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警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.12.21

伊部秀典さん(キステム)

全警協「模範警備員」シリーズ②

【全国警備業協会・会長表彰の理由】 都内の踏切で午前中にベビーカーを押す女性、午後に乗用車がそれぞれ遮断機が降り閉じ込められた際に、列車見張員として非常ボタンを押し列車を止め、2件の事故を防いだ。

基本を積み重ね、事故防ぐ

«1日に2度も踏切事故を防ぐとは驚きました»

一度目は、2月5日の朝8時半ごろ、西武新宿線野方駅(中野区)近くの踏切付近で、電気設備の工事が始まるため、私は列車見張りの準備をしていた時でした。

その時、踏切の警報機が鳴り遮断機が降り始めたにもかかわらず、ベビーカーを押す若い母親が急いで渡ろうとしました。ベビーカーの小さな車輪が線路にはまって母親は転倒し、赤ちゃんが転がり出ました。私はとっさに踏切の非常ボタンを押しました。押すと停止信号が発光する仕組みです。

幸い、電車は急行でなく各駅停車で、しかもカーブ区間のため徐行していました。私はボタンを押した後、規則に従って携帯型の「特殊発光信号機」を掲げながら電車に向かって線路沿いを数百メートル走りました。

電車は安全に停止し、私は運転士に状況を説明しました。倒れた母親は怪我もなかったようで、ベビーカーを押して踏切を出て行きました。「お母さんも赤ちゃんも無事で良かったです」などと電気設備工事の作業員と話しました。

二度目は、午後2時過ぎのことです。警報機の鳴り出した踏切を、今度は男性の運転する乗用車が強引に渡ろうとして遮断機が降り、踏切に閉じ込められたのです。

私は工事指揮者に声を掛けて非常ボタンを押し、朝と同じように特殊発光信号機を掲げて走り、電車を止めました。その間に工事指揮者と作業員が遮断機の棒を上げて、車は出て行きました。

列車見張員は、線路脇に立哨し、列車が接近すると工事関係者を退避させて安全を確保します。退避が完了すれば黄色い旗を上げて運転士に知らせますが、退避が間に合わないと判断したら、赤い旗や非常ボタンなどで列車を止めなければなりません。「自分の肩に作業員の命を背負う」というプレッシャーがある業務です。後日、私と工事指揮者と作業員4人は西武鉄道の電気部長から表彰を受けました。

«事故を防いだ体験からどのようなことを思いましたか»

何が起きても的確に対処できるよう、訓練と心構えは大切だと改めて実感しました。

キステム東京警備部の列車見張員は60人いますが、踏切の非常ボタンを押す事例は年に2、3件です。列車見張員を長年務めて1度も押した経験がない人も少なくありません。私は列車見張員を20年近く務めていますが、非常ボタンを押したのは数年前に1度だけでした。1日に2度押すとは思ってもいませんでした。

列車見張員は、日本鉄道施設協会などの資格を取得し専門知識を身につけ、踏切事故で車が線路をふさいだ場合などを想定し「列車防護訓練」で技能を高めます。事故事例をもとに、どう行動すれば未然に防げるかシミュレーションを行います。今回、非常ボタンを迅速に押す訓練が役立ちました。

事故防止に対しては個人的な思いもあります。私の父は元警察官で、かつて鉄道事故の現場検証を経験しました。その痛ましい話を私は小学生の頃に聞き「事故は絶対に起きてほしくない」と子供心に強く思ったものでした。父から話を聞いた時の思いが、列車見張員として私の原点にあります。

«日ごろから心掛けていることは何でしょう»

現場でKY(危険予知)活動を行ってリスクを防ぎ、しっかりと声を出す「指差呼称」など、基本的な取り組みを一つひとつ積み重ねることが安全に結びつきます。

素早い判断と行動が必要な業務であり、身体感覚を鋭敏に保つために体調管理は必須です。特に夏場は線路周辺の気温が3度から4度も高くなるため、熱中症対策は切実に重要です。今年は会社が空調服を導入しました。服に付いた小型ファンで外気を取り入れ涼しくなる仕組みで助かりました。

絶対に事故を起こさないという信念のもと基本に忠実に、これからも鉄道の安全確保に取り組んでいきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.12.11

松田祐一さん(全日警)

全警協「模範警備員」シリーズ①

全国警備業協会(青山幸恭会長)は11月2日、「警備の日」全国大会で人命救助や容疑者確保に貢献した「模範警備員」を表彰した。その受賞者をシリーズで紹介する。初回は全日警(東京都中央区、片岡由文社長)の松田祐一隊員。松田隊員は物流センターでの窃盗未遂犯逮捕に貢献したほか、振り込め詐欺を未然防止した。

「異常」に対する感度を磨く

«物流センターでの事件当日の様子について教えてください»

1月21日の午前2時ごろ、千葉県野田市にある契約先物流センターの警備業務用機械装置から施設内の機械配線に異常があるとの発報があり、現場に赴きました。配線が切れている機械があったのはトラック運転手の休憩所で、そこで40代の男性を発見。室内を見渡すと自動販売機がこじ開けられており、床にはバールやハンマーが落ちていました。

私はこの男性が自動販売機をこじ開けようとした可能性が高いと考え、男性に「この施設の関係者の方ですか?機械の配線が切れたという発報があったのですが、何か心当たりはありませんか」と聞くと、男性は「私はこのセンターの契約ドライバーです。何も心当たりはありません」と回答したのです。

しかし状況を考えると男性が犯人である可能性が高いと考え、その場に留まるようお願いした上で110番通報。警察が来るまでの間、ドアの前で警戒棒を構えて男性を監視しました。男性は諦めた様子でおとなしくしていましたが、背中に手をやる様子から何かを隠し持っていることが分かったので、凶器かもしれないと考えて反撃されないように身構えました。後で聞いて分かったのですが、背中にはバールを隠し持っていたとのことです。

通報から10分ほどして警察が到着。男性は最初とぼけていましたが、最終的には自分の犯行だと認めました。後から施設の契約ドライバーというのは本当で、初犯だったと聞きました。これが再犯の人間だと、「捕まりたくない」という思いから必死に反撃したことも考えられます。会社の訓練では、とにかく自身の身を守ることを考えるようにと教えられています。侵入犯と直接対面したのは今回が初めてですが、男との間に大きなテーブルを挟んでいたため、すぐには飛び掛かってこれないと判断しました。

«振り込め詐欺未然防止について»

6月7日の午前11時40分ごろ、ルート巡回先である千葉県流山市のATMで40代女性が携帯電話で話しながらATM操作をしているのを発見しました。振り込め詐欺に遭っているのではないかと思い、女性に操作を中断してもらい「振り込め詐欺に遭っているのではありませんか」と尋ねました。女性は市役所から還付金があると連絡を受けて言われた通りにATMに来ましたと回答したので、「ATMでお金が戻ることは絶対にありません。これは振り込め詐欺です」と説明して操作を止めてもらい被害を防ぐことができたのです。

女性に110番通報してもらい、警察が来るまでの間、不安がる女性に付き添っていました。待っている間、振り込め詐欺の手口を説明しました。女性も少し詐欺ではないかと疑っていたとのことですが、大金を振り込んで欲しいと言われている訳ではなく、「お金が戻るなら、とりあえず言われた通りにしてみよう」と思ったようです。

«この2つの事件を経験して思ったことはありますか»

物流センターの件については、実際に先方の機械の断線や故障による発報はよくあることです。むしろ、ほとんどがそのようなものと言えます。しかし、その多くの発報の中には、今回のように侵入盗を知らせるものがあるかもしれません。当たり前のことですが、どのような発報でも注意して対応しなければならないと改めて思いました。

振り込め詐欺については、テレビや新聞で毎日のように被害が報道されているのに、だまされる人がいることを再確認しました。ATMを巡回する場合は、だまされている人がいないか注意しなければならないと心に誓いました。

物流施設の窃盗未遂犯は実際に契約ドライバーでしたし、ATMでだまされかけた女性も、もしかしたら本当に正規の振り込みをしていた可能性があります。本当に目の前にいる人が犯罪者かや詐欺に遭っているかを見極めるためには、注意深く観察して冷静に判断しなければいけません。そのためには犯罪に関する情報や知識を常に集めたり、普段から訓練を通じて異常に対する感度を磨く必要があると感じています。

«普段はどのようなことを心掛けて勤務していますか»

安全な地域づくりに貢献するため、できることは最大限やろうと思っています。機械が発報すれば、侵入者がいる訳でなく目に見える機械の断線や故障がない場合でも、なぜ発報したのか顧客にきちんと理由を説明できるよう原因を突き止めるようにしています。ATMで困っている人がいれば手伝います。

それらは当たり前のことですが、それを確実にやることで初めて顧客の財産や安全を守ることができると思います。更に人から感謝までされるのです。今回も野田警察署と流山警察署それぞれの署長から感謝状を頂き、全警協から表彰もされました。これからも、当たり前のことを当たり前にやっていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.12.01

長瀬泰郎さん((一社)ASISインターナショナル日本支部代表理事)

社内にセキュリティー部門を

«ASISインターナショナルとはどのような組織ですか»

セキュリティー専門家を会員とする世界最大のセキュリティー団体です。設立は1955年、米国バージニア州に本部を置き、会員数3万5000人、米国を中心に欧州、アジアの243支部で構成しています。

ここでいう「セキュリティー」とは、主に「現在の企業活動が続くこと」を目的とし、それを阻害するものを防ぐ努力を言います。

«ASISインターナショナル日本支部はどのような活動を?»

首都圏を中心に約50人の方が入会しており、私を含め6人の役員で運営しています。毎月第3火曜日に都内で「セキュリティーミーティング」を開いて、専門家による講演と情報交換を行っており、会員は参加費が割り引かれる特典があります。危機管理産業展やセキュリティショーなどの展示会にも出展しています。

1973年に「米国産業保安警備協会極東支部」として活動を始め、75年に支部No.55として正式に「ASIS産業セキュリティ学会日本支部」となりました。2010年には日本唯一のセキュリティー専門家による交流団体として一般社団法人登記しました。

«10月の「危機管理産業展」でセミナーを開催し「日本の企業は社内にセキュリティー部門を新設し、セキュリティー専門家の育成が急務」と提唱していました»

今年は企業や団体のトップの不祥事をよく耳にしました。そうした事件が起こる度に「法令遵守」や「経営者の意識改革」の必要性が指摘されますが、それを防ぐための具体的な議論はありません。

日本の刑法犯認知件数は2016年に戦後初めて100万件を下回り、世界的に「安全な国」として評価されています。日本社会の治安のよさから、警備で「外部からの侵入さえ防いでおけば大丈夫」という感覚が蔓延しています。

 米国を例にとると、銃や麻薬などで社会的治安は悪いのですが、企業内に限れば問題が少ない。それはセキュリティーの専任者がいて、不審な事案を調査したり、社員に倫理教育を徹底しているからです。企業が絡む不祥事には、不正経理やデータ改ざん、下請いじめ、談合、ハラスメントなどがあります。それらは大きな事件にならない限り組織内で処理されてしまい表に出ることはありません。

«日本でも組織の中にセキュリティー専門家が必要でしょうか»

海外では欧米はもちろんアジアの国々も含めて、一定規模以上の組織では必ずといっていいほど「セキュリティー部門」という専門部署があります。そこのトップは毎年度、セキュリティーに関する基本方針を定め、それを受けて中間管理職が企業内の実務を管理監督しています。

まず企業や団体の総務組織の中にリスク管理の専門家集団を作り、育成します。その後、リスク管理を統括する「セキュリティー部門」として独立させ、法務・総務・財務・監査・情報・警備・防災部門との連携を図ることです。そうすれば傘下企業の専門家が情報交流を図る“横串”の連携体制も構築できます。

情報系の商品を購入するときは社内のIT部門が機器の良しあしを見分けられますが、セキュリティー機器については専門知識がない総務や経理部門の担当者が決めているのが現状です。企業の中にセキュリティー専門家がいれば、監視カメラやセンサーなどを導入する際の“目利き”ができます。

«組織の外の防犯にはどう取り組めばいいでしょう»

欧米の警備で重要視されているのは、事件や事故を予測する能力です。不審者・物に気がついたら直ちに報告することが大切で、米国国土安全保障省は「If you see something say something(不審物を見かけたら関係者に知らせてください)」という標語で防犯への協力を呼び掛けています。

«国際イベントが続く日本でもテロ対策に心掛けたいことです»

米国の警備業界では、人の表情や視線を注視して不審者をいち早く見つけ出す「フェイシング・プロファイル」が注目されています。これはイスラエルの警備業が培った手法で、米国ミネソタ州にある世界最大級のショッピングスポット「モール・オブ・アメリカ」でも効果を上げています。当協会ではここ4年にわたり、5月にオランダから講師を呼び、この技術の体験講座を行っています。

«ASISの非会員が海外のセキュリティーについて知見を得る機会はありますか»

東京ビッグサイトで開催される「SECURITY SHOW2019」の中で3月5日、「ASIS東京セキュリティカンファレンス2019」と題したイベントを主催します。企業内セキュリティーの考え方を紹介したり管理者を育成することの重要性を提案します。元ASIS会長エドワルド・エムデ氏の基調講演ほかセキュリティー専門家による10講演を予定しています。同時通訳による日本語でお聴きいただけますのでご来場ください。