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警備業ヒューマン・インタビュー
――人名救助で表彰2020.08.21

鈴木耕治さん(共栄セキュリティサービス)

闇夜の屋上、身投げ寸前

<<人命救助の功労で千葉県警察銚子警察署から感謝状を贈られました>>

6月4日の午後11時52分でした。警備業務を行っている銚子市内の商業施設の警備室で待機していたところ、屋上に設置しているセンサーから異常検知の発報があったため急行しました。暗闇のため様子がよく分からなかったのですが、ある方向に違和感を感じて近づくとフェンスの外側に立って身を投げる寸前の若い男性がいたのです。驚きましたが、屋上から地面までは数十メートルあります。ここで私が慌てて対応を間違うと大変なことになると思い、まずは自らを落ち着かせました。

あまり近づくと良くないと思ったため、フェンスから6メートルほどの場所から「どうしたのですか」と穏やかに声を掛けました。こちらに振り返った男性は返事をしたのですが、マスクを着用していたため声が聞き取れません。私がもう少し近づいてもいいかと尋ねたところ「そこの線までだったら来ていいよ」と言ったので、3メートルほどの距離まで近づくことができました。いきなり引き止めると相手が逆上する恐れがあるので、心を開いてもらおうと思い雑談を始めました。

<<どのような会話をしたのですか>>

まずはお互いの自己紹介からです。男性は春に高校を卒業したばかりの18歳、会社に勤務しているとのことでした。話を進めるうちに私が卒業した高校の後輩だということがわかり、それからは打ち解けて身の上話を聞かせてくれました。

彼は職場のことや家族の健康のことなどで悩んでおり、気が付くと屋上に来ていたそうです。しばらく会話した後に「もう少し落ち着いて話したいから、フェンスの内側に戻ってきてくれないかな」と提案しました。彼はその通りにしてくれ、更に会話を続けた後、警備室へ同行して警察に連絡しました。警察に引き渡したのは午前1時過ぎだったと思います。

私としては職務を全うしただけですが、思いがけず銚子警察署から感謝状を頂きました。贈呈式では松居弘樹署長から「普段から訓練していたとしても、このような場面では冷静になれないものです。素晴らしいですね」との言葉を頂きました。私も一人の命を救うことができたことはもちろん、顧客である施設の役に立てたことをうれしく思います。

<<なぜ暗闇の中で瞬時に男性を見つけて、冷静に対応できたのでしょうか>>

警備業務は事故を未然に防ぐことが重要なため、業務中は常に「何か起こるかもしれない。何か起こっているかもしれない」と意識して、異変や変化を瞬時に察知するよう心掛けています。最近では施設内が買い物客で混み合っていても、不審者は目立って見えるようになりました。

今回のような場面に遭遇したのは初めてですが、これまでの刃物対応訓練や消防訓練が役に立ちました。現任教育でも非常時にはまず落ち着き、不審者にはやさしく話し掛けるようにと習いました。そのような経験がなければ、男性を発見したときに慌てて大声で呼び掛けてしまい、最悪の結果を招いたかもしれません。その場合、一人の命が失われるだけでなく、当社の顧客である施設にも一時的に営業がストップするなどの損失を与える可能性がありました。本当に何事もなく幸いでした。

<<今回の経験を業務にどう生かしていますか>>

これまでも警備の仕事は人命や他人の財産を守る仕事だと理解していましたが、それを改めて実感しました。さらに気持ちを引き締めて業務に当たるとともに、仲間の警備員の模範となるような振る舞いを心掛けています。

教育や訓練の大切さをこれほど実感したことはありません。これまでも真摯に取り組んでいましたが、これからは「いま学んでいることが人命救助に直結する」と意識して身に付けることで、とっさの場面で最善の行動ができるように努めます。

<<2011年の入社以来、現在の現場一筋だそうですね>>

以前は他社で2号警備をしていたのですが、たまたま手にした警備員募集のチラシを見て入社しました。「施設警備ならば雨に濡れず冬でも寒くない」ぐらいの考えでしたが、仕事はとても充実しています。業務はシフト制で夜勤では疲労を感じることもありますが、施設の利用者に道案内をした際に「ありがとう」と言葉を掛けられると疲れも吹き飛びます。これからも会社と顧客のために力を尽くします。

警備業ヒューマン・インタビュー
――教育功労表彰2020.08.01

𠮷次正孝さん(東経サービス取締役)

受講生とともに学ぶ

<<神奈川県警備業協会の特別講習講師を20年以上務める中で、どのような思いから取り組まれてきましたか>>

特別講習は、警備員が実技と学科を通じて警備業務の重要性を改めて認識できる場であり、業界発展のために不可欠なものです。私は、スキルアップを図ることが警備員の地位向上に結び付くと考えて講師活動に取り組んできました。

教育は、高い目線から行っては相手の心に響きません。「私は教壇に立っていますが、皆さんとそれほど変わらない人間です」と話すところから講義を始めます。教えるのではなく、ともに学ぶこと、現場の警備員の目線で受講生とともに改めて学び直し、その中で知識と技能を伝えるようと心掛けています。

知識だけでなく、警備員が持つべき心構えなど“心の部分”をしっかりと伝えなければなりません。知識や動作、合図などの一つひとつがなぜ必要なのかを認識して、安全安心を守る職業の重要さに理解を深め、警備員であることにプライドを持ち、より良い仕事をしたいと意欲を持てば知識の吸収はおのずと早まるものです。

<<昨年、警備業法施行規則が改正され、新任・現任教育の時間が短縮されました>>

これは警備員教育に対する業界の取り組みが、公的な信頼を得た結果と受け止めることができます。法定時間は短縮されても、顧客満足につながる質の高い業務を提供するためには、教育・訓練の一層の充実を図る必要があると思っています。

規則改正に伴い、eラーニングが導入されました。現在、神奈川警協の教育委員会では、その効果的な実践に向けた情報収集、検討を進めています。人が人に向き合う“対面教育の良さ”をeラーニングの形態の中にも取り入れたいと考えています。

<<全国警備業協会が認定する資格「セキュリティ・コンサルタント」の講習講師も務められています>>

セキュリティ・コンサルタントは、社会公共のために防犯・防災のプラン策定などに携わるスペシャリストです。セキュリティ・プランナーの上位資格で、2012年に始まって現在、全国に123人しかいません。合格率は20パーセントほどの“狭き門”で、この資格所有を入札の条件にする官公庁もあります。

警備業だけでなく社会、経済、国際情勢など幅広い分野の知見が求められ、講師は勉強が欠かせません。「危機管理の専門家」としてメディアなどに登場するような人材を輩出したいと思って取り組んでいます。

<<講師活動の原点にあるものは何でしょう>>

情熱あふれる講師の言葉に出会ったことが原点です。私は20歳で警備業界に入り、30代後半の時、全国から特別講習講師の候補者が集まる研修会に参加しました。そこで全警協の技術研究専門部会の講師が、熱弁を振るったのです。「警備業に対する世間一般の評価を、もっと高めなければならない。『検定合格警備員』をより多く育成し、警備員の地位向上を図る時だ」。

スキルアップで地位を高めようという言葉を意気に感じて、私は講師となり教育に情熱を注いできたのです。

この研修会の参加者は、都道府県警備業協会で中心的な役割を担う講師に成長していきました。講師同士が切磋琢磨して教育方法を研究し、特別講習の合格率アップを目指す取り組みが全国で盛んになり、今日の業界発展につながったと思っています。

講師は皆、多忙な社業に追われながら教育活動に力を注いでいます。それは、知識と技能を磨くことが警備員のステータス向上につながること、処遇を改善する原資となる適正料金の確保に通じる道であることを分かっているからなのです。

昨今、警備業界はコロナ禍で打撃を受けましたが、まだまだ“のびしろ”がある産業だと思っています。鍵になるのは、教育です。新たな顧客ニーズを掘り起こすためには警備員が勉強しスキルアップを重ね、専門性をより高めて業務を行うことが大切になると考えます。

昨年、自社の経営者の座を後進に譲りましたが、講師としては現役です。先輩方から受け継いできた情熱を、後輩たちに伝えていきたいと思っています。