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最高裁、待遇差訴訟で判決2020.10.21

手当不支給は不合理 「賞与」「退職金」認めず

最高裁判所は10月13日と15日、非正規社員が、賞与や退職金、各種手当などについて「正社員との待遇差は不合理だ」と訴えていた5件の訴訟で判決を出した。各種手当については「正社員との格差は不合理で違法」と判断した。一方、賞与と退職金は、高等裁判所の判断を一転、非正規社員側の訴えを退けた。非正規社員が警備員の1割以上を占める警備業にも、手当の整備など待遇差是正へ向けた早急な対応が求められる。 

一連の裁判は、本紙9月1日号・同21日号でも既報の通り、今年4月施行の新法「パートタイム・有期雇用労働法(パート有期労働法)」の第8条が引き継いだ労働契約法第20条の適用可否を巡るもの。「労働契約法20条裁判」とも呼ばれる。「同一労働同一賃金」を目指すパート有期労働法は、まず大企業に適用、中小企業には来春から適用される。

15日の判決は、東京や大阪、佐賀の郵便局で時給制や月給制の契約社員として働く非正規社員が起こした訴訟。「住居(住宅)手当」「年末年始勤務手当」「扶養(家族)手当」などが、非正規社員は対象外となっていたことから、待遇差の是正を求めていた。

最高裁は、これら各手当のうち、東京・大阪・福岡いずれかの高裁が認めなかった「年末年始勤務手当」「扶養手当」「有給の病気休暇」「夏期・冬期休暇」「祝日給」について、手当・制度の主旨・目的を次のように位置づけた。

▽年末年始勤務手当は、年末年始に多くの人が休日として過ごしている期間に業務に従事したことに対する対価としての性質がある。

▽扶養手当は、生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある人の生活設計を容易にすることで継続的な雇用を確保する目的がある。

▽有給の病気休暇は、生活保障を図り、療養に専念させることにより継続的な雇用を確保する目的がある。

その上で最高裁は、これら手当について「(非正規社員の)相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、正社員と非正規社員とで待遇に相違があることは不合理」と判断した。

「有為人材論を採用」賞与、退職金

13日の判決は、「賞与」と「退職金」を巡る訴訟。「賞与」は大学のフルタイムのアルバイト職員が、「退職金」は地下鉄売店に勤務する契約社員が、それぞれ正社員との待遇差是正を求めていた。

賞与について高裁は、在籍・就労への対価としての性質があったことや、契約職員には正職員の約8割の賞与が支給されていたことから、アルバイト職員にも約6割の支給を認めた。

しかし、最高裁は大学が支給する賞与の目的を「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保や定着」とする「有為人材確保論」を採用。職務内容について、アルバイト職員は正職員に比べ「相当に軽易であるとうかがわれる」。また、「業務命令による配置転換は正職員だけ」「正職員への登用制度もあった」とし、正社員と非正規社員との待遇差を認める理由である「職務内容」と「配置の変更の範囲」に“一定の相違があった”と判断。賞与不支給は不合理とは認められないとした。

退職金について高裁は、長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金について、正社員の4分の1に相当する額を支給しないのは不合理だとした。

しかし、最高裁は退職金についても「有為人材確保論」を採用するとともに、正社員は売店のトラブル処理や用品補充などエリアマネージャー業務に従事するなど契約社員とは「職務内容」に一定の相違があった。契約社員は担当売店の場所の変更はあったものの、正社員のような業務内容の変更はなく、「配置変更の範囲」にも一定の相違があったと認定。退職金不支給を不合理ではないと判断、原告側請求を棄却した。

「手当に適正料金確保」
社会保険労務士・上野卓爾氏(上野社会保険労務士事務所、千葉県警備業協会理事、同協会顧問社労士)の話

今回の最高裁判決は、あくまで個別企業への判断だ。正社員と非正規社員の待遇差が不合理か否かは、今後も司法判断が続く。注視していく必要がある。

警備業は、その成り立ちから(1)管理・事務部門は無期・フルタイム(正社員)、警備部門は有期労働者(2)警備部門の中に正社員と有期労働者が存在(3)本部にいる管理部門の正社員が、業務の内容や人員不足に応じて現場に出る――などのケースがある。問題になりやすいのは「手当」だ。正社員と非正規社員との間で手当に差がある場合には、業務の性質など、その理由・根拠について具体的な説明を行うことが必要だ。説明なし、説明できないは“不合理”を認めることにもなりかねない。

「手当」を整備していくには原資が必要で、適正な警備料金確保は不可欠だ。

全警協「自主行動計画」を改訂2020.10.11

警備業の取り組み追加

全国警備業協会(中山泰男会長)は9月30日、「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」を改訂した。同日開いた理事会で決議した。同計画の「フォローアップ調査」では、計画活用による取引条件の改善が明らかとなった。このため全警協は、加盟社との改善事例の共有、改訂計画の周知・活用促進を進める。

「自主行動計画」は、政府の「中小企業・小規模事業者が賃上げを行いやすい環境をつくる」との方針を受け、全警協が2018年に警察庁や関係省庁の協力を得て策定した。

同計画では大手と中小など「警備会社間の元・下請け取引」と建設会社やイベント会社、金融業者など「警備業界以外の発注者との取引」それぞれでの不適正な取引事例と改善へ向けた警備会社の取り組み事項、警備業で従前から見られる課題ごとに対する「警備業界と警備各社が取り組むべき事項」を示している。

全警協が今年2〜3月に実施した同計画の「フォローアップ調査」では、「計画を活用し、取引に改善があった」とする回答が7割を超えた。また、具体的効果として「警備料金を値上げできた」約9割、「労働条件を改善できた」約5割、「(警備業務以外の)附帯業務を削減できた」約3割など、自主行動計画の成果が確実に上がっていることが確認できた。

このため、今回の改訂では特に「警備業界と警備各社が取り組むべき事項」に追加が行われた。具体的には、感染症や風水害発生時に警備会社が一方的に負担を押し付けられないよう、発注者に必要な経費やキャンセル料などの支払いを求める協議を行うことを明示。リスクが想定される場合は受注を見合わせることも求めた。

人材確保と定着のため、あらゆる世代の警備員が働きやすいよう「長時間労働の是正」「休憩時間の確保」「熱中症と感染症リスクへの十分な留意」を明示するとともに、発注者との協議による労働環境の整備を求めた。特に長時間労働の是正では、休憩時間中の対処を求められた際の対応として、「交代要員の配置を前提とした警備料金」など休憩時間の確保に必要な措置を示した。

警備員出動に「適正料金」2020.10.01

宮城警協、大郷町と災害時協定

宮城県警備業協会(氏家仁会長)は9月25日、県中央部に位置する大郷町(田中学町長、人口約9000人)と災害時の地域安全確保に関する協定を締結した。県内自治体が宮城警協と同種協定を結ぶのは初めて。今後、他の自治体にも広がっていくことが期待される。

協定の正式名称は「災害時における地域安全の確保等に係る警備業務に関する協定」。地震や大雨などの自然災害や大規模事故が発生した際、宮城警協の加盟社は(1)緊急交通路確保のための交通誘導警備(2)避難場所などで犯罪防止のために警戒活動を行う施設警備業務(3)その他必要な関連警備業務――などを行う。

協定に基づく警備員出動に対しては、国土交通省が定める直近の「公共工事設計労務単価」と「建築保全業務労務単価」、宮城警協加盟社の見積もりなどに基づいた“適正料金”を町が支払う。悪化した交通環境や遠隔地からの派遣などに伴う「宿舎の借上げ費・宿泊費」「警備員の送迎費・赴任手当・食費」などについても別途積算、計上できる。

大郷町役場で行われた協定締結式で氏家会長は「地域社会の安全・安心確保のために警備業に何ができるか、地域社会に根差す警備業だからこそできる何かがあると考え、本日の締結式を迎えた」と、協定への期待と意気込みを述べた。

田中町長は「宮城警協からありがたい声掛けがなされ、町民を代表してお礼を申し上げる。昨年の台風では24時間体制でパトロールしていただき被災者も安心して復旧活動ができた。宮城警協の後ろ盾は心強い」と、感謝と期待の言葉を寄せた。

昨年大きな被害をもたらした「東日本台風(19号)」来襲時は、大郷町内を流れる一級河川「吉田川」の堤防が決壊、町内の150棟以上に全・半壊の被害が出た。町からの緊急の応援要請を受けた宮城警協は、青年部員が中心となって町に延べ115人の警備員を派遣。約1か月間、昼夜にわたり緊急車両の交通誘導警備や町内の防犯パトロールなどを行った。この取り組みも「有償」で行われたが、宮城警協の対応が町民から高く評価され今回の協定締結につながった。