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警備業ヒューマン・インタビュー
――自衛隊OB採用2020.05.21

鳥山恵司さん(新北斗警備保障 代表取締役)

業務への姿勢、模範に

<<全社員の1割に当たる40人が自衛隊出身者と聞きました>>

10年前から自衛隊出身者の採用に力を入れており、毎年4〜7人を採用しています。それ以前からも自衛隊出身者が在籍しており、体力や敬礼、制服の着こなしなど警備員に求められるものを備えていると感心していました。業務に取り組む姿勢や集中力も素晴らしく、業務中の事故やアクシデントへの対応にも優れており、ほかの社員の模範にもなるため積極的に採用することに決めました。

自衛隊OBは社会人マナーをまだ身に付けていない新卒採用者に、自発的にあいさつや礼儀を教えてくれています。その様子を見た社員も、内容を参考にしているようです。

当社にとってメリットがあることだけが採用の理由ではありません。大災害が発生した時に自衛官は社会のために過酷な環境で活動し、被災地の復興に尽力しています。その彼らに就業機会を提供して安定した生活を送ってもらうようにすることは、社会貢献だと考えています。退任自衛官の積極的な採用が認められて、2018年には防衛大臣から感謝状を贈呈されました。

<<採用活動はどのように行っているのですか>>

自衛隊が行う退任者向け就職説明会への参加や、当社の自衛隊OBの人脈を活用するなどしています。定年退任者だけでなく、2〜7年で除隊する任期制自衛官も採用しています。しかし、最近は多くの業界で人材不足のため獲得競争が厳しくなっており、昨年度は1人しか採用できませんでした。

<<社内には自衛隊OB会もあります。どのような活動をしているのでしょうか>>

自衛隊出身者の採用強化と併せて、2011年に自衛隊出身者らで構成する親睦会「さきがけ会」を作りました。毎年春と夏に研修会を行っているほか、本社がある東京・駒込で行っている災害対応訓練を企画から運営まで手掛けています。

訓練は毎年夏に開き、警察や現役の自衛隊員、地域の住民などが参加する大規模なものです。当社の自衛隊OBは現役時の訓練を生かして、大地震が発生した際の人命救助活動の手順や注意点を地域の住民に説明します。現役の自衛隊員は災害支援の経験に基づいた、いざという時に役立つ負傷者対応などを参加者に説明します。

<<退任自衛官の採用強化と同時期に、専門学校と大学生の新卒採用を始めています>>

景気の好不況に関係なく毎年採用しており、最も採用人数が多かったのは7年前で35人でした。当社規模の警備会社で継続してまとまった数の新卒者を採用するのは珍しいと思います。警備員の業務経験があるベテランを採用して直ちに現場に出せば、会社にとっては手間も費用もかかりません。しかし会社が継続的に発展するためには社員の若返りが必要と考え、新卒を採用して育成することにしました。

新卒者を一から育てるのは大変ですが、その甲斐あって組織の若返りに成功しました。新卒者は仕事に対する意欲が高いことも社内に刺激を与えています。

採用は新卒者向けの就職サイトにエントリーするほか、就職説明会に参加して行っています。しかし自衛官同様、新卒者も人材獲得競争が激しくなっており、今春の採用数は8人に留まりました。

<<警備業界では介護やビルメンテナンスといった異なる業界との人材獲得競争が続いています>>

人材難を解決するためには警備業界が「選ばれる業界」になることが必要でしょう。「人が集まらない」という警備会社の声を聞きますが、どうすれば人が来てくれるのかを考えるべきではないでしょうか。 

当社は“深刻な人材難”という訳ではありません。警備員は全て正社員にしており、給料は月給固定制となっていることが理由だと思います。昇給もしっかり行い、社会保険加入は言うまでもありません。会社としては全員配置できるように仕事を確保し、昇給の原資とするべく警備業務料金の単価を上げ続ける必要があります。それは当然の努力であり、そうしなければ人は集まりません。

<<新型コロナウイルスの感染拡大は警備業界に大きなダメージを与えています。影響は?>>

確かに施設警備の現場は減っています。しかし当社の警備業務の多くを占める鉄道工事は中止にはなっておらず、大きな影響にまでは至っていません。

警備業ヒューマン・インタビュー
――コロナ対策2020.05.01

対馬一さん(日本綜合警備 代表取締役社長)

マスク手作り、感染予防

<<新型コロナウイルス感染症の拡大に伴いマスクの購入が困難となる中で、警備員380人が着用するマスクを、社内で手作りしています>>

手作りマスクは、2月下旬から総務部などの内勤者6人が市販のガーゼを縫ってゴムを通し、800枚以上作りました。マスク1枚につき、その内側に当てる布シートも10枚ほど付けます。布シートを交換すればマスクを捨てずにより長く使うことができます。

3月下旬からは、手作りマスク、通勤用の白手袋、ペンダントのように首から下げる「空間除菌グッズ」を“感染防止3点セット”として全員に配っています。

ともに施設警備や交通誘導警備に従事する警備員とお客さまを守るためです。新型コロナは、たとえ症状は出なくても感染している場合があるようです。自分が感染している可能性があることを前提に「感染させない」意識をより高めて、マスクの着用は必須です。

<<受け取った警備員からは、どのような反応がありますか>>

「店舗を回ってもマスクが全然手に入らないので、ありがたい」、「ここまでしてくれるのですね」という声を聞きました。当社は、60歳代の警備員が半数近いこともあり、日頃から体調のチェックなど健康管理に留意しています。3点セットの配布は、改めてウイルス予防を意識してほしいとの思いから行いました。

先日、不織布マスク3万枚の発注を受け付けてもらえる販売業者が見つかったので、今後は警備員1人に50枚、まとめて渡すことができそうです。緊急事態宣言が発令された中、日々の業務に取り組む従業員に感謝を込めて、正社員とアルバイトの全員に慰労の一時金を支給しました。

<<「社員の幸せ追求」を企業理念に掲げています>>

企業が質の高い業務サービスを常に提供するためには、資格取得などの取り組みとともに、働く人が幸せを感じて健康であることが大切になります。

今夏からベスト型の空調服を導入します。空調服は小型ファンで空気を取り込むことで熱中症予防に効果があり、警備員が快適に働くことのできる環境整備の一環です。導入費用は、広告宣伝費を見直すなどして捻出しました。

年次有給休暇の取得も推進しています。採用人数を増やし、シフト調整を工夫することで警備員が希望する日に休暇を取りやすくしています。

日給制の警備員が大半を占めますが、より安定した生活が送れるよう月給制に移行させていくことが今後の課題です。こうした処遇改善の源は、適正料金の確保です。料金交渉では、教育の充実や福利厚生など必要経費の内訳を丁寧に説明することで、ユーザーの理解が得られると実感しています。

<<警備員のための取り組みの原点にあるものは何でしょう>>

会社は人なり、という信念です。これは先々代の社長を務めた父(故・対馬米造氏)から受け継いでいます。父からは「警備員あっての会社であることを忘れてはならない」と、よく言われたものです。交通誘導警備の現場によっては、警備員は昼食を食べる場所が野外になってしまいます。父から「自分たちだけ室内で昼食をとるのでなく、車で現場に乗り付けて警備員と一緒に車内で食べるよう心掛けなさい」と言われ、これを実践したところ警備員との交流を深めることができました。

警備員はもとより、その家族の幸せも考えて相談に乗るなどしています。現在も管理職が、なるべく現場に出向いて警備員と昼食をともにし、現場の声を吸い上げて職場環境の改善に役立てています。経営側が従業員を思い、従業員がお互いを思いやる意識は、歳月をかけて醸成され、それが社風となっていくのではないでしょうか。

<<今、コロナ禍で多くの業種が打撃を受けており、先の見通しが立たない状況が続いています>>

他の業種から警備業に入ってくる人は増えると予想され、数年来続いた採用難の状況に変化が見込まれます。しかし入社しても、離職してしまえば意味がありません。プロの警備員を育成するには、相応の時間がかかるものです。離職を防ぐ環境づくりは、今後も重要になると思っています。警備の仕事にやりがいを感じて誇りを持てること、家族にも安心感を持ってもらえることが大切です。

社会全体に大きな不安が広まっている昨今ですが、「警備」という言葉が一層浸透して、より多くの人が警備員の存在と業務に対し、今まで以上の信頼感、親近感を感じてほしい。そのために警備員のスキルアップに取り組んでいきます。