警備保障タイムズ下層イメージ画像

トップインタビュー

「人材確保と定着」我が社の取り組み⑮2016.9.21

藤根路子さん(セキュリティ・ライセンス・KOB 取締役社長)

新卒社員は「幹部候補生」

――新卒採用、女性の活躍の場を広げることに力を入れています。

社員の高齢化が進み、退職する人も多くなりました。将来を見据え、社員の若年化を図るため、また、業界全体の今後の発展をと考え、4年ほど前から新卒者の採用に取り組んでいます。

――募集はどのようにしますか。

新卒採用では、県内約60の高校を私と採用担当責任者など3人で手分けして回っています。新入社員を母校に連れていくこともあります。実際の体験談を話したり、学生時代の感謝を伝えたりすることで、学校側のご理解も深まります。

新卒採用を始めた当初は、学校側にも警備業に対しての理解が乏しく、「危険できつい仕事ではないか」と心配されることも多々ありました。新卒採用の成功には、学校側の理解を得ることが必須です。

訪問の際には、ハローワークの求人票と会社案内を持参するほか、パワーポイントにより仕事内容等を映像で紹介、分かりやすくお伝えしています。

また、卒業予定者の「応募前見学」も受け入れています。これは警備業の仕事を実際に見てもらって理解を深めていただき、正式な応募につなげる取り組みです。例年6?7人の見学者を受け入れています。

――結果はどうですか。

高校卒の新卒者を3?6人ほど採用しています。最初の頃は研修中や早い時には半月で辞めてしまう新卒者もいました。辞める理由の多くは「家庭の事情」を挙げますが、中には「警備業は、こんなに大変とは思わなかった」という人もいました。認識の相違による退職を防ぐため、見学や面接の際には、いいことばかりでなく、厳しい仕事であることも説明し、納得の上で入社してもらえるよう努めています。

入社時には、埼玉県警備業協会が行う合同入社式に参加させるとともに、自社でも入社式や懇親会を行います。その模様はビデオや写真に収め、親御さんや卒業した学校に送り、「安心できる、人を大切にする業界・会社」であることをPRしています。

新卒者は全員を警備員として採用し、法定の教育を受けさせます。その後、本人の希望や適性などに応じて営業や管制などの業務に就きます。

入社後の研修は、県警備業協会が行う新任研修、社内で座学の研修など時間をかけて行います。将来、さまざまな業務を担う新卒者は、多くの知識を必要とするため、研修の範囲は1号業務と2号業務の両方を取り入れています。その後、施設警備と交通誘導の現場で実際の警備業務を体験、自信につなげ、3?4か月後に本格的な現場配属となります。

食事会で息抜きも

――現場に配属時の工夫は?

現場には“その道のプロ”と称されるベテラン警備員がいます。そのような先輩警備員のいる現場に配属し、OJT(職場訓練)で指導するようにしています。しかし、常に年の離れた先輩と一緒では気が抜けません。時々若い社員だけを集めて、時にはバーベキュー大会や食事会を開いて、息抜きの機会を設けます。

新卒者は男女問わず基本的に会社の将来を担う「幹部候補生」として育成しています。近年では女性も管制などの業務でも活躍しています。当社は設立10年ほどですが、「みんなで会社を作り上げている」ことを強調し、若い社員の意見を尊重しています。これが新卒の若手社員の業務へのさまざまな提案や仕事へのやりがいにつながっていると感じています。

――中途採用も工夫しています。

中途採用者の募集は、主にフリーペーパーを活用していますが、紹介による採用もあります。

人手不足の中、苦戦していますが、「午前中だけ勤務」「午後だけ勤務」といった具合に、短時間勤務を設定して募集を行ったところ多くの応募がありました。

――シフト管理が大変です。

希望する勤務時間に偏りがありましたが、既存の警備員とのシフト調整で配置するなど、働きやすい環境づくりに注力しています。特に女性は育児など時間に制限があるために、一歩踏み出せない場合が多く、短時間勤務が望まれることが多いですね。女性の活躍の場を広げるためには、欠かせない努力と考えます。

「人材確保と定着」我が社の取り組み⑭2016.9.11

北村喜伯さん(東京警備保障 代表取締役社長)

労災の上乗せ保険に加入

――創立52年目を迎えました。

創業は、前回の東京五輪の翌年です。主業務は施設警備で、百貨店やスーパーから工場・倉庫、そして学校・病院・研究所・大使館と、時代と共に警備対象は変わっています。イベント警備も大阪万博(EXPO'70)、国際科学技術博覧会(EXPO'85)をはじめとする各博覧会など、多くの実績を積んできました。

――人手不足対策はどのように?

募集は紙媒体とネットを活用していますが一昨年から応募が減り、募集費を約2倍かけています。

社員の定着については、辞めさせないために会社がどれだけのことをしてあげられるかが重要です。当社では上場会社のお客さまと同じ雇用条件を目指しています。

福利厚生も一般企業並みの待遇が目標で、社会保険はもちろん創業時から加入しています。事務処理が繁雑で大変なのですが、所得税のほかに住民税も200弱の市町村で控除しております。このことについては、従業員からも好評です。

――健康面のケアについては。

年2回の健康診断受診は当然ですが、ストレスチェックも全社員に受けさせるように指示しました。また今年から、不測の事態に備えて 労災上乗せ保険に加入しており、被害に遭った家族の方には、補填した金額をお渡しできるようにしました。

夏場は吸収速乾性に優れた特別素材の制服を着用し、3年に1回、最新の素材を使用した制服に切り替えています。ある特定の現場では、クリーニング、靴、時計など外観に気をつけてもらうため3万円の手当を付けています。社員のプライドも生まれますし、お客さまからも好評です。

――かつては、支社を全国展開していたと聞きました。

ゴルフ場の運営などを別会社でやっていましたが、保証会社だった当社はバブル崩壊時に、何十億という莫大な借金を背負うことになりました。やむなく大リストラを敢行し、北海道から九州まで各地にあった支社を関東100キロ圏内に縮小しました。前社長で現・取締役相談役の英政信の代に完済できました。

――大きな災難でした。

私には、社長として実現したいことが3点あります。1つは、会社の規模拡大にチャレンジする。次に、人事関係をはじめ社内システムをリニューアルして効率化を図る。3つ目は、事務所が老朽化している支社を移転することです。

給与会計システムは独自開発して運用していますが、データ保存をサーバーからクラウドに切り替えました。埼玉・千葉など事務所が老朽化している支社は耐震性がある広い所に移転したところです。

――有言実行ですね。

警備の質のさらなる向上も課題です。教育費など目に見えないバックヤード、間接費をどのぐらいかけるかで提供する警備の質は変わります。本社・支社ですべて同等の品質を保つことも大事です。

当社では「指導教育改善会議」という会議を月1回、開いています。指導教育責任者はじめ教育に携わっている社員を中心に集まり、クレーム事例について議論して再発防止に努めています。教育担当者と他業務の目線は違うので、希望者は営業などを含め誰でも参加できます。

――他社にはない取り組みです。

巡察は、他の支社が担当して厳しくチェックします。年一回、お客さまから社長である私宛に、警備の品質などについてのアンケート結果を直接送ってもらいます。

検定資格を持っていれば優秀な警備員かというと決してそうではなく、お客さまに合わせたサービスこそが重要です。また有事の際に警備会社として何ができるかが大切で、これはお客さまに対しても社員にとっても同様です。

――人を大事にしています。北村社長の経営理念は何でしょう。

私は昨年6月、雨の日の会社帰りに駅の階段から転落し、重傷を負いました。そのときの経験から、健康なときの日常がいかに素晴らしいものかを思い知りました。試練の末に浮かんだ経営理念は、人を幸せにするというシンプルなものでした。

警備業の目的である「安全安心」も人の幸せのためです。当社のステークホルダー、関係するすべての人が幸せになってほしい。次の社長にバトンタッチするときにはそういう企業でありたい、と願っています。