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警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.05.21

棚木裕司さん(トークス 取締役社長)

「技能デモ」で一体感できた

――創立30周年の記念事業として「警備技能デモンストレーション」を開催しました。

警備員同士の連携強化と警備技能のスキルアップが目的です。当社の最大の取引先である東北電力やユアテックの関係者、契約警備会社の経営幹部、それと当社社員など100人を超える関係者が見守りました。

デモンストレーションを行ったのは宮城支社所属の警備員30人です。年齢は26歳から66歳(平均年齢44歳)、経験年数は1年から16年と、年齢も経験も違う警備員が、日頃の訓練の成果を披露しました。

――苦労したことは何ですか。

“一つの部隊”として見せることです。集団での演技は全員の心が一つにならなければ、いい演技はできません。最初の頃は「やらされている」という人が散見されました。こういう人たちのモチベーションをいかに高めて、一体感を出すのに時間を要しました。

演技を行った隊員の年齢は幅広く、一生懸命に取り組んでくれた年配者や若手の姿は、私自身新たな発見でした。

デモンストレーション終了後に行われた懇親会では、隊員一人ひとりと握手しましたが、隊員たちの“一体感”を強く感じました。その一体感は会社や現場での一体感でもあり、今後、いい仕事につながっていくのではないかと思います。

――電力供給という公共性の高い仕事を支えています。東日本大震災でも大きな役割を担いました。

仕事内容は、電柱建て替えなど配電工事での交通誘導警備が大半です。東北電力やユアテックの配電チームと一緒に、1日に数か所の現場を移動しながら警備業務を行っています。

最近は自然災害が多く、休日でも緊急事態が発生すれば、直ちに出動します。当社警備員はもちろんですが、契約警備会社ともタッグを組み、緊急時にいかに警備員を現場に派遣できるかが求められています。

東日本大震災の長期間にわたる復旧・復興工事で経験した“修羅場”は、社員の人生観にも何かしらの影響を与え、仕事に対する真摯な思いも強くなったように感じます。

「たかが交通誘導」という人もいます。しかし、道を開き、電気を通し、復興の灯をつけていくことに携われたことは、同じ所作・動作をしたとしても、「先にあるもの」を自分の仕事の中で見つけられたのではないでしょうか。

――現場の警備員に支えられてきました。

教育も含め「人への投資」を重視しています。当社では7人の女性警備員がいますが、男女の区別なく作業環境を整え、作業しやすくしていくことは、これからの会社の大きな命題です。

制服もしょっちゅう改善しています。冬場は電熱線が内蔵された「ヒートベスト」を、これからの夏場はファン付きの「空調服」を用意しました。空調服は、既に配布を済ませ、いつでも着られるようにしました。このように現場の声を聞きながら「できるだけの投資はしておこう」と取り組んでいます。

――現場の声はどのように集めていますか。

「社長と女性警備員の対話」などを企画しています。参加者には「議事録は残さないから何でも言って」と呼び掛けています。

警備社員だけでなく、若手社員、総合事務職社員、管理職など、さまざまな職種・階層の社員との対話を行い、現場の意見に耳を傾けています。

――ユニークなワッペンをつくりました。

現場では交通誘導警備以外の仕事には手を出さないという大原則があります。しかし、いつのまにか「良かれと思い」警備以外の片付け仕事などを手伝い、ケガをしてしまう警備員もいます。「お客さんに喜んでもらおう」という思いとのジレンマもありますが、「われわれの安全は、どうすれば確立できるのか」を常に自問自答しながら仕事に取り組んでいます。

そこで、昨年作製したのが「NO! 付帯業務――私は交通誘導に専念します」と記したワッペンです。警備員自身には「過剰なサービスはやめよう」を自覚させ、お客さまには「警備以外の仕事はしません」をアピールするものです。本来の業務を疎かにして過剰なサービスに身を投じると、自分も危なく、お客さまの安全も守れないことを再確認しています。

今回行ったデモンストレーションも、警備の本来業務とは何かを多くの人に知ってもらういい機会だったと思います。

警備業ヒューマン・インタビュー
――声掛けマイスター2019.05.1

布施公由さん(ALSOK)

詐欺防ぐ"最後の砦"に

«特殊詐欺を2度防いだことで警視庁から『声掛けマイスター』に認定されました»

声掛けマイスターは特殊詐欺対策の一環で、年に2度にわたって被害を阻止した人が認定されます。私は、昨年6月と今年3月に都内のATMで高齢者の被害を防ぎ、警視庁副総監からのマイスター委嘱状と「STOP! 振り込め詐欺」のバッジを受け取りました。特殊詐欺が深刻な社会問題となる中、マイスターバッジを付けて業務に臨むと、改めて気が引き締まる思いです。

都内の警察署で委嘱状を交付された際に、署員から「詐欺被害抑止のために、警備業は最後の砦です」と言われました。一般の人はATMで、見知らぬお年寄りが携帯電話で話すのを見て“だまされているのでは”と思っても言葉を掛けにくいものです。一方、警備員は、制服による信頼感があるので話し掛けても怪しまれることなく、電話を中断して話を聞いてもらえます。振り込む土壇場で食い止めるという意味で、“最後の砦”と自覚しています。

マイスターとして今後、社内の先輩・後輩はもとより、友人知人や地域の方々などに「詐欺被害を防ぐために、間違えても良いので、声掛けを積極的に行いましょう」と呼び掛けていきたい。“最後の砦”を広げることが大切になると考えます。

«声掛けを行った時は、どのような状況でしたか»

2度とも、同僚とATMに管理業務で立ち寄った時でした。最初は新宿駅の地下で、高齢女性が携帯電話を手にATMを操作しているので話を聞くと、還付金詐欺だとわかり、操作をやめてもらい通報しました。

次は杉並区内の商業施設です。ATMに行列ができており、高齢の男性が携帯電話で「還付金ですね」などと話しながら操作しています。即座に声を掛け、壁に貼られた「詐欺に注意!」のステッカーを指差しました。男性に話を聞くと“銀行からの電話”と信じている様子です。「確認させて下さい」とお願いして私が電話に出ると、すぐ切れました。

男性は、すでにATMを2度操作し、並び直して3度目の操作をしていたのです。男性が持つ取引明細書を見せてもらい、「還付金ではなく、振り込みをしています」と指摘すると非常にショックを受けていました。

ただちに警察に通報するとともに、振込先の銀行の詐欺被害対策部署に電話し「詐欺に遭い、そちらの口座に振り込んでしまった」ことを連絡しました。この連絡によって口座が凍結され、残高があれば被害金を回収できる場合もあります。残念ながら男性が振り込んだお金は引き出され、戻ってこなかったようですが、被害拡大を食い止めることはできました。

«警備員として、詐欺を防ぐためのポイントは»

小さな変化や違和感に敏感になることです。今回は、日ごろは混雑することの少ないATMに5人ほどの行列ができていたので「おかしいな」と感じて、男性を見ると携帯電話を持っていたのです。

声掛けも110番通報も、ためらうことなく迅速に行わなければなりません。電話を信じ込む人にATM操作をやめるようお願いすると、感情的になる場合があります。相手のためを思って真摯に対応することが大事です。

«タイで日本人15人の詐欺電話グループが逮捕されるなど、特殊詐欺は国際的な広がりを見せています。だます前に個人情報や資産を聞き出す“アポ電”など、手口は巧妙化しています»

多様化する手口や事例を把握することは、犯罪抑止に取り組む上で欠かせません。社内研修では、実際に起きた事案を参考に状況ごとの適切な対応方法を訓練します。当支社(ALSOK警送東京支社)は昨年、隊員が10件の詐欺被害を防いでおり、声掛けマイスターの委嘱は私が2人目です。隊員が犯罪抑止の感度を高め、情報共有することが重要になります。

また、社内報には詐欺を防いで表彰を受けるなどした社員の写真が掲載されるので「次は自分も貢献しよう」と士気が上がります。さまざまな取り組みによって社内の意識が一層高まると実感します。

警備員が特殊詐欺の被害を防ぐのは特別なことではなく、当たり前に行うべきだと考えています。それは警備業の信頼感、イメージをより高めることに結びつくと思うのです。