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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

統一地方選前半戦、勝者は誰?2019.04.21

-地方選挙システムのリセットを-

2019年統一地方選の前半戦が終わった。注目選挙区は、唯一の革新統一候補が自民党候補に挑戦した北海道知事選挙、維新が仕掛けた大阪府知事、市長選、自民党分裂のまま突入した福岡、島根、福井、徳島知事選などだった。

結果はご存知の通りだが、これが今年7月の参議院選挙にどう影響するか。衆参ダブル選挙はあるのかどうか。ポスト安倍政局も絡み二階幹事長、麻生副総理、菅官房長官のさや当てが深刻化か――など多くの記事、解説がメディアをにぎわしている。

しかし、これらのコメントの多くが、より深刻な問題に触れていないのが気になる。何故なら今回の選挙での表面的な勝利者は総定数の30パーセント近い無投票当選者であり、敗者は民主政治の基盤でもある地方選挙システムだからだ。住民の参加意識を促す選挙システムを再構築しない限りシステム溶解は進むばかりだ。

まずは今回の注目選挙を“複眼時評的プリズム”を通して検証してみよう。北海道知事選は、いわば候補者選びの段階で終わっていたともいえる。保守の側は、今夏の参議院選挙に出馬予定の現職知事が先頭に立ち、都職員から夕張市に飛び込み再建に奮闘した38歳、話題の青年市長を担いだ。総務相以来、候補者を応援してきた菅官房長官も共に法大定時制卒という苦学の後輩を支えた。

一方、野党は共闘の看板は掲げたものの地元連合などが口説いた元経産相の鉢呂義雄参議院議員、元ニコセ町長の逢坂誠二衆議院議員など集票力のある有力候補者が現職のバッジを失うのを恐れ逃げ回った。結果、元小沢一郎秘書で元衆議院議員の石川知祐氏に落ち着いた。しかし、小沢氏の政治資金団体睦山会事件で有罪が確定し、議員辞職した過去、民主党から鈴木宗男氏の新党大地へと渡り歩いた政治経歴では労組、共産党の組織は燃えない。挙げ句、革新が強いと言われる北海道でダブルスコアの敗北を喫した。

保守分裂でも間隙を衝けない野党

福岡、島根など保守分裂の知事選挙も保守陣営の事情というより野党勢力のダメぶりの反映だった。乱立しようが、分裂しようが野党側にトップの座を奪われる心配はない。だったら思い切り争って保守の票を掘り起こした方が多少の後遺症があってもメリットが多い、というまったく野党陣営がコケにされた選挙だった。

多少毛色の変わった展開を見せたのが大阪府知事、市長ダブル選挙だった。しかし、これも“複眼時評的プリズム”で見れば大阪府、市民の土着的反東京(反権力・反自民)意識の反映と映る。維新のローカル性は、関西以外の道府県議選で全敗という結果に表れているし、大阪市民も市議会では維新に過半数を与えず、しっかりブレーキをかけている。

デッドヒートと言われた大阪ダブル選でも投票率は、府知事選49パーセント、市長選52パーセント。他の選挙は軒並み40パーセント台である。18歳以上に選挙権を与えてもこの結果。日本の民意は住民の半分以下が決める構図が定着してしまった。選挙があればまだ論争がある。今回の統一地方選定数は2277人。これに対し立候補は3062人だから競争率は1.3倍。このうち、失礼ながら当選圏に遠い共産党や諸派の候補が多くを占めている。つまり「これでも選挙かね」と言いたくなる状況なのだ。

欧米で地方議員は兼職が当たり前だ。デンマークでいくつか市役所を訪ねたが議会の開会は午後5時以降だった。本業を終えてからだからこの時間になる。交通費以外報酬も受け取らない。仕事帰りにGパン姿で議事を終え家族が待つ夕食に帰る。日本もそんなスタイルに変えれば立候補者も増え、投票率も上がるのでは?