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警備業ヒューマン・インタビュー
――新サービス創出2020.04.21

沙魚川久史さん(セコム)

高齢者をゆるやかに見守る

<<1月から新たに始めたセコムの高齢者見守りサービス「まごチャンネル with SECOM」が好評です。どのような点が受け入れられたのでしょうか?>>

このサービスはまず、離れて暮らす子世帯がスマートフォンを使って実家の親世帯のテレビに孫や日常生活の写真・動画を送ります。親はそれを楽しみ、子はテレビとつないだ機器を通じて実家の様子を見守るものです。見守られる側の高齢者にとっては監視されている意識がなく、契約者である子にとっては親子ともに気軽に始められるという点が評価されています。

インターネットを使ったサービスなので、スマホにアプリを入れれば家族の何人でも実家とつながることができることも好評です。契約者本人と親以外にも、例えば兄弟姉妹やそのパートナーの方々とも話題の共有や会話のきっかけになっているという感想も多く寄せられました。

<<サービスは“ゆるやかな見守り”をコンセプトに掲げており、駆け付けなどの対処は行いません。どのような狙いで開発したのですか>>

高齢者のみの世帯が増加する中で見守りのニーズは高まっており、セコムは「セコム・ホームセキュリティ」や「みまもりホン」といったサービスを提供してきました。それらはセコムがご自宅の鍵をお預かりし、緊急時 に駆け付けることで「安全・安心」を提供するものです。一方で、親の見守りサービスを探して当社ウェブページを閲覧するミドル世代の多くは、セコムでは行っていないサービスを求めていることが分かりました。

それは駆け付けなど大掛かりなものではなく「はじめての親の見守りとして手軽なサービス」といった、言わばライトな見守りです。そこで“ゆるやかな見守り”サービスを開発することに決め、チカク(東京都渋谷区、梶原健司共同創業者兼代表取締役)が提供する子がスマートフォンを使って親世帯のテレビに孫や日常生活の写真・動画を送るサービス「まごチャンネル」に注目しました。「まごチャンネル」は生活の大半を過ごすことが多いリビングに置かれるテレビを使ったサービスなので、生活の様子を知り、ゆるやかに見守るには効果的との判断です。

<<具体的な見守り方法について>>

テレビに写真を映し出す機器にセコムのセンサーを組み込み、実家の部屋の温度や湿度、照度、またAIの解析による起床や就寝を感知し記録することができます。契約者である子はスマホのアプリを使ってその記録を閲覧し、親が起きたことや室内が高温度であることなどを知ることが可能です。

例えば子は室温が高い場合、「エアコンを使って」と電話で連絡したり、長時間に渡って部屋の照明が点灯していない場合は念のために安否確認をするといった使い方を想定しています。

<<開発に当たり重視した点や苦心した点は>>

とにかく「簡単さ・分かりやすさ」を目指しました。高齢者宅にはインターネット環境が整っていないことも多いため、あらかじめ機器本体をインターネットにつなげた状態にして、テレビと接続した瞬間にサービスを利用できるようにしました。

見守られる側はせっかく楽しく写真を見ているのですから、細かな行動を監視されていると感じさせてはいけません。息遣いや暮らしのリズムをゆるやかに感じ取れる、見守られる側と見守りたい側の双方の「ちょうどいい距離感」について検討を重ねました。開発中は多くの世帯に実証実験にご協力いただき、どのような行動やデータを取得するのが最適なのか、見せ方や通知の頻度について話し合いました。

<<沙魚川さんはオープンイノベーション推進担当や「セコムオープンラボ」主宰として、これまでセコムにはなかった新たな価値やサービスの創出に力を入れています>>

オープンイノベーション推進担当は社会にある「お困りごと」を解決するサービス創出を目的に、2015年に設けられました。その手法として、分野・業界を超えて多くの企業と今後の社会やその課題について議論し可視化する場として造られたのがラボです。異分野の企業や人が集まることで、当社だけでは思いつかなかった着想を得て商品化することが可能になりました。

例えばセコムが開発した、バーチャルリアリティー(VR)技術などを活用した警備員研修システム「VR研修プログラム」がそうです。チカクと連携したように、今後もセコム内だけにとどまらない広く多様な価値観との交流やコラボレーションを通じて、新たなサービス創出や課題解決につなげたいと考えています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――地域貢献活動2020.04.11

松澤直樹さん(東亜警備保障 代表取締役)

サギ防ぐ「制服効果」期待

<<「警備業戸塚地区協議会」の会長として、さまざまな地域貢献活動を推進しています。今回、特殊詐欺の防止キャンペーンで警備員がATM近くに立つことで、さらに活動の幅が広がりました>>

協議会は、警視庁戸塚警察署(東京都新宿区)管内の警備業者23社で構成しています。より安全な地域づくりに向けて、戸塚署と「防犯活動に関する覚書」を2016年に締結し、連携の強化を図ってきました。警察署での研修会、自主防犯パトロール、震災を想定した交通誘導訓練、鉄道会社と協力して車内暴力追放キャンペーンなどに取り組んでいます。

今回は、高齢者を狙う特殊詐欺を防ぐため2月の年金支給日に合わせて「ボランティア・パトロール中」のタスキを掛けた会員4社の警備員が、JR高田馬場駅周辺の無人ATM4か所で午前中の2時間、お年寄りをはじめ訪れる方々を見守ったのです。

駅前交番では、署の生活安全課の担当官が待機し、もし事案が起きれば即座に対応できる体制でした。今回、事案やトラブルなどは起こりませんでした。

<<特殊詐欺の手口は巧妙化し、被害が後を絶ちません>>

地道な周知、啓発活動が重要です。署員が日頃からATMで警戒するなど被害撲滅に向けて精力的に取り組み、さらに警視庁機動隊も応援に来て警戒していることを知って、警備業として協力し少しでも被害を防ぎたいと考えて行ったのです。

<<警備業が地域貢献活動で求められることは何でしょう>>

多くの業界が地域貢献活動を行っています。警備業ならではの取り組みとして「制服の効果」を生かすことがポイントになると考えます。警備員の制服は、人々に信頼感をもたらし、悪事を企む人物に対しては抑止力があります。今回、いつもは無人のATMにタスキ掛けの制服警備員が立哨したことで防犯意識の啓発、注意喚起につながったと感じています。

制服の効果とは、単に着こなしの問題ではありません。警備員が教育・訓練を受けて知識や技能を習得し、自信と誇りを持つことで制服が似合うようになると思っています。その意味で、警備員の制服姿は、他の業界にはない「法定教育」を受けた証しと言えます。犯罪抑止など警備業が参加する広報活動は、各社それぞれの制服を着た警備員が参加して力を合わせることで、一般の方々へのアピール効果が期待できます。

今回の活動について他の地区の警備業者に話したところ、同様に詐欺防止キャンペーンを行いたい、との言葉がありました。活動の輪が広がれば、より大きな効果につながるに違いありません。

<<地域防犯の取り組みに期待が集まります。活動を続ける上で、どのようなことが重要ですか>>

地元の方々と協調する姿勢です。当協議会が長年行っている歳末の繁華街・住宅街のパトロールは、戸塚防犯協会、複数の町内会の方々と連携して行います。社員にとって地元の方々と交流する良い機会です。防犯のプロとしては率先して行動する一方で、前面に出過ぎることのない配慮やバランス感覚も大事なのです。警備会社が長期的に成長を続けるためには、業務の提供だけでなく、地域に根ざす企業としての信頼関係を築いていく努力が欠かせません。

併せて、協議会の会員は活動に取り組む中で親交が深まります。業界の課題などについて情報共有し、率直な意見交換を行います。人材確保や働き方改革への対応、料金問題と課題は多いですが「こうしたら良い結果につながった」などと話し、お互い参考にして取り組んでいます。仕事上はライバルですが、協議会活動を通じて生まれる信頼関係、横のつながりは、かけがえのないものです。

<<特殊詐欺防止のほかに構想する活動アイデアはありますか>>

小学校の通学路で登下校の見守りです。制服警備員から見守られて登校する子供たちが「将来は警備員になりたい」と憧れを持ってほしい。

その憧れに応えることのできる業界として発展しなければならないと思っています。そのために例えばキャンセル・ポリシーの問題では、1社だけでなく業界としての取り組みが不可欠です。一丸となって課題を克服し、一層の地位向上を図る時です。質の高い業務サービスの推進、地域社会への貢献活動、業界全体の取り組み、それぞれが重なって警備業のステータスは向上すると思います。

警備業ヒューマン・インタビュー
――長野五輪を警備2020.04.01

竹花長雅さん(長野県パトロール 社長)

最高の感動と誇り味わう

東京オリンピック・パラリンピックは1年延期となった。しかし警備業界にとって更なる飛躍の機会であり、多くの人が心待ちにしていることに変わりはない。「人・往来」では今号から随時、オリンピック・パラリンピック競技大会に強い思いを抱く人を取り上げる。初回は1998年の長野冬季オリンピック競技大会で警備業務を務めた竹花長雅さん(長野県パトロール社長)に話を聞いた。

<<長野五輪では軽井沢のカーリング会場と選手村の警備業務を務めました>>

50人の警備員で会場と選手村の選手・関係者の入退場管理を行いました。当時はまだ外国人に対応することは少なかったため、事前に学習したものの言葉の問題に苦労しました。

大会が終了してNAOC(長野オリンピック組織委員会)による警備撤収命令を受けた瞬間、喜びと感動、プレッシャーからの解放で放心状態になりました。プレッシャーは予想を上回る大きさで、無事に大会が終了して良かったと思い胸が一杯になりました。隊員たちも同じだったのでしょう。半数の者が涙を流していました。

大会中は「選手村で火事が発生して選手がプレーできなくなったらどうしよう」や「ブラシやストーンなどの競技用具が紛失すれば選手はベストを尽くせない」といった不安を感じていました。事故が起これば警備員は一生心に残る傷を負います。志高く立候補してくれた彼らを傷つけたくないとの思いから、日夜を問わず大きなストレスを感じていました。

放心状態から覚めた後は、これまでに味わったことのない高揚感に包まれました。これ以上に感動と誇りを味わうことができる仕事は、これまでになかったと思います。少し大げさに言うと、世界中から注目される中で国の威信とプライド、信用を守る仕事の一端を担ったのです。大会前は「オリンピック警備を手掛けることで会社のブランド力が上がる」といった思いもありました。しかし大会が始まるとそのような考えを抱く余裕はありませんでした。

<<予想外のハプニングやトラブルはありましたか>>

最も困ったことは選手村でのインフルエンザの流行です。隊員はマスクの着用やうがい、手洗いなどの対策はしていましたが、選手や関係者がウイルスを持ち込んでしまい、集団感染を止めることができませんでした。警備業務に当たった隊員も次々に罹患したため、予備として登録していた隊員を現場に配置したのですが、勢いは止まらず相次ぎ離脱してしまいました。そこで新たに隊員を登録して、決められたポスト数を満たすことができました。

実は大会前から、インフルエンザが流行するのではないかという不安はありました。罹患者が出始めた段階で現場からも「選手村での感染対策を強化した方が良いのではないか」という意見が出ました。しかし組織委員会内での警備業の発言機会は限られており、提案することができませんでした。現場の意見をしっかりと伝えれば良かったと後悔しています。

<<五輪警備で学んだことは?>>

インフルエンザの経験から、想定外の出来事に対して素早く臨機応変に対応することの重要性を実感しました。警備計画やマニュアルは起こりうるリスクを想定して作成されますが、時として思いがけない事態も発生します。マニュアルにないアクシデントが発生した時に現場で考え対応すれば小さなアクシデントで済んだものが、本部に指示を仰いでいる間に大きな事故につながることもあると分かりました。

五輪以降は以前にも増して常に変化に対して注意を払い、現場の警備員に自ら考え即座に対処するように教育しています。その結果、警備員の異変察知能力や対応力が上がり、ミスや受傷事故の防止につながっています。

東京五輪の警備では組織委員会はあらゆる可能性に対して最高レベルの対策を考えるべきです。それも一つひとつの事象についての対応方法を細かく定めておくことが大切でしょう。決して現場の警備員任せにしてはいけません。しっかり事前の備えをしておかなければ何か起こった時に臨機応変に対応することはできません。

<<東京五輪を守る警備員にアドバイスを>>

当社からも8人の警備員が参加する予定でした。彼らには五輪警備の経験を一生の誇りにするとともに業務に生かしてもらいたいと思います。

普段の常駐警備とは全くの別物と考えるべきです。言葉や文化的背景の違いから思いがけないことが起こります。基本を順守した上で臨機応変な対応が大切です。そうすることで世界に日本の警備業のレベルの高さを示してほしいと願っています。