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「働き方改革」我が社の取り組み2017.8.21

保坂剛志さん (センティス21 代表取締役社長)

社員一人ひとりと向き合う

――人手不足が、業界最大の課題となっています。

県内では昨年度末、交通誘導警備員が不足しました。学生時代の先輩である建設会社の経営者から久しぶりに連絡をもらい、『警備料金はいくらでも払うから、警備員を出してほしい』と懇願されましたが、取り引きが長いお客さまを裏切ることは当然できず、断りました。ほかの現場でも、交通誘導警備員がいないことで工事の進捗に支障をきたした事例は多かったようです。

――募集はどのように?

フリーペーパーの広告掲載とハローワークで募集をかけていますが、反応はよくありません。そのため、従業員からの紹介が中心となっています。少しでも長く勤めてもらうため、働きやすい環境を作るように努めています。

――具体的にはどのような?

これまで当社を辞める理由で最も多いのは“人間関係”で、退職理由の8割を占めていました。その対策として、職場の風通しを良くすること、明るく楽しい雰囲気を心掛けています。

社外に出ると開放的な気持ちになり打ち解けやすいことから、県の特産品であるサクランボなどのフルーツ狩りやウォーキングを、皆で楽しんでいます。

6月には「倫理法人会」(丸山敏秋理事長)が主催する“活力朝礼コンテスト”に本部社員全員の26人で参加し、「敢闘賞」を頂きました。これは企業ごとに「朝礼挨拶」を披露し振る舞いや話の内容を競い合うもので、当社では定期的に出場しています。大きな声を出すことで、自分を明るくする効果があり、コミュニケーション能力も磨かれます。

3年前には会社の近くに寮を完備して、社員がリーズナブルに暮らせる環境を整え、現在7人が利用しています。また「社内改善提案ボックス」を設置し、社員に自発的に意見を出してもらっています。今後は「ありがとうカード」を使い、職場で感謝の気持ちを伝え合う取り組みを始めます。これは複写式のカードを使うことで、相手に渡した感謝の言葉が自分にも残るものです。

――さまざまな方法で定着を図っています。

経営者は、その会社で働く人が「職場に行きたい」と思える環境を作るべきです。私自身、創業者である父の後継者として入社したときに、身を持って経験しました。

――どのような経験でしょう。

私は28歳のとき父に呼ばれ、勤めていた都内の商社を辞めて当社に入社しました。そして当時赤字だったセキュリティー事業部の立て直しを命じられました。新規開拓に奔走して、売上を3倍にし、5年で黒字化に成功しました。

しかし私の「お客さま第一主義」の考え方で社員に負荷がかかり、皆、私から距離を置くようになりました。社員が不満を持っていた賃金の安さも改善され始めていたのに何が不満なのか、私は理解に苦しみました。

――心配りが足りなかった?

そうです。後で知ったことですが、皆は「会社の利益のための道具」にされていると感じていたようです。社長である父に「社員への愛情が足りない」と指摘され反発した私は、孤立無援の状態となりました。やがて心身に異常をきたし、パニック障害と鬱病を発症しました。クルマのハンドルを握ると動悸と息切れが激しくなり、わけもなく強烈な不安感に襲われ、窒息する感覚に襲われました。私の行動範囲は、自宅から徒歩30分圏内に限られました。

――精神的に追いつめらました。

それから5年間の長期療養となりましたが、少しでも体が動く日は自転車で自宅周囲を営業してまわり、会社の売り上げを確保しました。療養中、父から専務取締役への就任を要請されました。「役が付けば励みになり復帰できるだろう」という父の思いを知ったのはかなり後のことです。やがて仕事に復帰できるまでに回復し、グループ会社「あさひ警備保障」の代表取締役に就任しました。

――お父さまは、実は気にかけていたわけですね。

父が私に伝えたかったことは「人を大事にすること」です。お客さまはもちろんのこと、何より社員を大切にすることを、身を持って教えられました。

私はセンティス21の社長に就任して最初の朝礼で、「明るく笑顔で働ける会社づくりに全力で取り組みたい。皆さん、協力をお願いします」と挨拶しました。それまでは営業一筋で奔走し、売り上げを確保してきた私ですが、現在は社員一人ひとりと向き合うことを何より大事にしています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2017.8.1

八木澤 勝さん (北関東警送サービス 自動機管理部 警備士長)

詐欺を防ぐ"マイスター"

――ATMで声を掛けて特殊詐欺の被害を2度にわたって防ぎ、3月に栃木県警から「声掛けマイスター」の委嘱を受けました。

声掛けマイスターは、詐欺の被害を年間で2度、防いだ人に与えられる称号です。県警が平成27年から導入し、県内に23人のマイスターがいます。金融機関の方々が多く、警備業では昨年、当社・北関東警送サービスの白井信夫警備士(64)が委嘱され、私は2人目です。マイスターの役割として、声掛けの経験を周囲に広めています。

――詐欺被害を食い止めた状況を聞かせて下さい。

1件目で被害に遭いかけたのは、子供を連れた30歳くらいの女性でした。

私は自動機管理部の警備士長で、ATMに現金を装填したりメンテナンスに立ち会うなどの業務を行っています。昨年6月に那須塩原市内の病院で、同僚とATMの現金装填作業を完了した直後でした。ATMに来た女性が携帯電話で「着きました」と話すのを聞きました。電話で指示を受けている印象で“詐欺ではないか”と直感しました。

そこで声を掛けてATMの操作をやめてもらい事情を聞いたところ、最初は女性の父親宛てに“還付金”に関する電話が入ったそうです。父親から電話を引き継いだ女性は、“あやしい”と感じたものの次第に相手のペースに引き込まれ“お金が戻る”と思い込んでしまったようです。

――特殊詐欺の被害は高齢者に限らず若い人も注意が必要という事例です。2件目は?

今年1月に小山市内のショッピングセンターのATMで、70代の男性が「残高照会しました」と携帯電話で話していました。そこで事情を聞いて、警察に通報しました。やはり還付金詐欺で、男性から感謝の言葉をいただきました。

高齢の方々にとって預金は虎の子です。私の両親も年金受給者で、受給すると孫に小遣いをあげることを楽しみにしています。詐欺被害を防ぐことは地域社会への貢献と考えています。

――声掛けで大切なことは。

ATM付近の全てのお客さまの様子を注意深く見て、必要なら積極的に声を掛けます。詐欺の手口は巧妙化しており、電話の相手を信じ込んでいる場合は丁寧に説明して“冷静さ”を取り戻してもらうことが必要です。

お客さまに急に話し掛けても聞いてもらえるのは、私が警備員の制服を着ているからです。当社の社長(青木勲・栃木県警備業協会会長=北関東綜合警備保障会長)も訓示等で、安全を提供して信頼される職業として「制服の重み」を強調します。

当社は全社的に詐欺被害の防止に取り組んでおり、声掛けマイスターが2人いることは良い効果につながると思います。向上心を持って精進していきたいです。

――警備業を選んだ理由を聞かせて下さい。

高校と大学でレスリングに熱中しました。卒業後は仙台市にある妻の実家の石材店を営んでいましたが、私の故郷の栃木県に引っ越す際に「レスリングで鍛えた心と体で安全を守って貢献したい」との思いから警備業を志して当社に入社し、10年になります。

当社は金融物流の専門会社として「無事故」が常に原点にあり、指差呼称の徹底など全てにおいて確認を徹底しています。

また、事故を防ぐには疲労を蓄積させないこと、体の感覚を鋭敏に保つことが大切で、健康管理に留意しています。

――休日は「さくら市少年レスリングクラブ」のコーチを務めています。

中学2年生の息子と一緒に気持ち良く汗を流します。レスリングの魅力は“勝ち名乗り”にあります。ウイナーとして審判に手を上げられる瞬間の喜び、達成感は最高です。一昨年はレスリングの「全日本マスターズ選手権」に出場して優勝し、昨年は3位でした。

――警備業界は、多くの若い人に興味を持ってもらうことが重要となっています。警備の仕事について息子さんと話しますか?

息子は「将来は警察官になりたい」と言っています。制服を着て安全を守るという点が警備業と共通するので、日頃は特に仕事の話をしなくても“親の背中”を見ていてくれるのかなと思っています。

娘は高校1年生で「将来は声優になりたい」と言いますが、介護の仕事にも興味を持っています。介護も地域社会に貢献する仕事なので、もし進むなら頑張ってほしいです。

警備業は人手不足が続いていますが、正義感や使命感、情熱を持って業界に入ってくる人が増えることを願っています。