警備保障タイムズ下層イメージ画像

トップインタビュー

「人材確保と定着」我が社の取り組み⑬2016.8.21

小林正和さん(グリーン警備保障 代表取締役社長)

多くの職種を経験させる

――社員数3400人に拡大し、会社に勢いを感じます。人材確保は順調と聞いていますが。

お客さまからの要望に応えられる体制を常に確保しておきたいので、募集には力を入れています。求人広告費は紙媒体とインターネットを合わせて、一昨年は1億6000万円、昨年は2億3000万円かけました。

年齢や経験については制限をかけずに広範囲に募っていますが、昨年から「週4日以上勤務が可能なこと」を応募条件としています。登録している在籍人数が増えても、実際の稼働力に結びつかないからです。

――定着のための取り組みは、何かしていますか。

巡察時には私自身が社員と直接コミュニケーションをとり、不満や問題点がないか尋ねています。もし悩みや理不尽に感じている事があれば幹部に伝え、できるだけ速やかに解決を図ります。

質の高い業務のためには、まず社員が働きやすい環境を提供することが会社の務めです。経営者や幹部は社員の心の内面を常に気にかけ、ケアを欠かさない努力が必要でしょう。どんな優秀な営業より、社員が警備の現場で活躍することが、会社にとって最大のアピールとなり、業績向上にもつながります。

――都内をはじめ神奈川・埼玉・千葉に合計16の支社があります。支社長は若い人が多いそうですね。

若い社員の中には、残念ながら末永く警備の仕事を続けていく気がなく“本業に就くまでの仮の職業”と捉えているアルバイト感覚の人もいます。

その一方で警備業務を「人の生命・身体・財産を守る、やりがいある仕事」、「現場への直行直帰が多く、複雑な人間関係もない気楽にできる職業」とポジティブに捉える人もいます。そういう社員には、現場の業務以外に指令・営業など多くの職種を経験させ、成長してもらいます。成果を残せば会社から評価され、幹部など重要ポストに就くことができる仕組みを作ることは、良い人材を育て定着してもらうために大切なことです。

――2号業務で特に課題となっている、社会保険未加入問題についてはどうでしょう。

業界の課題としてクローズアップされた4年前から、本格的に加入促進に取り組んできました。最初の頃は、社保のメリットを伝えて加入者を募っていました。しかし給料の手取りが減ることを好ましく思わない人もいて思うように進まず、加入率は30パーセントで頭打ちとなりました。

そこで今年度からは「社保加入は本来、社員の義務である」と方針を強く打ち出しました。その結果、社員の理解を得ることができ、現在は加入率60パーセントに伸び退職者もほとんど出さずに済みました。来年3月に迫った期限に向け、加入率を上げていきます。

――加入を義務とする思い切った方針転換が、功を奏しました。

賃金は、社保加入時に週払い制では経理上の事務手続きが煩雑になるため、全員を月払い制に切り替えました。また賃金の手取り分が少なくなったことを配慮して、社内で新たに貸し付け制度をスタートさせました。

―――十分な原資が必要となります。適正な料金は確保できていますか。

当社は2号業務でも建築現場より、圧倒的に土木関係の現場が多いのが現状です。建築は一度受注すれば長期間にわたり業務を確保できますが、中小規模の土木だと数日から長くても3か月ぐらいと短期間で業務が終了します。

社保は、年度明けに仕事量が極端に減る閑散期、年度末の繁忙期などによる売り上げの浮き沈みと関係なく一定金額を引かれるものですから、安定した仕事量と収入が必要となります。

幸い、以前と比べて適正料金のための理解を得やすくなっていますし、受注量も都内では一昨年から、年間通して安定してきました。今のうちに営業力の強化や、受注する業務内容を広げる検討も必要と考えています。

――更なる発展のために変革のときです。

高齢化が進み、特に若年層の人材確保が難しい時代です。業界全体で労務管理の整備に取り組み、魅力的な職場環境を早急に整える必要があります。当社も社会の変化に取り残されないように、常に問題点を見つけて改善を図り続けます。

「人材確保と定着」我が社の取り組み⑫2016.8.1

北川豊彦さん(讃岐 代表取締役)

「3社合併」、雇用に効果

――警備員不足が深刻です。

求人誌とハローワークで募集をかけています。問い合わせは50代・60代を中心にありますが、入社する人は以前より減っています。

――人材確保のために、具体的な取り組みは行っていますか。

当社は今、香川県内の警備会社2社と業務的に合併し、9月から規模を拡大してスタートする計画を進めています。その会社は、「アームパワー」(坂出市、猪熊謙吉社長)と「町の安心」(高松市、町直樹社長)です。各社の決算期をもって会社を閉じてもらい、お客さまを1社に集めます。

私は15年前に香川警協の特別講習実施委員長をしていましたが、2社の経営者とは講師仲間としてその頃からの付き合いで、信頼関係ができていました。昨年10月に2社からこの話をいただき、これまで10回ほど打ち合わせを重ね、合併により発生する問題の解決を話し合いにより図ってきました。現在、3社で一緒に関係各社・団体に挨拶にまわったり、挨拶状を出してお知らせしています。

――合併後は、どのぐらいの規模になるのでしょう。

社員数は、現在の40人から140人に拡大します。2社には資本参加してもらいますので、資本金は現在の1000万円から2500万円となり、対外的な信用が一層増すと考えています。会社の規模が大きくなることで、企業として将来の展望が開け、支社や営業所が増えることで売り上げが伸び、募集する地域が広がって雇用にもよい効果をもたらします。3社とも2号業務が主ですが、今後は1号業務にも進出するなど業務拡張も視野に入れています。

――大規模な仕事も受けやすくなります。

現在県内のイベント警備などで、19社のJVを組んで対応しており、当社とアームパワーは加入しています。「サンポート高松トライアスロン」「香川丸亀国際ハーフマラソン」「さぬき高松まつり花火大会」などの大規模イベントについては、今後も警備会社が協力し合って適正な警備料金で受注していく必要があります。

――この合併をモデルケースに、人材確保などの課題克服を図る会社が増えるかもしれません。

我々は前例がないときに踏み切る決意をしましたが、これからそういう動きが出てくると思います。ただし合併の条件として、優良企業同士に限られるでしょう。赤字経営ではないことはもちろんですが、社会保険加入をはじめ職場環境が良好であることも重要です。各地で合併が進むことで警備会社の数は減少しますが、それは優良企業が残り、お客さまからは適正料金のための理解を得やすくなることにつながります。

――社会保険は、3社とも加入済みですか。

もちろんです。当社は、35年前に義理の叔父が警備会社に勤めたあと、独立して創業しました。私はタクシードライバーを務めながら2年間資本参加してから入社して、専務取締役に就任しました。社会保険については前職では加入していることが当たり前でしたから、3年後には福利厚生を完備し社員全員を加入させました。

正直なところ現在、社保加入が業界の大きな課題になっていることが不思議でなりません。中には加入期限後にどのぐらい厳しく調査や制裁があるかを見定めて、経営を続けていくか廃業するかの判断を下す予定の業者もあると聞き、耳を疑いました。

――社保加入で、社員の定着率も上がるのでは?

当社は定着率が高く、20年勤めている社員もいます。退社する人は2か月から1年以内に辞め、3年在職すれば長期間続く傾向があるようです。私は社員の悩みや迷いを早期に察知するためコミュニケーション作りが大切と考え、「報・連・相」(報告・連絡・相談)の重要性を警備員教育のたびに講師を通じて周知徹底させています。

――検定資格の取得は、推進していますか。

社員のほぼ全員が持っています。最近は花火大会の警備も雑踏1級・2級所持と指定されますし、県内の配置路線も4月から1路線増えました。検定資格を持つことで警備員個々のモチベーションが上がり、警備の質の向上のほか、定着にもつながります。受講料はもちろん昼食の弁当代も会社が負担していますが、この費用は会社にとって未来への投資だと考えています。

これから業界の発展と共に会社の淘汰が起こると予測しますが、生き残っていくのはやはり“社員を大切にする会社”ではないでしょうか。