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警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.6.21

河西邦江(サンパティックエスジーアイ代表取締役)

〝女性の力〟活かす警備業に

«ひまわり会(大阪府警備業協会の女性部会)の新部会長に就任しました»

5月16日の「ひまわり会」定時総会で、初代の中嶋幸子部会長、2代目の谷富子部会長に続く3代目部会長となりました。

ひまわり会は2001年5月に大阪警協の女性経営者が親睦を深めることを目的にスタートしました。私は当初から副部会長として会の運営に携わってきました。現在54人が在籍し、そのうち30人ぐらいが活動を共にしています。

«どのような活動を行っているのですか»

5月の定時総会をはじめ、8月と11月の勉強会、9月の普通救命・護身術講習会、11月の警備の日啓発活動などが恒例行事です。今年は6月に大阪市で開催された「防犯防災総合展」で、大阪府警備業協会のブースから来場者に向けて警備業のアピール活動を行いました。

今年の勉強会は、加入すると福利厚生面などにメリットがある任意保険の知識、よい人材を確保するための面接方法などについて講師を招いて学ぶことが決まっています。

«人手不足が業界の課題となっています»

当社の警備員は平均年齢が高くなってきており、紹介で入社する人が多いです。消防署を定年まで勤めた方の入社もあります。

時には夜中に現場の作業が終了することがありますが、そういうときは内勤の者が車で自宅へ送るようにしています。警備員に対して丁寧に接し、感謝の気持ちを忘れず大切に思っています。新任教育を終えて現場の勤務が始まれば会社を辞める人は1割もなく、定着率は高いと自負しています。

«東京2020を前に“警備なでしこ”を増やしていくことが、業界に求められています»

女性が元気に働くことは業界を盛り上げるポイントだと思っています。警備業に女性をより多く呼び込むために、府内のハローワーク3か所で女性警備員をアピールする説明会を開くことを検討しているところです。

AIをはじめとする先進技術は今後、警備業界でも活用されていくでしょう。それでも人間にしかできないきめ細かく温かなサービスは必要とされ、それは女性の特性を発揮できる場です。そうした長所を一層極めていくことが大事だと思います。

«女性にもっと警備業を選んでもらうために必要なことは?»

子育てなどで勤務時間が制限されることや、トイレなどの問題があり、労働環境を整備・改善する必要があります。女性に警備員という職業を選んでもらうために、働きやすい環境など好条件を提示しなければなりません。

そういう意味では当社もまだ女性警備員の入社に至っておらず、これからの課題になっています。女性の力を発揮できる警備業務を確保または提案して、女性が活躍する警備会社にしていきたいと思っています。

«「社会的地位の確立」も業界の課題です»

当社では営業部長、総務部長、業務部長と3人の取締役が大黒柱となって支えてくれています。皆、夜間学校に通っていた頃にアルバイトから始めて、当社に入社しました。最初は「大学まで出したのに警備員か」と親から反対されたようですが、今は「社会の安全を守る大切な仕事」と理解を得ています。また建設作業員から「おい、ガードマン」と呼ばれたことにショックを受け、いつか名前で呼んでもらうことを目標に奮起したそうです。警備員という職業のやりがいや素晴らしさを、業界にいる我々はもっとアピールしていく必要があります。

«会社経営の傍ら、大学で茶道を教えているそうですね»

私は10歳から茶道を学んでいて、現在は週に1回、嵯峨芸術大学で表千家茶道を教えています。表千家のお手前で心掛けることは「自然に流れるように」で、私自身もそのように生きてきました。自分が求められている場所で人のために努力し、その結果私も生かされてきたように感じます。

茶道は目に見えないものを追求する文化ですが、警備業も安全安心という見えないものを目指します。今後はますますその重要性が注目されていくと思います。“女性の力”をその付加価値にして、ひまわり会にも会社経営にも力を尽くしていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.6.11

山口道子さん(津軽警備保障代表取締役)

社員を守る「健康経営」

«今年2月に経済産業省と日本健康会議から「健康経営優良法人」に認定され、5月25日に青森県から「健康経営事業所」に認定されました»

「健康経営」は、社員の心と身体の健康を重視する取り組みを進めることです。当社は、10年以上前からがん検診やインフルエンザの予防接種を会社負担で全社員に行っております。

喫煙と受動喫煙が原因となる病気のリスクを社員に知らせて、まずは建物内を、それから敷地内や社用車も禁煙にしました。

毎月の衛生会議は熱心な産業医を交え有意義な話し合いの場となっています。また、生活習慣の改善や感染症の予防法などの情報を伝える衛生管理者からの社内報「衛生委員会だより」は、年に数回の発行を重ねて50号を超えています。

«健康増進に力を入れるきっかけは、どのようなことでしたか»

あるベテラン社員が、健康診断で「再検査」の判定が何度も出ていたにもかかわらず、受診していませんでした。後になって、がんが進行していたとわかりました。

再検査の判定が出たら必ず受診するように呼び掛けなければならない、そう痛感しました。それから私は、社員の健康づくりを強く意識するようになったと思います。

幸いなことに、その社員は治療して職場復帰し、定年まで無事に勤めることができました。この10年は、再検査の判定を受けた社員の2次検診受診率は、ほぼ100パーセントです。

«専業主婦から経営者になるまでを聞かせて下さい»

当社は、父(故・金崎一誠氏)が創業しましたが、私は家業に携わる経験を持たずに嫁ぎました。経営を受け継ぐことになるとは夢にも思っていませんでした。

父は54歳で膵臓がんのため他界し、社長に就任した母は、62歳でくも膜下出血のため寝たきりになりました。

兄は常務取締役を務めていましたが、もともと心臓に持病があり41歳で亡くなりました。当時(22年前)の経営は非常に厳しい状態でした。私は、高校受験を控えた娘がおりましたし、当然、会社を切り盛りする自信はありませんでした。

しかし、夫(NPO法人あいねっと理事長・山口俊吾氏)から「社員のために、やれるところまでやっていくしかない。その先のことは、やりながら考えれば良い」と励まされて、私は経営を引き継ぐ決心をしました。

社員の中には結婚する人や子供が生まれる人もいて、本人と家族の生活が、会社の今後にかかっていたのです。無我夢中でしたが、「社員とその家族を守りたい」という思いが原動力になりました。

この思いは今も同じです。病気になると本人だけでなく家族もつらい思いをするので、これからも健康増進を図っていきたいです。

«地域に密着した警備業務で発展し、今年で創業45周年を迎えました。大切にしてきたことは»

常にお客さまの期待に応えられるように、社員教育を徹底することです。ミスした社員に注意する時や考え方を伝えたい時などに、私は長文の手紙を書いていました。例えば、現場のリーダーに成長してほしいと願いをこめて、厳しい言葉だけでなく、長所もほめるようにしました。口頭で済ませるよりもしっかりと伝わり、成長してくれたと実感しています。

理想を高く持って教育指導を行い、警備員の知識と技能、サービスをより高めることで、顧客の評価も高まる好循環が生まれます。支えてくれたお客さま、一緒に頑張ってくれた社員、そして私が悩んだ時に、警備業の先輩方が親身になってアドバイスをしてくださったおかげで今日があると感謝しています。

«弘前商工会議所の人財育成委員長として、地元企業に就職する若者を増やす活動をしています»

大都市への人口流出を止めるために各分野の講師を招いて人材確保のセミナーを開いたり、地元の学生と意見交換を行っています。若い人が関心を持つのは“働きやすさ、職場環境”だと感じます。

職場環境の改善では長時間労働の是正が課題となっていますが、警備員不足が続く中、まだまだ残業があるのが当社の現状です。これまでは、業務が多忙になると社員同士で声を掛け合い、長時間の勤務も頑張ってくれて、ありがたく思っていました。しかし今後は職場環境や待遇面の更なる改善を進めなければなりません。

経営者がわが子に会社を継がせたいと思うように、現場の警備員が、息子や娘を入社させたいと思うような会社が増えることが、一層の業界発展につながると考えています。

警備業ヒューマン・インタビュー2018.6.01

豊島貴子さん(山口県警備業協会新会長)

「無私の心」で夢を叶えたい

《就任挨拶では、警備業の求人倍率が異常に高いのは警備業を忌避する“民意の表れ”であると指摘し、現状を重く、深く感じて具体的な改善行動を起こすことを呼び掛けられました。胸の内を聞かせて下さい》

心境は「無私」です。この業(ぎょう)によって多くの人の生活が成り立つようになりましたが、これまで以上に誇りある業界になっていかねばならないと強く思っています。就業にあたって当社を選んだ人たち、もっと言えば警備業界を選んでくれた人たちが愛おしく、彼ら彼女たちのために働きたいと考えています。

《協会長として男女の別を言う必要もなく、優れた経営者として満場一致の推挙との認識です。ただ、警備業は「男社会」だと感じられたことはありますか》

経済界全体が男性社会だと感じますが、日本だけでなく世界中で、そうした面はあります。歴史的に人間は、力が強くなければ生き延びてこられませんでした。その意味で男性の力が大いに必要とされ、社会で活躍する中心が男性となったのは歴史の必然であったと思います。しかし今後は、力だけでなく女性らしさが世の中に必要とされるなら、これもまた歴史の必然として、男性とともに働く女性が増えるでしょう。

警備現場ではお客さまの求めるものが、優しさやホスピタリティーになってきたと感じます。以前は屈強な男性が守るというイメージでした。しかし“優しく守られたい”という要望が生まれ、これはおそらく高齢化が大きく作用しています。優しさ、親切という点で女性はとても適しています。

《女性警備士の採用に積極的だと聞きました》

現在、女性警備士は45名在籍しています。今春は大きなトピックがありました。これまで男性社員が息子さんを入社させてくれた例は数例ありましたが、4月に女性警備士の娘さんが新卒で入社してくれたのです。彼女は毎日、元気に交通誘導警備の現場に出ています。母も資格者として現場リーダーを務め、母娘で活躍しています。「毎日が楽しい!」という彼女の姿を見て、経営者として、これほど嬉しいことはありません。

《母娘ともに楽しく働ける要因は何でしょう》

お客さまが大切にしてくださることだと思います。現場に配置された女性警備士は、例えばゴミが落ちている、看板が曲がっているなど小さなことに気づいたり、作業員が前日と違って元気がないと「何かありましたか?」と声掛けしたりすることから、現場のオアシスとなっています。

しかし、服装や礼式、基本動作、言葉遣い、そして警備のスキルを高めていかないことには、可愛いというだけで世の中は高い料金を払ってはくれないし、大切にもしてはくれません。育成には十分な投資が必要です。

《女性警備士のためにどのような対応をされましたか》

交通誘導警備に従事する女性が一番困るのはトイレ問題です。今ではお客さまがトイレカーや簡易トイレボックスなどを用意くださいますが、それでも現場で利用を躊躇してしまう場合が少なくありません。昨年、女性専用の休憩車両を配備しました。リクライニング式で、上着や靴を脱いで、着替えて体を休めることができるような車両です。また、今年の夏からは、休憩車両にトイレを加えた特別仕様車両を配備する予定です。冷蔵庫も用意し、安心して休憩できる空間です。

《創業者の父上から経営者としてどのような教えを受けましたか。あるいは、その背中は何を語りかけてくれたでしょう》

2つあります。1つは「今が最高だと思え」という言葉です。環境が悪いとか景気がよくないとか、何かのせいにするな、と。そこには、お客さまに対する感謝の心がありました。ときに辛くて大変だ、うまくいきそうにない、などと愚痴めいたことを口にすると「これだけ暑い中で働いている警備士に比べて、お前の苦労がどれほどのものか!」とひどく叱られました。お客さまと現場の警備士に感謝しなさいという教えでした。

2つ目は、「先達から恩を受けたら、その恩は次代へ返せ」です。「もうこれで受けた恩は返しました、という人物を俺は信用できない。受けた恩は一生の恩であり、直接返すことは到底できない。受けた恩は次代の人に返しなさい」と話していました。協会長に就任するにあたり、強くこの言葉を思い出しています。玉田前会長や松山副会長をはじめとする協会員の皆さまに支えられていることに心から感謝しています。

《豊島さんは社員に向けて「小さな差が大きな差になる」と“差異性”と“独自性”を訴えられてきました》

それが県協会全体のイズムになれば良いと思います。大都市圏と地方では、規模も資金力も全く違いますが、地方ならではの活路はあります。小さなことを丁寧に積み重ねていくことで、お客さまの信頼を得ていく。お客さまの望む“温かさ”に寄り添いたいと思っています。

《未来の警備業に何を見ますか》

若い社員には「10年後に同じ警備業をやっているか分からないよ」と言っています。警備業に限らずどんな業種も、世の中の負託に応えなければ意味がありません。

魅力ある企業にすることが、後継者問題を解決する唯一の答えであると考えます。若い社員が良い笑顔でいるのは、仕事が楽しいからです。先が分からないから不安なのではなく、分からないから楽しい、ワクワクする仕事をしていきたい。

そうした中から、時代に合った差異性、独自性が生まれてくるはずです。

《山口・長州と言えば松下村塾です。吉田松陰は「夢なきものに成功なし」と言いました。その心は?》

最初に述べた「無私の精神」であると思っています。夢とは、自分のためだけのものでなく他の人のためになってこそであり、自分ではない、だれか他の人のために働ける者だけが成功するのだ、と松蔭先生は私たちに教えてくださいました。私もそんな夢を、もがきながら走りながら叶えていきたいと思います。

「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に夢なき者に成功なし」。

一番好きな言葉です。