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警備業ヒューマン・インタビュー
――警備業の国際化2019.04.21

畑永軌さん(G4S Secure Solutions Japan 代表取締役)

海外の警備から学ぶ

――G4Sは、世界最大の警備会社として知られています。

正式な社名は「Group4Securicor(グループフォーセキュリコー)」で、1901年にコペンハーゲンで創業し、今はロンドンに本社を置いています。G4Sグループは、90か国超の国々でセキュリティー関連製品や警備サービス、ソリューションの事業を展開し従業員数は約55万人です。

当社はG4Sの子会社として、2006年に日本に設立されました。初代と2代目社長(代表取締役)は米国人で、私は昨年3代目の社長に就任しました。

――外資系警備会社としてどのような業務を行っていますか。

米軍基地内にある学校施設のスクールバスを利用する学生のアテンド、主に外資系企業の施設警備と、大きく分けて2つの業務を行っています。

会社のすぐ目の前に在日米国空軍の「横田基地」がありますが、米国防総省からの発注で、横田をはじめ三沢、横須賀、厚木、座間、岩国、佐世保と7か所の在日米軍基地内にある軍人家族が通う学校のスクールバスに当社の従業員が乗り込み、生徒の乗り降りのサポートや見守りを行っています。この業務には従業員100人のうち約50人が従事しています。

当社の強みとして、世界規模のネットワークがあることで“国境を超えた対応”が可能です。例えば日本の企業が海外出張する際に、現地の警護員を迅速に手配できます。また海外に支店を新設する際には現地の治安情報を収集・提供します。

――日本と海外の企業では、セキュリティーに対する考え方に違いがあると聞きました。

海外の企業には社外・社内の脅威から企業を守り“社内警察”的な役目を担う「コーポレートセキュリティー」という部門があります。国内でも大手外資系企業の支社には同様の部門があり予算と権限を持っています。日系企業は「防災」に対しては必要なものをそろえ訓練も行いますが、「防犯」については「どうせ何も起こらない」という性善説を前提とする考えから、担当部署を作らず総務などが兼務する傾向があります。

警備会社の新たなビジネス展開として、警備のスペシャリストを養成し外資系企業のセキュリティー部門へ出向させる取り組みがあります。そのためには“グローバルスタンダード”のセキュリティーを学ぶことが必要です。日本からは多くのIT技術者やアーティスト、スポーツ選手などが一流の技術を身につけるため海外に渡りますが、100年以上の歴史を持つ欧米の警備ノウハウを吸収しに行く警備関係者は残念ながらほとんどいないのが現状です。

――セキュリティーの専門家で構成する世界規模のセキュリティー団体「ASISインターナショナル」日本支部の理事を務めています。

ASISの理事の立場での取り組みとして今後、警備に関係する他団体と交流を図り、提携関係を結ぶ構想があります。例えばメールマガジンの相互配信などによりGSX(ASISインターナショナル世界大会)のセミナーや展示内容などの情報を伝え、業務に役立ててもらえればと思います。

ASISインターナショナル日本支部は、今年9月に米国シカゴで開催されるGSXのツアーを主催します。日本の警備関係者の方々が海外のセキュリティーの概念や先進技術を用いた諸外国の警備業から知見を得るよい機会です。

――国際的な視野を持つ畑社長ですが、警備業を志したきっかけは何でしょう。

私は警備業に関わる前は自衛官でした。2005年に入隊し、静岡県御殿場市内の駐屯地で新隊員教育隊の教官や部隊の化学兵器防護担当などを務めていました。

09年に退官して「国際ボディーガード協会(IBA)」で身辺警護を勉強した後、警備と英語を学ぶため11年から2年間、ロンドンに留学しました。語学学校に通いながらプライベートな縁から当時ロンドン五輪警備の準備を進めていたG4Sとつながりができ、「帰国後はこの会社で働こう」と決意しました。

念願がかなって入社し、英語が話せるので外資系企業のイベント警備を担当しました。無事にやり遂げたことから、事業開発マネージャーとして営業を任されました。18年に前任社長より香港の「アジア・パシフィック地区(APAC)」責任者に推薦があり代表取締役に就任しました。

会社を発展・成長させることは代表者である私の使命ですが、社会貢献の一環として日本の警備業の国際化をお手伝いしたいと考えています。警備業のレベルが高いと言われている国はイスラエルで、世界の国々から一目置かれています。日本もいつかそう言われる国になってほしいと思います。

警備業ヒューマン・インタビュー
――経営者の取り組み2019.04.11

池田淳一さん(日警保安 専務取締役)

健康づくりの輪を広げる

«社員の健康を増進する「健康経営」に取り組んでいます»

「健康経営」は、社員の健康を重要な経営資源と捉えて、体調管理や健康づくりを推進し、生産性や企業価値の向上を図る取り組みです。

社員が能力を最大限に発揮するために健康管理は必須です。警備業は夜勤があり、高齢者も多いことから、生活習慣病の予防や疾病の早期発見、メンタルヘルス対策などが欠かせません。健康は適正な業務を遂行するため、何より本人と家族のために維持すべきものです。

健康経営に取り組むきっかけは、社員の突然死でした。昨年4月、施設で勤務していた男性警備員が夜勤中に倒れて亡くなったのです。まだ62歳で、心不全でした。

社員が勤務中に亡くなると、労働安全衛生法に基づいて労働基準監督署に報告を行い、数か月間の勤務時間や残業時間などをもとに労災に当たるかの判定を受けます。当社社員の死亡は労災ではありませんでしたが、悲劇を繰り返さないために幹部社員による「健康管理対策委員会」を立ち上げ、取り組みを始めたのです。

«どのような方法で健康管理を図っていますか»

定期健康診断の100パーセント実施はもとより、重要なのは“要再検査”の判定が出た社員に必ず受診してもらうことです。「面倒だから」と受けようとしない人に対しては、担当者が警備現場に出向いて面談し、再検査を受けないことのリスクを説明すると、全員ではありませんが受診してくれます。「自分の健康のことで会社が親身になってくれるのは嬉しい」と言う人もいます。

現任教育では、テーマに「健康管理」を取り入れ、私が講義を行いました。心筋梗塞や脳梗塞、くも膜下出血などの前兆と予防法について資料を配布し説明しました。健康情報に対する関心は高いと感じます。

また、「生活習慣チェックシート」を配り、食生活や睡眠時間、運動習慣、休養とストレス、飲酒量、喫煙の本数などを記入してもらい、健康状態を点数制で判定しました。グループ会社の社員を含め約800人のデータを対策委員会で集計し、世代ごとの傾向などを分析しています。

«生活習慣チェックのデータで明らかになったことは»

60代の高齢者、特に65歳以上の人は、食生活や睡眠時間に留意する傾向が見られます。年齢が高いからこそ体調管理を意識しているのです。逆に20代の若い人ほど、十分な睡眠時間を確保し偏らない食事を心掛ける必要があるとわかりました。

社員の喫煙者率は約3割です。血管に与える影響などの啓発チラシを給与明細の封筒に同封するなどして禁煙を奨励していきます。マンションの警備では、お客さまの要望で喫煙しない警備員を配置するので、禁煙した人は勤務場所の選択肢が増えます。

今後、定期的に生活習慣チェックを行うことで、一人ひとりの意識を高めて健康づくりの輪を広げたいと思っています。社員が元気に長く働き続けるための取り組み推進は、自社の特色づくりに結びつきます。

«企業の特色づくりは、人手不足の中で求職者にアピールするために大切です»

現在、ホームページで「健康な職場づくり宣言書」(全国健康保険協会千葉支部による認定証)を公開しています。会社の雰囲気を知るためにホームページを見る求職者は多く、PR効果を期待しています。

健康経営を進める根底には「働く人を大切にする」という社長(父・池田隆夫氏)の創業理念があるのです。今後も取り組みを重ねて、ハードルは高いですが経済産業省と日本健康会議の顕彰制度「健康経営優良法人」の中小規模法人部門で認定を受けることを目標にしています。より多くの若者が警備業に魅力を感じるための方策が求められる中、「社員の健康重視」を打ち出すことは警備業のイメージアップにつながると思います。

若者が集まり、定着する業界へ変わるために不可欠なのは、処遇改善です。残業手当などに頼らずに家族を養っていける賃金体系の整備が必要で、当社も見直しを進めているところです。

原資となる警備料金の交渉では、見積書の数字について、警備品質の向上や福利厚生、社員の健康増進に必要な経費を反映していると丁寧に説明し、理解をいただいています。健康な社員がいきいきと働き、社員満足度、顧客満足度を高めることが重要と考えています。 

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.04.01

我妻文男さん(共栄セキュリティーサービス)

業界全体を底上げしたい

――ジャスダックに上場した3月18日には、東京証券取引所でセレモニーと会見がありました。

セレモニーには役員や社員と参加して、喜びを分かち合いました。上場通知書を手にしたときと上場記念の鐘を打ったときは努力が報われた気持ちで感無量でした。

――業界全体にとっても明るい話題です。

当社の規模の警備会社でも上場できたことで、業界に大きな刺激を与えることができたと感じています。ほかの警備会社にも前向きに取り組んでいただき、業界全体の底上げを図りたいと思います。私が学んだことは何でもお伝えし、ノウハウを提供させていただくつもりです。

株価がつくと時価総額が上がり、会社の力になります。それは世の中から評価された成績表のようなものです。利益は社員にどんどん還元して、株主の皆さまには配当していきたいと思います。

――調達した資金は、主に何に使いますか?

警備員教育と人材確保です。

当社は「教育のレベルは、会社のレベル」のキャッチコピーを打ち出し、お客さまから選ばれる高品質・付加価値を提供してきました。そのためのキャリアアッププランとして、救命講習からスタートし、自衛消防技術・防災センター要員、施設警備業務2級、1級、警備員指導教育責任者まで資格取得は続きます。指導教育責任者は、現在82人が在籍しています。

社内の資格所有者は、警備関係が620人、消防関係は556人おり、資格を持つことで社員のモチベーションが上がり仕事への意欲が出ます。こうした取り組みで、業界平均より高い給料を支払うことができています。

――人材確保については?

警備会社の力を測る指標のひとつに「動員力」があります。上場による社会的信用とブランド力を活用して、よい人材に来てほしいと願っています。

特に元気な高齢者「アクティブシニア」と「女性」の積極的な採用に力を入れます。女性は現在、従業員1600人のうち200人いますが、さらに増やします。結婚しても出産しても働きやすい職場であるよう整備していきたいと考えています。

――定着率も上がります。

定着に向けて従業員一人ひとりを大切にする「働きやすい職場環境」を整えました。「ラウンダー」と呼ぶ女性の専任担当者が各警備隊を定期的にまわり、職場環境や人間関係など問題が大きくなる前に対処する体制をとっています。

正社員化も進めています。現在従業員1600人中450人が正社員で、来年度は正社員800人を目指しています。中途採用の従業員も正社員にしていきたいと考えています。

――上場の準備はいつ頃から?

4年前から始めました。私も今年還暦を迎え「社長の体力は会社の体力」ですから、元気なうちに上場して優秀な社員の中から将来の社長・役員を選出し、発展していきたいという思いがありました。上場するには、市場の審査基準を満たしているか取引所の審査にパスしなければなりません。公認会計士を2人迎え入れ、1人は常務取締役、もう1人は社外取締役の体制で準備を進めましたが、学ぶことが多かったです。

多くの経営者は「会社は自分のもの」という意識が強いもので私もそうでした。しかし上場を目指すにあたり、意識を変えました。コーポレートガバナンスについて考えたり、コンプライアンスの重要性を学んだり、恥ずかしながら今になって多くの人からアドバイスを受け、組織を成長させるノウハウを勉強させてもらいました。

――今後の取り組みは。

営業エリアの拡大を考えています。今、北海道から大阪まで17拠点ありますが、さらに九州まで広げて全国展開することが夢です。

上場したブランド力を活かし、今まで以上に大手企業との取引も増やしていきたいし、営業の幅が広がることに期待しています。

――業務は多岐にわたります。

施設・巡回警備が67パーセント、雑踏・交通誘導警備が29パーセント、その他という割合です。

航空機事故が発生した場合に消火と救難を行う「空港消防業務」や、高速道路上で故障したクルマが追突されないように後方で支援する「ハイウェイセキュリティー」は当社ならではの強みです。

身辺警護は16年の実績を持ち各種格闘技に精通した社員や英会話ができる社員が国内外の要人を警護しています。65歳以上のアクティブシニアが活躍している駐車場運営管理、マンション代行管理も伸ばしていきたい業務です。