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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

日本の核武装、外から見れば2017.8.21

見直しが迫られる非核五原則

トランプ大統領と金正恩との間で舌戦続く北朝鮮の核開発問題。悪夢が現実となる心配はないのだろうか。これに関連して日本が核保有国になる可能性を7月1日号の本欄で論じた。実験場確保の難しさ、国民的核アレルギーの強さから実現は難しいと判断したが、海外から見ると、やや違って見えるようだ。

「核エスカレーションは、極めて現実的だ。私がもし韓国人、日本人だとすれば北朝鮮の核保有が国際的に認知されれば自国も核兵器を保有したいと思うだろう」。

2013年2月、北朝鮮が3回目の核実験で40キロトン級の強化型原爆実験に成功した直後、米上院外交委員会は、「日本の核武装」をテーマに集中審議を行った。前記の発言は、共和党の有力者、大統領候補者でもあったマルコ・ルビオ議員のものだ。

もともとブッシュ政権内のネオコンと呼ばれる保守派、例えば国連大使を務めたジョン・ボルトンらは、米国の国益から見て日本の核武装は望ましいとの立場だ。

「北朝鮮の核武装を防ぐ力を持っているのは中国だけ。その中国が最も恐れるのは日本の核武装化である。中国を真剣にさせるには日本の核武装というシナリオを示すしかない」という理屈だ。また、マーク・カーク上院議員(共和党前)は昨年、ツイッターにこんな投稿をしている。

「核を持った日本は、本当に頼りになる同盟国としてアジアの安定のためアメリカと一緒に仕事をしてくれるだろう。日本人は世界中で信頼されている。日本が核を持ってくれたら頼もしい同盟国ができたと喜ぶ米国民は多いはずだ」。フランス人の評論家、エマニエル・トッド氏も日本の核保有を合理的な流れと見る。「日本が核武装することで周辺諸国との勢力均衡が維持できれば結果的に、地域に平和をもたらす。パックス・アメリカーナ(圧倒的なアメリカの力による平和の維持)が終わりに近づく中で日本が核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れがなくなる」(「帝国以後」藤原書店)。

昨年10月には米国防総省の総合評価局(ONA)が、「日本の持つ原子力産業インフラ、ロケット技術、潜水艦建造能力からみて10年以内に地上発射、潜水艦発射核ミサイルを保有することは可能」との分析結果をまとめた、と「Free Beacon?com」が報道、国内でも波紋を呼んだ。

日本、核実戦化の予測も

無論、こうした声は米議会内、マスコミ、研究者の間で多数意見ではない。ONAの分析もその偏りが指摘されている。しかし、日本では「タブー」とされている核保有の可否、その影響評価が国際的に議論されていることは知っておいた方がよい。故中川昭一経産相はかつて、「日本は非核五原則だ」と嘆いた。「作らず、持たず、持ち込まさせず」プラス、「考えず」、「議論せず」だというのだ。今日、最後の二原則は除外して冷静な議論を進めるときだろう。

これに関連して「核のシェア」という考えも研究する価値がある。これは米国がNATO加盟国に提供するオプションで、平時は米軍が核兵器を管理するが加盟国と使用、管理の共同訓練は行う。戦時になれば米軍が同盟国に核を提供するというもの。これなら核拡散防止条約(NTP)にも抵触しないし、独自開発の危険を冒す必要もない。

同じく北の核の脅威にさらされている韓国では、東亜日報の世論調査で67.7パーセントが「核兵器を持つべきだ」としている。韓米の専門家は、米国や中国へのけん制という感情的反応と見るが、隣国の核保有マインドにも注視してゆくべきだろう。