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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員②2024.01.21

濱崎宗成さん(近畿システム管理)

講習の帰り、女性を救護

近畿システム管理の常駐警備員・濱崎宗成さんは昨年5月23日、兵庫県伊丹市内で川底に沈んでいる高齢女性を発見。川に入って女性を岸に引き上げたが意識がないことから心臓マッサージを繰り返した。まもなく女性は意識を回復、付近にいた人の通報で駆け付けた救急隊員に引き継いだ。

<<偶然にも会社で心臓マッサージの講習を受け、帰宅途中だったそうですね>>

私はその日の午前中、現任教育で普通救命講習を受講しました。午後1時30分頃、天王寺川沿いの停留所でバスを待っていると、少し離れた場所で血相を変えて携帯電話をかけている女性がいることに気が付きました。何事かと思って立ち上がり川を見下ろすと、水底で何かがたなびいています。間もなく、それは人の衣服であることに気が付きました。

水中に沈んでいたのは80代ぐらいの女性で、後で聞いた話では妹さんと高さ4メートルほどの土手を歩いていて転倒し、落ちたそうです。私は川に背を向けてバスを待っていたため、女性が落ちる瞬間を目撃していませんでした。

<<状況は一刻を争います>>

私はすぐに土手を駆け下り救助に向かいました。川幅は20メートル近くありましたが深さは1メートルほどで、腰まで水につかりながら女性を引き上げようと試みました。しかし服が水を吸っていたため想像以上に重い。服をつかんで岸に上げ堤防の斜面にあおむけに寝かせるのが精一杯でした。

女性はマスクをした状態だったためはずすと、唇が紫色に変色し口は半開きの状態で、舌が力なく出ています。かなり危険な状態であることは一目でわかりました。

「大丈夫ですか?!」

大声で呼び掛け、身体を揺すっても反応がありません。その時、まず考えたことは「水中で何分経過したのか」です。

近くで呆然としている妹さんに問い掛けると「4〜5分ぐらい」とのこと。その日に受けた救命講習で「心肺停止後5分で生存率25%の危険な状態」と習ったことを思い出しました。私は即座に、習ったばかりの心臓マッサージを行いました。

<<斜面での心臓マッサージは難しかったのでは>>

体重をかけにくかったですが、胸の真ん中あたりに手の付け根を当て何度も押し続けているうちに、口から水を吐き出し「ううっ」とうめき声が聞こえました。

「助かりそうだ!」。そう感じながらさらにマッサージを続けていると、左の肩口から「大丈夫ですか。交代します」と救急隊の方に声を掛けられました。

救急隊は女性を手際よく救急ボードに載せ、私が重くて上げられなかった堤防の斜面を難なく引き上げて救急車両に搬送、妹さんも同乗して病院へ向かいました。

通報の内容からは現場の状況が分かりにくかったようで、緊急車両は消防署から6台、警察署から車両2台とバイク1台と、万全の体制でした。

その日の夕方、妹さんからご丁寧なお礼の電話をいただき、そのときにお二人が姉妹だったことが初めて分かりました。

<<習い立ての救命知識が功を奏し、消えかかった命を呼び戻しました>>

その偶然には驚きました。講習を受講していなかったら、私はどうしてよいか分からなかったと思います。

その後、6月に伊丹警察署内で表彰式があり、伊丹市消防局長から人命救助の貢献で感謝状を、兵庫県知事からは県内の善行を表彰する「のじぎく賞」をそれぞれ頂きました。

身に余る光栄で、警備隊長をはじめ同僚から祝福の言葉をもらいました。女房からは「よかったやん。でもあまり危ないことはせんといて」と心配されました。

<<今回の救出事案を経験して何を感じましたか>>

救急隊のプロフェッショナルな仕事ぶりを目の当たりにして、現場や社内教育などを通じて警備業務の質を上げていきたい気持ちが強くなりました。私は65歳の定年まで郵便局に勤務し、警備員になってまだ2年目の「新人」なので多くを学びたいです。

<<予期せぬ事態への対処も求められる厳しい業務です。息抜きになる趣味はお持ちですか>>

鈍行列車で行くひとり旅が好きで、田舎町を日帰りでのんびり散策しています。昔、父に連れられてディーゼル車両の福知山線で旅行をしました。当時の郷愁が蘇るのです。

私は20歳から10年ほど少林寺拳法を習い3段までとりました。その頃、精神面を鍛えられたことが、今回の事案であわてず対処できた理由かもしれません。