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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

安倍3選とバブル崩壊の〝関係式〟2018.11.01

-レイムダックの足音が聞こえる-

大手住宅メーカーの積水ハウスが土地所有者に成りすました「地面師」に55億円余りをだまし取られた事件。後世、「平成バブルのあだ花」として語り継がれるのだろう。

知人のファンドマネージャーによると、この数年、「純資産30〜100億円前後で営業不振の企業が売りに出ていないか?」という引き合いが多いという。特に香港経由で中国系企業が積極的という。債務超過状態の企業は純資産を下回る価格で買える。会計法上この差額は、「負ののれん代」として当期利益に計上できる。買収した会社がいくら赤字を垂れ流していようと関係ない。こうした会社の買収を繰り返す親会社は毎期多額の「割安購入益」を計上でき当期利益を大きく見せられる。

無論、長期的には不健全な経営テクニックだが、これまた平成バブルのあだ花に他ならない。経済の専門家でもない筆者がこんな話から始めるのも、こうした現象が安倍3選後の政局展開と奇妙にシンクロナイズしているからだ。

「何のための3選か」。安倍総裁は、大義名分を憲法改正にすえた。そのこと自体、達成が困難な、つまりバブルな選択だったのではないか。周知のことだが憲法改正までには四つのハードルを越えなくてはならない。

まず前国会で継続審議となった国民投票改正案を成立させないと土俵が設定できない。野党は、CM時間規制の導入を求めている。国民投票法には公選法が適用されないのでCMは青天井で打てることになる。「これでは資金がある方が有利なので規制が必要」という主張だ。意見調整は難航が予想され、日程の限られた臨時国会で成立させられなければ2019年中の国民投票が難しくなる。

それはクリアしたとして本体の憲法改正案を取りまとめ国会に提出するという第2段ロケットが控えている。改正に慎重な公明党と共同で法案を提出することは難しいから自民党単独でやることになる。これは今回の党人事で憲法改正審査会の理事、改正推進本部長らを安倍側近で固めたから可能だろう。第3段ロケットが衆参両院で3分の2以上の多数で可決、改正を発議すること。そして最終ロケットが発議後60〜80日以内に国民投票にかけ賛成多数を得れば改正が実現する。

参議院選に亥年のわな

安倍側近グループの目論見は、臨時国会で国民投票法を成立させ、自民党改正案を提出、来年の通常国会で成立させ発議に持ち込みたいというもの。しかし、来年3月までは予算審議、4月第一週からは統一地方選挙が始まる。4月27日から5月6日まではご退位、改元の儀式。6月末には大阪サミット、7月は参議院選挙だ。国会を長期延長する余裕はない。

政界に「亥(い)年現象」という言葉がある。4年に一度の地方選と3年に一度の参議院選挙が12年に一度重なる。この年の参議院選挙で自民党は負けるというジンクスだ。理由は簡単。自分の選挙で勢力を使い果たした地方議員が参院選で動かないからだ。

今年は、さらに自民党総裁選挙で明らかになった地方議員の「安倍支持疲れ」、沖縄県知事選で露呈した公明党票の流動化が重なる。12年前の参院選挙で安倍政権は12議席も減らした。今回、公明党、維新の協力を得ても参議院の3分の2である162議席を保持することは相当難しい。

大義名分が空中分解した時期に平成バブル崩壊が始まり、それに増税が追い打ちをかけたら?

2020年8月、安倍政権は、佐藤政権の在任2798日間を抜く。東京五輪直前のこの時期まで政権を維持できるかどうか、見てゆきたい。