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警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.4.11

青柳秀夫さん(日本保安 代表取締役社長)

商品ロス減らす「店内保安」

――県内唯一の店内保安警備の専業会社です。

当社はトスネットグループ(佐藤康廣代表取締役会長)の一員として、2005年に創業されました。当初、売上は急激な右肩上がりでしたが、一気に業績を拡大したために体制を維持できなくなり、8・9・10期と3期連続で前年比割れとなりました。私は11期から代表取締役社長に就任し、セキュリティー機器の販売事業などグループからの支援もあって3年で業績を回復させたところです。

――万引き犯罪の現状はいかがですか。

刑法犯認知件数は2002年をピークに減少していますが、それは民間警備会社や地域の自治体のパトロールによる抑止効果によるものです。しかしその効果は店内までは届かず、万引きの発生件数については減少していません。

世代別の捕捉状況をみると、少子高齢化が進んでいることもあり65歳以上の高齢者が20歳未満の少年を上回っています。窃取金額では30代の犯行がトップです。

盗品の処分については、以前は中古ショップに売るケースが多かったのですが、今はインターネット・オークションが多く、全体の25パーセントを占めています。

――外国人の犯罪も耳にします。

以前は中国人による犯行が多かったのですが現在はベトナム人が急増しており、窃盗団による大量盗難も問題となっています。季節によって盗品の傾向があって、特に春先はドラッグストアなどの化粧品が狙われます。転売可能な人気商品は被害が多いです。

――防犯に先進技術も活用されているとか。

当社は日本万引防止システム協会(JEAS)に加盟していますが、そのつながりでメーカーから顔認証システムの不審者登録など、コラボレーションの要請を受けたことがあります。

――店舗の売上アップにはロスプリベンション(損害防止)が不可欠と聞きます。

商品ロスの削減は、店舗の利益に直結する最も有効なコスト削減方法です。ロスプリペンション協会の調査によると、ある店舗では商品ロスを50パーセント削減することで営業利益は12パーセント増益したそうです。

商品ロスには、社外の第三者による「外部ロス」、社内・業者による「内部ロス」、社内の管理ミスによる不明ロスの「管理ロス」の3パターンあります。保安警備を行ってもロス率が減少しないとき、内部の犯行である可能性があります。店員に向けたロスプリベンション教育が非常に重要で、私は全国万引犯罪防止機構のLP(ロスプリベンション)教育制度委員に選ばれ普及に努めています。

――青柳社長は28年間にわたって店内保安に携わってきました。選んだ理由は何でしょう。

私は高校時代、空手部で主将を務め、千葉県空手道総合大会で3位になるほど熱中しました。国士舘大在学中に父が詐欺被害に遭って借財を抱え、大学を中退して母と弟・妹のために返済を手伝うことになりました。この仕事を選んだ理由は空手が生かせて、残業が少なく建築士の資格試験の勉強ができたからです。

最初の現場は都内のCDショップで、黒人の海兵隊員を捕捉しました。逃走しようと暴れ、私も30歳と若かったので応戦し「やはりこの仕事は自分に合っている」と確信したものです。

――個人の技量が問われる職種でもあります。

「捕まえることが仕事」と職人肌で個人プレイに走りがちな保安員もいて、組織としての統制がとりにくい面もあります。私は経営理念や将来のビジョンとともに「店内保安警備専門会社として『人の生命・身体・財産』を守り企業・社会の安全安心に貢献することを使命とする」という事業目的を頻繁に伝えています。

――「人の生命を守る」ということでは日本保安の保安員が一昨年5月、救命活動を行いました。

万引きした高齢者が捕捉後、店舗内で意識を失い、心肺停止状態となりました。当社の保安員は社内の救命講習を受けていたので、胸骨圧迫とAEDによる救命措置を行い、救急隊が到着した時には自発呼吸が戻っていました。

社会の安全安心を担う警備業として、AEDを使った救命講習を社内だけでなく企業や団体に向けて開いたり、機器の販売も行っています。

――今後はどの方向に舵取りを?

業績を回復させたので、今後3年間は課題だった組織の体制固めに努めます。その先は会社を拡大したいですね。現在、1都8県で業務を行っていますが、トスネットグループは東日本全域に拠点があります。将来の目標として、広く進出してサービスを提供していきたいです。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.4.01

深澤利弘さん(シムックス 代表取締役)

鳥獣対策で付加価値つくる

――鳥獣対策事業に取り組んでいます。

「鳥獣保護法」は2014年、「鳥獣保護管理法」に改正されました。「管理」とは、農林水産業に被害を及ぼしている野生鳥獣の個体数や生息域を、人が介入して正常な状態に戻す意味です。

群馬県内の赤城山では2010年、増えすぎた鹿による獣害が問題になりました。ある環境団体から、わなによる捕獲効率を上げたいという要請が当社にあり、警備のノウハウを用いた手法を提案してセンサーの提供を始めました。

――機器の提供からスタートしたのですね。

そうです。やがて食害などの獣害がさらに深刻化し、時代の要請から機器の提供だけでなく捕獲まで担うことになっていきました。2014年には前橋の営業所内に鳥獣対策課を新設し、事業を本格化しました。所属する5人は、獣道を長距離移動しながらわなを設置するハードな業務であることから、20代の若い社員を中心に構成しています。最近ではこの事業に意義を感じ関心を持って入社し、自ら配属を志望する新卒者も出てきました。

野生鳥獣が増える一方で狩猟者の高齢化が進み、民間企業に捕獲事業を委託する「認定鳥獣捕獲等事業者制度」が2015年に施行されました。当社は群馬県初の捕獲認定業者となり、今では栃木、埼玉、新潟の各県でも事業を展開しています。システムの提供については、東京の離島を含め全国に販路を広げているところです。

――鳥獣対策業務の内容は?

システムは2種類あります。「わな管理自動通報システム」は、わなが作動すると監視装置に電源が入り、携帯電話のネットワークを通じて指定した宛先にどのわなが作動したかメール配信します。メールの配信先は管理画面で変更可能で、最大5か所まで登録できます。これにより管理が軽減され、捕獲従業者にとって大きな負担となっていた見回りの手間を削減できます。

もう一つの「わな簡易見回りシステム」は、山奥など外部との通信ができない地域のために見回りを簡素化したシステムで、設置したわなの半径100メートルに近づくだけでわなが作動した形跡を確認でき、見回り時間の短縮、管理の軽減を図ります。

――使用するわなやセンサーは、どのようなものですか。

「くくりわな」と呼ばれる四角い金属台を踏むと足が挟まれる仕掛けを、警備に使う防犯用センサーにワイヤーでつなげます。わなが作動した連絡を受けたら、お客さまとの契約内容によっては、隊員が現場に急行します。もし捕獲対象獣であれば電気などによる「止め刺し(殺処分)」をします。さらに仕様書に沿って、埋却または焼却などの「個体処理」まで行います。

当社が認定事業として捕獲を行える野生動物は、鹿と猪の2種類に限定されます。社員は自然を相手にしていること、動物の命に関わっていることの2つを常に自覚し、肝に銘じています。

――鳥獣捕獲のイベントにも参加しているとか。

農林水産省の本館を会場に今年2月に開催された「全国鳥獣被害対策サミット」に参加したり、昨年10月には幕張メッセで開かれた「国際 次世代農業EXPO」に出展しました。

また昨年1月に岡山県議会から当社に鳥獣対策事業の視察があり、11月には群馬県議による鳥獣被害に関する勉強会が開かれるなど、行政の関心も高まっています。

――鳥獣対策は今後一層注目されていくと思われます。新たな手法は開発していますか。

昨年7月には県内のドローンを扱う企業と共同で、鹿が嫌がる忌避音を発生させる装置とカメラを搭載したドローンを用いて、県立公園内で鹿を追い払う実証実験を行いました。警戒音を発しながら逃げる鹿を確認し、効果があることを実証できました。

――警備会社として新たな分野に参入しました。

イノベーションの多くは、従来あったものを掛け合わせて新たな商品を創造します。狩猟者が使うわなと、機械警備で使うセンサーをつなぎ合わせたことで、新しい付加価値が生まれました。

社会に貢献するビジネスモデルとして継続的に成立させるため現在、より広い地域にサービスを提供できるように、その土地をよく知る地元の関係団体とのネットワークを構築しているところです。今、警備業界では賃金を含めた処遇改善が課題ですが、この新たな事業を軌道に乗せて、原資の確保にもつなげていきたいと考えています。