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警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.02.21

八幡一久さん(有限会社協和整美 代表取締役)

自分で「規制図」作ってみる

«会社設立から15年、高速道路工事現場の交通誘導警備業務がメインです»

 高速道路での警備は、時速100キロ、一部区間ではそれ以上となるハイスピードの世界で、工事や清掃などを行う作業員の安全を守ります。一般道のように車に停止してもらうことはできません。もし1つの事故が起これば、たちまち重大な多重事故に発展してしまう危険があります。

車線規制、路肩規制を行う上で必須となるのは、隊員の機敏さです。居眠り運転などで不審な動きをする車はないか、絶えず注意を払って少しでも異変を感じたら、いち早く作業員に伝えて退避を促すなど、迅速で的確な判断が求められます。

高速道路の「集中工事」は数十キロに及ぶ長い区間で車線規制を行い、複数の工事が昼夜連続で行われるため、警備も24時間体制で取り組みます。こうした環境の中で作業員や隊員自身の安全を守る教育は重要です。

«新任・現任教育に加えて警備現場の実践的な知識と技能を身につける訓練が求められます。教育で大切にされていることは»

最善の安全対策を考えて積極的に意見を言う隊員を育てることです。隊員の思考力を磨き、より確かな事故防止策を常に考える習慣を身につけてもらうために、訓練や勉強会を行っています。

毎月1回、隊員が参加する「社内安全大会」を開きます。各地で起きた交通誘導警備の労災事故や「ヒヤリ・ハット」の事例をもとに、どうすれば回避できたか、各種の資機材の有効な活用方法などについて、一人ひとりが意見を述べます。

最近の大会では、工事の「規制図」作りに取り組みました。与えられた規制図に従って資機材を設置するだけでなく、隊員それぞれが「自分ならどのように規制するか」との観点から話し合うことで、危険に対する感度、事故防止の意識は高まるものです。現場パトロールを行って新しい情報を取り入れながら、安全教育を活性化するように心掛けています。

«交通誘導警備は、特に人手不足が深刻で、原因として職場環境の厳しさが挙げられます。どのように人材を確保していますか»

高速道路の警備は、一般道よりも危険というイメージが先行しがちで、当社の求人難は昨今に限らず、設立以来続いています。そこで、アルバイトで入ってきた人に会社の魅力を感じてもらい、早ければ半年ほどで正社員に登用して定着を図っています。

まず、「教育と事故防止策に万全を期すので高速道路の警備は決して危険ではない」と理解してもらいます。待遇面では、ほとんどの警備員を社員とし、固定給プラス歩合制としています。

待遇に加えて“自分の将来のビジョン”を持てる会社であることが大切になります。警備業務検定を取得し班長に昇進することや、現場を経験して営業職や管制業務に転じる道など、能力開発や適性に応じた将来像を社員に示します。2年後、5年後にキャリアアップしていく自分をイメージして「この会社で働き続けたい」と思えることが定着を促進するのです。

«求人難をはじめ諸課題の克服に向けて、警備業界は「適正取引の推進」を掲げています。業務を受注する際に、大切にすべきことは何でしょう»

警備会社がユーザーに対し今まで以上に主体性を打ち出すことです。受け身ではなく、現場の安全を守るプロとしての知識や自負、経験をもとに、より良い警備の方法を積極的に提案する姿勢です。

隊員の技能向上、資機材の活用によって警備品質を高めれば、料金や条件面の交渉を自信を持って行うことができます。適正料金の確保は、隊員の豊かな生活、幸せに直結するものです。隊員と家族から「この仕事を選んで良かった」と思ってもらえる経営を目指しています。

«内外の自動車メーカーは「自動運転」の開発にしのぎを削っています»

今後、高速道路で自動運転の実用化が進めば、将来はマンパワーによる交通規制の必要はなくなることが予想されます。高速道路に限ったことでなく、AIなど新技術の導入によって交通誘導警備・交通規制の在り方は、大きな変化が見込まれています。

人と技術の連携など、警備業務の進化に対応して取り組みを進めることが課題と考えています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.02.11

中島克也さん(セコムジャスティック)

全警協「模範警備員」シリーズ⑤

【全国警備業協会・会長表彰の理由】 都内の契約先銀行で、半年間で2件の特殊詐欺被害を未然に防いだ。

詐欺現場、柔らかい対応で

«当日の模様を聞かせて下さい»

昨年1月18日正午ごろでした。常駐警備を実施中の銀行出張所ATMコーナーに、年配の男性が携帯電話で通話しながら入室してきました。直感的に振り込め詐欺に遭われているのではないかと思いながらも、状況を確認することにしました。すると、男性は通話を続けたままATM操作を開始したので、「ATMの操作で分からないことはございませんか?」と声掛けを実施したところ、男性からは返事がありませんでした。

それでも声掛けを続けると、男性は「銀行員からの指示によって操作をしているところです。邪魔をしないで下さい」と返答されました。その時点で、男性が振り込め詐欺に遭われていると判断し、出張所の銀行員へ報告しました。その人が男性を説得し、ようやく振り込み送金の操作を止めてもらいました。

もうひとつの事案は、5月30日午後2時ごろに発生しました。同ATMコーナーに年配の女性が困惑したような表情で入室してきました。不審に思い女性に話を伺うと、女性は銀行員を名乗る男から近隣のATMまで行くよう指示を受けたと言います。話を伺う最中にもその男から何度も着信があり、私が銀行員に連絡して詳細を確認したところ、詐欺であることが判明しました。

«振り込め詐欺の被害は、全国で1日平均1億円と言われています。詐欺グループの手口も年々、巧妙になっているようです»

以前から「ATMご利用客を観察し、少しでも不審な点や不安そうな様子がうかがえたら、積極的に声掛けを行う」という会社の指示や、所轄警察署や銀行から特に年配の方には目を配るよう注意喚起がありました。これをもとに私が勤務するチームでは、詐欺の手口や被害に遭われている方の様子などを、事例を交えながら共有していたことが役に立ちました。携帯電話で通話しながらのATM操作は、詐欺被害の典型です。

私は、利用客の表情をよく見て状況判断することと、お客さまから詳しい状況を聞き取るための柔らかい対応が実践できたのが良かったと思います。途切れることのない警戒心で「見せる警備」によりお客さまや周囲の方に安全安心を感じてもらうとともに、困りごとなど必要がある時には相談してもらえるよう、日ごろから所作、言動には気を配っています。

«ATMなどを警備する警備員に被害防止のためのアドバイスを»

まず、私たち警備員は、どのような状況下においても冷静沈着な対応に努めることです。詐欺の被害に遭われている方は、犯人の巧みな誘導により精神的に余裕が無い状態になっています。警備員の声掛けに対して、よもや自身が詐欺に遭っているとは思ってはいないため、お怒りになられることも考えられます。警備員が声掛けする際には、相手の置かれた状況を想像して、落ち着いてよく話を聞くことが大切です。

もうひとつは、職場内の社員間で情報共有を行うこと。同じ現場に勤務する社員が経験したことや気になったこと、特にミスや改善が必要なことは、次に生かすという観点から共有することが必要だと考えています。

«常駐警備は市民の安全・安心を担う最前線のひとつです。今回の表彰を機に改めて感じるところはありますか»

改めて基本事項を徹底し続けることの重要性を感じました。弊社は、不審な点や異常な事態に「どうしたら気づけるか」を考え抜いて、マニュアルや基本事項を作成し、必要に応じて改善や追加をしています。私は、これらを忠実に実践し、犯罪を抑止することができたので、仕事のやりがいの大きさを実感することができました。

また、毎日勤務に就く現場に慣れて、同じ風景の連続だと思ってしまうと、異常事態を見過ごしかねません。私は「安全安心は、一瞬の油断で失われてしまう」と意識して、自分が「おかしい」と感じる“違和感”を大切にして、ひとつずつ妥協せず確認していくことが重要だと思いました。

常駐警備業務は、弊社グループの原点であり、従事する私たち一人ひとりは、高品質なセキュリティーサービスを社会に提供するために、これからも日々研さんし続けていきます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2019.02.01

勝又義人さん(東光ガード)

全警協「模範警備員」シリーズ④

【全国警備業協会・会長表彰の理由】 契約先の静岡浅間神社(静岡市)から「異常発報」を受けて敷地内を捜索し、賽銭箱を物色していた男を発見。現行犯逮捕(私人逮捕=刑法で認められた一般人による逮捕)し、警察官に引き継いだ。

駆け付け先では慎重に

«私人逮捕はどのように行いましたか»

昨年の4月27日、私は機械警備部に所属し、本社内で管制業務を行っていました。午後11時半過ぎ、静岡浅間神社の外周に設置されたセンサーから異常を知らせる発報があり、地区担当の隊員は別件に対応中だったため、私が車で急行しました。

静岡浅間神社は重要文化財に指定されています。神社に常駐する警備員が、私の到着前に敷地内を捜索していました。異常は見当たらず、イノシシや小動物にセンサーが反応した可能性もありましたが、私は侵入者が潜んでいることを想定し常駐警備員とともに敷地内を調べました。

本殿の方からゴトンと物音が聞こえました。確認に向かうと、賽銭箱を物色する男がいました。とっさに「何をしている!」と叫んだのです。

男は慌てて逃げ出し、本殿の階段裏手に身を隠しました。私は、警戒棒を構えて懐中電灯で照らしながら近づき、「動くな!」と一喝しました。男は初老でした。逃げないようにしゃがませて肩を押さえ、管制に連絡し、管制がすぐに110番通報しました。

男は観念した様子でした。事務所に連れて行き、駆け付けた警察官に引き渡しました。建造物侵入の現行犯であり、私が男の身柄を確保した時点で「私人逮捕」が成立したと警察官から説明を受けたのです。

当日の賽銭はほとんどが回収された後で、盗まれた金額はわずかでしたが、男は窃盗などの余罪が10件ほどあり、警察が特別警戒する対象者でした。後日、静岡中央警察署長から感謝状を頂きました。

«今回の経験で感じたことは何でしょう»

駆け付けた先で何が待ち受けているかわからない、慎重な対処が欠かせないと、改めて実感しました。高齢者の自宅に駆け付けて、救急車を要請した経験はありましたが、犯罪に遭遇したのは初めてでした。

現場に臨む時は、先入観を持たないことです。駆け付けた警備員に対し、侵入者が関係者を装って対応する状況もあり得ます。免許証や社員証を見せてもらって慎重に確認することが重要です。

発報を受けて施設の外周などを点検する場合に、若くて正義感が強い人は、危険を恐れずに行動しがちです。自分だけで判断しないで管制と緊密に連絡を取りながら、注意深く行動しなければなりません。相手から攻撃された場合に備え、護身術の訓練を重ねることも必須です。

発報があっても、事件事故と関係ない誤報の場合は少なくありません。しかし意外な状況もあります。閉店後のゲームセンターからの発報で急行すると、室内にいた人物は、帰りそびれた利用客でした。その人は休憩室で眠り込んでしまい、従業員が気づかずに施錠して帰った後、目が覚めて店内を歩いてセンサーが反応したのでした。

«人命救助で静岡市消防局長からの表彰も受けています»

これは5年ほど前ですが、同僚と車で警備先へ向かう途中、ジョギングをしていた人が歩道に倒れているのを発見しました。心肺停止状態でしたが、胸骨圧迫を続けると呼吸が戻ったのです。

それ以前に私は、交通事故の現場などを通り掛かった際に、人が倒れて意識不明となっている状況に遭遇したことが2度ありました。2度とも私が警備員になる前で、応急手当の知識を持っていなかったため手を差し伸べることができず、非常に悔しい思いをしました。

その後、私は地元の消防団に入って胸骨圧迫などの技能を身につけ「応急手当普及員」の資格を取りました。2度あることは…と言いますが、本当に3度目に人が倒れている状況に直面し、救命活動を実践できて良かったと思いました。消防団の訓練は、警備員としての技能向上に結びつきます。

訓練でできないことを、実際に行うことはできません。さまざまな事態に的確に対応できるよう、技能を高める取り組みを続けていきます。