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警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.03.21

根本良平さん(コアズ)

全警協「模範警備員」シリーズ⑧

【全国警備業協会・会長表彰の理由】 茨城県水戸市内の大型商業施設で警備業務中に、1階から吹き抜けになっている3階の柵を乗り越え飛び降りを図った女性を止めるため、自身も柵を乗り越えて狭い足場で救助を行い自殺を防いだ。

「飛び降り、止めたい」一心で

«飛び降りようとする女性をどのように助けたのですか»

2017年10月10日の昼過ぎでした。常駐警備隊の副隊長だった私は、商業施設4階の部屋で待機している時、防災センターの隊員から「3階の柵を乗り越えた女性がいる」と無線連絡を受けました。館内の清掃員が女性に気づき、防災センターに知らせたのです。

巡回中の隊員は、別の事案に対応中でした。私は急いで階段を降り、店舗が並ぶ3階フロアに駆けつけました。

高さ1.5メートルほどの透明なアクリルの柵の向こう側に、女性がいます。制服姿の小柄な高校生で、柵の外側、30センチほど張り出した部分に座り込んで吹き抜けの下を見ています。飛び降りようと柵を越えたものの、ためらっている様子です。

刺激しないようにと思いながら「何をしているんです」と柵越しに呼び掛けましたが、女性は振り向きません。

異変に気づいた人が集まり始め、30歳くらいの男性が「何してる、やめなさい!」と大きな声を出しました。女性は背を向けたまま、吹き抜けの空間へと少しずつ体をずらします。

言葉で止めようとしても無駄だ、体を押さえなければ落ちると判断しました。無線で防災センターに状況を連絡した私は、近くにあった休憩用ソファを踏み台に柵を乗り越え、女性のすぐ横に立ったのです。

«その時に見えた光景は»

1階の通路をお客さまが歩いています。3階を見上げる人もいましたが、気づかず通り過ぎる人がほとんどです。女性が落ちたら巻き添えの二次被害が起こりかねません。体を動かした女性は、張り出しの端にある金属部分を両手でつかんで、ぶら下がる状態になりました。私は女性の手首をつかみましたが、小柄に見えても重く、引き上げることができません。最悪の場合、私も女性も落ちる事態が頭をよぎりました。

直後、柵を乗り越えた男性が私の横に立ちました。先ほど「やめなさい!」と声を掛けた男性です。私たちは目を合わせると一気に女性を引っ張り上げ、抱きかかえて柵の内側へと戻すことができました。後で、この男性は鳶職で高い所には慣れていると聞きました。

助けた女性は、ほとんど放心状態でしたが歩くことはできたので、私が付き添って応接室へ連れていきました。その後は商業施設の担当者と、防災センターからの通報で到着した警察官が引き継ぎました。

«身の危険を恐れずに柵を乗り越えようと決断したのは、どんな思いからですか»

目の前で飛び降りようとしている人を止めたい一心でした。

世の中には病気や事故、災害などで生きたくても生きることのできない人がいます。生きることができるのに、自分から死のうとしている人を止めなければと強く思ったのです。

柵を乗り越える時、ためらいは感じませんでした。しかし、もし現場に駆けつけた時、すでに人々が集まって騒ぎになっていたら、落ち着いた行動がとれなかったかもしれません。現場が静かだったことで、焦りや恐怖を感じることなく動けました。

女性はその後、買い物のために一度、商業施設を訪れたと聞きました。飛び降りようと思いつめた理由はわかりませんが、今は元気に新しい道を歩んでいることと思います。

«水戸警察署長、小塚喜城社長から表彰を受けました»

施設警備に従事して10年になりますが、表彰は初めての経験で、励みとなっています。上司や隊員からは「誰にも真似のできない人命救助だ」と言われました。

私は現在も同じ商業施設で警備隊長を務めています。急病人や迷子など、さまざまな事案に対応するために重要なのは、教育とチームワークです。隊員それぞれがスキルアップを図り、「報告・連絡・相談」を緊密に行うチームづくりを心掛けて、お客さまの安全を守り続けます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.03.11

大野一範さん(ALSOK愛知)

全警協「模範警備員」シリーズ⑦

【全国警備業協会・会長表彰の理由】 警備するビルに逃げ込んだ窃盗被疑者を捜索して発見、警察官に連絡して逮捕に貢献した。

窃盗犯追跡、訓練が生きた

«どのような経緯で捜索したのですか»

2018年4月半ばの正午前でした。私が常駐警備していた買い物客でにぎわう名古屋市内の商業・事務所複合ビルの1階入り口で立哨中に、警察官から声を掛けられました。「車上荒らしの被疑者を追跡していたところ、このビルに逃げ込んだので捜索します。発見したら教えてほしい」と協力を依頼されたため、防災センターに連絡しました。

そのビルは12階建てで床面積も広く、隊長の指示で20人いる警備員のうち私を含む5人で館内を巡回し、監視カメラで映像監視することにしたのです。私は警察官から見せてもらった被疑者の顔写真を頼りに、館内を捜索していました。すると11階で被疑者に似た男性がエレベーターを待っているのを発見し、一緒に乗り込むことにしました。

この男性が被疑者である可能性が高いと考え、同乗する前に捜索中と気付かれないように無線の電源を切ることを忘れませんでした。

«無線を切るという判断は良かったですね»

以前、迷惑行為の男性に対処したことがあり、同じように無線を切って監視した経験が生きたと思います。

同僚から「被疑者は凶器を持っていたかもしれないのに、エレベーターに同乗して怖くなかったのか」と聞かれますが、このような事態に対する心の準備はできていました。実はこの事件の数か月前、隣接する公共施設に「今から刃物を持って乗り込む」という犯行予告電話があり、私の勤務する複合ビルでも警戒しました。その時は何も起こらなかったのですが、後日、刃物を持って侵入した男に対処するという設定の訓練をしたため、冷静でいることができました。

«男性と一緒にエレベーターに乗り込み、その後の展開は»

男性は私を何度も盗み見していたので、ますます怪しいと思いました。地下1階で男性が降りたので、私も降りて少し離れた所から無線で各隊員に連絡しました。それを聞いた隊員が警察に連絡し、到着した警察官が男性を確保。その場で声を掛けなかったのは人違いの可能性があったことや、受傷事故の危険があったからです。特に、商業施設の来客者やテナント入居者に危険が及ばないことを第一に考えました。

その後の取り調べで被疑者は車上荒らしの常習犯として逮捕されました。私は愛知県警察本部中警察署署長から感謝状を頂き、全警協からも表彰されました。日ごろからさまざまな事態を想定した実戦的な訓練を行うことで、いざという時に冷静に対処できるように育ててくれた会社のおかげだと思います。

隊長や同僚の力も大きかったですね。館内を捜索することになった時、隊長が「被疑者はこの辺りにいるのではないか」と目星を付け、実際にそこにいました。指揮系統もしっかりしており、各隊員が自分の果たすべき役割を果たしました。

«現在は隊長になったと聞きました»

昨年5月から、新たに警備を手掛けることになった愛知県内の機械メーカーの工場に警備隊長として常駐しています。これまで隊長の経験はなく、初めて指示を出す立場となりました。常に隊員たちの見本となるような振る舞いを意識しています。4人の小規模な隊とはいえ、まとめるのは容易ではありません。中でもシフトを組んだり超過勤務にならないようにするなどの労務管理が大変ですね。

発注主と直接話す機会もこれまで以上に増えました。言葉遣いやお互いの立場を尊重し合うなど、良好な信頼関係を築くように心掛けています。

«建設工事の現場監督から転職したそうですが、どのような時に警備の仕事にやりがいを感じますか»

発注主や警備する施設の利用者から感謝された時です。今回の件では、発注主だけでなく社会にも貢献でき、改めていい仕事に巡り会えたと実感しています。今後も職責を果たすために、現場でどのような事が起きても対応できるよう心掛けるとともに、訓練に励みます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.03.01

鍬光透さん(セノン)

全警協「模範警備員」シリーズ⑥

【全国警備業協会・会長表彰の理由】 福岡市内の契約先公共施設で、1日に2件の特殊詐欺被害を未然に防いだ。

よく観察、特殊詐欺防ぐ

«2件は同じATMコーナーで立て続けの出来事でした。一体どのような状況だったのですか»

2017年7月の正午過ぎ、常駐警備している施設内で高齢男性からATMコーナーの場所を尋ねられました。男性を案内した後、少し離れた場所から見守っていたところ、機械の前で不安そうな表情でたたずんでいました。

気になったので近寄り「何か分からないことがありますか」と聞くと、「銀行員を名乗る男性から、還付金があるのでこの施設のATMコーナーに来て欲しいと言われた。来てはみたものの、何をしていいのか分からない」との答えでした。私は即座に特殊詐欺(振り込め詐欺)と判断して男性を管理事務所に案内し、事務員を介して警察に連絡しました。

警察は10分ほどで到着し、私は男性を警察に引き継いで持ち場に戻ることにしました。その途中、先程のATMコーナーに目を向けると、今度は機械の操作をためらっている別の高齢男性を見掛けました。声を掛けたところ、先程の男性と同じ説明をされたので、今回も振り込め詐欺だと判断。事務所に案内し、最初の男性に対応していた警察官に引き継ぎました。

最初の男性を発見して、2人目の男性を警察に引き継ぐまで50分も経っていなかったと思います。警察官も「こんなことは聞いたことがない」と驚いていました。2人の男性の話を聞くと、どうやら同じ詐欺グループに騙され、被害に遭う寸前だったようです。

«被害に遭いそうになった男性たちは、どのようにしてATMまで誘導されたのでしょうか»

ともに初めに区役所職員を名乗る男性から還付金があると電話がありました。それから立て続けに保健所職員や弁護士を名乗る男から連絡があり、頭が混乱したところで銀行員から施設のATMコーナーで説明すると言われ来てしまったとのことでした。

保健所や弁護士、銀行員を名乗る男たちの話は要領を得ず、内容も二転三転するものだったようです。事務所で被害に遭いかけた男性から話を聞いている最中にも、その男性の携帯電話に銀行員を名乗る男から着信がありました。警察官が出ると男はあり得ない内容の話を始めたそうです。警察官と名乗ると電話は切れました。

«初めの事件でATMの場所を教えるだけでなく、少し離れた場所から男性を注意して見ていたのはなぜですか»

私が勤務する施設の利用者は特殊詐欺被害者の大半を占める高齢者が多いので、普段から周囲に気を付けるようにしています。とりあえず“万が一”のことを考えて、男性の邪魔にならない距離から見守ることにしました。

会社としても被害阻止に力を入れており、現任教育で騙されている人の特徴や声掛けの仕方を学んだことが活きました。

«福岡県の昨年の電話を使った特殊詐欺認知件数は2017年に比べ4割減少しましたが、それでも359件と1日に1件の割合で起きています»

今回の詐欺被害防止で県の「ニセ電話気づかせ隊推進委員会」から「ニセ電話気づかせマイスター」に認定されました。同僚からは、どのようにすれば詐欺被害を防止することができるかと聞かれることが多くなりました。私は「まず周囲に気を配ることが大切。ATMの近くにいるなら、なおさらだ。騙されかけている人がいても、気が付かなければ防ぎようがない。よく観察することが重要です」と答えています。

携帯電話で話しながら機械操作したり、不安そうな表情を浮かべ様子がおかしい人を見掛けた際の声掛けも工夫が必要です。最初の一言が大切。騙されていることを前提に声を掛けるのではなく、何か分からないことがありますかと切り出すようにアドバイスしています。私の場合も、柔らかい口調で声を掛けたことで、相手が怒ったり無視したりせずに話を聞いてくれたことが被害防止につながったと思います。

私たち警備員は一般市民と接することが多いので、1号や2号などの業務内容に関わらず常に周囲に気を配り、被害を防いでほしいと思います。被害を防げば騙されかけた人だけでなく、社会全体や勤務する会社、発注主にも貢献することができます。