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「働き方改革」我が社の取り組み2017.4.21

岩﨑龍太郎さん(ATUホールディングス代表取締役)

障碍者、戦力になる

――社員の半数近くが、身体の不自由な方と聞きました。

社員23人のうち障害者は男性9人、女性2人の合計11人で、重度障害が7人います。国から就労継続支援を受けられますが、当社は申請していません。それでも“純粋黒字”を実現しており、厚生労働省から評価を得ています。

――支援を受けない理由は?

社員に“本物の喜びや誇り”を感じてほしいからです。支援を受ければ精神的な足かせになるし、少額でも税金を払う立場になることで社会の一員としての実感を持てます。全員正社員で、社会保険にも加入しています

――障害者の法定雇用率は民間企業で2パーセントで、大手では赤字の部門も多いと聞きます。黒字の秘訣は?

おかげさまで警備の質が高いことから、警備料金は一日、1万5000円いただいています。当初は「健常者にお願いしたい」という要望もありましたが、実際に業務を見てもらい、信頼を獲得していきました。

――業務内容はどのようなものでしょう。

港湾施設・港湾制限区域で通行管理を行う保安警備など1号が65パーセントを占め、交通誘導が35パーセントです。対人対応は複雑な状況判断が必要なためシンプルな作業に分解できる交通誘導の方が向いています。

――教育についてはどうですか。

新任教育は、警備業法に定める30時間よりかかりますが、本人に就業意欲さえあれば必ずできるようになります。言葉のキャッチボールから始めて、1か月かけて教育します。

その後も法令上の半年に1回の現任教育では足りず、月12時間は座学の教育が必要です。精神障害で服用する安定剤にはストレスを軽減させる効果のほか、忘却作用もあるためです。職務を分解して教えるジョブコーチは、基本的に障害のある人が担当します。その方がスムーズに伝わるからです。

――教育のノウハウが蓄積されていきます。

彼らの作業はマニュアル通りで融通がききにくい面もありますが、一度記憶したことを忘れず長期間同じ作業を続ける能力は高いです。それは警備員として大きな価値となり、特性が活かせる環境を整えれば力を発揮できます。

健常者はパフォーマンスを100まで出せますが、それを維持できる人はほとんどいません。人間関係や怠け心などで平均すると60弱のアベレージです。一方、障害者はアベレージ70をコンスタントに続けられ、長期レンジで見ると勝っています。

――“働き方改革”とも呼べる雇用のきっかけは?

前の職場に勤務していた頃、ベストセラーとなったビジネス書「日本でいちばん大切にしたい会社」の著者であり、法政大学大学院教授で経営学者の坂本光司先生にお会いする機会があり、「業界の現状を見ぬフリしてはいけない」という言葉に衝撃を受けました。無職なばかりに無気力になり、短命で人生を終える障害者が大勢います。仕事から得る“人に必要とされている幸福感”は寿命にまで影響するのです。私は「彼らが日の目を見る警備会社を作ろう」と決心しました。

――大きな気付きでした。

創業2年の協同受注会社「ATUホールディングス」に入社し、障害者雇用を始めました。現在はユニティ、近畿警備保障、リンクファシリティーズの3社と運営しています。

――法政大学大学院にも在籍しています。

坂本先生が会長を務める「人を大切にする経営学会」に3年前から所属し、研究室に月2回通って「警備業における障害者雇用」の研究をしています。学術的な知見から解明することを目標に論文を作成してきました。明確な回答が出たら公表し、他業種でも活用してもらうつもりです。

学会の活動の一つとして、障害者雇用などを実践している志の高い経営者にインタビュー取材しています。会社の功績を紹介することで社員のモチベーションが上がり、離職率が下がります。私はいつか自社にもスポットライトが当たることを願っています。

――人材確保はどのように?

良質な経営を続ければ、求人広告を出さなくてもハローワークの紹介や評判を聞いて人材が集まります。当社の公式サイトには「会社の目的は社員の幸福を通じて社会に貢献する」とあり、その一文を目にして入社した社員もいます。

いい会社は求人難と無縁なほかに、人口減少の時代でも社員の出生率が高い。競争力もあるので税収不足も解決され、社会全体が明るくなります。

――今後の目標は?

「警備業で障害者雇用ができること」を実務と研究から証明します。現在、警備業の障害者雇用率は1パーセントですが、万人が働けるということを10年以内に証明し、4パーセントまで上げることが目標です。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2017.4.11

北野成明さん(金星 東日本営業部 営業課)

「環境改善」へ幅広く営業活動

――水球の日本代表選手です。

私は5歳のときからスイミング教室に通い、小学校2年生で水球を始めました。中学校でも続けましたが、その頃は後輩に怒られるほど下手な選手でした。

――上達したのはいつですか。

高校は水球の強豪・由良育英高校(現・鳥取中央育英高校)に進み、宍戸靖雄監督に基礎から徹底的に鍛えられ、全国大会に出場して、優勝するまでになりました。

力を合わせて勝つことが楽しくて更にのめり込み、“376連勝”でギネス世界記録を持つ水球部がある日本体育大学に進みました。現在「集団行動」の指導で脚光を浴びている清原伸彦監督による指導のもと、1年生からレギュラーメンバーとなり、国内では4年間勝ち続けました。

――その頃、日本代表に?

大学2年生のときから選ばれました。その後3年生の時に水泳世界一を決める大会「世界水泳選手権水球競技」に出場しましたが、世界の壁は高く、欧州の国々に歯が立ちませんでした。 

卒業が近づき、就職先は縁あって当社に内定しました。「目的を持って学ぶ姿勢があること」が重要な採用条件で、器用ではない私を評価してもらい営業職につきました。警備業も営業についても知識ゼロでしたが、高校時代に基礎から練習を積み水球の技術を身につけたことを思い出し、一から学ばせてもらいました。

――事業内容は幅広いです。

「人々の充実した生活のため自然環境、社会環境、生活環境の3つの環境改善」という事業目標を掲げ、現在の主軸は社会環境の改善へのアプローチとして、警備業向けに警備服や誘導灯など備品の販売・レンタルを行っています。また、お客さまがその業務を円滑に行い最大限利益が出せるよう、管理サービスも展開しています。

――管理サービスとは?

警備業の場合、貸与品管理が非常に重要です。誰にいつ何を何点貸与したか、といった状況把握をはじめ、様々な角度からの情報を有効活用するための独自システムを構築し、物品の保管や品質管理、実務代行なども含めた複合的なサービスを提供しています。このサービスを導入することで警備服などの品質やセキュリティーの維持向上、過剰購入をなくしたり貸与品回収率が上がったりといった無駄なコストの削減と業務効率化も喜ばれています。

更に貸与品管理と併せて「警備員教育」や「管制業務」などの人員管理サポートも行います。警備業界では2020東京五輪・パラリンピックを視野に、管理を徹底させる気運が高まってきています。

――その他の事業はどのようなものでしょう。

まず、極小の泡を発生させる「ウルトラファインバブル発生技術」を、主に特別養護老人ホームや病院向けとして提案中です。極小泡が入浴時にこすり洗いをしなくても皮脂などの汚れを取り除き、身体を清潔に保てることから入浴介助の負担を軽減できますし、一般の石油系界面活性剤に比べ対環境面でも優れています。この技術の更なる展開として、衣類の洗浄などでの活用も研究中です。

インフルエンザ対策に有効であることから「ハイブリッド式加湿器セットレンタル」の需要も増えています。レンタルなのでメンテナンスや保管の手間・スペースを省け、給水タンクに当社開発の固形タブレットを入れることで抗菌力も付加しています。このタブレットは警備服のリサイクル活用からヒントを得たものです。

――全て事業目標の“3つの改善”につながります。

電力を使わず太陽光エネルギーを活用した「ソーラー発光技術」も開発中です。電力整備が困難な山道・海岸・離島から市街地の案内表示まで用途は広くメンテナンスフリーで環境にも優しいです。

――「働きやすさ」が警備業の課題となっています。

新しい商品やサービスの創出・提供のために、お客さまが何を求めているのか、それが社会に役立つことか、社員は常に意識しています。そのために、上司は私のような部下の意見にも、耳を傾け真剣に向き合ってくれています。

――存分に力を発揮できます。

学生時代から今まで、私はよい出会いに恵まれてきました。水球は今も趣味として続けており、20歳から50歳まで幅広い年齢層が所属する社会人チームに週1回参加して、リフレッシュしています。

水球の日本代表は昨年、32年ぶりに悲願の五輪出場を果たし、世界の壁に挑んでいます。私も負けないように頑張ります。

警備業ヒューマン・インタビュー
――現場の声を聞く2017.4.1

戸川仁さん(ネットセキュリティ 統括マネージャー)

ネット上の安全安心、守る

――インターネット環境での警備を行っています。

当社は、1号業務・2号業務をメインとする警備会社「東宝総合警備保障」のグループ会社です。代表者の龍原正が、まだインターネット創成期の平成8年に仮想社会での様々なトラブル発生を予見し、ネットセキュリティー業務を立ち上げました。

取り引き先は、国内のプロバイダー(インターネット接続事業者)各社、厚生労働省・経済産業省・総務省など省庁、そして民間企業と幅広いです。

――具体的には、どのような業務でしょう。

最も多いのは、プロバイダーのカスタマー・サポート支援です。つまり会員の“駆け込み寺”としての相談窓口から始まり、ホームページやブログに悪意のある書き込みやわいせつ画像、薬物などの違法・有害情報が掲載されたときに対処します。

――どう対処しますか?

受けた相談への回答のほか、規約に沿った掲載可否の判断、警告文の作成・送信までが業務となります。

会員のウェブサイトや掲示板、ブログに悪い書き込みがされていないか巡視パトロールも行っており、規約違反を発見したときは同様に報告、警告します。

――ネット上の“風評被害や誹謗中傷”の対策業務も行っています。

4年前から、新たに始めたサービスです。例えば「社名」や「社長名」など特定のキーワードで検索した結果、表示された評判をまとめたレポートを提出するサービスです。

もし「書き込みや画像を削除してほしい」という要望があったとき、それは弁護士法により弁護士の範疇となりますので、当社はコンプライアンス重視の観点から、ネットトラブルに特化した弁護士を無料で紹介しています。

検索結果の順位を操作するサービスは以前、提供していました。しかし大手検索サービスの進歩から効果が出にくく、現在は対策可能なものと困難なものを仕分け、状況に応じた施策を提案しています。一方で、関連キーワードによる被害対策は行っています。

――それは、どのようなサービスでしょう。

例えば会社名で検索した結果、「ブラック」「過労死」「2CH」などネガティブなワードが表示された場合、そのサイトを開き会社の評価を落とされる可能性があります。当社ではそうしたサジェスト(検索候補)や、関連キーワードに表示されるネガティブワードを見えなくして、悪評への流れをシャットアウトするサービスを提供しています。

――インターネットで情報収集する消費者が増えていますから、悪評は企業にとってダメージとなります。

ネット上の書き込みには良いものと悪いものがありますが、影響を与えるのは圧倒的に悪い書き込みです。コストをかけて宣伝広告を打っても、その効果を著しく落とし、特に中小企業にとっては死活問題となります。

風評被害対策の効果が出た後に再び被害に遭う事例も多く、一度被害に遭った企業には、迅速な対応ができるようにネット上の監視を行うことを勧めています。監視サービスはトラブル発生前の対策ということから実行されにくいですが、火が小さいうちの対処が効果的であることを理解してほしいです。 

――社内上層部の知識と理解が必要です。そのほかに業務は?

調査業務も行っています。ある公的機関から依頼があり、インターネット通販で「代表責任者」「返品期限」など特定商取引法に基づく表示がされているかチェックする業務を行いました。また健康食品の「効能」など健康増進法に違反する広告をチェック・報告する業務も実績があります。

「ネット上の風評被害・誹謗中傷対策」をテーマにした講演も行っています。食品の異物混入が社会問題になった頃には、包装の業界団体からも依頼がありました。インターネット選挙運動が解禁されたときは、国会議員秘書の勉強会でも講演しました。

――需要が広がりそうです。

ネット上の警備ではありませんが、社内・社外の情報漏えいを防ぐ目的で「盗聴器・盗撮器発見サービス」も提供しています。国内では盗聴器の製造・販売・購入・設置、盗聴波の傍受だけでは犯罪にならないことから、日本は“盗聴天国”とも言われています。プライバシーの保護、ストーカー予防対策、企業情報の漏えいなどセキュリティー対策の一環として取り組んでいます。