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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

ロケットマン・不倫解散の行方2017.10.01

安倍ギャンブルの結果は、どう出る?

安倍政権の基盤は強く、早期解散は必ずしも政変の引き金にはならない――。前回、そう見立てたが首相は結局、早期解散の3つのオプション、臨時国会冒頭、同国会閉幕時、来年1月の通常国会冒頭のうち最も早い時期を選択した。

決断を後押ししたのは、飢餓に苦しむ国民を尻目に弾道ミサイルを乱れ打ちする北朝鮮のロケットマンこと金正恩閣下。そして民進党幹事長に擬せられた山尾志桜里(しおり)議員の不倫スキャンダルだ。

「不倫を解散理由にするとは卑怯」という議論がネット上で散見するが、これは間違い。国会議員歳費、議員数頭割りの政党助成金、3人の秘書手当て、乗用車、議員宿舎などのコストは、楽に億を超える。すべて税金から出ており、国会議員のプライバシーは制限されて当然だ。それ以上に検察官を務め、野党とはいえ政調会長という要職を経験した人間なら、閣僚はもとより政党役員の動静までSPなどを通じ逐一官邸に掌握されていることは常識。にもかかわらず幹事長内定の夜、男性と投宿したら何が起きるかが分らない判断力自体、政治家失格と言わざるを得ない。

これまでの政局展開は、3つの変動要素が絡み合った連立方程式だった。(1)来年末の衆議院議員任期満了までの間で首相がいつ解散に踏み切るか(2)このタイミングと首相の執念ともいえる憲法改正の段取りをどう整合するのか(3)政治日程の影響を避けながら天皇陛下のご退位、改元をいかに粛々と執り行うのか――である。

臨時国会冒頭解散により変動要素は、こう整理された。(1)勝てる、というより負けない時期の選挙を最優先したため改憲案とりまとめ→発議→国民投票のスケジュールは半年から一年間以上先送りとなった(2)公明党を含め衆議院3分の2強の議席が確保できた場合、安倍首相の自民党総裁3選は自動的に決まる(3)自民勝利となれば官邸と宮内庁で綱引き状態にある天皇ご退位は18年暮れ、改元は19年1月に決まる可能性が高い。

20議席以上減らせば政権運営困難に  

解散時の衆議院自民党議席は288。定数が10減って465議席だから過半数は233議席。とはいえ現有議席を50近く減らしては「何のための解散だった」と党内の批判が噴出するのは避けられない。3選は難しくなる。従って、すべての常任委員会の過半数を制し委員長も取れる260議席以上の安定過半数確保が最低目標となる。つまり、現議席に比して取りこぼしは20議席前後に抑えなければならない。 

さらに公明党の現有議席35を加え議会の3分の2(306議席以上)を制するには271議席以上が必要。議席10減を考えると現有議席を10議席以上下回ると、公明党の慎重姿勢もあり改憲公約の前途は微妙になる。ハードルは結構高い。

ロケットマンの妄動と山尾不倫で首相が「衆院の3分の2議席確保できる」と読んだか否かは微妙。それよりも、「これ以上待っても、より負けないタイミングは来ないだろう」と判断したとみられる。

小池新党が東京と神奈川県など都市圏の多くで候補を立てそうだから、これは一定の議席を確保するだろう。餌食になるのは民進党か自民党か。「維新と小池新党は改憲に協力する」という読みが自民党内にあるが、負けたら安倍の補完勢力にはならないだろう。

意外に影響しそうなのが8月、社会保障関係費用が一斉に値上がりしたこと。さらにまたぞろ年金運用で不祥事が発生したことだ。投票率の高い高齢層の反発は避けられそうもない。勝つと読んで解散に踏み切り裏目に出た英国メイ首相のケースもある。解散は常にギャンブルだ。