他業種に引けを取らない労働条件は人材確保に直結する。

有識者検討会の提言にある新技術の導入は省力化や生産性向上に、教育の合理化や内容の見直しは警備員育成のスピードアップや付加価値向上につながる。

そして「働き方改革」。一部で人手不足を助長するとも指摘される残業の上限規制などを内容とする同改革だが、出発点は生産性向上と長時間労働の是正である。個々の企業に関係法令の順守を求めるだけでなく、国全体で長時間労働や、それを誘因する取引慣行を改めようという側面も持つ。

さまざまな理由から長時間労働を余儀なくされてきた警備業だが、今後は人員配置増や労務単価アップなど長時間労働解消へ向けた取り組みに対し、発注者の理解が得られやすい環境が整備されていくことを切に望みたい。

本紙「複眼時評」(11月21日号)でも触れていたように、国全体を覆う人手不足を受け、政府は今国会で入管法を改正、来春から施行する。警備業は当面は様子見だが、警備業の有力な顧客である建設業界には今後、技能実習生という名の外国人労働者の供給が進むだろう。いずれ人手不足も緩和されていくに違いない。

いつまでも警備業の人手不足が解消されなければ、建設業者自らによる交通誘導警備「自家警備」の声はさらに大きくなる。事実、広島では「速やかな豪雨災害復旧工事の実施」という理由で自家警備が行われようとしている。「警備業も人手不足だが建設業も人手不足。自家警備まで手が回らない」とは言っていられなくなる。それは交通誘導警備の現場だけに限ったことではない。

人手不足を背景に急速な進化を遂げる技術やシステムは、いずれ警備員だけでなく、警備業自体の存在をも脅かす可能性も秘めている。人手不足の早急な解決こそが、警備業の生き残っていく道であることを忘れてはいけない。

【休徳克幸】

ロボット 「ひと」「AI」が補い合う2018.12.11

駅構内をロボットが巡回している。非日常的な光景に利用客は思わず足を止めた――。

都内の西武新宿駅で先月公開された警備ロボットの実証実験は、新聞・テレビで報道され話題を呼んだ。アースアイズ製のAI(人工知能)監視カメラを搭載し「ペルセウスボット」と名付けられたロボットは、座り込んだ人を発見して駅員のスマートフォンに連絡。現場の画像付き通知を受けた駅員は救護に駆け付けた。

ロボットの実証実験は大手警備会社も力を入れている。ALSOKは、侵入者検知や顔認証機能を備えた「Reborg―X」を今年4月から都内の新丸ビル地下に導入し、巡回やビル内の店舗案内などを行っている。将来の本格導入を見据えて羽田空港の公開実験プロジェクトにも昨年と今年、連続参加した。

セコムは、敷地内を巡回して異常箇所の発見や不審者への威嚇を行う「セコムロボットX」の機能を進化させ、アームによる不審物やゴミ箱の点検を可能にした「セコムロボットX2」を開発。来年1月と2月に都内の地下鉄駅で実験を公開する。

警備ロボットは米国ではすでに実用化し、ショッピングモールや学校、駐車場の見回りに活用されている。警備や介護などを目的とする「サービスロボット」の市場は今後急速に拡大すると見られており、経済産業省は現在1.7兆円の国内市場は2020年に2.9兆円、2025年には5.3兆円と予測している。

しかしロボットにできることは検知や通報に限定され、警備の主役が「人」である時代はまだ続く。少子高齢化・人口減少が進み人手不足が継続することから、少ない人数の警備を先進技術で補完する手法が主流となっていくだろう。それを2号警備に特化して実現させているのは山梨県に本社を置く「KB―eye」だ。

警備会社「タスクマスター」の秋山一也社長とWebサイト製作などを事業とするIT会社「ホワイトボード」の橘田孝一社長は、2人が共同代表を務めるKB―eyeを8月に創業した。交通誘導警備や雑踏警備、駐車場管理を補完する資機材やシステムの開発を行っている。

秋山社長は「現状では高齢や経験不足の警備員も多く、事故増加の可能性を抱えている。警備業に入りたいという若者を増やさなければ警備業の未来は先細っていく。業界発展のために人とAIが補い合う新しい2号警備の形が必要だ」と語っている。

警察庁は昨年「人口減少時代の警備業務のあり方」を検討する“有識者検討会”を設置。全国警備業協会・福島克臣専務理事を含むメンバー4人による検討結果をまとめた報告書を今年4月に発表した。この中で“人手不足対策”について警備会社にアンケート調査を行ったところ、「採用活動の強化」や「賃上げなど処遇改善」が多数を占め「先進技術の導入」はごく少数だったという。

2020東京五輪・パラリンピック、2025大阪万国博覧会の開催に向け訪日外国人が一層増加することが予想され、公共施設などの監視業務の負荷が課題となっている。警備業界は人手不足が深刻化する中、人とロボットなど先進技術で役割を分担させる効率化と安全性を高める取り組みが求められる。それは警備員の過重労働を防ぎ「働き方改革」の推進にもつながる。

【瀬戸雅彦】

介助技術 警備業、しっかり学ぼう2018.12.01

ホテルや旅館に、車いす利用者が使いやすい客室を増やすことを求めるなどの「改正バリアフリー法」が11月から施行された。観光庁と旅行業界は、車いすの人や、目や耳の不自由な人が参加しやすい旅行プラン「バリアフリー・ツーリズム」を推進する。警備員は、観光地の施設や駐車場などで障害者に接する場面が増える。警備業界は、体が不自由な人に適切に対応するスキルをより一層、高めていく時である。

スキルアップの方法として、車いす利用者を介助する訓練や、目の不自由な人を誘導する訓練、手話講座がある。基本的な対応は、車いすの人に接する時は相手の目線に合わせてしゃがむ。車いすを押して坂道を下る場合、車いすを後ろ向きにしてゆっくりと移動する。白い杖を持つ人を案内する時は、杖に触れない。耳が不自由な人に対しては手話や筆談だけでなく、身振り手振りも役立つ。

より深い知識は、民間資格の「サービス介助士」を取得して身につけることができる。この資格は、障害者や高齢者に対する介助技術を学ぶもので、交通機関やホテルなどで働く人を中心に現在15万人以上が取得している。

社会の高齢化が一段と進む中、生活安全産業を担う警備員は、体の不自由な人への適切な対応の手本を、率先して示すことが求められている。

今から7年後、2025年の日本は、3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上の社会になると予測される。健康な人であっても加齢によって足腰や目は弱り、車いすや杖を利用する場合がある。そこで警備員の言葉掛けや介助、温もりある接遇へのニーズは高まるはず。警備現場で、障害者への対応をさらに充実させるため、隊員が経験を通じて得た教訓などを社内で情報共有して、新しく入る隊員に伝えていく仕組みが重要だ。

体の不自由な人の安全を守るため、警備員は具体的にどう対応すべきか。そのノウハウを示したのが、静岡県警備業協会が10月に開いた「視覚障害者に対する工事現場周辺の誘導」をテーマとする研修会だ。

視覚障害者が働くNPO法人の施設長が講演し、警備員が目の不自由な人を案内する時には「白い杖を持つ手や盲導犬の反対側に立つ。腕や肩をつかんでもらって歩く」などのポイントを説明するとともに、こう話した。

「病気や事故によって視覚に障害を抱える人は毎年1万5000人以上にのぼります。人生の途中で目が見えなくなることは決して他人事ではありません。白い杖を持つ人は、全盲でなくても視界が極端に狭い人が多い。歩き慣れた道でも工事中なら、警備員に案内してもらうことが切実に必要です。横断歩道を渡る時に“とおりゃんせ”などの音が流れない信号機なら、声を掛けて渡るタイミングを教えてもらえると助かります」。

警備員が相手の身になって役に立ちたいという思いを持ち、積極的に声を掛ける姿勢が、より的確な対応につながるに違いない。

障害者、高齢者にとって安全安心な社会は、全ての人に安全安心な社会だ。超高齢化に向かう社会で警備業界が一層の存在価値を示してほしい。

【都築孝史】