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「働き方改革」我が社の取り組み2017.6.21

菅野義明さん(SPDセキュリA 代表取締役社長)

勤務時間、月単位で調整

――「働き方改革」を政府が推進しています。

今年4月から内勤者は完全週休2日制にしました。年次有給休暇の消化率はまだ低めなので、今年度はさらに徹底させます。

――残業については?

管理職と内勤者は、定時内に仕事を終わらせて退社するよう指導しています。どうしても残業する場合は各自申請し、所属長が必要と判断したときのみ承認する“許可制”をとっています。また勤務時間は各支社で業務の実情に合わせて開始・終了時刻を変える“フレックス制”を導入しています。

外勤の警備員については、現場によって残業が発生するため、勤務時間のバラつきを月単位で調整する“変形労働時間制”を採用しています。代休をとることで1か月の労働時間をオーバーしないよう各自で調整します。「休日出勤して賃金を稼ぎたい」という隊員も説得して休ませています。

――「仮眠時間を労働時間とする警備員の主張」を承認する判決が地裁で下されました。

当社ではその事案が発生する以前から「仮眠を含む休憩時間は業務にあたらず、隊員は制服を着替えて買い物等のため外出することもあります」とユーザーに明確に伝えています。複数配置の場合はほぼ問題ありませんが1人だと労働から解放されにくく、今回のようなトラブルが起きかねません。

そこで夜間の1人勤務は2人に切り替える交渉を行い、それでも1人しか配置できない場合は深夜の仮眠時間を労働時間と見なし、割増し料金として警備料金に反映させる折衝をします。1社のみの主張ではユーザーからの理解を得にくいことから、業界全体で同様に主張することが理想的です。今後は隊員を増やし、配置人員を拡張する努力も求められます。

――そのための原資として、適正料金は得られていますか。

当社の業務は7割が1号で、残りは2号です。1号の場合、継続する契約の料金は微増の状況ですが、新規契約については事情を話して粘り強く交渉し料金を上げています。

2号に関しては道路・建築工事の交通誘導は行っておらず、イベント会場やスーパーマーケットの駐車場での業務です。計画立案から参入して機材の貸し出しも行い、それに見合った十分な料金を頂いています。

――2号業務では、現場の労働環境改善が求められています。

警備現場のトイレがよく問題になりますが、当社の場合は施設のものを使わせてもらっています。

夏期の熱中症対策では、スポーツドリンクを冷水機で用意したり、市販の飲料の費用を会社が負担して強制的に水分補給するよう指導しています。複数勤務が多いため、体調が悪い人を周囲が早めにケアできる体制ができており、重大な事故は発生していません。

――若い警備員も多いと聞いています。

イベント警備で大学生のアルバイトを採用し、そのまま社員になるケースもあります。若い隊員と年配の隊員を上手く組み合わせることで、よいチームワークが組めています。スーパーマーケットのオープン警備など同じ職種を続けているベテラン隊員が、チームの核となります。

――女性だけの部隊「Zレディース」が評判です。

部隊員はほぼ同時入社で約10年が経過し、結婚・出産の時期が重なったため現在10人のうち3人が育休中です。産休・育休をとった後は職場への復帰が可能で、女性社員にとって安心して働ける環境が整っています。

――社員のモチベーションを上げる取り組みの一つに「100キロ歩け歩け大会」があります。

一般参加を含め100人以上が出場する大きな大会です。当社が主催していますが、基本的に裏方として大会を支えています。東日本大震災が発生した年は中止とし、大会予算の全額を被害が大きかった宮城県石巻市に寄付しました。その年は“幻の大会”となり今年で実質11回目です。

スタッフはコンビニなどを休憩所に使わせてもらえるよう交渉するところから担当しますので、業務につながる訓練にもなっています。選手として出場した若手社員は「こんなに苦労したのだから会社を辞めるのはもったいない」という気持ちになるようです。

――「無添加米」の稲作を毎年行っているそうですね。

新潟県南魚沼市の田んぼを借りて、農家の方々の指導を受けながら、社員とその家族で田植え・稲刈りを行います。毎年1トンぐらい収穫し、3キログラムずつに小分けして日頃お世話になっているお客さまへ感謝の気持ちを込めて差し上げています。苦労して育てた稲が実るとき達成感を味わい、食料の大切さや協力して仕事をする喜びなどを皆で分かち合っています。

「働き方改革」我が社の取り組み2017.6.11

山﨑雅弘さん(山光取締役会長)

「認識の共有」「信頼」が大切

――長時間労働の改善をはじめとする「働き方改革」を政府が推進しています。警備業界では先月、1号業務で仮眠時間を労働時間と認める地裁の判決が下りました。

仮眠時間の扱いに関しては、経営者と隊員の間で認識の擦り合わせができているかが大事です。警備会社は今後、細かい取り決めまで就労規則に謳う必要性も出てくるかもしれません。日頃、両者の間で信頼関係がしっかり築けていることも大切です。

――時間外労働については?

当社では、社会保険労務士に相談しながら労務管理の整備を進めています。業務は、施設・JRの見張り業務・交通誘導の3本柱ですが、例えば交通誘導の現場で作業時間が延長した場合、そのつど他の隊員に交代させることは難しいです。また隊員の中には「少しの時間なら残業をして稼ぎたい」という気持ちがある人もいて、定時に業務を終了させる指導は現実的には困難な面があります。

――隊員の処遇を含め業界の全ての課題が、原資なしでは改善できません。適正料金は確保できていますか。

2号業務については発注元に対し、社会保険や福利厚生、教育などに費用がかかることを細かく説明しています。まだ十分な料金ではありませんが、以前に比べるとかなり理解を得やすくなってきており、今後、各経営者が同じ意識を持つことができれば、更に良い方向に向かうでしょう。

もし仕事をもらうために安い警備料金を提示するなら、業界から排除されても仕方ないと私は考えています。労働環境を整え、良い人材を集めて質の高い警備を提供していかないと、警備業界に未来はないからです。

――1号業務の料金についてはどうですか。

競争入札制度で安売り合戦のあげく仕事を獲得する“負のスパイラル”が、業界の発展を妨げてきました。底値無しの低料金で受注しても適正な警備業務は見込めず、結果としてユーザーにも迷惑がかかります。行政側の線引きも必要だし、警備会社の経営者は目先の仕事がほしいばかりに値を下げることは控え、意識とモラルを改めるべきです。

ダンピング競争とは、経営者同士がお互いの首を締め合っているようなものです。当社も、粘り強く交渉を続けてようやく料金の値上げを了承してもらったところで、安値で提案してきた他社に仕事を持っていかれた苦い経験があります。

――質の高い警備を提供するには、良い人材を確保する必要があります。

県内では「仕事はあっても人がいなくて受けられない」という状況が、昨年から続いています。当社は「有田みかん」など県内の特産品であるみかんの生産が盛んな地域にありますが、秋から冬にかけて収穫・出荷の最盛期を迎えます。その時期は交通誘導の繁忙期と重なることから、創業以来、慢性的な人手不足となります。

当社で対応可能な範囲の業務のみを担当し、受けきれない業務は発注元に迷惑をかけないよう会員会社を紹介させてもらっています。反対に4月から6月までの閑散期は仕事が少なくなり、今後対策が必要です。

――隊員の定着はどうでしょう。

入社する隊員は50代・60代が多いのですが、社内はアットホームな雰囲気で定着率はよく、10年以上在籍する人も多いです。入社してうまく仲間に溶け込み馴染めた人は長く在籍する傾向があり、人間関係が定着のポイントとなっています。

毎月25日の給与支給日に全員が本社に集まり、ミーティングを行います。これは隊員同士だけでなく、隊員と経営者がコミュニケーションをはかる場でもあります。先月の集まりでは、昨年の夏期に全員に配布したヘルメットの後ろに付ける日除けについて「格好が悪いから変えてほしい」との要望が隊員からありました。そして熱中症対策グッズについて具体的な商品名を挙げ、「効果が高いので検討してほしい」という意見を出しました。そうした声が活発にあがることから、社内の風通しは良好と感じています。

――会社経営は2代目(国寛氏)に託し、山﨑会長は今年度、県内の警備業の発展に尽力されます。

今後、会員各社の入札状況を調査した上で、労務委員会と理事会に諮って適正料金を試算し、県や主な市に要望書を持って陳情に伺う必要があると考えています。

また県内で認定を受けた警備会社は約110社ありますが、そのうち協会加盟は55社と約半分ですので、今後は加入率を上げて情報や意識の共有を一層図る必要があります。

「働き方改革」我が社の取り組み2017.6.1

小林正和さん(グリーン警備保障代表取締役社長)

「生活が安定する環境」に

――グリーン警備保障が5月5日に隊員625人を集めて行った合同現任教育を取材しました。少しでも汚れた制服を着ている隊員は、すぐに着替えさせていたのが印象的でした。

警備業は高齢化が進み、若年層が参入しなければ業界に未来はありません。そのためにも「警備員の外見」はとても大事で、常に清潔感を感じさせることを心掛け最低2着の制服を支給しています。

――合同現任教育では、交通誘導2級・雑踏2級検定資格の模範演技を参加者に見せました。

都内の指定路線が増加することを想定し、約600人いる資格者を1000人まで伸ばすことを目指しています。隊員は資格を持つことで賃金に手当が付き、仕事に責任感が出てモチベーションが上がります。

資格所持者は一目でわかるように、ヘルメットに2本線を入れ、夜間は夜光チョッキの色を変えています。外見から明確に認識できることもあって、資格取得にチャレンジする隊員は増えました。

――社長挨拶では「働き方を改善していく」と隊員に向けて明言していました。

特に2号業務の場合、外で行う業務だけに夏や冬の気候の厳しさがあります。これからの季節、熱中症も発生します。その対策については発注業者と一緒に考え、十分な水分摂取、休憩時間をこまめにとるなどの注意が必要です。

現場でのトイレの問題については、現状ではコンビニなどを使わせてもらっています。特に女性隊員の労働環境は改善が必要ですが、環境面の整備は業界内でほとんど手がつけられてない状況です。建設業でも若年層が不足していることから、発注業者と一体になって考えていくべき問題です。

社会保険は国土交通省が示した加入期限は過ぎましたが、労働者単位で100パーセント加入達成を目指し、促進中です。また有給休暇については現在取得率40パーセントですが、今後はもっと上げていきます。社保加入も有休も一旦推進すれば後戻りできません。

――2号専業でありながら、本紙の年末恒例企画「売上高ランキング」では昨年15位でした。

業績が伸びている理由として、隊員の警備の質・人数などでお客さまの要望にもいつでも応えられる体制を整えていることが挙げられます。「若い隊員が多い」という評価もいただいています。

社員の目標になるポストを用意する目的もあって支社数を増やし、現在、16支社あります。首都圏に限定しているのは隊員同士の連携、応援体制を敷くことを重視するからで、全社で協力し合ってお客さまの要望に対応します。

当社の営業戦略は“一律料金”というシンプルなものです。スポットの作業だから料金を高く頂いたり、長期間の仕事だから安いということはありません。都内は警備員不足ということもあり理解を得やすいのですが、地方だと納得してもらえない場合もあります。それでも地域差はつけず、理解を得られない場合は「それでは安い会社でお願いします」とお断りします。隊員の社保加入や処遇改善を推進するために、料金の値上げも毎年お願いしています。

――若い隊員が多いですが、採用はどのように?

ホームページからの募集では、動画で業務説明をするなど工夫しています。実際に作業しないと適性がわからないことから面接ではあまり人選せず、まずは教育して勤務してもらいます。

バブル崩壊後、景気が悪化してリストラが増えた時代は警備業に就く人が増えましたが、今は残念ながら「警備員を一生の仕事にしたい」と思って当社に入社する若い人は皆無です。他にやりたいことがあるけれど生活のためだったり、親に言われて「登録だけしておこう」と考える無職の人もいます。それらの人をいかに定着させるかが勝負と考えています。そのためには「生活が安定する環境」を提供しなければなりません。

――CSRの一環として社会貢献活動を行っています。

創業者で代表取締役会長である兄(小林一雄氏)が、社会貢献の取り組みとして平成15年に「特定非営利NPO法人きぼう」を設立し、理事長を務めています。障害者や高齢者の社会参加や地域生活の支援を行っており、活動の一例として平成22年に杉並区立「ゆうゆう大宮堀ノ内館」の受付や管理業務、恊働事業を区から受託しました。この場所は高齢者が趣味や健康づくりなどを楽しむ“憩いの場”です。

当社は社会情勢の変化など見ながら、できることから取り組んでいます。その中で普遍的な私の願いは「社員に『グリーン警備保障に勤めてよかった』と思ってもらうこと」に尽きます。