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警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2017.5.21

鹿野亜子さん(東宝総合警備保障 レディース事業部次長)

CAの「接客力」「保安力」活かす

――キャビンアテンダント(客室乗務員、以降CA)をしていました。

全日本空輸(ANA)に10年間、CAとして勤務しました。国際線をメインに、パーサー・チーフパーサー、新人実施訓練インストラクター、サベナベルギー航空との共同運航便メンバーを経験致しました。

――CAを職業に選んだ理由は?

私は高校3年間をアメリカで過ごし、海外、または海外と日本を行き来する仕事に就きたいと思っていました。世界のさまざまな国の人たちと交流を持てるグローバルな部分に魅力を感じて、ANAの採用試験を受けました。

――乗務中に予期せぬ出来事も起きたことと思います。エピソードを聞かせてください。

私が国際線のチーフパーサーとして初めて乗務した「成田発ロサンゼルス行き」便で、離陸直後にお客さまに急病人が出ました。意識ははっきりしていましたがかなり苦しんでおられ、お連れさまに確認したところ、慢性腹膜炎の持病をお持ちとのことでした。

――緊急の対応が必要です。

直ちに機内アナウンスで医師の呼び出しを行い、運良くお客さまの中にお医者さまがいらっしゃったので診察をお願いしました。その結果、腹膜炎が悪化していて手術の必要性も出てくるとのことでしたが、燃料の関係で成田に引き返すことができず、機長の判断で機内で救急看護を行いながら目的地に向かうことになりました。

――機内サービスも続けなければなりません。

到着までの約10時間、コックピットクルーとフライトクルーが連携をとり、お医者さまの指示のもと救急看護を続けながら、機内サービスを実施。他のお客さまへご迷惑をお掛けしないように、クルー一丸となって乗務しました。幸い、病人のお客さまはなんとか持ちこたえ、無事にロサンゼルスに到着。空港で待ち構えていた救急隊員に引き渡すことができました。CA人生の中で忘れられないエピソードの一つです。

――経験は今、どのように活きていますか。

警備でお世話になっているスーパーマーケットのお客さまから「警備とセットでナイトマネージャー(夜間の店長)を派遣してほしい」という依頼があり、昨年5月に人材派遣事業部を立ち上げました。私はその中の「レディース事業部」に所属しています。当社代表取締役会長の龍原(正氏)が2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、「もっと女性が活躍できるチャンスを作る必要がある」、「セキュリティマインドをベースとして、きめ細かいサービスを提供できないか」という観点からスタートさせたものです。

元CAが数多く在籍しており、実乗務で経験を積んだ“接客力”と、緊急時の救命ノウハウも含めた“保安力”を身に付けています。CAは「お客さまを安全に目的地に送り届けること」が最大の任務で、その意味で警備業と重なる部分があります。

――レディース事業部の規模は?

元CAを中心に約80人が登録しています。クルマのショールームレディーを経験した人も在籍しており、いずれも接遇のスペシャリストです。同じくANAでCAを経験した人が昨年9月から、当社の新任教育と現任教育に組み込んだ“接遇”のカリキュラムで講師を担当しています。隊員に向けて言葉遣い、身だしなみ、お辞儀など接客マナーを指導しています。

――鹿野次長はCA退職後、会社経営も経験したそうですね。

私は幼い頃から美術に大変興味があり、趣味として海外の美術館、ギャラリー、アンティークショップ等をよく巡りました。ANA退職後は、それらの経験で得た知識を生かせる仕事に就きたいと考え、ヨーロッパの高級ブランドのビンテージ品を扱う会社に就職しました。そこで店長として2年間働き、店舗運営・買い付け・仕入れ業務・店舗スタッフの接遇教育・管理を経験し、周りの方々の後押しもあって航空会社時代の同僚と起業しました。さまざまな経験が、今の業務で活きています。

――グローバルな環境で身に付けた“語学力”についても、活用を考えていますか。

当社隊員に対し、外国人とコミュニケーションをとれるように基本的な英会話レッスンを行っています。国際イベント開催を控え、警備員の方々は外国人観光客に接する機会が多くなります。接遇に際して各国の風習・マナーを理解しておくことは大切です。

東京都警備業協会から依頼を受け、CAの教育を担当していた社員が講師となって「外国人観光客向けおもてなし研修」を行っています。観光客が多い国の公用語・宗教・民族・人口、またマナー・タブーについて理解を深める研修です。4月に南西地区、今月は多摩地区で行い、今後は今月31日に北東・北西地区、11月22日には城南地区で同様の研修を担当する予定です。

「働き方改革」我が社の取り組み
――課題克服シリーズ2017.5.1

竹内昭さん(シンコー警備保障 代表取締役社長)

モチベーションを上げる

――「東京ディズニーランド(以下TDL)」に長く勤務したそうですね。

東京ディズニーリゾートを運営する「オリエンタルランド」に、TDLオープンの3年前、昭和55年に入社し、関係会社への出向を含め33年勤めました。

――警備業界に感じることは?

残念ながら多くの警備会社に“独自の個性”がないように思います。TDLはキャラクター入りの商品をはじめ、付加価値が利益を生んでいます。警備業も「通常では警備料金1万5000円の仕事ですが当社では1万8000円です」と堂々と言えるぐらい、オリジナルの魅力を打ち出すことが必要です。

――具体的には?

警備業には「女性の仕事が少ない」と感じます。女性が活躍できる仕事を考え、お客さまに提案していくべきだと思います。社会的イメージアップと人手不足対策の両方に効果があるのですから、トライする価値はあります。

制服のデザインも、検討の余地があります。私はTDLで採用を6年担当しましたが、面接で「応募した理由」を尋ねると、8割の人が「コスチュームに憧れて」と答えたものです。特に若い人にとって“見た目”は大事です。

――勤務時のモチベーションも上がりそうです。

私は警備業には、もっとスマイルが必要だと思っています。当社はディズニーのやり方をヒントに試みとして、警備マスコット「まーちゃん」を作りました。名前を公募し応募があった「まもるくん」をより親しみやすくしたものです。

この「まーちゃん」のシールをシルバーとゴールドの2種類用意し、笑顔が素晴らしい隊員のヘルメットに貼ってもらいます。シルバーが3枚たまったらゴールドに変え、食事会を開いてお祝いします。これを続けるうちにシールがない隊員は恥ずかしくなってきます。またシールを貼られることでスマイルが欠かせなくなり、相乗効果で職場の質・雰囲気が向上していきます。

――コストパフォーマンス(費用対効果)も良さそうです。

私は前職では渡米して研修を受ける機会がありましたが、アメリカでは警察官・消防士と並んでガードマンは“尊敬される職業”です。アメリカは開拓の歴史を持ち多民族国家であることから、安全を維持してもらうありがたさを強く感じるのだと思います。日本は警備員の社会的地位を上げて、隊員の働く意欲を引き出していかないといけません。それには演出も必要です。

――演出の一端として、ホームページが充実しています。

お客さまや求職者から見て、会社の第一印象になるわけですから重要です。私は入社してすぐ開放的な内容に作り替え、頻繁に更新するよう指示しています。当社がどう世の中に貢献しているか伝えるとともに、なるべく多くの社員を登場させてモチベーションアップにも活用しています。

――ホームページでも紹介されていましたが、自動車教習所を会場に開催する社内イベント「交通誘導競技大会」は画期的です。

社内の「提案制度」で、社員が考案した大会です。一昨年に初開催し、今年3月に2回目を開きました。日常の交通誘導で実際に行う規制設置・延伸設置などの業務を種目として、各支社から選ばれた9チームが技量を競います。

――人材に恵まれています。

私は10年程前に千葉県教育委員会の仕事をさせてもらい、千葉県内の高等学校とつながりがあることから、新卒者を毎年5人ずつ採用しています。

――社員の定着については?

社員には「自分の人生だからいつ当社を辞めてもいい」と言っています。ただし「辞めて今より良い仕事に就き、良い待遇を得ること」が条件です。そのためにも資格検定をたくさん取るよう促しています。資格を取ることで仕事の領域が広がり、働くことが面白くなって責任感が出ます。そして定着につながります。

ドイツには「マイスター制度」という若手職人のための職能訓練制度があります。マイスターの称号を得た職人は大きな価値が生まれ、対価として多くの報酬が支払われます。警備員も言ってみれば職人です。技術が価値を生み出す制度をより確立させるべきです。

――今後の目標はありますか。

事業の柱を増やすことです。私は社長に就任して「キレイクル」という清掃業、保安用照明器具の販売業を立ち上げましたが、さらに増やしていく準備をしています。企業は10年先・20年先を考え、リスク分散させることが大事です。全ての事業が成功するとは限りませんが、そうすることで経営に活気と安定感を生みます。