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「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特別教授、全国老人福祉施設協議会理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

2017年総選挙以後を占う2017.10.21

保守新派閥としての新党「希望」

本紙読者がこの原稿を目にするのは、22日の総選挙開票結果が明らかになった後のことになるだろう。開票結果の“見どころ”と以後を占ってみよう。

序盤の情勢を伝える各紙は「自民党が過半数(233)を大きく超えそうだ」として優勢を伝えている。これは期待値を意図的に下げた政権党の術中にマスコミがはまったことを示している。同党の「288」という解散時の勢力から55人も議員を減らして「目標達成」と強弁できるだろうか。各常任委員会で過半数を占め、委員長ポストも独占できる絶対安定多数の261議席獲得が実際のボトムライン。これをクリアできそうだ、というのが現状である。

衆議院議員定数は今回の改正で10議席減った。自民党にとって261議席は、前回、14年12月選挙の当選者290に比べて29減である。解散直前、同党が行った調査結果、「一割減程度(約28議席)の減少」も「260」という本音の目標ラインと合致する。

自民党がたとえ261議席を下回っても連立を組む公明党が30議席以上は確保するだろうから自公が国会運営の主導権は握り続けることには変わりはない。「233」と言い続けて「260」取れれば「よくやった」となる。安倍首相のよく言う印象操作だ。

仮に自民の獲得議席が230議席台まで落ちれば多数の落選議員からの憤懣が安倍首相に集中する。即、政変だろう。90議席近くも減らして総理の座に止まれるわけはない。何とかしがみついたところで憲法改正は棚上げ、来年、自民党総裁選での安倍3選にも赤信号がともる。選挙結果を占うため参考になるのは、比例区投票先の調査だ。朝日新聞の3〜4日世論調査では、自民党35パーセント、希望12パーセント、立憲民主と公明が7パーセント、共産党6パーセント、維新4パーセントだった。無党派層で見ると自民17パーセント、希望13パーセント、共産7パーセント、立憲民主6パーセントの順となっている。解散前、民進党の支持率が一桁台であったことを考えると、「なだれ込み」は、一定の成果を上げたといえる。

党外ながら自民反主流新派閥?

他方、小池代表の「選別、排除」という強引なやり方、憲法改正に積極的な姿勢、党内運営の不透明さから「希望」への支持率は頭打ちだ。読売の比例投票先調査では、解散時16パーセントあった「希望」が3パーセント減り、立憲民主に流れている。結果、反自民票は希望、立憲民主、共産に分散し自民党を助け、その勝利に貢献する可能性が強くなってきた。世論調査に基づくマスコミの情勢分析は2つの真逆な現象を招きがちだ。「アナウンス効果」と「バンドワゴン」である。「自民がそんなに強いのか」ということで支持層が緩み、予測と逆な結果が出るのがアナウンス効果。一方、「勝ち馬に乗ろう」と予想を超えて自民党支持が広がるのがバンドワゴン現象だ。今回の情勢分析がどちらに転ぶかは分らない。

しかし、長期的に見れば「維新」、「希望」という新党の誕生は、国内政治における保守勢力の伸長を象徴していることは間違いない。80年代から90年代の自民党内派閥抗争劇を取材してきた筆者にとって2つの保守党は、党外ではあっても自民党の新派閥として機能し始めたように思える。

55年体制下で政権選択は、自民党内派閥抗争にしかなく、虚々実々の合従連衡が繰り広げられてきた。小池氏は、「反安倍」を鮮明にする一方、首班指名には「選挙結果を見て臨む」と言う。つまり与野党対決ではなく、与党内抗争劇に党外派閥として暴れ込む構えを示している。その動きに公明、維新も反応すれば意外な“化学変化”が生じる可能性もある。