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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員2019.12.21

小林増次さん 東海ビルメンテナス

刃物持つ女性取り押さえる

全国警備業協会(中山泰男会長)は「警備の日」全国大会の中で、顕著な功労を上げた「模範警備員」14人を表彰した。その1人、小林増次さんは、静岡県熱海市内の商業施設内で、傷害事件の容疑者を私人逮捕(刑法で認められた一般人による逮捕)した。

<<新任教育を受けて1週間後に、事件に遭遇しました>>

私は今年5月1日に「東海ビルメンテナス」に入社し、8日から12日まで4日間の新任教育を受けた後、JR熱海駅に隣接する商業施設「ラスカ熱海」に配属されました。業務は館内の巡回や施錠、車両誘導などです。

5月18日、土曜日の午後6時ごろ、館内は買い物や食事のお客さまでにぎわっていました。入り口付近を定期巡回していた時、「助けてくれ!」と叫び声がして振り向くと、駅の改札を飛び出した30代の男性が館内へ駆け込んできます。顔は血まみれです。後ろから、険しい形相の中年女性が、刃物らしき物を握って追いかけてきます。熱海駅周辺ではテレビの撮影がよく行われるので一瞬、これは撮影かと思いましたが明らかに現実です。ただちに無線機で「傷害事件発生、刃物を持った女が暴れている」と警備室(防災センター)の先輩警備員に知らせました。

後で分かったことですが、男性は女性と交際しており、新幹線改札付近で口論になって右ほほを切りつけられ、逃げてきたのです。

<<逮捕はどのように行いましたか>>

土産物が陳列された店舗の周辺で男性が必死に逃げ回り、女性は追いかけます。お客さまも従業員も、突然のことに驚くというより、何が起きているか分からない様子でした。

私は新任教育の中で護身術などを学んだ時に、非常時の対応を指導教育責任者から教わりました。それは「お客さまの安全確保が最優先であり、単独で相手に立ち向かって取り押さえようなどと考えてはいけない」というものでした。

しかし今、女性が刃物を振り回せば、お客さまが巻き添えになりかねません。もし私が大声で、避難して下さいと呼び掛ければ通路でパニックが起こるかもしれない。私が女性の前に立ちはだかって止めようとすれば、もみ合って負傷する恐れがある。どう行動するのが適切かと考えながら女性に近づきました。

女性は、全力疾走してきた疲れが見えます。右手で握っている刃物をよく見ると、小さめのカッターナイフです。女性の後ろに回り込み、その右手首をつかんで私の体重をかけると、あっけなく床に倒れ込みました。先輩の警備員、刺股を持った駅員も駆けつけ、まもなく警察官が到着して女性の身柄を確保しました。

傷害罪の現行犯であり、私が女性を取り押さえた時点で私人逮捕が成立したと警察官から聞きました。病院に運ばれた男性は、軽傷だったようです。警備員の先輩方から「長年勤務していても出会わないような事件で、被害がなくて良かった」と言われました。

<<今回の経験で感じたことは何でしょう>>

警備現場では、いつ何が起こるか分からないと実感しました。万一の場合に備える心構え、いざという時の慎重な判断が求められます。私は前職でトラック運転手を長く務めており、運転中にとっさに状況判断する経験を重ねてきました。今回、慌てることなく女性や周囲の様子を見ながら行動できたのは、そうした経験もあってのことだと思っています。

その後、会社からは、警備員が負傷することのないよう、原則として凶器などを持つ相手には決して1人では対処しないこと、応援が来るのを待った上で警戒棒や警戒杖などを有効活用して対処するようにとの教育指導がありました。警備員はお客さまの安全を守るとともに、自分の身を守ることも重要です。また、暴漢などを取り押さえる際には、相手を負傷させるようなことは回避しなければならないと思っています。

社長と上司から「怪我を負わなくて本当に良かった」と、ねぎらいの言葉をいただきましたが、その言葉を改めて噛みしめました。

11月5日に都内で開かれた「警備の日」全国大会で表彰を受けて、気持ちが引き締まりました。表彰された方々の功労内容を知って、励みになっています。警備員という職業は、社会に貢献する身近で大切な仕事です。より多くの人が警備員の仕事に関心を持って、就業してくれることを願っています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――空港保安警備2019.12.11

塚田良昭さん 全日警 執行役員空港保安部長

「厳格な検査」と「接遇向上」

<<会社主催の『空港保安検査員技量大会』を11月15日に開催しました>>

全日警は全国13の空港で保安検査や施設警備を行っています。約1000人が従事しており、最も多いのは中部空港で約300人です。大会は4回目を数えます。各空港を代表する保安検査員13人が本社に集まり、模擬の検査場で旅客の搭乗券を確認する「案内業務」、携帯型の金属探知機を使用する「接触検査」、手荷物のX線検査のモニター画像を見て銃やナイフなどを発見する「画像閲覧」の各種技能を競いました。

旅客役は日本語も英語も通じない外国人や、刃物類の機内持ち込みを懇願する人など実際の事例に基づく想定で、対応の確実さ、丁寧さ、迅速さを審査しました。

磨いた技能を披露する場を設けることは、保安検査員のやる気を高めスキルアップを促す効果があります。グランプリなど各賞の受賞者は社長、役員から賞品を手渡され、大会の様子は社内報「ANSフレンド」に掲載されます。また、航空会社はじめ幅広い関係者が大会を見学しました。認知度が高いとは言えない空港保安警備にスポットを当て、保安検査員の業務内容について社内外の理解を一層深めたいと考えています。

<<空港の保安検査で重要なことは何でしょう>>

犯罪の未然防止に向けた検査の厳格さに加え、旅客を滞留させることなく的確な検査を行い、スループット(旅客通過数)をいかに高めていくかが大きな課題です。

空港には近年、高度な検査を迅速に行うシステムが続々と導入されています。「インライン・スクリーニング・システム」は、旅客がカウンターで預けた手荷物がコンベアで飛行機に運ばれる途中、自動的に爆発物検知を行う仕組みです。ボディスキャナー(AIT)は、波長の短い電波を使って乗客の全身をスキャンし、金属探知機では検出できない非金属製の爆発物などを発見できます。

このように機器の性能が向上しても、モニター画像から不審物を見つけるのは検査員の能力であり、教育と訓練が大切なのです。

厳格な検査だけでなく、快適な旅に向けた接遇サービスの両立を求められるのが空港保安警備業務です。お客さまに進んで検査に協力していただけることは、スループットを高める要素になるため、適切な言葉遣いや丁寧な対応など、接遇スキルを磨くことは必須です。

 そこで国際線パーサーを務めた元CAによるマナー講習を行い、言葉遣いや身だしなみ、笑顔、お客さまの身になった対応を心掛けています。車いすの利用客など障害を持つ方々に配慮して検査を行う方法も身に付けます。

<<保安検査員の教育にどう取り組んでいますか>>

空港では検査レーンごとに、空港保安警備業務の検定合格警備員を配置することが警備業法で義務付けられ、違反すれば営業停止などの厳しい処分が下されます。当社の保安検査員のうち、約7割が資格保有者です。採用難が続く中で人材を確保し、資格保有者に育てていくことが重要になります。社内勉強会を開くなどして、資格の取得を支援しています。

保安検査員が担当するポジションは「案内」「接触」「モニター」「手荷物の仕分け」「手荷物の開披」の5つがあります。ポジションごとにマニュアルを作成して教育を行うとともに、一人ひとりの進捗表を作成します。誰が教育を担当し、どのような内容を教えたかが把握できる表で、各自のスキルアップの進度が管理できます。機器を的確に使用するための習熟訓練も継続的に行っています。

こうした知識、技能に加え、保安検査はチームワークが大事です。班ごとにリーダーを決め、切磋琢磨しあうチームづくりを進めることが警備の品質向上に結びつくと考えています。

<<保安検査では女性も活躍しています>>

当社の保安検査員の男女比は半々です。今回の大会に出場した13人のうち6人が女性です。各班のリーダー、警備隊長などに女性を積極的に登用することが、一層の女性活躍につながると考えます。

女性も男性も定着を促進するためには、処遇改善と職場環境の改善が不可欠です。十分なスペースの休憩室を確保するなど、隊員の意見を吸い上げて、より働きやすい環境づくりを進めなければなりません。

東京オリンピック・パラリンピックを来年に控えて、世界一安全な国であるためには空港保安の取り組みをさらに強化する時であり、人材確保と教育の充実を図っていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――ゼロ災運動2019.12.01

竹内千里さん レールセキュリティ代表取締役社長

「ケガ人出さぬ」強い決意

<<中央労働災害防止協会が10月に開催した第78回の全国産業安全衛生大会において、警備業で初めて“会長賞”を受賞しました>>

当社は「列車見張り専門会社」です。評価の対象となった「ゼロ災運動」への取り組みは13年になります。ゼロ災運動は、職場の全員参加で行う安全と健康を先取りした活動です。経営トップの「1人もケガ人は出さない」という強い決意が欠かせません。

創業当初、社員の遅刻や交通事故などのトラブルが多く発生し、「何とかしなくては…」と悩んでいた時にゼロ災運動に巡り合いました。

運動の“一人ひとりカケガエノナイひと”という理念と、“トップの率先”“全員参加”という精神に感銘した私は、それを我が社の企業理念や行動指針に取り込み、「日本一安全な列車見張り専門会社」を目指し取り組んできました。その過程で会社も自分も社員も成長できました。今回の受賞は、社員が頑張ってくれてきたおかげ。涙を流してくれた社員もいました。

<<ゼロ災運動は会社をどのように変えましたか?>>

ゼロ災運動に出会うまでは、社員のミスに対して頭ごなしに怒るだけでした。運動を理解するために参加した研修会での教えは、安全はもとより、今でも業務全般にわたる指導や経営の中に生きています。

一方、社員には目標を達成しようという意識が芽生えました。ゼロ災達成のために社員各人や会社が毎月設定する目標と、その実現のための具体的な活動の繰り返しは、社員に目標に対する積極的な姿勢を植え付けたようです。

これら取り組みが、創業以来の列車見張り業務での事故ゼロ件や過去6年間の休業労働災害ゼロ件などにつながっています。

<<運動の柱として教育、研修に力を入れています>>

年3回・丸1日かけて行う「研修」、月1回・半日の「会議」、毎日・朝礼と終礼時に行う「ミーティング」――があります。「研修」は、企業理念や行動指針などの唱和から始まり、列車見張り訓練、KYT(危険予知トレーニング)の基礎習得などが内容です。課題についてのチーム討議・発表も行います。この討議は「気づき」を目的とし、全員が意見を本音で出し合うことでチームワークづくりにも成果を上げています。「会議」では、「オアシス」(おはよう・ありがとう・失礼します・すみませんの頭文字。職場でのコミュニケーションを図る運動)や「指差し呼称」の練習などを行います。これら研修・会議は、全ての業務に優先します。仕事の依頼があったとしても断っています。

「ミーティング」は、毎日現場で行う活動です。元請けの行う点呼前に当社社員だけで朝礼を行い、互いの体調確認や作業内容の把握などを行っています。終礼は、「ヒヤリ・ハット」の報告などで、職長などリーダーが毎日会社にメールやファックスで報告します。

この3つの研修、会議、ミーティングは13年間欠かさずに行っています。この積み重ねが「安全の力」となりました。

<<もともとは書道家でした>>

若い頃は、書道家として日展や日本書芸院展などに出展していました。その後、結婚・出産を経て、子供も手を離れた40代後半、警備会社で事務のパートとして働くようになりました。そんな時、踏切に立っている1人の青年を目にしました。列車見張りの警備員です。興味を覚えた私はJRの保線区に足を運んで詳しい仕事内容聞くとともに、パートで勤めていた会社に列車見張部門を立ち上げました。これがきっかけとなり50歳で列車見張りを専業とする警備会社を設立しました。社員4人からのスタートで、私もヘルメットを被って現場に出ました。

<<経営者として安全に取り組む心構えを教えてください>>

損得ではなく、善悪で物事を考えることができる経営者になることです。安全はまさにそうです。安全か、不安全か――。仕事でも皆が働きやすいようにする。無理はいけません。社長が無理をすると社員も無理をしてしまいます。

仕事も選ぶようにしています。無理な仕事には、申し訳ないのですが「NO」と申し上げています。そうしなければ、しわ寄せは社員に行きます。

これからも志を高く、企業理念「日本一安全な列車見張り専門会社」を追い求めます。