警備保障タイムズ下層イメージ画像

トップインタビュー

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2018.2.21

秋山一也さん(タスクマスター 代表取締役)

警備員不足をAIで補う

――3月6日から東京ビッグサイトで開かれる「SECURITY SHOW 2018」に出展します。

当社ブース(SS7713)では、「脇道車両検知システム」など3つのシステムについて紹介します。現在、4月からの販売開始を目指しています。

――AI(人工知能)の技術を警備に活用する計画と聞きました。

当社のメイン業務である2号業務では、警備員不足が切実です。地元の異業種交流会で一昨年に知り合ったIT関連企業「ホワイトボード」(山梨県中巨摩郡昭和町)の橘田孝一社長と、人手不足を補うための製品開発を共同で進めてきました。

――どのような製品でしょうか。

開発したシステムは「KB―eye(ケービーアイ)」という総称で、3システムあります。

イベントで人の密度が高まったときに警告する「雑踏密度検知システム」は、高精度カメラの映像をもとにコンピューターで観客数を計測し、その情報からAIが混雑や事故を予測して“遊撃隊”のスマートフォンや腕時計型端末に知らせ、現場に駆け付けて広報や誘導を行います。昨年7月と11月の2回、実際にイベントに持ち込んで実証実験を行いました。

――何のイベントですか。

山梨市内の花火大会です。午後7時頃雨が降り始め、会場内の屋台入り口付近で発生した混雑の予兆をAIが検知し、すぐに隊員の腕時計端末に振動と文字表記で警告。遊撃隊が駆け付けて群集を誘導し、混雑を解消しました。

この実験は地元紙のトップ記事として取り上げていただき、また甲州市内のイベントで実施した実験は地元テレビ局のニュース番組でも紹介され、大きな反響がありました。

――マンパワーとIoT機器の連携です。他にはどのようなシステムを開発していますか。

交通誘導警備でカメラが脇道から出てくる車両を認識し音声と光で警備員に伝える「脇道車両検知システム」があります。脇道からの車両進入による危険を警備員に即座に知らせることで初動対応が可能になり、事故防止につなげられます。

3つ目の「野外侵入検知システム」は現在開発中です。例えば花火大会などのイベントで危険区域の侵入をカメラとセンサーで監視すれば、警備員の配置数を減らすことができます。

――AIを活用したIoT機器の導入は、2号業務のイメージアップにもつながります。

少ない人数でセキュリティーのレベルを落とさず安全を確保することが主な目的ですが、2号業務の印象を変えて若年層の人材確保にもつなげたいです。

昨年7月に山梨警協青年部会の立ち上げ式で、元全警協総務部次長の齋藤文夫氏(現警備保障タイムズ顧問)が「適正警備料金算定の基礎知識」の演題で講演し、「警備に付加価値を付けることのメリット」について説明されました。システムの活用を警備の委託契約に組み込み“一人いくら”ではなく、安全管理システム全体の料金を提示することで利益率アップを図り、経営基盤の確立や警備員の処遇改善に結びつけたいと思っています。

――AIを活用した警備システム開発のプロジェクトチームはあるのですか。

IT好きの隊員で構成する「デジタル開発部」で行っています。「ホワイトボード」に現場で得た膨大なデータを提供しながら、技術開発を続けてきました。

「KB―eye」は、あくまで警備員を補助するシステムです。例えば建設業がAIを活用して自家警備を行うと、2号警備業務の存在意義がなくなってしまいます。そうした危機感からこの商品は警備会社に限定して提供していこうと考えています。

――秋山社長は青年部会の副部会長ですが、技術革新の話題で意見交換はしていますか。

青年部会では毎月役員会で集まっていて「2号業務を魅力的な職場にしていかなければならない」という意見がよく出ます。教育を通じて警備の質を上げるだけでなく、AIを活用した警備システムを導入しないと抜本的な解決にならないという結論に達しています。私は地元密着で地場産業として警備業を成り立たせたいという思いでやってきました。ほかの部会員もその思いは同じです。

「働き方改革」我が社の取り組み2018.2.11

宮本克喜さん(國際警備保障代表取締役社長)

人材教育に投資続ける

――国が働き方改革を提唱しています。警備業では「仮眠時間や休憩時間が労働時間にあたる」という判例も出ました。

当社は施設警備が9割を占めていますが、その一部で手待ち時間が多い業務は労働基準監督署から「監視断続的業務」の許可を得ています。労働基準法の労働時間規制から除外され、仮眠時間や休憩時間など一部の時間外労働に賃金は発生しません。この許可基準は各都道府県で温度差があり、現在はなかなかとれないのが実情のようです。

――監視断続的業務の許可がない業務については?

もし休憩時間や仮眠時間に警備員がお客さまの管理下にあるときには「労働時間」として請求しています。料金を項目ごとに細かく標示して提示し、交渉を粘り強く行って理解を得るよう努めています。最近は了承していただける機会が多くなりました。

――適正料金を提示するとき、料金に見合う警備の質が求められます。

私は特別講習講師や全警協の技術研究専門部会(技研)などを経験し警備員教育に深く携わってきました。警備業は“教育産業”と言っても過言ではなく、教育を基盤として半世紀の間に急速に成長しました。技術革新の波もかつてない速さで進んでいますが、警備業の原動力はやはり“人”です。今後も人材教育に投資することで産業の伸び代はまだあると確信しており、当社は教育を最重要視しています。

大型商業施設駐車場の交通誘導やコンサート会場のイベント警備、プール監視業務など、不特定多数の一般のお客さまが多い場所につく警備員には、安全安心はもちろんのこと、おもてなしサービスの教育にも力を入れています。

――労働集約型の産業ですが、人手不足が大きな課題です。

警備業は人を確保することが前提となっているビジネスです。これからは他業種との労働力の奪い合いが一層深刻になっていくことから、労働環境の改善やイメージアップが更に必要です。

当社では「退職自衛官の雇用」に力を入れており、入社後は「即応予備自衛官」として自衛隊が行う年30日間の召集訓練に積極的に送り出すよう努めています。しかし現在、多くの企業で働き手が不足し、退職自衛官も採用につながりにくくなってきました。

――警備のやり方を変える取り組みも必要となっています。

労働人口が減少していく中、業務の効率化が必要で、警備業も先進技術を駆使した取り組みが急務です。ウエアラブルカメラや翻訳用端末機を装着したハイブリッド警備が2020東京大会に向けて世に出てくると思います。少人数でセキュリティーレベルを落とさない工夫が大切です。

――警備員の定着はどうですか。

短時間勤務やマイカー通勤を了承するなど、勤務場所も含めて本人のライフスタイルに合った労働条件を選んでもらっています。特に若い人や主婦は賃金以上に自分の生活に合った勤務体系が大切で、それをかなえることで定着率が高まります。

――県内では、問題となっている「自家警備」の動きはありますか。

当社の業務は施設警備が大半を占め直接関わるケースはないですが、自家警備は業界全体で考えなければならない問題です。建設業の立場からすると工事が進まないことは死活問題で、建設業者の中には交通誘導警備員に声をかけて「月給制にするから」と勧誘して引き抜き、自家警備をしている事例を耳にします。

――労働災害への対応は?

数年前から巡回警備車両すべてにドライブレコーダーを取り付け、運転技術のチェックを行ったところ、交通事故が格段に減りました。あとは毎月1回の安全衛生管理者会議を開いて“ヒヤリハット”の情報共有を行い、事故の再発防止を徹底させています。

――協会の青年部会長にも就任し今年は更に忙しくなります。

当社は地元のお客さまに支えられた地域密着型の業務が多く、これからもきめ細やかな心配りを大切にし、地域に根付いた警備会社であり続けたいと思っています。

「働き方改革」我が社の取り組み2018.2.1

蜷川重忠さん(セキュリティサービス代表取締役)

資機材を活用、効率化図る

――「働き方改革」が、国全体の取り組みとなっています。

警備会社がまずやらなければいけないことは「原資の確保」だと思います。当社は今年4期目で、交通誘導警備を主業務としています。原資確保に向けて、また他の警備会社と差別化を図るため、現場への資機材の持ち込みを行っています。

――どんな資機材でしょう?

看板、電飾機器、矢印板、カラーコーン、コスモサークラー(LED大型回転灯)、信号機、「とまるくん」(進入車両強制停止装置)などです。規制用の車両は4台所有しています。2トントラック2台、取り外し可能な電光掲示板を取り付けた軽トラック1台、1BOX1台です。1BOXは5人乗れて資機材も積むことができ、使い勝手がよいです。

――効果はどうでしょうか。

警備員がいなくて断っていた仕事を信号機などの資機材を活用することで受注できたり、警備員を他の現場に就かせることができます。これからの交通誘導は少ない人数で効率よく行うことが求められます。積極的に営業・提案して資機材を持ち込み、その分を付加させた料金をいただいています。

――人手不足は全国で課題です。

人材確保と定着のためには処遇改善、何より賃金が重要と思います。警備員の募集広告は賃金を比較されています。私は創業にあたり「県内の2号業者の中で最も多く賃金を支払う」と心に決めました。当県の警備員は正社員・アルバイト共に日当6500円・時給850円が平均ですが、当社は正社員6800円、パート・アルバイトは時給950円です。

――原資確保が人材確保につながっています。

今年は、女性警備員の確保に力を入れます。当県の最低賃金は時給737円で、コンビニなどパートの賃金は通常そのぐらいの額ですが、当社は男女関係なく950円に定めています。

主婦は子どもの面倒をみるので仕事を持つことが難しいですが、通常8時から17時勤務のところ9時から16時の勤務体系なら、働ける人がいるのではと期待しています。2号業務では特に女性が働くことに課題がありますが、規制車をトイレ車も兼ねた構造にすることも構想としてあります。

――女性の活躍で人材確保とイメージアップの両方が図れます。

警備業では外見の印象は大事です。今3人の女性社員がいますが、雑踏警備は保険外交員のようなスーツを着て業務を行っています。男性社員は道路規制の場合、黒・グレーのツートンカラーのブルゾンと黒のパンツを着用し「規制員」と呼んでいます。

規制以外の業務ではドゴール帽をかぶり、ドアボーイに近い制服です。社員と制服について意見交換していますが、女性や若い人に「あの格好なら勤務してもいいな」と思ってもらう制服を目指しています。

――蜷川社長は発想が豊かですが、他業種に就いた経験もあるのですか。

私は小学校2年から野球をやっていて、高校野球の名門・津久見高校から社会人野球をやるため広島で自動車関係の製造業に携わりました。バブル崩壊で給料が下がり、生活のために土日に雑踏警備のアルバイトをしたのが警備業に関わるきっかけです。

プロ野球2軍選手と練習場が同じだったことから特に体力面の違いを思い知らされ、アルバイトでやっていた警備会社から大分事業所の責任者を任されたことを機に、警備業を本業としました。

――野球の経験から、現在活かせていることは?

チームプレーの良さです。「社員の士気を上げること」と「コミュニケーション」の大切さは、いつも心掛けています。現在、社屋はプレハブですが、現場から戻ったらゆっくり休めて話ができる空間があり、嬉しいことにすぐ帰宅する社員は誰もいません。3年以内に新社屋を竣工させる予定ですが、皆で談笑できるくつろぎの場所は確保します。

新年会、花見、夏のビヤガーデンの3大行事は全員参加で、お客さまの理解を得て外注警備員に交代させています。定着率はよく、高齢で引退したり、体調不良などの事情以外で退社する人はいません。