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警備業ヒューマン・インタビュー
――ラグビーW杯警備 2019.8.21

唐木信一さん(シミズオクト スペシャルセキュリティ部次長)

「動機の見えない犯罪」警戒

ラグビーW杯2019日本大会で、シミズオクトは会場内と会場外の警備に従事する。国際スポーツイベントの警備への取り組みを、現場の陣頭指揮を執る唐木信一次長に聞いた。

<<ラグビーW杯の警備を行ううえで重要なことは何でしょう>>

近年発生している国際テロの脅威に加えて、個人が不特定多数を狙った明確な動機の見えない犯罪も起こりうるため“あらゆる事象を警戒する時代”という認識を持つ必要があります。

事件やトラブルの予防策は、警備する側が隙を見せないことに尽きます。具体的には、確実なスクリーニング(手荷物検査)の積み重ねです。正確さに加えて迅速さも求められます。検査レーンに並ぶお客さまにお願いして事前にカバンを開けてもらい、金属探知機に反応する金属製品類はポリ袋に入れてもらうなど、検査への理解を得ることで時間は短縮され、より円滑に行えます。

<<スクリーニングの技能を高める取り組みは>>

実物を使う経験が大事で、支店やグループ会社など全国の拠点にハンディー型とゲート型の金属探知機を用意して訓練を行っています。訓練のテーマは「警備員の均質化」です。全国の担当者を本社に集めてスクリーニングの実技研修を行い、それぞれが持ち帰った内容を各地で広めます。金属探知機を扱う警備員のスキルにばらつきがなく、全国で均一の水準を保つための取り組みです。

ラグビーW杯の開催期間(9月20日〜11月2日)は、プロ野球がペナントレース、クライマックスシリーズ、日本シリーズで佳境を迎えます。各地の球場で警備を行う当社にとって警備員のやりくりが課題となりますが、これは全国の拠点から必要な人員を抽出することで対応できます。警備員不足が続く中、ニーズに応じて柔軟に動員できる体制づくりが重要になります。こうした動員を問題なく行うために警備員一人ひとりのスキルアップが欠かせないのです。

<<各国からさまざまな観客がスタジアムに詰めかけます>>

2002年のサッカーW杯日韓大会で当社は、国内10会場のうち8会場を警備し、フーリガンに対する警戒に万全を期しました。

ラグビーは「紳士のスポーツ」と言われ、選手はもとより観客も相手チームの健闘を讃えます。しかし、飲酒するお客さまもいるので一定の警戒は必要です。入場する時点で酔っているなど、観戦の妨げになる騒ぎを起こす可能性のあるグループがいれば、その動向を警備員が注視し警備本部と情報共有することで、トラブルが起きても早い段階で対処できます。

<<外国語対応も課題です>>

イベント警備に特化した英会話の文例集を作成し、警備員の教育に役立てています。ポケットサイズで「駐車場」「会場入口」「会場外」などのカテゴリーに分け、現場でも使いやすいものを目指しています。昨今はスマートフォンの翻訳アプリや手のひらサイズの音声通訳機もありますが、警備現場の意見を集めてセレクトした実用的な英会話テキストに仕上がっています。

英会話については東京2020を見据え、外国人社員が在籍する国際部と連携し「eラーニング」の準備を進めています。eラーニングは、前述した「警備員の均質化」を図るために有効と考えます。

<<東京五輪・パラリンピックが迫り、人材確保はどのように進めていますか>>

会場の案内スタッフを募集してアルバイトで採用した後に、本人の希望などを聞いて警備員教育を行い、実際に警備員として働いてもらいます。その中から能力や経験、本人の希望に応じて契約社員、正社員に登用します。警備業務と会場運営の両方を行う当社ならではの採用方法です。

スタッフとしてお客さまに対応した経験は、警備員になった時に生きてくるものです。また、2020年に向け、警備員に特化した採用活動も行っています。まずはアルバイトで入り、社内の業務をよく知ったうえで正社員になる人は定着率が高くなります。

新技術が導入される警備業ですが、マンパワーは今後も重要と考えます。国際スポーツイベントの警備を通じ、人材確保対策と教育・訓練、人事管理などが自社のレガシーとなるように取り組んでいきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く 2019.8.01

遠山倉基さん(イセット 岐阜支社・副支社長)

社業と格闘技両立、王者に

イセット岐阜支社(岐阜市)の副支社長・遠山倉基さんは、総合格闘技の団体「修斗」に所属するプロの総合格闘家だ。6月16日に北九州市内で行われた「プロフェッショナル修斗公式戦福岡大会・環太平洋ウェルター級タイトルマッチ」に挑戦して判定勝ちを収め、5代目王座に輝いた。

 <<タイトル獲得おめでとうございます。圧倒的に不利と言われた下馬評を覆しての勝利でした>>

対戦相手は道場を経営する格闘家で、100人ほどの応援団がバスに乗って会場に駆けつけ、祝勝会の予約もしていたようです。

私を応援してくれたのは、妻と2歳になる娘、職場やジムの仲間など10人ほどでした。当社の得意先のお客さまが作ってくれた「必勝 遠山倉基」の刺繍入りタオルが観客席で掲げられるのを見て“絶対に勝つ”と奮い立ちました。

総合格闘技は、パンチ、キック、投げ技、固め技などを駆使して、5分間3ラウンドを戦います。3ラウンド目、相手のパンチを顔面に立て続けに浴び、意識が飛びそうになりましたがKOされず、判定に持ち込むことができました。

<<社業と並行し、試合に出場するために95キログラムの体重を3か月間で18キログラム減量してトレーニングを重ねました>>

会社では店舗向けの機械警備システムの営業をはじめ、10人ほどいる警備員の人事管理、支社の運営全般に携わっています。

毎朝5時半から90分間、ジムで修斗の後輩たちとスパーリングなどを行った後に出勤します。入社以来5年半にわたる習慣です。休日の朝も同様に練習して、昼間は家族と過ごし、夜は娘が寝た後に筋トレに励んでいます。

時には欠員補充で私が夜勤の現場に出ることもありますが、夜勤明け等は練習をしません。がむしゃらに鍛える年齢ではないので、疲労をためないよう心掛けています。私の本業は会社員であり、疲労の蓄積や怪我などで本業に支障が出るなら引退しようと決めています。

<<社業と格闘技、両立する秘訣は何でしょう>>

1日の中で確保した練習時間を最大限有効に使うことに尽きます。練習は量より質、集中力だと実感しています。上司や同僚からは「よく毎朝続くね」と言われますが、私にとって続けることは苦労でなく、自然なことです。

小学校から大学まで柔道一筋で、卒業後に総合格闘技の道を選びました。体を鍛えて技を磨き、強い相手に挑むことが子供の頃から刷り込まれているのです。一時は専業の総合格闘家で会社に勤めず、朝から晩まで練習した時期もありました。結婚を機に、自慢の体力を生かせる職業として警備業を選んだのです。

出勤前の早朝練習を続けて9か月後の2014年10月、「全日本アマチュア修斗選手権ウェルター級」で準優勝しました。翌年は、プロとして新人王を獲得し、自信がつきました。日々の練習を重ねて、今回の試合は実に3年半ぶりでした。

両立できるのは、周囲の理解があるからです。社長からは、本社の会議などで会うと「体に気をつけて練習を頑張りなさい」と激励の言葉を掛けてもらえます。妻も、私の思いをわかって応援してくれます。社業と格闘技、家族で過ごす時間、この3つとも自分の人生に絶対に必要なのです。次の試合は未定ですが、世界ウェルター級への挑戦も視野に入れています。もう1度、妻と娘の前で勝つことが目標です。

<<格闘技の選手であることが社業で役立つことは>>

機械警備などの営業に行き、「総合格闘技をやっています」と自己紹介すると、「頼もしい人が来てくれた」と喜ばれて契約につながることがあります。地域に密着する企業の一員として“警備会社の人は力強い”というイメージを地元に広めながら、顧客満足度を高める各種のサービスを提供していきたいと考えています。

地域社会に貢献して安全安心を守る警備業は、なくてはならない仕事です。人材確保の厳しさが続きますが、1人でも多くの人が、警備員という職業に関心を持ってほしいと願っています。