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「人材確保と定着」我が社の取り組み㉙2017.3.21

山﨑暁生さん(朝日システムズ代表取締役)

「教育」は循環の“源”

――今年、創業50周年です。

当社は昭和42年に、父・經策が「朝日警備保障」という社名で埼玉県狭山市に設立しました。昭和47年に機械警備に着手し、警備以外にビルメンテナンス、人材派遣と業容拡大を図り、今日の礎を築きました。私は平成10年に入社し、父が他界したことから平成23年に代表取締役に就任。長く勤めている相談役をはじめ多くの人の支援を受けながら、今日まで経営の舵をとってきました。

――課題となっている人手不足には、どう取り組んでいますか。

求人誌など紙媒体、ハローワークをメインに求人をかけていますが、数年前と比べると格段に反応が少ないです。心掛けているのは、応募してくる優秀な人材を確実に入社まで導くこと、既存の社員を辞めさせないことの2点です。

――具体的には?

父が創業時からモットーにしていた言葉に“警備業は人が全て”があります。会社の業績も評判も警備員の働き方次第です。質が高い優秀な警備員を育てるために、当社は教育に力を入れてきました。本社近くに平成15年、「あさひ錬成館」という2階建ての研修センターを建て、学課から実技まで学ぶ環境が完備しています。

応募してきた人には、受け入れ体制が整っていることを説明して入社を促します。警視庁OBの非常勤講師6人、指導教育責任者20人がみっちり教えますから「警備員の教育はこんなに厳しいのか」という感想を持つ人も多いようです。

――定着についてはどうですか。

やはり教育の話になりますが、検定資格を取得させます。当然、受講料は会社持ちで、取得後は手当を付けます。それ以上に大事なのは、社内でもユーザーからも重要視されることで本人の心に“やりがい”が芽生えることです。そして警備の面白さを感じてくれれば、もう簡単に辞めようとは思いません。現在、社員の3分の1が検定資格保有者です。

“質の高い警備員”は会社にとって“優秀な営業マン”です。警備料金の交渉に良い材料となり、経営基盤を固めて職場環境や労務管理の改善につながります。

――全てが良い方向に向きます。

警備業にとって“正のスパイラル”の源は、「教育」に尽きると考えています。私は持論として「自分が幸せでないと他人を幸せにできない」と思っていますが、イキイキと仕事をしている社員は社内にも好循環を生みます。

――警備料金は適正額を確保できていますか。

交通誘導警備員の労務単価がここ数年上昇していますが、当社は1号業務が大半を占めていますから、営業力が重要です。株主である朝日生命保険相互会社出身の営業のエキスパートが、スーパーバイザーの立場で陣頭指揮をとっています。

当社は安い金額では仕事を請けませんから顧客の新規開拓は苦戦していますが、既存のユーザーに誠意を持って説明することで少しずつ料金アップを図っています。大切なことはユーザー側の状況や立場も理解して交渉することで、長い付き合いの中で信頼関係が構築できています。

――良い状況で半世紀を迎えられます。

社員定着のためには社内の雰囲気づくりも重要です。勤務時間が異なるので皆で集まれる機会は少ないですが、昨年暮れには忘年会を開いて親睦を深めました。クリスマスには毎年、社員の自宅にギフトカタログを送り、会社からのプレゼントを提供しています。

警備業は人が全てですが、会社も人が全てです。気持ちよく働いてもらう環境を作ることは経営者の務めだし、時には厳しく指導することも必要です。社員を大切にする気持ちから発する言葉が琴線に触れ、人を動かすと信じています。

「人材確保と定着」我が社の取り組み㉘2017.3.11

矢口寛志さん(和光産業 代表取締役)

現場の声に素早く対応

――求人方法について聞かせて下さい。

ハローワークや求人情報誌などオーソドックスな募集ですが、若い人を採用したい場合は社内の若い人たちに募集内容を見せて、この会社に応募したいと魅力を感じるか、確かめるようにしています。しかし人材難は厳しく、多くの現場が充足していない状況です。

――社業はビルメンテナンスが主体です。

社員1100人のうち警備部門に従事しているのは180人ほどで、施設警備が8割を占めます。当社は父(矢口嘉助名誉会長)が昭和35年に創業して建物の総合管理を行い、警備業法が施行された昭和47年から警備業務を開始しました。

施設を訪れる方に初めて接する警備員は、施設の第一印象を決めることもあるので礼節と人間味のある対応が欠かせません。お客さまからクレームがあった場合は、直ちに是正をし、各現場が情報共有することで同種のミスを予防します。一方、お客さまに褒め言葉を頂いた時も、すぐ現場に伝えます。

――ビルメン業界は警備業界と同様に社会保険未加入問題が課題となりました。

ビルメン業界で社会保険問題が提起された時期は警備業界よりも早く、10年近く前でした。その後、業者に年金事務所の調査が入るなどして加入が進みクリアされています。

当社は社保加入を当たり前のこととして推進してきました。この問題は結局、経営者のコンプライアンス意識と、お客さまの理解を得て適正料金を確保することに尽きると思います。

――定着に向けて大切にされていることは。

働きやすい環境を整えるために、現場の声を聞いて迅速な対応を心掛けます。近年は介護のために休みを取りたい人も増えており、社員の事情を汲みながら組織としての柔軟な対応が求められると実感します。

現場から“こうしてほしい”という要望に対してノーと言う場合は、どうして実現できないか、理由を丁寧に説明します。返答を先延ばしにしたり説明が不十分だったりすると人の心は離れます。

社内のコミュニケーションを密にして、疑問や不満など現場の声を内勤者が聞き漏らさない日ごろの積み重ねが重要と考えています。「この会社は良い」と社員が感じる機会が多いことが、離職を防ぐ上での鍵になるのではないでしょうか。また、社内に“世代の垣根”を作らないようにすることで職場の風通しが良くなると思います。

――ビルメン業では清掃などで多くの女性が活躍しています。

当社の女性警備員は10人ほどですが、女性の雇用拡大のために産休・育休はもとより、子供に手がかからなくなって働き出した女性も家庭の事情などに応じて休みを取りやすいようにシフトを調整しています。

――社内のバス旅行や暑気払い、新年会などでは内勤の方々が現場の方々の“もてなし役”を務めます。

社内レクリエーションは単なる慰労でなく、<現場と内勤が一体感を持つ>ことを目的に行っています。参加できない人もいるので会費制ですが、会費以上に楽しめて“次も参加したい”と思ってもらえるように内勤の社員は一生懸命、ホスト役に徹します。現場の社員は直行直帰が多いので、内勤者とコミュニケーションを深めることによって業務は一層円滑になりますし、無用な誤解なども防げます。

――神奈川県警備業協会川崎支部の支部長を務め、昨年は航空自衛隊百里基地などを見学しました。

支部活動は、会員同士が互いの情報や意見を交換して社業に役立てる良い機会と思っています。しかしここ数年は残念ながら、2号業務を主体とする会員が支部の会合に出席することが減っています。そこで新年度は、より多くの会員にとって関心が高く参加者が増えるような企画、例えば適正料金に関する勉強会なども検討していきたいです。

適正料金の確保は、業界全体の発展に直結すると思います。今は、業務の品質を高めて対価も高める絶好の機会を迎えていると感じます。

「人材確保と定着」我が社の取り組み㉗2017.3.1

大山恭子さん(結 代表取締役)

高齢警備員は貴重な戦力

――隊員に占める高齢者の割合が高いです。

隊員の約6割が60歳以上です。あえて高齢者を採用してきた訳ではなく、創業当時からいる隊員が定着してくれ、現在に至っています。

当初は65歳を定年とし、その後は5歳刻みで再雇用を行ってきました。しかし、5年ほど前に再雇用制度の“年齢制限”を廃止しました。隊員からは「この会社は元気だと、いつまでも働ける会社」と好評です。

更に、定年制そのものを廃止するために、就業規則の見直しを行いました。

――高齢者を活用する上で留意していることは何ですか。

資格が必要な現場か、夜勤の有無、車両の交通量など現場の危険度を確認した上で、適正な配置を行っています。

また、高齢の隊員は朝には強く、遠隔地の現場も嫌がらずに行ってくれます。しかし、比較的近場である都内の現場は嫌がる人が多いですね。訳を聞くと、人混み、面倒な電車の乗り換えを嫌がっているようです。ですから、高齢隊員のストレスにならないような配置を心掛けています。

現任教育では、法定の教育事項に加え、腰を痛めないための体操やストレッチなども指導しています。隊員からは「こんな方法もいいよ」などの意見も寄せられます。

――加齢による体力の衰えなど、高齢者の健康管理は重要です。

再雇用の年齢制限の廃止により、隊員には自身の健康管理についての自覚が芽生え、自主的に健診を受けるようになりました。

また、日ごろは上番・下番の際の声掛けで体調を確認しています。管制など内勤の社員は毎週月曜日に朝礼を行い、体調が悪そうな隊員についての情報の共有化を図っています。

巡察は定期的に教育課長が行っていますが、私も隊員の激励とユーザーへの営業を兼ねて、月2回は差し入れを持って現場に出向くようにしています。

――高齢の隊員がもたらすメリットは。

警備員には、技術と人間性が必要です。なかでも、心遣い、気遣いができるのは高齢の隊員で、わが社の貴重な戦力となっています。私は機会あるごとに「皆さんは宝です」と言っています。

あるマンション建設現場では、最初は騒音などで近隣住民から多くの苦情が寄せられていましたが、高齢の隊員が毎日続けた挨拶や声掛けなどによって、現場全体が近隣からの信頼を得ることができました。近くに再びマンションを建設する際には「あの警備員さんがいるならしょうがない」という声までいただきました。

――レクリエーションが盛んです。

仕事以外の楽しみとしてレクリエーションに力を入れています。

春は花見を兼ねたバーベキュー、夏は有志による暑気払い、秋はボーリング大会、年末には表彰――といった具合です。

バーベキューには、隊員の子や孫などの家族、友人の参加もOKです。中には子や孫の友人を連れて来る人もおり、50人以上が参加します。普段はなかなか付き合いのない同僚同士、隊長と隊員という上司と部下が一堂に会して、お酒の力も借りながら会話することで、相互の理解が進みます。例えば、「厳しく安全について指導するのは、以前、現場でケガをした部下がいたため。そのようなことが二度とないように厳しく指導している」など、隊長と隊員が本音で語り合える絶好の機会となっているようです。

暮れの表彰は、功労のあった成績優秀者だけをたたえるだけではなく、「遠い現場も嫌がらずに頑張った」賞など、隊員の良かったこと、頑張ったことを見つけて、賞状を手渡しています。

現在、これらレクリエーションは、社員の中から出た「互助会を作ろう」という声を受けてできた“結の輪”が中心になって企画・運営を行っていますが、隊員の定着にも役立っています。

――これからの取り組みは?

女性、障害者にも間口を広げたいですね。女性はトイレなどの労働環境、立ち仕事による冷えなどの問題がありますが…。そこで施設警備への更なる進出も検討しています。施設警備によって、女性や高齢者の活躍の場がさらに広がるのではないかと考えています。