警備保障タイムズ下層イメージ画像

「知」に備えあれば憂いなし

河内 孝の複眼時評

河内 孝 プロフィール
慶応大法学部卒。毎日新聞社に入社、政治部、ワシントン特派員、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て退社。現在、東京福祉大学特任教授、国際厚生事業団理事。著書に「血の政治―青嵐会という物語」、「新聞社、破たんしたビジネスモデル」、「自衛する老後」(いずれも新潮社)など。

どうなる米大統領選挙④2019.12.21

-助ける民主候補の乱立-

大統領にあるまじき所業が次々暴かれてトランプ再選に暗雲、とみるのが常識だろう。しかし実情は必ずしもそのように動いていない。一つに米大統領選挙は、ポケットブック・イッシュウ(財布の中身)で決まるといわれるが、景気が比較的好調なことが挙げられる。11月の雇用統計は農業分野で26万人増、失業率は3.5パーセントで半世紀ぶりの低水準だ。

下院はクリスマス休暇前にトランプ大統領を職権乱用での弾劾訴追を決議するだろう。しかし何回か指摘したように決定には共和党多数の上院で3分の2の賛成が必要だ。共和党から20人以上の造反議員が出なくてはならない。だが大統領選挙と同時に行われる上下院選挙を前に両党間の対立は深まるばかり。現状では「有罪判決」は、あり得ない。こうしたこともトランプ陣営が事態を楽観している理由だが、最大の原因は民主党内で大統領候補が乱立、有力な対抗馬が見えてこないためだろう。

今月3日、ジャマイカ人の父とインド出身の母を持ち、「女性オバマ」と注目されたカリフォルニア上院議員、カマラ・ハリス氏が資金不足を理由に出馬を断念した。とはいえ未だ少なくとも11人が大統領指名を目指し、夏の民主党大会に向けて運動を続けている。

この中には、ゲイを公言しているインディアナ州南ベント市長のピート・ブタジェッジ氏(37)、初のアジア人大統領候補となる台湾系二世の起業家、アンドリュー・ヤング氏(44)、女性将校としてイラク、クウェートに派遣され、連邦議会初のヒンドゥー教議員でもあるハワイ州下院議員のトルーシー・ギャバード氏(38)などユニークな顔ぶれが並んでいる。ヤング氏の18歳から64歳までの国民一人当たり無条件で月千ドルを支給するという案も話題を呼んでいる。ただ彼らの知名度、支持率は現状、一桁前半で、特別な“風”でも吹かないことには台風の目となることも難しい。

アリゾナ、フロリダ、ミシガン、ノースカロライナ、ペンシルバニア、ウィスコンシンの6州は毎回、大統領選で、民主党と共和党が激しく争い、ここでの結果が勝敗を分ける「戦場州」と呼ばれている。この6州でニューヨーク・タイムズが11月末行った世論調査を見ると若い候補者たちは、泡沫と言っていい認知度だ。

穏健な候補求める民主党支持者  

前回選挙、トランプ大統領はこの6州を僅差で制した。調査で興味を引くのは、民主党支持者の半数が、「穏健もしくは保守的な」候補を求めていることだ。6州で平均24パーセント以上の支持を得ているのは依然、前副大統領のバイデン氏(76)。20パーセント台がエリザベス・ウォーレン氏(70)、15パーセント台がバーニー・サンダース氏(78)と続く。

しかし、ウクライナ疑惑はバイデン氏にとって両刃の剣でもある。慎重論のオバマ大統領を差し置いてウクライナへの政治干渉にのめり込んだのはバイデン氏。しかも米国も援助したエネルギー事業体役員に息子を入れ、今年3月まで月額5万ドルの報酬を得ていた。長男が事故死したため次男への溺愛がバイデン氏の判断を狂わしたのではないか。

こうした中、億万長者でメディア王のマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長(77)が手を挙げた。確かに穏健派が受け入れやすい候補だが、バイデン氏と潰し合いになる可能性大。ヒラリー・クリントン氏(72)までが「(出馬を)否定しない」と言い出し混迷を深めている。  

指名されそうな候補者は皆、70歳代。群立する若手との間には30歳近いギャップがある。民主党は老若戦争の真っただ中だ。高齢候補に民主党若年支持層がそっぽを向けばトランプ再選の目はぐっと上がる。 (この項終わり)