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「働き方改革」我が社の取り組み2017.9.21

渡邉明彦さん (ダイトーセキュリティー代表取締役)

内勤者が現場へ、問題を解決

――求人はどのように?

以前と比べ、募集の費用対効果は下がっています。多くの媒体に求人広告を広げても効果が薄いので、最近はハローワークと求人サイトに絞っています。

――社員の定着を図るために取り組んでいることは?

内勤者が現場をまわり、労働環境の改善に向け問題解決を図っています。今はさすがになくなりましたが、以前はお客さまに頼まれ重いものを運ぶのを手伝って腰を痛めたり、それを足に落としてケガをした事例もありました。どこまでが警備員の業務なのかを教え、無理な要請ははっきり断るよう指導しています。

また熱中症予防のため、飲料を配るなど隊員の体調管理にも気を配っています。この夏は装備品の見直しも行いました。快適に過ごせるように制服は風通しがよい生地に変え、ヘルメットもツバ付きで風の通るものとしました。

――社会保険の加入については?

加入率は現在、70パーセントぐらいです。新規に入社する社員は全員、加入させています。

――検定資格の保有率は?

検定資格者はかつて全体の40パーセント以上いましたが、その多くが高齢のため退職し、保有率はだいぶ下がっています。当社が業務を行っている現場は指定路線が少ないため、必要としていない理由もあります。しかし、今後は都内の指定路線が増えるので、検定資格者を増やしていく計画です。

――警備員教育はどのように?

通常の警備員教育以外にマナーなど“人としての基本”を教えています。身なりはもちろん、立ち振る舞い、挨拶など、第三者からの印象の重要性を伝えます。言葉遣いについては、例えば「自転車が通ります」ではなく「自転車に乗った人が通ります」など不快にさせない丁寧な言い方を、社内研修の場などで皆に考えてもらっています。

――業務は、主に交通誘導警備がメインです。

現在、業務全体の中で雑踏警備と施設警備の割合を増やしているところです。常駐現場の警備員に雑踏警備の現場についてもらうなど作業環境を変えることで気分転換になり、モチベーションが上がることも多いようです。

イベント警備のために募集した大学生のアルバイトの中には、英語をはじめ中国語やロシア語など外国語が堪能な人もいて、2020東京五輪・パラリンピックの警備に参加してもらい、力を発揮してほしいところです。

――労働災害の対策については?

当社は創業以来、事故が少なく、労災保険を使った事例もあまりありません。新任・現任教育で事故回避のための注意点を伝え、現場が始まる前に発生する可能性がある事故事例を紹介し対処方法を教えています。転倒事故に関しては、研究会で指導を受けています。

――どのような研究会でしょう。

「墨田・葛飾ビルメン・警備業労務安全研究会」という名称の研究会で、ビルメン会社と警備会社が集まり向島労働基準監督署と連携しながら、講習会を定期的に開いて労働災害や労働基準のレクチャーを受けています。墨田・葛飾という名称ですが、現在では都内全域を対象にしており、今後は会員数を増やしていきます。講習会の資料は持ち帰り、社内業務に落とし込んで活用しています。

――自家警備問題については、どう感じますか。

建設業の作業員が交通誘導警備を行うことで、矛盾が多く発生します。まず警備業の存在や警備員教育の位置づけが不明確になります。警備員不足が問題の発端になっているのであれば、警備業界だけの問題に留めず関係する業界、団体とより深く活発な意見交換が必要です。現在の警備業界は必要であったから存在しているはずだし、その役割も大きいはずです。

――ホームページに「社是」を謳っています。

当社の社是は「自立・公平・感謝」です。「自立」はお客さまの求める以上のサービスを提供できているかを常に考え、自ら行動すること。「公平」は関係する全ての人・事柄に公平な行いをしているか。「感謝」は、これがなければ他人とのよい関係を築けません。お客さまや部下・同僚、上司にも感謝を伝えることが大切です。

社是は、9月1日から明確に打ち出しました。自分のこれまでの人生を振り返ったときに、一貫していた想いをまとめたものです。

「働き方改革」我が社の取り組み2017.9.11

海原紀幸さん (東京工事警備 取締役社長)

全社あげ資格取得を応援

――警備員不足が大きな課題です。募集はどのように?

ハローワークを活用したり、新聞折り込みやフリーペーパー、求人サイトなど様々な媒体を活用し募集しています。当社ホームページでも随時募集しています。5年前からは新卒の採用に向けて、学校訪問も積極的に行っています。

――「退職者を出さないこと」も大切です。

新入社員に対しては一般的な新任教育のほかに、当社の主要業務である電力関係工事現場での交通誘導警備の特性をよく理解できるような教材をプラスアルファとして使い指導教育することで、安心して業務に就けるようにしています。またきめ細かい指導や対話を通じて、早く仕事に慣れてもらうようにしています。既存の社員も同様に、所属長や教育担当者が現場に出向き、コミュニケーションを図っています。

定年は62歳で、雇用満了前に希望を聞いて65歳まで再雇用としておりますが、それ以降も本人の希望・体調を踏まえて延長可能で、週に2・3日など短時間勤務への変更も行っています。

――社員の処遇については?

社会保険は100パーセント加入済みですが、「警備業厚生年金基金」に代わる制度として「企業年金制度」を制定しています。

交通誘導警備は過酷な状況での業務ですから、少しでも快適な環境で行えるように、夏は外気を衣服内に送り込む「空調服」、冬は電熱線入りの「防寒ベスト」を貸与しています。

資格検定に関しては、受講費用、送り出し教育、合格時の祝い金など、全面的に会社でバックアップしています。現在、検定資格の保有率は80パーセント近くで、100パーセント取得を目指しています。

――どのような警備員教育をしていますか。

現任教育では旬なテーマを定めたり、グループディスカッションを取り入れたりして、教育がマンネリ化しないよう工夫しています。また指導教育責任者や専任の指導員・パトロール員が計画的に巡察し、現場の状況に応じた実地指導を行っています。指導教育責任者・指導員・パトロール員については、本社が中心となった検討会議の実施や他支社の現任教育に参加するなど支社間の連携を図り、指導力の向上や標準化によるレベルアップを図っています。

――建設作業員が自ら交通誘導警備を行う「自家警備」が問題になっています。

私の前職は当社の親会社である関電工で、主に架空配電線部門に従事していました。支店長時代は年度末になると工事が集中し、警備員不足で工事ができない現場がありました。特に3年前は政府の予算決定が遅れて公共工事が下半期に集中し、警備員が不足して工事が進まない状況が約2か月も続きました。このような状況が続くと、お客さまの立場では自家警備は当然のニーズです。しかし、警備業界に入って交通誘導業務の社会性や専門性を知り、「警備のプロ」に任せることが安全上必要と感じています。

――労働災害防止については?

安全に関しては経営の重点事項のひとつとして、毎年度「安全品質推進活動計画」を策定し、全社一丸となって取り組んでいます。

具体的には、パトロールの強化により「もらい事故防止3原則」すなわち、安全位置の確認・退避場所の確認・車両停止の確認の周知活動や、健康診断の結果を踏まえたフォローおよび自主健康管理の推進、熱中症対策品の配布をしています。当社だけではなく「配電警備協議会」加盟会社の皆さんとも共有化を図り、事故事例や防止策の水平展開、情報連絡会議など安全活動に取り組んでいます。

――社長に就任して、実現させたい目標は何でしょう。

テーマを「“和プラス”コミュニケーションと意識改革」としています。関電工の支店長時代から「和+アルファ」をモットーに業務運営に当たってきました。この「和」という文字には調和・親和・温和など多くの意味があります。「和」に何をプラスするかは今後の状況を勘案しながら考えていきますが、これをモットーに、コミュニケーションによる「安全・品質・コンプライアンスの徹底」と「全員が一丸となった意識改革」に取り組んでいきます。

「東京五輪・パラリンピック」などを背景に警備ニーズが高まってきており、当面は電力関係工事が減少した落ち込み分をそれ以外の一般警備にシフトさせたいと思います。今後はイベント警備も積極的に展開していきたいと考えており、雑踏警備の研修や教育の充実、検定資格者の増員を図ります。

「働き方改革」我が社の取り組み2017.9.1

松田敦嗣さん (日本警備通信 代表取締役)

料金は〝生活賃金〟から逆算

――人手不足が業界の深刻な課題となっています。

今年に入って警備業の有効求人倍率は7倍を超えているとのことで、警備員1人採用するのに警備会社7社が取り合っている状況です。2号警備に限定すればさらに上昇し、大規模なイベント警備は他社と協力し合わないと受注できません。

――課題克服の良策は?

まず待遇改善の原資の確保からでしょう。

以前、大阪府庁の職員が当社に警備業について、聞き取り調査に来られたことがあります。私はその人に「失礼ですが、あなたの年収はいくらでしょうか」と質問しました。続けて「警備会社によっては、年収が200〜300万円の警備員もいます。その隊員にあなたの身体・生命・財産を守ってもらう気持ちになりますか」と尋ねると、その人は考え込んでしまいました。私は「警備員に十分な賃金を手渡せるように、予算を組んでください」とお願いしました。

――原資がなければ、何もできません。

ユーザーと交渉する警備料金は、警備員が生活するために最低必要な賃金、つまり“生活賃金”をいくらに設定すればよいかを決め、そこから逆算して算出する必要があります。

国が取り組んでいる長時間労働の是正や休日の確保など「働き方改革」が大事なことはわかります。しかし警備業界の現状を見ると、多くの警備員が家族を養っていける収入を得られていません。

「大きな声を出せる、何かあったら全力で走れる、キビキビ動ける20〜40代の警備員」をお客さまに要望されたら、経営者はそれに見合う料金を頂く営業努力をもっとするべきです。

――「経営者の意識」が十分ではない?

ほとんどの経営者は、適正料金を確保する必要性は感じています。しかし例えば競争入札で他社に料金を下げられたら、それにつられ下げざるを得ない現状があります。新規のユーザーに対しては、こちらがいただかなければならない料金をとにかく提示してみる勇気が必要ですし、長く取り引きしているユーザーに対しても、少しずつでも料金アップのお願いを続けることが大切です。警備員が不足している今は、交渉が有利に運びやすいと思います。

――社会保険加入も含めた料金を提示する必要があります。国土交通省は7月から全国の建設業者に対し、社会保険加入を含めた下請け取引の実態調査を始めました。

社会保険は、本来創業のときから入っていることが当たり前であり、入るのがいいか悪いかではなく入ることが当然なのです。

――社員の処遇は、募集だけでなく定着にも影響します。

当社の社員は長く勤務する人が多いです。社内の表彰制度等を増やし、モチベーションを上げています。警備員教育には力を入れており、新任・現任のほかに現場教育を徹底しています。 

朝礼で自社・他社の事例など伝えて注意喚起や指示を出しますが、それを実践しているかを確認することが重要です。上司が頻繁に巡察して業務内容をチェックしています。

顧客が現場で勤務する警備員を偶然見かけて評価し、新たな契約に結びつくことも多いです。警備業務とは特別なことをする必要はなく、当たり前のことをきちんと続けることが何より大事です。

――松田社長は、地域の防犯にも貢献されています。

当社は、浪速区と西成区のほぼ境にありますが、地域の治安は以前と比べてかなり改善されています。最近は外国人の来訪も多く、若い女性が一人で歩き、格安の宿泊所に滞在しています。「海外の治安に比べれば、ここは安全な地域」だそうです。

――地域の環境浄化の功績も評価されて、昨年秋には旭日小綬章を受章されました。

関係する皆さまのお力による受章で身に余る光栄でした。皇居で天皇陛下に拝謁したときのことは、今でも鮮明に記憶しています。お言葉で印象的だったのは、「国家のため、社会のため、人々のために」という部分です。それは、まさに警備業が守るべき理念と合致するからです。

業界の発展のために、賃金を含め労働環境の改善を図り、良い人材を呼び込まなければなりません。