警備保障タイムズ下層イメージ画像

「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

2017年の世界を占う2017.1.1

-21世紀革命の序曲が聞こえる?-

警備保障タイムズ読者の皆さま、明けましておめでとうございます。さて今年はどんな年になるのでしょうか?内外の政治日程をもとに占ってみましょう。

「それを見ると、まるで戦争の激情は、革命が解き放った暴力の単なる序曲であり、準備段階にすぎなかったように思われる」。

ロシアの作家パステルナークは、「ドクトル・ジバゴ」の中で、彼が生きた19世紀末から20世紀初頭の時代をこのように描写しています。「それを」とは第一次世界大戦のさ中、抑圧されたロシア人民の解放を掲げ帝政を打倒したレーニン、スターリンの共産革命がその暴力性を次第に国民に向け、弾圧と粛清を繰り返し専制体制に変化してゆくグロテスクな様を指しています。

昨年6月・英国のEU離脱国民投票、11月の米大統領選挙、12月・イタリアでの国民投票結果は、「21世紀型革命」の序曲なのでしょうか?その背景にフランス、ドイツ、トルコなど各地で頻発するテロリズムの脅威が二重写しとなってきます。今日の時代潮流は、18世紀のフランス革命、20世紀のロシア革命とどう違うのか?そして私たちはどこへ向かっているのでしょう?無論、短いコラムでこうした問題を十分論じることは不可能、筆者の能力を超えてもいます。しかし、年の初めにこうした大きなテーマを考えてみることは意味あることだと思います。さて2017年の世界は1月20日、トランプ新米大統領の就任式で幕を開けます。4000人ともいわれる各省、軍、主要委員会の局長級以上が、まさにトランプのカードのようにリシャッフル(総取っ替え)されます。家族も含めれば2万人以上の人が首都、ワシントンに攻め登り、ほぼ同数が肩書を奪われ去っていきます。これも一種の“革命”ですね。しかし、トランプ・マシーンが動き始めるには早くて3か月、常識的には半年間かかるでしょう。逆に言えばアメリカは、この間に起きうる世界の激動に即応する体制が出来上がっていない。怖いことです。

既成の常識が通用しない

3月に行われる香港の行政長官選挙も注目されます。アンブレラー革命とも呼ばれた民主化運動が習近平のなりふり構わぬ強権介入により窒息させられてしまうのかどうか。これは、秋の中国共産党第19回党大会を占う先行指標になるでしょう。同月にはオランダ議会選挙もあります。政治的、文化的にヨーロッパの中でもリベラルと見られた同国にもEU離脱の国民投票を求める自由党が勢力を伸ばしています。

4月、弾劾手続きの進捗次第ですが韓国朴大統領の辞任と、繰り上げ選挙が予想されます。日本を「潜在的敵性国」と名指しする候補が人気を集めています。この政治的混乱を北朝鮮が利用しないか?過去、北朝鮮はコトを起こす前は沈黙を守る傾向にあり気になります。この月にはフランス大統領選挙も行われます。過半数を取る候補者がいなければ5月に第2回投票が行われます。中道右派のフィヨン元首相とマリー・ルペン国民戦線党首との一騎打ちになりそう。6月、同国民議会選挙、イラン大統領選挙、8~9月は、メルケル首相の命運を占うドイツ連邦議会選挙と続きます。

英オックスフォード大辞典が選んだ「今年のことば」は「Post―truth」でした。直訳すると「真実以降」ですが、客観的事実よりも感情的訴えかけ、自分が真実と思いたいニュースの方が世論形成に影響をもたらす時代を象徴した言葉です。既成の常識が通用しなくなった時代でもあります。次回は「2017年を占う・国内篇」をお送りしましょう。