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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

森友・加計学園問題の本質2018.5.01

-もう沢山だ、で済ませていいのか-

「世界は大激変、もう森友ではない」。

保守の論客、櫻井よしこ氏がコラムで述べている(週刊新潮4月19日号)。ネット上にも、「安倍首相は森友・加計から一銭だって受け取ってない」、「うんざり。北朝鮮の核、シリア問題の方が重要」、「どうせ国会が6月に終わればみんな忘れる」――といった書き込みが目立つ。

筆者もメディアの「森・加計問題一点集中」が好ましいとは思っていない。しかし、財務省の森友学園への国有地売却、値下げ交渉をめぐる文書改ざん発覚以来、露呈する不正な行政事務の数々。それを統治するべき政治のガバナンス劣化を見るにつけ問題が質的に変化したのを感じる。つまり、「政局(政変)になる」というきな臭さがただよい始めた。

それにしてもどこまで国民、政治家が舐められたものか。例えば自衛隊の海外派遣記録の扱い。旧軍では、どんな激戦の最中も、「戦闘詳報」作成と報告、保管は絶対だった。これで隊員の昇進、叙勲、恩給額が決まるからだ。当然、自衛隊も同じ軍事組織として励行している。その日報発見に5年も6年もかかるとはなんぞや! 厚労省官僚の「お宅も特別監査をしてやろうか」というマスコミへの恫喝もお粗末、「働き方改革」法案の国会提出データもサボタージュに近い。財務省事務次官のセクハラに至っては口にするにも汚らわしい。これらが混然一体となってテレビのワイドショーが炎上するから、焦点が拡散して、まさに「うんざり」となる。

「総理案件」疑惑の核心は単純

だが、「総理案件」とも言われる森友・加計学園問題に関する限りその核心は、極めて単純だ。この問題についての安倍首相の国会答弁が正しいのか、正しくないか、それだけである。

まずは、「妻や私が森友学園問題に関係していたならば間違いなく首相も国会議員もやめる」(2017年2月17日、衆議院予算委員会)。この答弁が事実ならば、財務省がその直後から犠牲者まで出して森友学園に関する14の決裁文書、300か所も改ざんしたのは何だったのか? 無意味な作業だった、ということになる。丁寧に説明してほしい。

第2は、「加計学園への獣医学部新設について知ったのは2017年1月20日、内閣府が認定した日だった」(2017年7月25日参議院予算委員会)という答弁。これが事実なら愛媛県が獣医学部新設の規制緩和を申請した2013年以来、2017年1月の認可まで記録に残っているだけで12回行われた首相と加計孝太郎同学園理事長との会食、ゴルフでは獣医学部新設問題は一切、話題にのぼってないことになる。2015年4月2日、官邸での加計学園職員、愛媛県、今治市職員と柳瀬首相秘書官との会談もなかったことになる。首相秘書官が外部官庁と接触した結果を首相に報告しないことなどあり得ないからだ。

ドイツの社会学者、マックス・ウェーバーによれば近代社会の官僚は、「封建制的または家産制的支配関係における封臣や従臣のような、ある人への誠実関係を打ち立てるのではなく、非人格的な即物的目的のためにある。だから政治的官僚は、近代国家においては、支配者の個人的召使とはみなされない」(官僚制・角川文庫)そうだ。

現代日本官僚が、まさか古代オリエントの臣下と同じであるはずがない。財務、経産官僚諸氏は、胸を張って事実を述べればよい。もう一点。「一銭ももらってない」と言うが、仮に疑惑が事実とすれば8億円の国有財産値引き、加計学園への市有地提供と96億円もの補助金支出で損害を被るのは納税者、つまり国民である。税金を使った便宜供与になることをお忘れなく。