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「人材確保と定着」我が社の取り組み㉖2017.2.21

平林尚子さん(神奈川警備保障 代表取締役)

業務ストレス、ためこまない

――現任教育に心理学を取り入れているそうですね。

どの業種でも会社を辞める理由の上位に「人間関係」があります。当社はそれに着目し、平成27年春の現任教育から、「心を重視したコミュニケーション」に特化した心理学を取り入れています。米国のIT企業などが採用している「NLP(神経言語プログラミング)」です。

ゆとり世代や高齢者の人たちを雇用するにあたり、厳しさによる管理ではよい結果が得られません。社内の上下関係も横のつながりも、円滑な対話をすることで働きやすくなります。

――具体的な内容は?

例えば親が子どもを叱るとき、厳しい言い方をすると子どもは身体を硬直させ、脳に酸素がいかなくなり思考が止まります。それと同様に、厳格な管理教育では社員一人ひとりが考えて行動する力を奪ってしまう可能性があります。現任教育では、言葉の使い方で相手はどういう反応をするかを体験させています。警備業はサービス業であり対話が大きな比重を占めていることから、コミュニケーションを円滑にとることで現場でのトラブルを減らせます。また嫌な感情をその場で軽減できるスキルもあり、隊員は業務中のストレスを溜め込まず処理することができます。このほか「身体に負担をかけない立哨の仕方」など効率的な警備業務のやり方も教えています。

――どういうものでしょうか。

神奈川警協の経営者研修会で私が講義させてもらった方法ですが、「舌」は身体の中で電気信号のスイッチの役目をする部位の一つです。人は無意識のうちに、力を入れているときは舌を上顎に付け、睡眠中を含めリラックスしているときは下ろしています。だから立哨中は舌を上顎に付けることで、筋肉を使わずに体幹が整い、楽なのです。

――教育の成果はどうですか。

「身体が楽になった」という声が多いです。「これまで飲酒などで発散していたストレスをその場で処理することができるようになった」という意見もありました。

物の捉え方が変わると全てが肯定的に感じられ、会社を辞める理由がなくなります。職場での居心地がよくなることで定着率は上がるし、友人や知人を連れてきてくれることで人材確保にもよい成果が表れています。

――業界で課題となっている人手不足の解消につながります。

管理職の教育にもNLPを採用しています。隊員がミスをした場合に「なぜそうなったか」と原因を追及するのではなく、「今回のことで何を学んだか」「結果を得るために何をすればよいか」など、解決方法を隊員自らに語らせます。原因を追及すると人は言い訳をすることが多く、結果的によい解決につながりません。

――取り組みのきっかけは?

私は創業者の父・黒川敏雄(現・取締役会長)から経営を引き継いだ当初、隊員の心理が掴めずマネジメントに悩んだ時期がありました。それを克服しようと独学でNLPを学び始めると「プロセスを踏めば道が開けること」に気付き、本格的に学ぶことにしました。日本でのカリキュラムを終えた後、米国オーランドに10日間ほど滞在して、NLPトレーナーの資格を取得しました。

今はオリンピック選手などにコーチングしている先生に師事して、「ソーシャルパノラマ」という社会心理学を学んでいます。コーチングはカウンセリングとは異なり、質問することで答を導かせる手法です。日本の五輪代表選手はかつての日の丸を背負うプレッシャーから開放され、今は“競技を楽しむ”ことで実力を発揮し、結果を残す選手が増えています。

――「働きやすい職場」に向けたノウハウが蓄積されます。

“心の警備”は今の時代に必要です。当社は創業50周年を迎える今年から、こうしたヒューマンスキルを他社へ届けるサービスを始めます。警備会社なら現任教育の中で、カリキュラムの一つに組み込むことを提案します。

平成27年8月に国会で成立した「女性活躍推進法」を受け、業種を限定せず女性に向けたセミナーも開きます。女性警備員にはまだ働きやすい職場環境とはいえませんが、精神面のケアに関してはカウンセラーやコーチとして女性が中心的な役割を果たせますから、協力を募りたいです。

「人材確保と定着」我が社の取り組み㉕2017.2.11

梶岡繁樹さん(新成警備保障 専務取締役)

「会社に行きたい」と思わせる

――会社の1階は駐車場です。

工事中の道路で用いる通行規制車を、2トン、4トントラックを含めて14台駐車できます。カラーコーンや表示板などの資機材も数多く保管しています。

当社の警備業務は2号専業です。建築や土木工事、一般道路から高速道路までどんな要望にも対応できる“2号のワンストップ”を自負しています。2.5キロという長距離にわたる片側規制の実績もありますし、トンネルの片側規制で山に遮られて無線が飛ばず携帯電話が不感地域であっても対応できるノウハウもあります。

――規制車を多く所有している警備会社は珍しいです。

規制業務は警備業ではニッチ(隙間事業)ですが、当社業務の40%を占めます。交通誘導警備員は現場で下に見られがちですが、規制車や資機材があることで工事会社と対等に話ができるメリットもあります。

――3階建ての社屋は、全階とも壁がないワンフロアです。

2階は応接室・社長室・書庫を除いて壁はなく、私は社員全員の顔が見えます。3階は隊員各自のロッカーがあるほか、靴を脱いでゆっくりくつろげる広いスペースにしてあり、大画面テレビや漫画、折りたたみ式ベッドを用意しています。シャワールームや洗濯機・乾燥機も完備しています。

――2号業務の理想の環境です。人材確保も順調では?

募集は求人情報誌を活用しています。広告費は前年度まで年間120万円かけていました。今年度は社員を増やす計画で2倍かけましたが反応は悪く、退職者の補充をする現状維持が精一杯です。

定着率を高く保つために面接での合格ラインを高く設定しています。よくある“入社祝い金”とか、雇用条件をよく見せるようなことは結果的に信用を失うことにつながるので、一切やっていません。

――定着についてはどうですか。

教育費など投資した隊員が辞めることは会社にとって大きな損失ですから、気を配っています。社員が「会社に行きたい」と感じることが定着の第1歩と思います。隊員にいろいろな現場を経験させて、マンネリにならないよう気分転換を図っています。

3か月に1回の頻度で、全員参加の焼き肉パーティーを開きます。夏は屋上で、現場用のスズラン灯をともしてビアガーデン風にします。年末は、朝8時から夜8時まで一日かけて40臼分の餅をつき、夕方からは忘年会です。全体で開く行事のほかに、現場が終了するときに現場担当者・隊員を集めて「打ち上げ」を行っています。

――連帯感が生まれそうです。

社内には「悩みごとは専務に相談しろ」という風潮があり、酒が入った席で社員からプライベートな相談を受けることもあります。

――社会保険加入については?

現在、加入促進中で、期限の3月末までには条件を満たす全員を加入させる予定です。社会保険だけクローズアップされていますが、警備料金には有休の取得日数や傷病手当金をもらって休んでいる従業員の保険料も反映させる必要があります。

原資を確保するための料金交渉で重要なのは「警備員の質」と「経営者の勇気」です。隊員は営業マンでもあり、ユーザーから指名されるぐらい評価されれば、本人もやりがいを感じますし、適正な料金をいただくこともできます。

――教育が重要です。

検定資格の費用を会社が負担することは業界で当たり前になっています。当社は規制車の業務を行っていますので、普通免許の取得費用も来年度から会社負担にする予定です。

現任教育では、会社の1年後、3年後、5年後の夢を私から隊員に伝えています。経営側と隊員で境界線を引くのではなく、各自が職場で役割を果たしているに過ぎません。会社の方向を示し参加意識を持ってもらうことで、より力を発揮してもらえます。

――良い方向に向かっています。

2号の警備会社で大切なのは“戦略”ではないでしょうか。これからは、自社じゃなければできないことを自信を持ってアピールすることが重要になります。

2号業務はロボットで代用できませんから、これからも必要とされていきます。今は警備業が続いていくための“変革期”だと感じます。経営者の皆さんはここで考え方を変えないと、存続していけません。

「人材確保と定着」我が社の取り組み㉔2017.2.1

髙山拓之進さん ジャパンプロテクション 代表取締役社長

管理職ポストを増やす

――社内に道場があります。

平成14年に本社ビルが落成しましたが、プランニング段階で道場を造ることを決めていました。社員教育と地域貢献の両方に活用できると考えたからです。

――1月に、そこで「武道始式」が開かれました。

新年の恒例行事として今年で15回目を数えます。毎年、当社杖道部の演武を披露するほか、杖道古流、琉球古武術、銃剣道、柳生新陰流、居合道、空手道など高段者による模範演武を行っています。警視庁には逮捕術を披露していただきます。

道場は、地域貢献の一環として貸し出しています。模範演武をお願いしているのは、当社の道場で稽古されている方々です。

――杖道部の活動が盛んです。

警備業法により、警備員が携帯できる護身用具は制限されています。具体的には、警戒棒、警戒杖、刺股、非金属の盾などです。この中から警戒杖を選び、社員教育の一環として取り入れました。

杖道は、身体的能力を問わず老若男女が参加できる武道です。本社に勤務する社員は全員、稽古しています。現場に勤務する社員は時間的な制約はありますが、可能な範囲で参加してほしいと思っています。

目安として半年で初段、2年で2段を取得してもらいます。今までに100人以上の有段者が生まれました。杖道部として大会にも出場します。

――杖道の効果はいかがですか。

机仕事が多い内勤の社員にとってはよい運動になり、姿勢も正しくなります。ほかに大きな効果として、部署が違って普段あまり顔を合わせることがない社員同士が一緒に稽古することで、コミュニケーションをとったり情報共有ができることです。“人のつながり”が広がることは、社員の定着にも結びついているようです。

――人手不足が業界の課題です。

募集についてはハローワークや新聞の折り込み広告、メディアサイトなどを利用していますが、多くの警備会社同様、苦戦中です。新卒社員に関しては最近の5年間、毎年10人から15人を採用してきました。関東エリアを4分割して社内で各担当を決め、学校をまわっています。

――定着に関して、道場でのつながり以外の取り組みは?

当社のグループ会社が本社の近くに蕎麦屋と居酒屋、カラオケクラブを経営しています。地域の方々に利用してもらったり、社内的にはお客さまとの会食、新年会や納会など社内行事で活用しています。慰労を兼ねて社員を連れていき、個人的な悩みを聞いてあげることもあります。

当社は昨年7月、支社をさいたま市にスタートさせました。目的は事業拡大のほか、管理職のポストを増やして社員のモチベーションを上げたり、勤務地を増やして人材確保を図ることです。資格検定の取得を希望する社員に対しては、会社で全額負担して取得してもらい、資格者は本社に登用します。

いずれも社員の“やる気”につながれば、と願っています。

――社員教育として毎月、「セキュリティーフォーラム」と題したセミナーを開催しています。

グループ内にセキュリティーに関する民間研究機関「一般社団法人CR&S総合研究所」があります。フォーラムは管理職教育として始めたもので、政治・経済・文化・学術など各界の著名人に講師をお願いしています。社会貢献の一環として一般の方々も無料で参加可能です。これまでに278回開催しており、かつて自由民主党幹事長時代の安倍晋三首相に講演をお願いしたこともありました。

――社内・地域に向けて多くの取り組みをしています。期限が迫った社会保険加入については。

条件を満たす社員については加入済みです。今後、経営基盤をさらに固め職場環境の充実を図るために、適正料金をいただいて原資を確保する必要があります。そのためには十分な教育により警備の質を上げるほか、はじめにお話しした「武道始式」に契約先のお客さまを招待して、道場を使った当社の取り組みを見ていただき理解を深めるなど、企業努力を続けていきます。