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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

新年に国会の在り方を問う2019.01.01

-ベルトコンベヤーからの脱却を-

警備保障タイムズ読者の皆さま、新年明けましておめでとうございます。本年も複眼時評をよろしく。さて年の初め、めでたい話でもと思うのだが、昨年末閉幕した臨時国会の有様があまりにも異様で政界ウォッチャーとしては気の重い年末年始となった。

 まるでロボット工場の生産ラインを眺めているような気がした。国民生活に重大な影響を与える重要法案がベルトコンベヤーを流れるよう、問答無用のまま与党単独採決で次々成立した。審議時間の短縮を図るため、与党議員が質問時間を返上するという前代未聞のテクニックまで登場した。

他方、野党の戦術といえば審議拒否と委員長、大臣の不信任案連発の繰り返し。かくて48日間という短期の臨時国会で政府提出13本がすべて成立した。形骸化の一途をたどる国会論戦に、「これで日本の民主主義大丈夫か」と首を傾げた方も多いのではないだろうか。

まず、漁業権付与にあたって地元漁協、漁業者の権利を優先したこれまでのルールを撤廃する「漁業法改正案」が成立した(12月6日)。水揚げ、市場管理の手法で大資本による産業化が容易となる。

さらに昨年9月1日の本コラムで取り上げた「水道事業法改正案」も成立した(同8日)。これで海外を含む民間資本が水源地から末端給水まで一貫して運営することが可能になった。長期契約の下、利用者は否応なくコスト負担を押し付けられることになる。

そして、これも当コラムで取り上げた外国労働者の受け入れを拡大するための「改正入国管理法」が12月8日未明の参議院本会議で成立した。この法案の扱いは、なんとも奇異だった。野党も、「外国人材に活躍してもらう社会づくりは必要」と認めている。その上で人権、労働環境、生活条件をどう整えるか、という対案を示した。にもかかわらず政府は、「詳細は今後決める」、「調査データがない」と突っぱね原案のまま強行突破した。

与党6、野党4の目配りを

安倍政権にも苦しい事情があったのは事実だ。現在、26万人がさまざまな業種で働く技能実習生の滞在期間は、最長5年間。新年度までに改正入管法が発効しないと、新たな特定技能1号に移行できず、在留資格を失い帰国を迫られる技能実習生が数万人生まれてしまうのだ。

種子法、漁業法改正、水道法改正などは昨年12月末発効したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に伴う国内法の改正で、良し悪しはともかく「待ったなし」の状態にあった。「条約は国内法に優先する」ための処置だ。農林官僚が自嘲気味に語っていた。「日本の農林水産生産額は8兆円。対しトヨタ自動車1社で24兆円の売り上げですから、どう抵抗しても産業界の言い分が通ってしまう」。でも国民の食と水の安全は、どこまで配慮されたのだろう?

筆者は、70年代後半から80年代末まで与野党間の国会駆け引きを取材してきた。自民党が衆参両院で多数を占めていた時代、与野党伯仲の時代、連立政治の時代、いわゆるねじれ状態になった国会も見てきた。その間、歴代の自民党国対委員長が基本的に守ってきた約束事があった。「与党6、野党4の目配り」である。

健保など重要法案は2国会またいで審議する。強行採決は1国会1本が望ましいが、ギリギリ2本まで。こちらの言うことの6割は聞いてもらうが、野党の顔も4割立てる。古いかもしれないが戦後の議会運営は、この約束事で回ってきた。

安倍政権の手法は、「ゼロかすべてか」。過去のルールを放逐した。変えるのはいいが、それに代わる知恵がない。ノン・ルール。これが今日の国会の危機だ。