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トップインタビュー

「働き方改革」我が社の取り組み2018.3.21

宮﨑武則さん(北総警備保障 代表取締役)

社員全員が営業を兼任

――宮﨑社長が創業時から最も力を入れていることは「教育」と聞きました。

当社は、創業当時から警備員教育に力を入れ警備の質を上げて、それに見合う適正な警備料金を設定・提示してきました。全て、お客さまに高品質な警備サービスを提供するためです。

警備業協会の中で初めて出張現任教育を取り入れたのは千葉県で、最初に当社が実施しました。協会会長だった当時の私の夢は、県内の警備会社から「教育懈(け)怠(たい)」を無くすことでした。協会主導で会員に教育を行うことで、警備員のレベルを全体的に上げたかったのです。

――他社より高い警備料金の提示は、時には顧客から反発されることもあったのでは?

納得していただけないお客さまに対しては、こちらから取り引きをお断りしました。経営者は理不尽な要求に対しては、断る勇気を持つべきです。当社の警備員が昼食抜きで勤務を強要されたときは、私が現場に行って全員引き上げさせました。警備員は会社の大切な財産ですから、不当な扱いを許すわけにはいきません。

――2020東京大会まで2年半を切りましたが、警備員不足が大きな課題です。

求人広告の反応は、当社も全国の警備会社と同様にあまりよくありません。しかし一度入社した人は長く働いてくれています。

――定着率が高いのは、どうしてでしょう。

先輩社員がよく面倒をみていることと、処遇面で満足できるからだと思います。簡単に言うと「職場の居心地がよいから」です。社長は、社員に食べさせてもらっています。社員は社長が真面目に経営していれば生活できます。つまりギブアンドテイクの平等な関係です。

「最後は私が責任をとるから」と言って、社員には自由に仕事をしてもらっています。また「社長が間違っていると思ったら遠慮なく指摘してほしい」と日ごろから話しています。社員全員と公平に接することも心掛けています。

私は全て、社長として当たり前のことをやっているつもりです。

――社員の処遇を良くするためには、原資の確保が重要です。

当社には営業の専門職はなく、内勤も含め社員全員が営業を兼任しています。現場の業務をよく知る者でないと警備業の営業はできません。

私のモットーとして積極的な営業活動は行わず、まず勤務内容をお客さまに見ていただき、自発的に仕事の依頼が来るのを待ちます。依頼があり料金など条件が揃えば、全力で高品質な警備サービスを提供します。そのためにも日ごろの警備員教育がとても大切なのです。

――人手不足対策と業界のイメージアップ、そして東京大会に向けて女性警備員「警備なでしこ」を増やすことが必要です。

女性雇用者の割合が高くなることは、一流の業界の条件と思います。子育てなど、勤務時間の問題もありますが、「働き方改革」で長時間労働が問題になっており、今後、警備業は女性のパートを組み合わせるシフトが必要になっていくと考えています。

警備業界は、社会に向けた広報やアピールがあまり慣れてない面があります。女性の心に響くような求人方法を業界を挙げて考える必要があります。

――千葉警協の会長を10期20年にわたって務め、後進の指導・育成にも尽力されてきました。

縁があって出会った若い人たちに、自分が持っているものを伝えてきました。今では警備会社の経営者として実績をあげている人や、協会で重要な立場の人もいます。そうした人たちに頑張ってもらい、警備業が発展していけば言うことはありません。私はこの業界で成長させてもらったことに感謝し、少しでも恩返しをしていきたいと思っています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.3.11

下山 隆さん(シティ警備保障 代表取締役)

「交通誘導は分離発注に」

――下山さんは、交通誘導警備に問題を感じているそうですが。

残念ながら全国の交通誘導警備員の多くは、家庭を持って生活できる賃金を得られていません。

平成29年の厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、全産業でフルタイム労働者の平均年収は491万円。人手不足が問題となっている、保育士で340万円、介護士は年収は330万円です。これに対して交通誘導警備員の年収は日勤のフルタイム労働者で250万円ぐらい。公共工事の現場のみを警備する会社では、閑散期がありもっと少ないはずです。

――公共工事設計労務単価の51職種で最も低いのは、交通誘導警備員です。

今月から適用されている労務単価は、東京都の例で1級検定合格警備員でさえ軽作業員より300円安いのです。現行制度では交通誘導警備員の費用は建設工事に包括され、「建設工事の一部に付属するもの」という位置づけです。私は公共工事における警備員の予算が、建設工事費と別に独立した予算として計上されていないことに問題があると思います。日夜厳しい環境で勤務し、居眠り運転や飲酒運転の車両に突っ込まれる危険もある交通誘導警備員の労働価値は“建設工事の一部”という低いものなのでしょうか。

誘導で車両の渋滞を緩和することは、安全確保のほかに経済効果の促進にも貢献しているのです。

――解決策はありますか。

私は、警備費用を建設工事費から独立させる“分離発注契約”に移行する抜本的な制度改革が必要と思います。今や警備員が交通誘導を行っていることは社会的に認知され定着しています。警備業は総務省の産業分類ではサービス業としている独立産業であり、それを担保する社会的立場を分離発注という主体的経済基盤で制度化しなければなりません。

交通誘導警備は、全ての国民に対する公共サービスです。公共工事の場合、警備員の賃金の原資は国民の税金ですから、国民にサービスが還元されなければなりません。良いサービスを提供するために、分離発注の必要があるのです。

――分離発注の場合、ダンピング競争で警備料金が下がる可能性があります。

一案として、警備料金を介護と同じように“公定価格”にしてはどうでしょうか。介護業界では、自治体から介護事業者へ支払われる介護報酬単価の中に介護士の賃金や会社負担の社会保険料、有給休暇などが含まれていて、それを決めているのは各自治体です。

警備員が家庭を持って生活できる年収から逆算して一人あたりの公定価格をいくらにするか、業界として協議検討するべきです。そこから最低制限価格を設定して、優良警備会社の間で入札を行うことが望ましいと思います。

――警備会社によっては、建設会社との長い信頼関係の中で発注を受けている業者もあります。

本当の意味で警備員の生活、そして業界の発展を考えるなら、現状の既得権益は一旦捨てて仕切り直し、健全な環境下で公正な競争をするべきです。年収250万円では人材を確保できませんし、定着も難しいからです。

――人が集まらないことで、自家警備の問題も起こっています。

自家警備は、警備業のビジネスチャンスを奪うことになりますが、最大の問題点は国民が事故に巻き込まれるリスクが高くなることです。

交通誘導を行う警備業は30時間の新任教育、半期ごとに8時間の現任教育、現場での巡察指導も行います。建設作業員の誘導(自家警備)と警備員の誘導とではどちらが安全でしょうか。国民の命を預かる業務ですから安全性を毀損することにつながります。自家警備を行う軽作業員の労務単価は、交通誘導のプロである交通誘導警備員より高く、矛盾が発生します。

――交通誘導のプロである警備員の合図についても、問題意識があるそうですが。

全国の交通誘導警備員の誘導灯による合図が、現場では各社ごとに若干の違いがあります。特に予告から徐行・停止の基本合図などは統一する必要があります。

警備員の誘導には強制力がありませんが、警備業法により訓練されたプロの誘導です。社会的責務を負っている警備業界の合図が各社流にまちまちであれば、ドライバーが警備員の誘導に信頼感や安心感を持てないのは当然です。

――ドライバーが分かりにくい合図は、事故につながります。

警備業界は、公安委員会へ自動車教習所や運転試験場などで警備員の統一した合図を指導してもらえるよう、協力を要請する必要があります。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.3.1

大槻 正さん(ユニボット代表取締役)

「万引き抑止ロボット」を開発

――大槻さんは、昨年新型が発売されたペットロボット「AIBO(アイボ)」の“生みの親”です。

私はかつてソニーに在籍し「AIBO」の開発・事業化の責任者を務めました。「こんなものが売れるわけがない」と社内で猛反発を受けましたが、インターネット販売で限定5000台がわずか20分弱で完売しました。

――現在は“警備ロボット”を開発しています。

一昨年、ソニー時代の上司に紹介された警備会社「ユニティガードシステム」(東京都港区)の八木陽一郎社長から“万引き抑止ロボット”の開発を依頼され、入社して開発を始めました。独自にロボットを作ると膨大な開発費が掛かることから、ソフトバンク社の人型ロボット「Pepper」に当社が開発したコミュニケーション・警備アプリケーションソフト「ユニボット」を搭載することにしました。

――3月6日から東京ビッグサイトで開かれる「SECURITY SHOW」に出展します。

昨年12月に子会社として独立したユニボット社とユニティガードシステムの共同出展です(ブースSS9108)。昨年の「SECURITY SHOW」では、声掛けと顔認証による万引き抑止の実証実験を紹介しました。

――どのような実証実験を?

昨年1月から2月にかけて、福島市にある敷地面積約300坪の大型書店で、ユニボットを保安警備と案内用に導入する実証実験を行いました。「Pepper」に内蔵しているカメラ映像をWi―Fiでクラウドに送り、人物の認証を行う仕組みを作りました。顔認証の結果やロボットの状態をスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器やPCに通知し、人による即時対応につなげます。「Pepper」は、床にマーキングされた場所を自動的に巡回しながら声掛けと顔認証を行います。

――実験結果はどうでしたか。

お客さまへの声掛けや物珍しさもあり集客率は20パーセントアップ、購入者数7パーセント上昇、売上高5パーセント増加、万引きロス率は66パーセント減りました。

昨年11月からは介護施設に防犯カメラを設置し徘徊する人をクラウドで顔認証し、自動ドアをロックして外に出さないようにする実証実験も行いました。顔を認証してその人の名前を呼び、様々な話題を「Pepper」が話す“対話”の取り組みも始めています。

――ユニボットの発売時期は?

3月1日から発売を開始しました。初期費用はルーターや光回線料は別途で、10万円です。ソフト使用の月額費用は「Pepper」のレンタル費用6万4800円を含めて15万円で、1年契約です。

――日本のロボットは世界的に見て進んでいますか。

「AIBO」が世に出たのは1999年ですが、当時からAIを搭載させていました。しかし以後、サービスロボットの開発は止まり、日本は大きく遅れをとっています。例えば米国アイロボット社の掃除ロボット「ルンバ」は世界的に大きなマーケットを構築し、追いつけない状況になっています。

――警備分野ではどうでしょう。

アメリカのナイトスコープ社の自律型巡回ロボット「K5」が月額1000ドルと料金も安く、駐車場やショッピングモールの巡回警備で売り上げを伸ばしています。近未来的なデザインの最新型「K7」も登場しました。

――警備業もロボット化が進むのでしょうか。

2020年、国内のサービスロボット市場は1兆241億円と現在の15倍になると予測しています。2030年には3兆9693億円で現在の66倍、産業用ロボット市場の2倍になるといわれています。介護・福祉分野で特に市場規模を拡大しそうですが、警備業でも業務によって伸びると思われます。当社は、万引き抑止のためのコミュニケーション・警備ロボットから商品化します。

――ユニボット社は今後、どの方向を目指しますか。

2022年にはサービスロボットのビジネスを立ち上げます。プラットフォームを構築して日本のサービスロボットを世界一にすることが目標です。常にあらゆることに創造的に挑戦したいですね。