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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

少子高齢時代、人材不足にどう対処する2018.11.21

-警備保障業務の将来と外国人材-

政府は臨時国会に、外国人労働者の受け入れ拡大を目指した入管法改正案を提出した。新制度では、一定の技能水準と日本語能力を身につけた外国人を対象に、在留資格「特定技能」1号と2号を設ける。より熟練度の高い2号の対象者は長期滞在、家族の呼び寄せが可能になる。当面、建設、農業、介護など14分野が対象となる見込みだ。

この数年、コンビニや工事現場でよく外国人労働者の姿を見かけるようになった。そのはずでコンビニ大手のセブンイレブンでは全従業員39万人のうち7.9パーセント、3万1000人が、ローソンでは19万人のうち5.9パーセント、1万1000人を外国人労働者が占めている。公式統計でも外国人労働者数は、17年度130万人に達しており留学生のアルバイトを加えれば200万人をはるかに超えるだろう。

外国人材を労働力として使える制度としては現在、技能実習生、外国人留学生(週28時間労働の制限)、外国生まれの日系4世受け入れなどがある。このほか医療・介護分野に関しては、経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア、フィリピン、ベトナムからのEPA看護師、介護福祉士候補生制度(過去10年間で約5000人受け入れ)がある。

コンビニ、飲食店で働く外国人の多くは留学生制度を、作業現場などで見かける外国人労働者は技能実習制度を利用している。今回、この4制度に加えて新たな在留資格制度が加わるわけだ。

これまで政府、自民党は、「労働力としてではなく実務研修を行い習得後は帰国する前提での受け入れ」という建前にこだわってきた。しかし、実際には労働力不足に悩む農林・水産、産業界の要請を受けた人材確保策に他ならない。今回の新措置は、「移民政策ではない」(安倍首相)としながらも、従来の建前を崩し外国人労働力の活用を前面に出した点で画期的と言える。

とはいえ木に竹を接ぐように積み重ねられた海外人材受け入れ制度が5系統も併存することからさまざまな矛盾が露呈し、外国人労働者、受け入れ側を当惑させているのも事実だ。例えば介護分野では、昨年度から技能実習生を受け入れられるようになった。しかし、政府間協定に基づき開発援助予算で現地日本語研修を、国内でも厚労省予算で各種援助を受け看護師、介護福祉士試験を目指すEPA候補生との待遇、身分上の格差は大きい。両者を同じ職場で働かすことは、事実上困難だ。

警備業界はどうする

農林、水産、建設現場で技能実習生が引く手あまたなのは、最低賃金で雇えるメリットからだ。一方、低賃金、長時間労働を嫌って昨年は、27万3000人中、7089人もの失踪者を出している。留学生に関しても現地で希望者を集める業者が受け入れ先の企業、施設だけでなく留学生からも斡旋料を取るから、多額の借金を抱えた学生は学業と就労の本末が転倒してしまっている。

こうした中、東京五輪を控え人材不足が深刻さを増す警備業界も外国人材について無関心ではいられないだろう。確かに貴重品輸送、要人・施設警護といった専門性が高く防犯・保安上の配慮も必要な分野に即戦力として技能実習生を投入させるわけにはゆくまい。

しかし、適切な語学研修と技術指導を行い、指導員が付いた上でなら雑踏警備、交通誘導警備業務はこなせるのではないか。この点、日常生活に最低限必要とされる日本語検定試験4級取得を受け入れ条件としている介護分野が参考になろう。各業界は十年来、関係省庁と協議を続け、対策を重ねて技能実習生の適用枠を広げてきた。警備業界も検討を始める時期ではないだろうか。