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「人材確保と定着」我が社の取り組み⑤2016.5.21

亀山昭一さん(アポロ警備)

警備員とよく話し合う

――採用に「Fターン就職」を活用されています。

これは福島県が行っている「ふるさと福島就職情報センター」の取り組みです。故郷に戻るUターン、県外から来るIターンなど、福島で働くことを“Fターン就職”と呼んでいます。インターネットのサイトや東京都内と福島県内の相談窓口を通じて、就職したい人の希望や条件に応じて県内の企業がマッチングされます。

昨今の人手不足の中、当社は紙媒体やインターネットで求人広告を出しても応募者が現れない状況でした。しかし今年2月に、このFターンで50代の男性4人を紹介されて3人が入社し、現在は交通誘導警備業務に従事しています。

――採用までを聞かせて下さい。

面接の時に相手が持っている“不安”を取り除くことが必要でした。これはFターンで紹介された人に限りませんが、応募する人の中には、警備員の業務がどういうものか分からないために、不安を感じて採用を辞退する人もいます。相手の思っていることを聞いた上で、丁寧に説明して理解してもらうことが大切です。

転職する人は誰しも不安や悩みを持っています。以前、面接の時に応募者が、神経性胃腸炎でトイレが近いため警備員が務まるか不安だと打ち明けました。そこで私が現場でフォローすることにして採用したところ、その人は現場に出て数日後には慣れて、心配がなくなりました。

採用の時も、また長く働いてもらうためにも、相手に配慮することが重要と思っています。

――東日本大震災で被災された後に、警備業界に転職されました。

私は宮城県気仙沼市の自宅が浸水したため、妻の実家がある福島県郡山市に転居し、縁あって当社に入社しました。

警備業界は初めてでしたが、当社のアットホームな雰囲気に触れて不安は消えました。私が面接の時に応募者の不安を解消しようと思うのは、自分の転職経験が元になっています。安心して働ける職場づくりとして、当社は対象者の全員が社会保険に加入しています。離職を防ぐためには、やはり福利厚生は不可欠となります。また、日頃から警備員とよく話すように心掛けています。生活面や健康面などで悩みがあれば相談に乗ります。不安や不満を早めに聞いて親身になることが定着に結びつくと考えています。

――社内コミュニケーションの促進ですね。

話しやすい土壌づくりとして、当社は“アポロ・コミュニケーション”と名づけた教育を行っています。「業務で大切にしていること」などのテーマで感想文を書いてもらいます。悩みや本音を聞き出す上で、感想文という形でワンクッション置くほうが、お互いに話しやすくなると感じます。

元社員が復帰した例も

当社は“警備員の目線”を大切にしています。管理する側はつい“上から目線”になりがちですが、そうならないように、会社全体として警備員の立場になって考えるようにしています。 これは14年前に創業した当社が軌道に乗るまでに苦労もあった中で、“警備員あっての会社”という意識が根付いたためです。警備員を大切にすることが会社の発展につながるというのが社長の一貫した信念です。

警備員検定に関しても、特別講習の費用を会社が全額負担して、会社を挙げて応援しています。 1人を採用するのも大変な中、離職した人が戻ることも大事です。先日、異業種に転職した元社員から個人的な相談で電話をもらい、それがきっかけで当社に復帰することになりました。根気よく話を聞いて良かったと思います。

――警備業界に若者を集めるために必要なものは何でしょうか。

やはり賃金アップが優先項目で、若者が結婚して家族を養っていける待遇が必要と感じます。そのためには適正な警備料金の確保ですが、昨今は警備料金が上昇傾向にあると感じます。

料金が高めでも警備の質が高ければクライアントに納得していただけるというのが当社の考え方です。「この警備員がいるから大丈夫」という信頼感を与えることです。例えば施設警備などで、体調を崩したお客さまが「具合が悪い」と言う前に、様子を見て積極的に声を掛ける姿勢が重要です。

防犯カメラやセンサーなど警備のシステムは日進月歩ですが、人が目や耳から得る情報は本当に大きいです。得た情報をもとにして的確に行動できる警備員の教育・訓練に今後も力を入れていきます。

「人材確保と定着」我が社の取り組み④2016.5.1

田中敏也さん(リライアンスセキュリティー)

”母校”で採用実績を作る

――新卒6人が入社したとか。

以前は新聞の折り込み広告・フリーペーパーなどの紙媒体やインターネットを使ったり、公的機関の紹介制度も利用しましたが、人材確保に苦戦してきました。そこで当社が最後に頼りにしたのは“新卒”です。今春、新卒採用5期目で、大学卒4人、専門学校卒2人が入社しました。

――どう採用につなげましたか。

実際に学校をまわってみて、就職担当者は警備会社の求人に冷淡でしたが、我が母校では話を聞いてくれました。採用実績ができると、他校でも徐々に話を聞いてくれるようになり信頼関係が築かれ、紹介をもらえるまでになりました。現在、幹部社員にも自分の母校に求人のアプローチをさせています。求人条件は「真面目でコツコツ働いてくれる人なら受け入れます」と間口を広く提示します。

――将来の頼もしい戦力です。

新卒者は永く働くつもりで入社していますから中途採用者に比べ、会社側は退職を考えずに済みます。重要なのは“新卒者の受け皿”で、当社は教育プランなどの社内体制を整えるのに3年かかりました。警備員にとって教育は大事ですから、私は研修中は社長室のドアを開けておき、状況が聞こえるようにしています。私が指導者に伝えているポイントは2つあり、「教えていないことを警備員に求めない」と「甘やかす必要はないが大切にされていると感じさせる」です。

研修は警備の技術だけではありません。当社では挨拶、言葉遣い、服装・身だしなみ、姿勢・態度、順序・序列、表情など“人間力(ヒューマンスキル)”を大事にしてきました。検定資格のようにスキルが明確にならないため疎かにされがちですが、実は警備員にとって最も大切な部分です。

――警備員は会社の財産です。

自分だけが幸せになるために会社を運営している経営者を、多く見掛けます。まずその考えを改め警備員の幸せを第一に考えるだけで、全てが良い方向に向きます。

将来は“特別警備隊”設置の計画もあり、武道の有段者や語学検定の所有者など特殊な技能には手当を付与します。技能を更に伸ばしたい人には受講料等の費用負担を支援して、スキルアップに努めてもらいます。発注元には、特殊技能分を付加した料金を請求する予定です。

――社員の成長は、会社の成長につながります。

労働環境を整え、会社のブランドを上げることが社員の定着につながると考えています。経営者は会社のための優先順位を考え、実行していく必要があります。最優先すべきは、社会保険加入・法定労働時間・割増賃金などの整備、つまり“コンプライアンス”です。実績を上げた社員へのボーナス支給が大事と錯覚している経営者がいますが、ボーナスをもらった社員が労働基準監督署に駆け込んで「時間外割増をもらえない」と訴えた他社の事例もあります。ボーナス支給は会社として利益を出してから、つまり優先順位の最後でしょう。

――警備業は、様々な対応が求められる時代となりました。

かつて2号業務の警備会社が利益を出すには「正社員の比率は2割まで。その他はアルバイトを活用する」という誤った運営指針がありました。その時代を経験して、そこから抜け出せない経営者がいます。業界全体が大きな革命期に入っているのに、頭の切り替えができない旧態依然とした会社に明日は無いと思います。

会社の優劣を“警備員の人数”で計るナンセンスな風潮が、未だにあります。競うべきは企業がどんなビジョンを描き、社員を大切にするしくみを考え、付加価値の高い仕事をして、利益をどのぐらい出しているかです。私は社員が「辞めたい」と言ったとき無理に引き止めず、社員が減っても質を上げて売り上げをアップさせる“引き算の経営”にシフトチェンジしています。

――発想の転換ですね。

私と同じように腹をくくって社内改革を進めている経営者は、大勢います。創業者から世代交代したり、異業種から参入している人が多いですね。

経営者は労働環境の整備を根底に、警備員の採用・定着・レベルアップについて自らが陣頭指揮をとり、「こうやるんだ」と示さなければいけません。それは経営トップの責任であり、社員が50人でも1000人でも変わりません。

我が社は今年度、将来有望な若者を採用することに命がけで取り組み、来期は新卒20人入社が目標です。