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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

どうなる米大統領選挙③2019.12.01

-トランプ再選と安倍4選に??-

「桜を見る会」でミソを付けた安倍首相。ウクライナ疑惑で弾劾審査に追い込まれたトランプ大統領。問題の質は全く異なるが共通点がひとつある。Too much(やりすぎ)ということだ。

1986年にロッキード事件が発覚した時、筆者は三木内閣の福田赳夫経済企画庁長官を担当していた。全日空の次期旅客機購入に端を発したこの事件、当初から田中角栄前首相の関与が疑われていた。ある朝、世田谷の福田邸を訪ねると「朝駆け」は私だけ、役所まで同乗する「箱乗り」を許された。次期総理を狙う福田氏、ロッキード事件については極度に慎重だったが、「サシ」の気安さかこんな風につぶやいた。

「誰でも時速60キロのところを10キロ前後はオーバーして走る。世間はそれを大目に見る。でも角さんは100キロ以上で飛ばすからなあ、事件になっちゃう」。

「桜を見る会」は占領下、駐留軍幹部や、各国外交官を接待する、いわば鹿鳴館外交として始まった。私も三木内閣の時、総理番記者として取材したが週末、検問もあり朝早くから並ばされるのに閉口した。他の招待者も敬遠気味で、結果的に選挙を控えた議員や、芸能人、後援団体の招待枠が膨張していったのだろう。とはいえ招待者1万5千人のうち首相と官邸、夫人枠、自民党推薦で6割以上の8千人超というのは、「国費を使った政治活動」と言われても仕方がない。まさに“Too much”である。首相にとっては、桜騒動後の11月17日行われたお膝元、長門市市長選挙で自公推薦候補が敗れたこと、16〜17日に行われた各種世論調査で内閣支持率が6〜7パーセント落ちたことも響いたろう。

地方選挙といえば、米大統領選挙に絡み政府要人の議会証言以上に注目したのは6日、ケンタッキー、バージニア、ミシシッピーの各州で行われた知事選、州議会選挙結果だ。いずれも3年前の大統領選挙でトランプ大統領がクリントン候補を破った共和党の牙城であるからだ。

共に地方選でも敗北

結果はトランプ氏の2敗。ケンタッキー州知事選では共和党の現役を民主党候補が0.4パーセントという僅差ながら破った。バージニア州議会選挙では、過去20年間で初めて民主党が上下院とも過半数を制した。トランプ大統領は、ケンタッキー州知事選の投票日前日に現地入り。「もし、ここで共和党候補が敗れれば、私の批判勢力は“史上最大の敗北”と呼ぶに違いない」と危機感をあおり投票を呼び掛けたが及ばなかった。もっとも懲りないトランプ大統領。「俺が行ったからあそこまで詰めたんだ」とうそぶいている。

さて、全米にTV中継されたウクライナ疑惑公聴会の方はどうだったか。トランプ大統領に逆らい解雇されたマリー・ヨバノビッチ前ウクライナ大使の涙ながらの訴えや、イラク戦争で叙勲された制服姿で現れたホワイトハウス・ウクライナ担当、ビンドマン中佐の「私の義務は政党にも政治にでもなく国の安全に尽くすことだ」という証言は喝さいを浴びた。

しかし、最大の衝撃は、トランプ大統領に大口献金を行いEU大使に任命された“身内”のソンランド氏が我が身可愛さから、「大統領の命令でウクライナに要求した」と言ってしまったことだろう。

沖縄返還をめぐりニクソン大統領が繊維輸出の自主規制を求めたケースなど歴代米大統領が支持基盤への利益誘導を外国政府に求めることは少なくない。しかし、再選のため軍事援助をエサにライバル候補の疑惑探しを外国政府に強要するというのは、いかんせんToo muchだ。それでも民主党が攻めきれない理由は、次回に。