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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

手のひら返し? 安倍総裁3選問題2018.7.11

-したい事と出来る事との落差-

サッカー・ワールドカップが生んだ流行語は、「手のひら返し」だ。散々、選手、監督をけなしておいて彼らが活躍をした瞬間、解説者が争って土下座する。ネット上には、「あなたは凄い!ごめんなさい」というファンの投稿があふれる。

この現象が今、政界に伝播しつつある。5月連休が明けたころの永田町界隈の空気といえば、ほぼ「安倍3選なし」だった。衆参、派閥、老若を問わず自民党議員に会うと、「大きな声では言えないけれど安倍3選の目は消えたね」と語りかけてきたものだ。理由は、森友・加計をめぐるスキャンダルもさることながら、対応が後手後手に回り政治不信が高まったこと。この流れが来年春の地方統一選挙、夏の参議院選挙まで続いたら参院での過半数割れも有り得る、という恐怖心が自公議員を覆っていた。内閣支持率の低下傾向が拍車をかけた。

何が空気を変えたのか?関係者が異口同音に語るのは6月10日行われた新潟知事選挙だ。「あれで潮目が変わった」と公明党の閣僚経験者が言う。3万7千票という票差だったが、革新統一候補として誕生した現職知事が買春というスキャンダルで辞任した挙句の選挙。それから考えれば自公候補は、もっと差をつけ楽勝との見方も成り立つ。しかし、自公関係者の分析は違う。「地元(佐渡)出身、副知事経験者という強みはあったが、新潟では衆参選挙とも革新連合の連勝が続いていた。原発問題もある中、よくぞ勝ったものだ」(地元議員)というのだ。

この選挙の陣頭に立ったのが運輸大臣時代、当選した花角氏を秘書官として使った自民党二階幹事長。同氏が太い人脈を持つ運輸、建設業界はもとより、あらゆる業界・団体の大物が動員され県内をくまなく回った。「ただ回るだけでなく期日前投票のリストまでチェックした上で報告させられた」(関係者)という。並行して票を積み上げたのが公明党・創価学会組織だ。「来年の地方統一選挙、参院選挙の本番そのもの、徹底的に路地裏選挙を行った」(関係者)。

安倍長期政権、夢の後先

つまり新潟の実験で、来年の参議院選挙(あるいは衆参ダブル選挙)で保革逆転という悪夢は、ほぼ消えた。その前提で考えれば、総裁選は石破元国務相、野田聖子総務相の二人で反安倍票を喰い合うのだから安倍勝利は、まず揺るがないだろう。こうした流れをダメ押しするように二階幹事長は6月26日、都内の講演で、「安倍政権の支持は、全体の流れになっている。3選は、もう間違いない」と断定した。

無論、政界一寸先は闇。だが永田町の関心は、3選より3選された安倍氏が何をするか、に移りつつある。本人の優先度は無論、憲法改正だろうが肝心の国民投票法案成立のめどもたっていない。また各種調査で、いま国民投票を行うと公明党の慎重姿勢もあって僅差で負けるとみられている。安倍政権即、退陣の事態だ。

「安倍さんは憲法改正を急がない。経済再建を優先する。両党間の了解事項だ」と公明党幹部は言う。しかし国民総生産の2倍を超えた借金漬けをどう立て直すのか?出口は見えない。財政の収支均衡を図るプライマリーバランス達成も3選任期の終わる2020年を越え2025年に先延ばした。

朝日新聞が4月行った世論調査で、「平成とは?」の質問に42パーセントが「動揺」、29パーセントが「沈滞」と答えた。東日本大震災、人口減による先行き不安、広がる中国との経済力格差などが背景にある。だからこそ安倍政権に求められるのは厳しくても苦しくても希望の持てる将来ビジョンなのだ。