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警備業ヒューマン・インタビュー
――女性社長3代2020.6.21

設楽三恵さん (都市総合警備保障)

33人、アットホームに

<<創業以来、女性社長が3代続いています>>

当社は母・田中茂子が、23年前に創業しました。父が経営していた配管工事会社の一部署として「警備部」を立ち上げたあと、母自身が社長となって、67歳で警備会社を設立したのです。

警備業界は当時、今以上に“男性社会”でした。母は何事にも前向きで明るい性格です。警備部門をスタートさせた時から「警備業は女性が活躍できる職場、一緒に働きましょう」と思いをつづった求人広告を打ち出し、主婦層に向けて「女性警備員」という新しい仕事をアピールしました。母が5年間社長を務めたあとは私の姉が引き継ぎ、4年間経営しました。

私は3代目としてその後を継ぎました。母は90歳になりますが元気です。仕事はすべて任せてくれています。

<<入社までのいきさつは?>>

私は大阪の高校を出て上京し、フリーランスでワープロのオペレーターをしていました。その後、結婚を機に安定した職業に就くため父の会社に入社したのです。

最初の仕事はダンプカーの運転手でした。工事現場に到着してからは作業を手伝い、泥まみれになりながら「私はどうしてこんな仕事に就いてしまったのだろう」と悲しくなったこともあります。

その後、母が創設した警備部に配属され、私は生まれて初めて警備業に携わりました。経験を積んでいくうちに誘導灯を使って手際よく車をさばくことができるようになり、業務に面白さを感じるようになりました。

警備会社は当時、今と違って募集すれば人が集まる時代でしたから、母が新任教育を行い、私が現場で実務を指導する流れで、警備員数を増やしていきました。

<<社長に就任した平成18年は、労務単価が8000円台の底値で、業界全体の売上が落ち込んでいた時期です>>

私は警備についての知識や経験が乏しく経営の知識もなかったので、とにかく毎日必死でした。ついてきてくれた警備員さんには、今でも深く感謝しています。

特に会社経営を任されて数年経った頃は、私生活でも苦労していた時期です。そんなある日、部屋を片付けていたときに、祖父が著した自叙伝を見つけました。

明治生まれの祖父は、60代で肺がんを患い余命宣告を受けました。自分の運命を受け入れ、禁煙など健康生活に切り替えたところ奇跡的に回復し104歳という長寿を全うしたのです。本書には祖父が行き着いた「あるがまま」という心境が紹介されてあります。私もつらいときにこの言葉に救われ、今では大切な“座右の銘”にしています。

<<女性社長3代に受け継がれてきた“DNA”とは何でしょう?>>

私は東京都警備業協会の女性部会「すみれ会」で、女性社長・幹部の加入促進を担当しています。しかし経営者としては、「女性の活躍」「女性警備員の拡大」だけに取り組んでいる訳ではありません。警備という仕事、とりわけ交通誘導警備という仕事を多くの人たちに知ってもらいたいと思っています。

3代続くDNAを強いて挙げるなら、女性ならではのきめ細やかさで「人を大事にする」ということでしょうか。隊員が生活のために現場に出るように、私も生活のためにこの会社を経営しています。言ってみれば同じラインに立っているようなものだと思っています。隊員との距離が近いことで、一人ひとりに目が届き、声を掛けることができます。

居心地の良さを感じてもらえているようで、長く勤めている人が多いです。33人という従業員数は、アットホームな雰囲気で、全員が気の置けない関係になれる丁度良い企業規模と感じています。

警備業務でも「人を大事にする」理念は同様です。地域の方々、通行される皆さまに思いやりを持って接することを旨としています。

<<今後は、会社をどう舵取りしていきますか>>

私に、売り上げを伸ばして会社の規模を拡大していく才覚があるとは思えませんし、それよりもお客さまの要望をよく聞いて“小回りが利く”サービスを提供し続けていきたいと思っています。

またこの業界が、かっこいい仕事、やりがいのある仕事、無くてはならない仕事、子供たちのあこがれの仕事と感じていただけるよう頑張りたいと思います。

警備業ヒューマン・インタビュー
――警備員教育2020.06.11

青木幸雄さん (五十嵐商会 顧問)

最年長講師「続けます」

<<5月29日にあった東京警協総会で、新任教育と現任教育の講師の功績が評価されて功労表彰を受けました。76歳は同協会講師陣で最年長です>>

2009年4月から講師を務めています。心身の健康保持に努めているものの、家族から「そろそろ引退しても良いのでは」と言われています。しかし、受講生に警備業における大切な内容を知ってもらうことは、私自身の喜びです。五十嵐和代社長から「もう少しお願いします」との声をいただいているので、まだ続けます。

長年講師をしていると、現任教育の受講生はほとんどが顔見知りです。「今日は青木講師の講義なので楽しみにしていました」と言ってもらえることも励みになっています。

<<講義で“青木さん流”として重視していることは何ですか>>

協会での講義は、警備員不足が続く中で会員各社の「虎の子」とも言える貴重な人材をお預かりしています。新任教育では受講生が警備業に興味を持ってもらえるように、さまざまな社会活動の場面で警備員が活躍しているという説明に時間をかけています。同時に人の生命や財産を守る仕事の責任の重さも分かってもらいます。

法律についても学ぶ際は、いきなり細かい内容を教えても面白みがなく、居眠りしてしまいます。まずは受講者に「法とは何か?」と問い掛けます。何人かの意見を聞いたのち、私は「法とは自分の身を守るものです」と述べます。それから可能な限り実務に直結した各論を学びます。そうすると皆は法を身近なものに感じて、興味を持ってくれます。

現任教育を受ける警備員には、業務に慣れて気の緩みが見られる人もいます。中には警備員の仕事に飽きている人も見受けられます。その人たちにもう一度警備の仕事に対して情熱や興味を持ってもらうとともに、全ての受講者にとって業務ですぐに役立つ講義を重視しています。業務中に起こりうる具体的な問題とその解決方法を実例を挙げながら学ぶといったものです。

<<その方策として全国的なニュースになる火災や事故などを講義の題材にしているそうですね>>

仮にそのニュースになった現場に配置されていた場合、どのように行動すればいいのかを考えます。特に警備員の不手際で被害が大きくなったと思われるケースでは、どうすれば良かったのかをしっかりと教えることは欠かせません。話題の出来事を例に挙げることにより、興味を持ってくれるだけでなく記憶にも残りやくすなります。

<<昨年8月に警備業法施行規則の一部改正があり、警備員教育の時間数が短縮されました>>

警察庁から教育や警備員の質向上が認められたためであり、私は警備業が“大人”の仲間入りをした証しだと捉えています。時間が短くなっても、余分なものを削って内容を濃くし、教えるべきことを教えるだけの話です。

とはいえ教育の質が低下することへの懸念もあります。日々の多忙な業務に追われる警備会社が、知らず知らずのうちに「教育に要する時間は短縮されたので、そのうち少し暇になったら行おう」と考えている間に時機を逸し、教育懈怠が常態化してしまうのでないかというものです。

東京では警視庁による定期立入検査がなくなったことも、現場の指導に緩みが生じて警備員の質が落ちることにつながらないかと不安です。先人が長い年月をかけて築き上げてきた、警備業に対する社会一般の信頼に陰りが生じてはいけません。

<<新型コロナの影響が続いています>>

警備業界全体の仕事量が減少することで、中小零細企業の中には経営が苦しくなるケースが出てくるかもしれません。警備員の感染も心配です。この時期、お客さまも大変敏感になっており、1人でも感染者が出ると現場が閉鎖されてしまい、大変なご迷惑をかけることになります。

東京五輪・パラリンピックが1年延期されました。警備業界全体の緊張感が薄れ、各種の事故が多発する恐れもあります。このような事態だからこそ、業界全体で気を引き締めて教育や業務に当たる必要があります。私も少しでも貢献するために、これからも講師と社業を頑張ります。

警備業ヒューマン・インタビュー
――タイから来て2020.06.01

シースワン・アピラーパーさん(東宝総合警備保障)

「父母に制服姿を見せたい」

<<タイから日本の大学に留学後、東宝総合警備保障に入社しました>>

私が生まれ育ったチェンマイの実家には、ホンダの車やソニーの家電など日本製品が多くあります。美しい着物も大好きで日本に親しみを感じ、高校1年生の時から日本語の勉強を始めました。

青森市内の大学に留学して経営学と法律を学ぶうち、日本で就職したいと思うようになったのです。就職活動中に大学の就職課を通じて、東京の警備会社が「女性だけのチーム」を設け、語学に堪能な新卒者を募集していると知りました。私はタイ語と日本語、英語も話せます。警備会社の業務に関心を持って会社の説明を聞き、試験を受け内定を頂きました。留学ビザを就労ビザに切り替えて、昨年の春から東京での社会人生活が始まったのです。

<<日本語が自然でとてもなめらかですね>>

私は、当社の女性社員だけで編成する「SSレディース」(以下、SSL)に所属しています。

SSLは、東京五輪・パラリンピックなど国際的なイベントを控えて女性警備員の需要が高まる中で3年前に発足し、各種の研修を受けてスキルアップを図っています。SSは、セーフティー(SAFETY)、セキュリティー(SECURITY)の頭文字で“安心安全”を意味します。

警備の知識と技能に加えて、元国際線CAの上司から英会話や接遇マナーを学び“ワンランク上の警備サービス”を目指しています。当社の女性警備員は70人ですが、SSLは社内選抜ではなく独自の採用枠で入社試験が行われます。イベントをはじめ、さまざまな警備現場で、女性警備員のリーダーとして活躍の場を広げていくことが私たちの役割なのです。

現在、私は管理者を目指す研修を受けながら、営業担当、経理事務などの業務を行っています。管理者研修では、大型オフィスビルなどの施設で警備業務や受付業務に理解を深めています。

将来的には、外国人社員の教育に携わりたいと考えています。SSLの一員としてホスピタリティーを大切にしながら、一層スキルを磨いていきます。

<<昨年秋に開催されたラグビーワールドカップ日本大会には、SSL研修生として参加しました>>

各種の研修を受け、施設警備の現場研修で学んだ後、東京スタジアムで行われた「日本対ロシア」「イングランド対アルゼンチン」「ニュージーランド対ウェールズ」の3試合で、国内外から来場するお客さまに対応しました。

入場時の手荷物検査を行い、携帯型の金属探知機を使用しました。ペットボトルや酒類など「持ち込み禁止品」について各国のお客さまから質問を受けることが多く、英語で説明してご理解いただきました。大学時代に通訳のアルバイトをしていた経験も役立ちました。

上司は「円滑に警備する上で英会話など語学力の重要さを改めて実感した」と言います。観客の熱気、緊張感の中で安全を守ることは、とてもやりがいを感じる有意義な体験となりました。

テロ対策や事故防止、観客のトラブル防止など、国際イベントの安全確保に必要な事項を確認しながら、東京五輪の警備を目標として私たちは研修を重ねたのです。

<<東京五輪が、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1年延期と聞いた時、どのような思いでしたか>>

非常に残念に思いました。しかし今は、準備期間が増えたと前向きに考えています。正確でスピーディーな入場検査、体の不自由な方への接遇、各国の文化の知識など身に付けるべき事柄は多くあります。最近、私は手話を学び始めました。警備現場で役立つワンポイント英会話を集めた社内向けのテキスト制作にも携わっています。

タイでは、新型コロナの感染者は報道によると累計で3000人余りと聞きます。私は業務が終わると毎日のように、故郷チェンマイで暮らしている母とLINE(ライン)の無料通話で話をします。母は「日本は世界一安全な国」と信じていて、私が東京で警備会社に勤めていることを誇りに思って応援してくれます。

当社が社員の感染予防のためにウレタン素材の洗って使えるマスクや携帯用の除菌スプレーを配布してくれたことを母に話すと、安心したようでした。いつも母は「制服を着て働いている姿を見てみたい」と言います。コロナの問題が収束に向かい、いずれ父母が日本を訪れる時が来たら、制服姿の私を見てもらうことは目標の一つです。